Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

映画『ラストサンライズ』ネタバレあらすじと感想。ディザスターパニックを中国SFチームがリアルに科学考証|未体験ゾーンの映画たち2020見破録43

  • Writer :
  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第43回

「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第43回で紹介するのは、中国発の本格的SF映画『ラスト・サンライズ』

日本でも話題の、リュウ・ギキン(劉慈欣)の著したSF小説「三体」。彼の短編小説「さまよえる地球」を映画化した『流転の地球』(2019)は、中国国内で大ヒットを記録しました。

現在中国では、SFブームが起きています。そして中国の若手インディーズ映画作家が放った、異色のSF映画である本作が、世界の映画祭で高く評価されました。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら

映画『ラスト・サンライズ』の作品情報


(C)2018 YOUKU INFORMATION TECHNOLOGY (BEIJING) CO.,LTD AND LIAN RAY PICTURES

【日本公開】
2020年(中国映画)

【原題】
最后的日出 / Last Sunrise

【監督・脚本】
レン・ウェン(任文)

【キャスト】
ジャン・ジュエ(张珏)、ジャン・ラン(张苒)、ワン・ダーホン(王大虹)

【作品概要】
クリーンな太陽光エネルギーに依存する、究極のエコ社会を築かれた近未来。しかし突如、太陽が消失してしまう…。異色の設定で送るSFディザスター・パニック映画。若手華流スター、ジャン・ジュエとジャン・ランが主演を務めます。

レン・ウェンの初の長編映画となる本作は、世界3大ファンタスティック映画祭の1つ、ポルトガルのポルト映画祭(ファンタスポルト)2019で、中華圏映画としては『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』以来となる、最優秀作品賞を受賞するなど、世界のSF・ファンタスティック映画祭で高い評価を獲得した作品です。

映画『ラスト・サンライズ』のあらすじとネタバレ


(C)2018 YOUKU INFORMATION TECHNOLOGY (BEIJING) CO.,LTD AND LIAN RAY PICTURES

暗闇に包まれた野外に、1台の乗用車が停まっています。空には美しく星が輝いていました。化石燃料が枯渇し、全てのエネルギーを太陽光に依存するようになってから3年。しかし突如、太陽が消滅したのです。その時から6日、いや7日たったのでしょうか…。

その日、マンションで1人暮らしの天文学者スン・ヤン(ジャン・ジュエ)は、いつものように自作の人工知能、”ILAS”の声で目覚めます。

コーヒーにカップ麺という朝食をとるスン。この部屋で孤独に暮らす彼は、誰も気にしていない太陽の明滅現象について、1人で研究に打ち込んでいました。

今日はヘリオス社の社長ワンがオンラインで、一般人との公開討論を行う日です。ヘリオス社は太陽光から電力を作り、開発した都市に独占的に供給する巨大企業です。

第1地区から第4地区までの4つのエリアに分けられた居住区。スンの住む第1地区は、ヘリオス社により全てが電化され、豊かな生活が約束されていました。第2、第3地区も同様の開発が進み、まだ太陽光エネルギーの供給の及ばぬ第4地区は、最貧地区とされていました。

巨大企業のカリスマ社長で、エネルギー問題を解決したワンに、憧れのメッセージを告げた若者の後に、スンは恒星KIC846の消滅現象を伝えます。同じような事が太陽にも起きているのではないか、何か掴んでいるのではないかと質問するスン。

しかしワン社長は、恒星のことなど何も聞いていないと答えます。ワンは言葉を続けますが、話にならないといった姿勢で、スンは回線を切りました。

部屋を出てエレベーターに乗り込むスン。遅れて乗り込んだ若い女性は泣いていましたが、スンは気にも留めません。街はヘリオス社製の太陽光発電パネルが並び、だれもがスマホやタブレットを手にして暮らしています。

コンビニに入ると、スンはカップ麺に水とコーヒーだけを手に取り、キャッシュレス決済で支払いを済ませます。子供には紙媒体の雑誌が珍しい、そんな社会になっていました。

しかしコンビニから出ると、太陽が点滅していることに気付きます。人々が無関心でいる中、この現象に不安を覚えたスン。

眠っていたスンは、”ILAS”の声で起こされました。観測中の太陽光が、15%も減少してると報告してきたのです。”ILAS”はスンが予測した通り、太陽も恒星KIC846と同じ運命をたどると結論づけていました。

スンはヘリオス社の社長、ワンに連絡を取ります。実際にはワンは恒星の消滅現象を把握しており、やがて太陽が迎える運命についても悟っていました。スンに対し、今日で世界が終わるなら君は何をする、と尋ねるワン社長。

生き残る努力をする、というスンに、社長はある場所を告げます。太陽の光が地球に到達するまでの時間を確認した後、幸運を祈ると告げて、ワンは通話を切りました。

窓から差し込む太陽の光は点滅していました。スンは”ILAS”にこの階の、太陽に面した窓のある場所を尋ねます。

自室を出たスンは、その部屋をノックし強引に入ります。そこはエレベーターで会った女、チェン(ジャン・ラン)の部屋でした。何事か両親と電話中だったチェンに構わず、部屋の窓のカーテンを開いたスン。

警察に通報すると言うチェンも、太陽の点滅に気付きます。TVのニュースもこの異常現象を伝えていました。轟音が何度か響き、太陽は最期の輝きを放った後に消え、世界は闇に包まれました。

思わずスンの手に触れたチェンは、気を取り直し電灯を付けます。スンには何故自分たちが生きているのか不思議でした。スンは”ILAS”に事態を確認しようと、自室に戻ります。

“ILAS”を立ち上げたスン。部屋に付いてきたチェンのスマホはつながらなくなっていました。スンは”ILAS”の情報で、太陽は爆発したのではなく、消滅したと知ります。この後1週間で気温は0℃まで下がり、1年後には-73℃になる事実を確認しました。

酸素はゆっくりと減少していきます。いずれ全ての生命に死が訪れ、やがて地球は氷の惑星になる事実を突き付けられたスン。

自分に無関心な彼をチェンは責めますが、スンは彼女に太陽光エネルギーに依存した社会は、電話もネットワークも、あらゆる機能が停止すると告げます。チェンはまだ電気が来ていると反論しますが、スンはそれが維持されるのは、せいぜい1日だけと教えます。

チェンは先程話していた両親と3年会っていませんでしたが、スンはそれを頼って街を出ろと言い残すと、部屋に保管していた紙幣を持って街に出ます。

街は突如暗闇に包まれ、スマホも使えなくなった状況に戸惑う人々であふれていました。彼が入ったコンビニでは、人々が商品を奪い合うように買い物かごに積めていました。

水と地図が載った雑誌を掴むと、レジに並ぶ列に向かうスン。しかしキャッシュレス決済が使えず、列は進みません。かき分けて先頭に出た彼は、現金で支払いを済ませ店を後にします。

スンの後をつける男がいました。男は鉄パイプを掴むと、背後から彼に殴りかかります。意識を失ったスンから、現金を奪って逃げ去る男。

意識を取り戻したスン。周囲は略奪で騒がしくなっており、彼は残された買い物袋を掴んでマンションに戻ります。スンは怪我をした右足に包帯を巻きます。

部屋のドアを叩く音がします。見るとリュックを背負ったチェンの姿がありました。無視するとドアを壊そうとする音がします。男が部屋に押し入ろうとしていましたが、チェンが背後から男を殴り気絶させました。

チェンはスンに言われた通り、実家に向かおうとしましたが、電車が動いておらず駅から戻ってきたのです。荷物をまとめ脱出しようとした彼も、電車の運行停止を聞きどうすべきか困惑します。するとチェンは、自分は車を持っていると告げます。

スンとチェンは略奪に現れた男を避け、階段で駐車場に向かいます。追って来た男から逃れ、乗り込んだ電動自動車を、チェンに急かされて走らせるスン。

街の明かりは徐々に消えてゆき、列を成して走る車のライトだけが光っていました。

車はチェンの別れた彼が残した車でした。ナビが使えなくなった今、スンの買った雑誌の地図が頼りです。彼はワン社長に教えられた場所を目指しますが、運転することが出来ないチェンは、その先の第2地区に住む、両親の家まで連れて行って欲しいと頼みます。

スンに断りもなく煙草を吸うチェン。人付き合いの苦手な彼に代り、彼女にスンは科学者で、25歳になる現在まで恋人はいない、と教える人工知能の”ILAS”。

車のラジオは、政府は太陽消滅の原因を調査中だと伝えていましたが、具体的な対策やとるべき行動については、何も流していませんでした。

トイレに行きたいと車を降りたチェン。スンは彼女を待たず車を走らせますが、”ILAS”が彼女は友達ではないのか、と訊ねてきます。しかし車は物資を求める人の列に遮られて進めず、スンは戻ってきたチェンを再び車に乗せます。

空に美しく星が光る中、車はスンの目的の場所に到着します。そこはワン社長の隠れ家で、すでに1組の男女がいました。行き先に迷っていたところを、ワン社長の好意で家に招かれたカップルは、スンとチェンのためにワインを注いで渡します。

皆を歓迎し、スンを恒星KIC846の消滅現象に気付き、太陽の消滅を予測した唯一の科学者で、世界の終わりにも生きる努力を捨てない人物だと、皆に紹介するワン社長。

社長は母なる自然の前に、我々は無力だと語りかけます。ワンはギリシア神話のイカロスの話を例えに、我々は科学を過信し文明を築いたが、太陽に近づき過ぎて墜落したイカロスのように、最期の時を迎えたと言葉を続けました。

運命を悟ったかのように語るワン社長に、スンは中国神話に登場する、10個あった太陽を人々のために、9個射落とした弓の名手、后羿(ホウイー)の伝説を語ります。しかしワンは残念なことに、我々には代りになる太陽は無いと言い笑います。

スンは他の文明の神話も太陽を慈悲深い存在にしているが、后羿のように運命を切り開きたいと語ります。その言葉を受け止め、皆に宴の終わりを告げるワン社長。

カップルは最期の時を迎えるまで、2人で旅を続ける決意でいました。チェンは自分の上着を譲り、彼らの出発を見送ります。スンは”ILAS”に呼びかけますが、ついに機能を停止したようです。

7年間を共に過ごした”ILAS”を失い、落ち込むスンを慰めるチェン。彼女にも様々な思いがありましたが、自分を見捨て1人車で出発しなかったスンに感謝していました。2人は思いを込めて、「FUCK YOU TOMORROW!」と夜空に向けて叫びました。

目覚めたスンは、1人グラスを傾けていたワン社長に、この事態を知ったあなたの様な金持ちは、宇宙か地中に逃れると思った、と話しかけます。

それを聞いて笑うワン社長。彼は無理に生きることを諦めていました。しかし過去の絶滅を生き残った生物のように、最後まで生きる努力を続けたいと言うスン。

ワン社長は、この事態を予測する報告を受けていました。しかし彼は立場上、何ら具体的な行動を起こすことが出来ず、この日を迎えていたのです。

観測の結果太陽消滅の原因は、ワームホールによるものと把握していました。それは自然に発生するものではなく、何者かがエネルギーの収奪と、地球や太陽系の壊滅を図った、人為的な行為だったのかもしれません。ワンの話を聞いたスンも、同じ結論に達しました。

地球は太陽の消滅で、光とエネルギーを失っただけでなく、これからあても無く宇宙をさまようことになります。事態を達観したワン社長は、この場所で最期を迎える覚悟でいたのです。

それでも生き延びる努力を諦めないスンに、ワンは自分の腕時計と座標を記したメモを渡し、この場所に向かうよう告げます。そこは第4地区のある場所を示していました。

寝ぼけているチェンを残し、スンは彼女の電動自動車に乗り込みます。しかし悩んだ末に、彼女が乗るのを待つことにしたスン。

チェンが持って来た小さい鉢の木は、太陽の光を失い弱っていました。スンが車内に残した水は、寒さで凍り付いています。

スンの両親が住む第2地区は遠く、バッテリーの節約のため、暖房もラジオの使用も諦めて、ひたすら車を走らせるスン。すると夜空に打ち上げられるロケットが見えました。あれは何とチェンに訊ねられ、地球の逃れる金持ちの乗った宇宙船だ、とスンは告げました。

貧しい人はどうするの、と彼女に訊ねられ、地球に残ってこの世の終わりを楽しむだけだ、とスンは答えます…。

以下、『ラスト・サンライズ』のネタバレ・結末の記載がございます。『ラスト・サンライズ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2018 YOUKU INFORMATION TECHNOLOGY (BEIJING) CO.,LTD AND LIAN RAY PICTURES

スンとチェンを乗せた電気自動車は、第2地区に入ります。立ち往生し助けを求める車とすれ違いますが、スンは停まることなく走り去ります。

チェンは助けるべきだと非難しますが、人を助ける余力は無く、非常時に弱者は命を落とすだけだ、とスンは彼女に冷たく告げました。

その後2人は会話することなく、チェンの両親の家に着きました。スンはチェンの招きに応じず、家には入らず車に残ります。これからどうするのか聞かれ、判らないと答えたスン。

スンはワン社長に聞いた第4地区にある場所を目指し、1人車を走らせますがチェンが置き忘れた、小さな植木の鉢に気付きます。

それを渡すために車を戻し、チェンの両親の家に入ったスン。鉢を渡した彼に、両親は私を待たずに行ったんだ、とチェンは告げます。スンが一室に入ると、そこで彼女の両親は死んでいました。

彼は遺体が持っていた手紙をチェンに渡します。そこには娘の24歳の誕生日を祝い、今まで良い親ではなかったと侘びる言葉が綴られていました。この手紙を記した後、両親は家を襲撃した暴徒に殺されたのです。手紙を読みスンの胸の中で涙を流すチェン。

落ち着きを取り戻したチェンは、彼と共に第4地区を目指すことにします。そこに何があるのは、スンも知らないまま車を進めます。

太陽を失ったことで風も止み、動かなくなった風力発電所の脇を車は進みます。車を止めると助けを求めて多くの人が駆け寄って来る、絶望的な状況がでした。

しかしスンは再度車を止めます。傷付いた右足が化膿し、痛みに耐えられなくなっていました。すると運転を代わると言い出すチェン。経験はありませんが、今後のために覚えると告げて運転席に座ります。

頼りない運転も徐々に上達し、助手席で教えていたスンもやがて眠りにつきます。しかしチェンは道を誤り、第3地区に進んでゆく電気自動車。

スンが目覚めた時、車は第3地区内部に入り込んでいました。バッテリーの残量は15%しかありません。やむなくスンは、充電できる場所を探し車を走らせます。

充電ステーションは閉鎖されています。しかし「充電可能」と書いた看板を出した、1軒の明かりの点いた家を見つけました。

家に入ると、食料や練炭が置いてあります。奥から現れた老夫婦は、2人にお茶を差し出します。チェンが飲もうとすると警戒したスンが止めますが、老人はそれを飲んでみせて、毒はないと示してみせます。

老人は充電のため、車の鍵を渡すよう求めますが、スンは疑い作業に立ち会うことにします。老婦はチェンに温かい湯を使うよう勧め、湯を前にして彼女は涙ぐみます。

ところが外が騒がしくなり、自分は閉じ込められたと気付くチェン。彼女が扉を破って出ると、老夫婦はスンを襲い、車を奪い走り去っていました。

足の傷が悪化したスンを、何としても第4地区に連れて行くと言うチェン。彼女の重荷になりたくないスンは、行ったところで何があるか判らないと告げ、先に進むことを諦めていました。しかし今は彼より強い決意を持って、第4地区に向かおうと主張するチェン。

その言葉を聞き、荷物を背負い歩き始めたスン。しかし足を引きずりながら、果てしない道を進むしかありません。酸素も薄くなってきたのか、彼の歩みは重くなります。

彼の荷物を奪うように持ち、休むよう促すチェンの言葉に従い、2人で湯を沸かしカップ麺で食事をとります。空を覆う天の川を見つめて安らぎ、互いの信頼を確認した2人。

2人は歩き始めますが、通り過ぎる車は手を振っても停まりません。やがて街灯の点いた場所に出た2人は、工場の煙突から立ち上る煙に気付きます。

そこには盗まれた車が停まっていました。喜んで近づいた2人は、物音に気付き身を隠します。その工場の前で男たちに、車を盗んだ老夫婦が殺されていました。

男たちが迫ると、スンはお前は車で逃げろとチェンに告げ、囮になり飛び出して捕まります。車の中で悩んだ末、スンを助け出す決意を固め、工場に忍び込むチェン。

その工場の地下は、放棄された石炭の採掘場になっていました。あの男たちはスンのように捕えて集めた人々に、酸素などを渡し生きるチャンスを与えた代償と称して、強制的に残る石炭を集める労働を強いていたのです。

チェンが隠れて見つめる中、男たちに反抗的な態度をとったスンは、罰として牢に監禁されます。スンが逃げろと言うのを聞かず、チェンは牢の鍵を壊しました。

その音を聞いて現れた男は、スンに銃を突き付けますが、チェンは男の顔に護身用のスプレーを吹き付け、2人は逃げ出します。追ってくる男たちは発砲しますが、何とか外に逃れ電気自動車に乗り込み、脱出に成功する2人。

車を運転するチェンに、目的地に印を付けた地図を渡すスン。しかし彼は銃弾を受けていました。チェンはスンに眠らないよう励ましながら車を走らせます。しかし助けてくれる人もなく、バッテリーも尽きようとしていました。

車は第4地区の見える場所に到着します。そこは白い煙が立ち上っていました。スンは硫黄の臭いに気付きます。第4地区は地熱エネルギーを利用しているのです。地球の内部に蓄えられたこのエネルギーを有効に使えば、人々が生き残る可能性はあります。

「前に進め」と記された道標に励まされ、2人は車を先に進ませます。しかし外気はさらに下がり、到着を前にバッテリーが尽き、ついに停止してしまう電気自動車。

良いニュースと悪いニュースがあると告げるスン。良いニュースとは、あの採掘場から酸素のスプレーを持ち出したことでした。悪いニュースは、チェンは世界で最後の数時間を、自分のために無駄に費やしている、というものでした。

彼女はそれを悪いニュースと受け取らず、良いニュースだと告げスンの隣に座ります。惑星が見える夜空を見上げ、スンと最期の時を迎えようとするチェン。

チェンはあの日、自暴自棄になり自殺を考えていました。そこに両親から電話がかかり、部屋にスンが現れ、そして太陽が消滅したのです。彼女は地球が終わるその時に、新たな出会いと生きる目的を見つけたのです。

スンが反応しなくなり、彼がワン社長からもらった腕時計も、時を刻むことを終えようとしていました。チェンが死を覚悟した時、隣に車が停まります。それにはワン社長の隠れ家で出会った、あのカップルが乗った車でした。

彼らも第4地区を目指し、そして停まっていたチェンの車に気付いたのです。2人はスンとチェンを自分たちの車に乗せ、第4地区へと走らせます。

時計はまた動き出し、車は地熱を利用した避難所へ向かいます。太陽系を離れ宇宙をさまよい始めた地球は、はるか彼方のケンタウルス座アルファ星へ向かっていました。

そこは、3つの太陽が輝く場所でした…。

映画『ラスト・サンライズ』の感想と評価

参考映像:『エンド・オブ・ザ・ワールド』(2012)

SF、そしてインディーズ映画としてユニークな本作ですが、世界の終末を前に、見知らぬお隣さんであった男女が、共に旅をするハメになる…というプロットは、スティーヴ・カレルとキーラ・ナイトレイの主演映画、『エンド・オブ・ザ・ワールド』を思わせます。

終末を迎える世界をパニック映画にせず、どこか叙情的な描写で描いたこの作品(オチは大きく異なります)、『ラスト・サンライズ』が気にいった方にお薦めします。

さて、文学そして映画でもSFブームが巻き起こっている中国。最初に紹介した50億円近い製作費をかけた、SF超大作映画『流転の地球』は、中国国内で記録的大ヒットとなりました。

大作SF映画と様々な点で異なる作品


(C)2018 YOUKU INFORMATION TECHNOLOGY (BEIJING) CO.,LTD AND LIAN RAY PICTURES

太陽の寿命が尽きようとした地球。そこで人類は中国の指導の元で一致団結し、巨大エンジンを建設、地球そのものを太陽系から脱出させる計画を立てる。そして人類は、地下に建設した都市で暮らし始める…。

これが『流転の地球』の大筋です。中国イケイケの描写や、日本の特撮映画『妖星ゴラス』(1962)を思わせる内容も話題です。ハリウッドも冷戦勝利後に、アメリカ大統領が直接宇宙人をブチかます、『インデペンデンス・デイ』(1996)なんて映画を作りましたから…。

という指摘はさておき、『ラスト・サンライズ』は『流転の地球』とも、プロットに共通点を持つとお判りでしょう。しかも本作、中国では『流転の地球』と同じ2019年2月の公開です。

公開時期の一致は、政治的意図ではなく興行上有利、と判断した結果と思われます。しかし本作では政府も、影響力を持つカリスマ経営者も、宇宙規模の災害に全く無力です。結果としてこの作品は、『流転の地球』のアンチテーゼのような存在になりました。

小市民側のミクロの視点に徹し、スペクタル的高揚感ではなく、抒情的に人間を描いた作品です。そして製作費2700万円程度の本作が、世界のSF・ファンタスティク系映画祭で高く評価されている点でも、大作SF映画とは対照的な存在なのです。

リアルな科学考証


(C)2018 YOUKU INFORMATION TECHNOLOGY (BEIJING) CO.,LTD AND LIAN RAY PICTURES

いきなり太陽が無くなる訳ないだろ!間違いなく人類は滅亡する!と思った方、正解です。

しかし本作はifの世界の科学的考察、例えば「もしこの瞬間から地球の自転が、逆方向に回ったら?」…これはクリストファー・リーヴ主演の『スーパーマン』(1978)がやったトンデモ行為ですが…、という類いの考察であれば、かなり正確に描いています。

気温は徐々に下がり(劇中で紹介されたように、いずれ極寒の世界が訪れます)、植物が枯れ果てても、意外に長期間必要な酸素は持ちます。もしこの期間内に、地球内部の地熱を利用できるインフラを整備できれば、宇宙をさまよう地球で、人類が生存できる可能性はあります。

レン・ウェン監督は、これら科学者たちが考察したifの状況を元に、人類が生き延びる可能性のある未来社会を創造しました。それは同時に便利であるが災害に脆弱な、高度情報化社会の姿を風刺的に描くことにもなりました。

そしてifの世界を成立させるために、人類とは次元が違いすぎる、ワームホールを自在に操るような、知的存在がいたのかもと示唆したのです。

この存在の正体を深く描かなかったことに、不満を感じるSFファンもいるようですが、映画『2001年宇宙の旅』(1968)や『コンタクト』(1997)で描かれた以上の、人知を超えた何者かを描いたと受け取れば、本作が様々なSF要素を秘めた作品と感じられるでしょう。

こんな存在や状況が相手にしては、アメリカ大統領や中国政府が何を叫ぼうとも、余りに空しい限りでしょうね。

まとめ


(C)2018 YOUKU INFORMATION TECHNOLOGY (BEIJING) CO.,LTD AND LIAN RAY PICTURES

様々なSF的科学考察に忠実で、しかも地球の最後を美しく、そして希望を与えて描く『ラスト・サンライズ』。低予算ゆえのツッコミ所は多々ありますが、逆にこの製作環境でも美しく、スケールのある終末世界を描いた佳作として見るべきでしょう。

中学の映画体験コースを受講し、映画の道に興味を持ったレン・ウェン監督。家族や友人の反対を押し切り、サッカーや学業を捨てて、ロサンゼルスのフィルムアカデミーを卒業した監督は、インディペンデント映画製作の道に進みます。

今は家族も友人も自分を応援してくれている、と語る若きレン・ウェン監督。困難の果てに希望を見出す本作のストーリーは、監督の実体験が反映しているのかもしれません。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…


(C)2018 MAKESHIFT, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

次回の第44回はトンデモないタイトル?でも深い意味があるんです!異色のモンスター・ハンティング映画『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』を紹介いたします。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら


関連記事

連載コラム

映画『にしきたショパン』あらすじ感想と評価レビュー。阪神淡路大震災と“左手のピアニスト”通じて描く宿命の音楽|銀幕の月光遊戯 74

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第74回 映画『にしきたショパン』が2021年3月20日(土)よりシネ・ヌーヴォ、元町映画館、池袋シネマ・ロサ、大洋映画劇場、3月26日より京都みなみ会館、シネ・ピピア他に …

連載コラム

映画『れいこいるか』感想評価と考察解説。タイトルが意味深い⁉︎阪神淡路大震災で一人娘を亡くした夫婦の物語|銀幕の月光遊戯 66

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第66回 映画『れいこいるか』は、2020年8月8日(土)より、新宿 K’sシネマ、シネ・ヌーヴォ(大阪)、元町映画館(神戸)ほかにて全国順次公開されます。 映 …

連載コラム

ウルトラマンティガ解説|ウルトラマントリガー放送に向けネタバレ有で平成三部作の“原点”を紹介【邦画特撮大全89】

連載コラム「邦画特撮大全」第89章 今回の邦画特撮大全は『ウルトラマンティガ』(1996~1997)を紹介します。 今年2021年7月10日(土)より放送開始される『ウルトラマントリガー NEW GE …

連載コラム

映画『おろかもの』あらすじと感想。芳賀俊×鈴木俊ふたりの監督が描く“おろかもの”ゆえにたどり着く感動|2019SKIPシティ映画祭12

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019エントリー・芳賀俊監督×鈴木祥監督作品『おろかもの』が7月16・20日に上映 埼玉県川口市にて、映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでい …

連載コラム

【ネタバレ】デッドゾーン殲滅領域|あらすじ結末と感想評価。ウイルスに感染したゾンビが放射線爆弾で汚染された地域で蠢く訳とは⁈|B級映画ザ・虎の穴ロードショー112

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第112回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学