連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第20回
1月よりヒューマントラストシネマ渋谷で始まった“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、ジャンル・国籍を問わない貴重な58本の映画を続々公開しています。
第20回は、またしてもニコラス・ケイジが怪演を見せてくれる超常現象スリラー映画『トゥ・ヘル』を紹介いたします。
トラック運転手のジョーは、幼い娘と妻メアリーの死から立ち直れず、落ちぶれた生活をおくっていました。
ある日彼は、生と死の世界を行き来できる能力を持つ女、ジュリーと出会います。
彼女の力のおかげで、ジョーは思いもよらぬ形で妻メアリーの魂と再会します。
しかしその再会は、ジョーを狂気の世界へと導いていくのです。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2019見破録』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『トゥ・ヘル』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Between Worlds
【監督】
マリア・プレラ
【キャスト】
ニコラス・ケイジ、フランカ・ポテンテ、ペネロペ・ミッチェル、ギャレット・クレイトン
【作品概要】
事故死した妻の魂に翻弄され、地獄へと導かれる男の姿を描いた超常現象リベンジ・スリラー映画。
トラック運転手のジョーは妻メアリーと幼い娘を火事で失い、荒れた生活を送っていました。そんなジョーは生と死の世界を行き来できる能力を持つ女ジュリーと出会います。
ジョーの助けでジュリーは、昏睡状態の娘ビリーの魂を死の世界から連れ戻すことに成功。無事意識を取り戻したビリー。しかし彼女の体には、ジョーの妻メアリーの魂が乗り移っていたのです。
ジュリー役には『ラン・ローラ・ラン』『ボーン・アイデンティティー』のフランカ・ポテンテ、そしてジョー役のニコラス・ケイジが、またしても狂気の熱演を見せる映画です。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『トゥ・ヘル』のあらすじとネタバレ
場末のスタンドの駐車場でトラック運転手のジョー(ニコラス・ケイジ)は、電話でビジネスパートナーのラリーに支払いの遅れを詫びています。
電話を終えるとジョーはコンビニで、食事をしながら立ち読みをします。彼は見るからに荒んだ生活をしていました。
トイレの物音に気付き駆け付けたジョーは、そこで男が女の首を絞める姿を目撃します。
男を叩きのめし女を助けたジョー。ところが彼女は何をしてくれるの、とジョーを責めます。
女はジョーに子供はいるのか尋ねます。ジョーは事故で妻と幼い娘を亡くしたと答えます。
その女ジュリー(フランカ・ポテンテ)は彼への質問を詫びると、自分の18歳の娘ビリー(ペネロペ・ミッチェル)は今昏睡状態だと説明します。
ジョーはそれと首絞めに何の関係があるのか尋ねますが、ジュリーは娘を助ける方法だと説明します。
ジョーのトラックで2人はビリーのいる病院へ急ぎます。彼女はバイクの事故で入院し、危険な状態が続いていました。
ジュリーはジョーに説明します。彼女は10代の頃凍った湖で溺れた時に、幽体離脱を経験しました。その時に生と死の世界を行き来できる能力を身につけたのです。
その為には首を絞められ、意識を失う必要がありました。先程ジュリーはそれを男に依頼していたのです。
死の世界に行くのは体力を奪う危険な行為ですが、娘ビリーの魂を呼び戻すにはそれしか無いと、病院に着いたジュリーはジョーに首を絞めるように依頼します。
人目につかぬ場所でジュリーの首を絞めるジョー。ジュリーが接触したのは娘の魂でしょうか。
こうしてビリーは意識を取り戻しました。ジョーを見てこの人は誰、と尋ねる娘にジュリーは友人だと説明します。
看護婦はジュリーに、あなたの娘は一度向こう側に行った、もう手放してはダメと語ります。
病院を後にしたジュリーは、自宅にジョーを誘い会話します。
夫と別れ、今は娘と2人暮らしだと語るジュリー。特殊な能力を持つ彼女に、ジョーはあの世にいる者に伝言を頼めるか、と尋ねます。
2人は別々に休みます。ソファーで寝るジョーは夢を見ます。火事で焼けた自宅に戻ったジョーは、妻子の遺体を目にしました。なぜ私を置き去りに、とジョーを責める妻の声がしています。
翌朝、ジュリーの家を、ビリーの恋人マイク(ギャレット・クレイトン)とその友人リックが訪ねてきます。
事故の時ビリーと一緒にいた2人はジュリーに詫び、ビリーの容態を尋ねますが2人を良く思わないジュリーは追い返します。
大麻の売人である2人と娘の付き合いを、ジュリーは快く思っていませんでした。
ジョーとジュリーは、ビリーを見舞に病院に向かいます。
ジョーの前で目を覚ますビリー。気付いた彼はジュリーを呼び、彼女は娘と言葉を交わして喜びます。2人は病院を去りますが、ビリーはジョーに私を1人にしないでと話しかけます。
自宅に戻ると、ジュリーはあなたがいなければ娘は死んでいた、とジョーに感謝を告げ、2人は関係を持ちます。
ドイツ人であったジュリーは、アメリカの海兵隊員であった夫と結婚し、渡米したとジョーに過去を語ります。
ビリーが生まれ幸せでしたが、彼女の夫はイラク・アフガンへの従軍の後、変わってしまします。
ジュリーの能力を知った夫は、彼女を通じて戦死した戦友と探そうとしましたが、それは果たさなかったのです。
その後夫は母娘を残し、姿を消してしましました。彼に能力を語るべきでは無かったと、ジュリーは振り返ります。
同情したジョーは、トラックに荷の配達を後回しにして、彼女を支えることします。
3日後。ビリーは無事退院し帰宅しましたが、彼女がジョーを見る目には不審なものがありました。
1人で娘を育てるために働き、娘の傍に付いてやれなかったのが今回の事故の原因と、自分を責めるジュリーをジョーは慰めます。
ジョーはようやく配達に向かいましたが、仕事を手配したラリーは配達の遅れを怒り、彼のトラックを差し押さえます。
その頃ビリーを恋人のマイクとリックが訪ね、具合を尋ねますが、ビリーは事故も、それ以前の出来事もよく覚えていないと返事します。
トラックを失ったジョーはやむなくジュリーを頼りますが、ジョーに感謝している彼女は彼を自宅に受け入れます。
ジョーとジュリーは意気投合し、彼女がマイクから取り上げた大麻を吸って、ハイになって大声で話し、関係を持ちます。2人の様子をビリーはうかがっていました。
翌朝、ジョーとジュリーは2人で彼女のトラックを整備していました。ジョーは事故で壊れたビリーのバイクを見て、自分が直そうと提案します。
ジュリーは娘に、ジョーはこの家に住んでもらうと説明し、3人の生活が始まります。順調に始まった3人の生活ですが、ジョーは悩みをジュリーに打ち明けます。
トラブルになったラリーに500ドル渡さないと、トラックに積んでいた私物も返してもらえない。それは亡き妻と娘の思い出の品々でした。
ジョーは語ります。妻のメアリーは、彼が家を空けることを嫌っていました。しかしジョーは仕事のため3日間家を空けます。
ジョーの留守中に自宅で火事が起こります。メアリーの煙草の火がソファーに燃え移り、2人は炎と煙に巻かれて死にました。
メアリーが俺を泣いて止めたのに、俺は家を空けてしまった。そして2人は死んだと、ジョーは苦しい胸の内をジュリーに伝えます。
翌日、ジュリーが仕事で出て、家にはジョーとビリーが残されます。
ジュリーはラリーに金を渡して話をつけ、ジョーの私物の入った箱を受け取ります。
その頃家では、ビリーは下着姿でジョーを挑発していました。動揺するジョーに対して、彼女はメイジャースと呼びかけます。
その名で呼ぶなと叫ぶジョー。するとビリーはメイジャースは私の姓でもあると彼に告げます。
彼女はビリーは去った、ここにいるのは私、ジョーの妻であったメアリーだと言います。
この体を使い、亡くなったサラの代わりに、新しい娘を作ろうと迫ります。
娘の名前まで告げられて、ジョーはビリーの体の中には、確かにメアリーがいると信じます。
これは俺には起こりえない幸運、と受け入れたジョーはビリーと体を求め合います。そこにジュリーが戻ってきて慌てるジョー。彼女は何事が起きたかは気付かず、ジョーに私物の箱を渡します。
留守中の出来事を尋ねるジュリーに、ジョーはバイクを直していたと答えました。
翌日、妙に親しくなったジョーとビリーの姿に、ジュリーは不審を覚えます。
ジュリーは娘に、ジョーにはしばらく滞在してもらうと説明しますが、ビリーはそれは母にとって別れた「夫」と同じく、愛の無い体だけの関係だと責めます。
あなたにとって「父」の話ではないか、とジュリーは指摘します。
ジョーとメアリーの魂が乗り移ったビリーは、ジュリーの目を盗んで激しく求め合い、関係を重ねてゆきます。
母であるジュリーが邪魔だ、と語るビリーをジョーは彼女のおかげで今がある、となだめます。
ジュリーはビリーを病院で診た看護婦を訪ねていました。彼女は娘が同じ人間に思えないのでは、とジュリーに問いかけます。
あそこにはビリーの魂だけでなく、他の魂も居た。予期せぬ死を迎えた魂は、長くこの世に留まっていると看護婦は語ります。
彼女はジュリーに、魂はあるべき場所に戻る、介入はすべきでないと告げます。
帰宅したジュリーは、娘と関係を持つビリーの姿を目撃します。
ビリーの中にいるのは自分の亡き妻だ、と彼はジュリーに自分の行為を説明します。
ビリーを連れ戻す、と言い張るジュリー。メアリーの魂が憑りついたビリーは、彼女を背後から殴り気を失わせます。
驚くジョーに、この女は私を殺そうとしている、とメアリーはビリーを通じて語ります。
ここを出て私と一緒に帰るの、と主張するメアリー。彼女はジョーに考えがあると告げます。
映画『トゥ・ヘル』の感想と評価
またも暴走する熱い男!ニコラス・ケイジ
大作映画の主演作も多いニコラス・ケイジですが、「何故この映画に出演?」という映画に数多く出演しています。
2018年日本公開作では『マッド・ダディ』、そして『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』、共に強烈なキャラクターを演じ話題になりました。
参考映像:『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018)
海外を含むの多くの方々が、本作と『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』と比較した感想を述べており、ファンがいかに彼の動向、次の出演作に熱く注目していることが実感できます。
本作のニコラス・ケイジもファンの期待に違わぬ熱演のオンパレード。妻や娘の霊に翻弄され、慟哭する姿は朝飯前の演技。
フランカ・ポテンテとハッパを吸ってハイになり、大笑い状態でのトーク、その(亡き妻がとり憑いた)娘との、良からぬ本を朗読しながらのベットシーンは悪ノリそのものです。
一つ『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』との共通点がありました。どうやらニコラス・ケイジは、Tシャツブリーフ姿でうろつくのがマイブームの様です。
本作で披露された、ニコラス・ケイジの愛すべき演技ワールドをぜひ楽しみましょう。
貧困白人層を演じ続けるニコラス・ケイジ
本作の製作・監督・脚本したのは新鋭女流監督のマリア・プレラ。
彼女はD・リンチやポランスキーにキューブリックの作品、そしてペドロ・アルモドバルの『キカ』が好きだと語っています。
自身が育ったウィスコンシン州の田舎の世界を背景に、この超常現象ミステリーを描いたと語っています。
貧困白人層が巻き込まれる、奇妙で悲劇的な事件を、どこかコミカルに描いた本作はそんな彼女のバックボーンが反映されているのです。
様々な理由があるにせよ、この映画の脚本を読んで出演を決めたニコラス・ケイジ。気に入れば無名の監督作や、意欲的なテーマの作品に好んで出演しています。
彼は最近、貧困白人層の人物が何かに巻き込まれ、突飛な行動を起こす役柄がお気に入りです。
参考映像:『オレの獲物はビンラディン』(2017)
前述の『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』、そして『オレの獲物はビンラディン』などがこの系譜の近年の代表作です。
平凡な人間が突然、悲劇的な事件や超常現象、はたまた神の啓示に遭遇し、あまりにも非凡な人物となって活躍する姿を、大熱演で見せるのです。
現在のニコラス・ケイジを応援するファンは、彼の演じるキャラクターに共感と親しみを覚える方が多いのです。
まとめ
悲劇と共に、ユーモアを交えて描かれた超常現象スリラー映画が『トゥ・ヘル』です。
クライマックスは少々駆け足、そして最後のつけ足しシーンは必要だったの?、とも感じられる作品です。
しかし本作の魅力は、ニコラス・ケイジの大熱演ワールドにあるのです。
最後には悲劇を迎える主人公ジョーですが、若い娘に迫られハッスルする姿はユーモラス。だらしない中年男が2人…魂で数えれば3人の女性に迫られる、なんとも奇妙な姿を想像して下さい。
そんな男の姿が彼お得意の熱演と、女性監督ではの視点で可笑しく描かれています。
マリア・プレラ監督の当初からジョー役に、ニコラス・ケイジを想定したいう言葉に偽りはないでしょう。
対する娘の母、本来のジョーのパートナーたるジュリーは、たくましさを備えた女性として描かれています。
これも女性監督ならではの演出、そしてベテランの域に達したフランカ・ポテンテの演技の賜物といえます。
ニコラス・ケイジ大熱演映画のリストに、間違いなく本作が加わりました。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第21回はポルトガルの奇想天外ファンタジードラマ映画『ディアマンティーノ 未知との遭遇』を紹介いたします。
お楽しみに。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2019見破録』記事一覧はこちら