連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第2回
様々な理由から日本公開が見送られてしまう、傑作・怪作映画をスクリーンで体験できる劇場発の映画祭、「未体験ゾーンの映画たち」が2019年も実施されています。
ヒューマントラストシネマ渋谷で1月4日よりスタートした「未体験ゾーンの映画たち」2019では、貴重な映画が一挙に58本も上映されます。
第2弾で紹介するのは、アメリカ製の女子高生ホラー映画『ダーク・スクール』。
アナソフィア・ロブを初めとする女子高生が住み、校長を務めるのはユマ・サーマンという寄宿学校を舞台にした学園ホラーです。
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CONTENTS
映画『ダーク・スクール』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ・スペイン合作映画)
【原題】
Down a Dark Hall
【監督】
ロドリゴ・コルテス
【キャスト】
アナソフィア・ロブ、ユマ・サーマン、イザベル・ファーマン、ノア・シルバー、テイラー・ラッセル、ロージー・デイ、ビクトリア・モロレス
【作品概要】
世間から隔絶された名門寄宿学校で恐ろしい現象に襲われる少女たちの運命を描いたシチュエーション・スリラー。
『リミット』『レッド・ライト』で知られるロドリゴ・コルテス監督が、「ラストサマー」の原作者ロイス・ダンカンの小説「Down A Dark Hall」を映画化。
『チャーリーとチョコレート工場』や『ソウル・サーファー』に出演したアナソフィア・ロブが主人公キット役を演じ、「キル・ビル」シリーズなどで知られるユマ・サーマンが物語のキーパーソンとなる教師役を勤めています。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『ダーク・スクール』のあらすじとネタバレ
学園の窓を突き破り少女の姿が落下…。
一方でベットで眠る幼い少女キットは、夢の中で雪の中に父を見つけますが、父の姿は消えていきます。
現在。その少女キット=キャサリン(アナソフィア・ロブ)は成長し高校生になっていました。
しかし彼女は素行不良で学校に呼び出されてしまいます。
学校のカウンセラーはこのままでは退学しかないと、問題のある生徒を集めて指導するブラックウッド学院への転校を勧めてきます。
キットは反発しますが、彼女の将来を案じた母と義父は彼女の転校を決めることにしました。
彼女の問題ある行動は、幼い時に父を事故で亡くした事に原因がありました。
母は幼いキットと実父が映る、ハイキングの時の写真を手に思い出を語り、「パパはこの時あなたを褒めた、あなたが本当に頑張っていたからよ」と語ります。
こうしてキットは両親の車で、寄宿学校であるブラックウッド学園に向かうと、それは森に囲まれた人里離れた地にあり、建物は古く美しい洋館でした。
学園にはまだ他の生徒がおらず寂しげでしたが、デュレ学長(ユマ・サーマン)と学園の使用人であるオロンスキー夫人がキットを迎え入れます。
キットは夕食と共に服用する薬を与えられ、学園での最初の夜を1人で過ごします。
翌日、他の生徒も学園に現れます。イジー(イザベル・ファーマン)、アシュリー(テイラー・ラッセル)、シエラ(ロージー・デイ)が荷物を持って到着します。
皆問題を抱えている様子ですが、最後に到着したヴェロニカ(ビクトリア・モロレス)が一番態度が悪い様子です。ブラックウッド学園の生徒はこの5人だけでした。
集まった5人の前でデュレ学長は、全員のスマホを取り上げ使用は月1回のみ、ネットも使用させないとと伝えます。
あなた達は間違った選択をした結果、人を傷つけ今この場所にいる。ここは刑務所ではない、望めば出る事もできる。しかし、あなたたち一人ひとりには、並外れた才能がある…。
私の指示に従えば、あなたたちは偉大な高みに達することができる、と学長は宣言します。
その後、数学や文学の教師、そして音楽の教師としてデュレ学長の息子ジュール(ノア・シルバー)が紹介されました。学長も自らが美術を教えるのです。
学園では教師、生徒全てが食事を共にする生活を送ります。5人の生徒は皆、まだ年若いジュールを意識している様子でした。
こうして彼女らの学園生活が始まりましたが、様々な問題を抱えた5人は真面目に学ぼうとはしません。
しかし、時とともに学長の宣言通り、彼女らの才能が徐々に現れてきました。
アシュリーは詩で、イジーは数学で、シエラは絵画で優れた成果を見せはじめます。
キットもジュールの熱心な指導の下、幼い頃以来まったく触れていなかったピアノの腕が上達していきます。
一方で生徒には才能が開花した分野に打ち込むあまり、食事に現れなくなるなど生活が乱れた者も出始めました。
ところがデュレ学長は、自分の得意とする分野に打ち込む姿勢を称賛し、そうの様な行動を認めるました。
ある夜アシュリーの部屋から悲鳴が聞こえます。
キットらが駆け付けると、アシュリーは自分の意志に反してを動かし、何かを記していました。
アシュリーはエリザベスが私に言葉をくれた、廊下にエリザベスを襲った男がいる、と奇妙な言葉を口にします。
他の生徒も確かに、何か怪しい存在を感じ取っていました。
こうして5人は同じ部屋で一夜を過ごすことになりますが、会話を交わす内に誰一人自ら望んでこの学園に入学していない事実に気付きます。
そして悪夢を見たキットは、父を失った幼い日に見た夢について語り、「事故で亡くなった日、確かにパパは私に会いに来た。あの時、何か言えば良かったのに」と語りました。
キットはふと思います、「学長の言う、私達の才能って?」。
次の日、シエラが奇妙な行動をとりますが、デュレ学長は強い薬は悪夢を見せ才能を奪うと言い、生徒たちに薬の服用を禁止してしまいます。
その影響でしょうか、生徒たちはそれぞれの分野で更なる成長を遂げます。
キットのピアノも上達しますが、ある日、奏でた音楽は自分の知らなかったケストラーの曲でした。
彼女の演奏をジュールは褒めます。キットも彼の才能を讃えましたが、ジュールは自分の才能は学長である母を満足させるものでは無かった、と寂しげに語ります。
しかし生徒達は得意な分野に打ち込むあまり、部屋にこもる、食事をとらないなど更に異常な行動をとる様になります。
ところが反抗心の強いヴェロニカだけは才能に目覚める事もなく、彼女に対する学長の態度も厳しいものになってきました。
そんな中、キットは学友の行動に奇妙なものを発見します。シエラは自分の絵にT.Cとサインしていました。
その夜、彼女はヴェロニカと共に、ブラックウッド学園で何が起きているのか調べます。
T.Cのサインに疑問を持ったキットが調べると、シエラはトマス・コールという19世紀の画家と同じ様な絵を描いていた事実を突き止めます。
アシュリーは、エリザベスが自分に言葉を授けたと口にしましたが、彼女の詩は亡くなったエリザベス・ウェッブという詩人と同じ作風でした。
この発見にヴェロニカは半信半疑でしたが、物音に気付いた学長とオロンスキー夫人が来ると、キットをかばって自らは捕えられます。
キットは生徒たちの身に、そしてその周囲で何か奇妙なことが起きていると確信します。
映画『ダーク・スクール』の感想と評価
ゴシック的な様式美の美少女学園ホラー
ホラーやスリラー映画の定番として、古く美しい屋敷を舞台とした作品があります。
エドガー・アラン・ポーの小説を原作にした映画化した作品は、もはや古典と言ってよいかもしれません。
また同じく、学園や美しい少女を集めた寄宿学校も、観客に恐怖を与える演出を見せる映画のお約束の舞台設定です。
2018年にリメイク版が全米で公開された『サスペリア』もそういった作品の1つです。
本作『ダーク・スクール』は、この2つの定番の舞台を真正面から映画化した作品だと言えるでしょう。
屋敷の不気味な雰囲気、時代を経た美しい装飾、まさにゴシックホラー映画を現代に甦らせた映画なのです。
恐怖描写も雰囲気重視ということもあり、よりショッキングな描写を求める観客にはやや不満かもしれません。
寄宿学校に集う少女、怪し気な教師に愛想の無い使用人、少女たちの憧れとなる若い男性と、本作にはこのジャンルの定番の人物が配置されています。
そして物語の終焉で焼け崩れる屋敷は、ゴシックホラーの十八番であるお約束の様式美、こうして映画は終了します。
現代の少女たちが繰り広げる、ゴシックホラー、ゴシックスリラーとして楽しむ良い機会である作品だと言えるでしょう。
ゴシック作品を彩る女優たちの魅力
本作の一番の魅力は、この怪しげな学園に集った女優たちでしょう。
近年はテレビドラマで活躍中のアナソフィア・ロブですが、映画ファンには2005年に『チャーリーとチョコレート工場』の中で一番生意気な少女ヴァイオレットを演じた子役としてお馴染みです。
また2012年公開の『ソウル・サーファー』では、実在の片腕のサーファーのベサニー・ハミルトン役を演じ、その演技力の確かな成長を見せてくれました。
またホラー映画ファンが注目すべきは、イジーを演じたイザベル・ファーマン。
2009年公開の『エスター』で作品タイトルとなった危険な少女エスターを子役として演じ、一躍有名になった女優です。
『エスター』は2000年以降のホラー映画の中でも、トラウマ級の設定を持つ作品の一本として世界中のファンから認められている作品です。
参考映像:『エスター』(2009)
本作『ダーク・スクール』を観て、「やっぱり壁には、何か危険なものを書くんだ、イザベル・ファーマン!」と思った方はかなり上級のホラー映画マニアでしょう。
そして怪しげな学長を演じたユマ・サーマン。ベテラン女優となった彼女が「若き女優陣を束ねという貫禄のある役柄を務める存在になったんだ」と思うと実に感慨深いです。
まとめ
今回は屋敷や学園物のゴシックホラーの様式美で描かれた映画『ダーク・スクール』を紹介してきました。
お約束の展開を楽しむロドリゴ・コルテス監督の映画ですが、さすが現在ゴシックホラー映画で数々の名作を生んでいるスペイン出身の監督だと感じさせるものがあります。
映画に漂う世界観や風土といったものは、それを描くことが出来るスタッフたちの協力により初めて成立するものです。
ゴシックホラー映画『ダーク・スクール』をご鑑賞の際は、ぜひ、作品の雰囲気を味わいながら楽しんで下さい。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」はフィオナ・ドゥーリフ主演、名バイプレイヤーバイプレーヤー・カーメン・アルジェンツィアノが共演する『マフィオサ』を紹介いたします。
お楽しみに。