人を裁くことは初めての経験だからこそ、ちゃんとしたいのです!
韓国映画『8番目の男』が2019年11月01日よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて公開されます。
2008年、韓国初の国民参与裁判で陪審員に選ばれた8人の人々。彼らを待ち受けていたのは!?
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CONTENTS
映画『8番目の男』の作品情報
【公開】
2019年公開(韓国映画)
【監督・脚本】
ホン・スンワン
【撮影】
ペク・ユンソク
【編集】
キム・チャンジュ
【音楽】
チャン・ヨンギュ
【キャスト】
パク・ヒョンシク、ムン・ソリ、ペク・スジャン、キム・ミギョン、ユン・ギョンホ、ソ・ジョンヨン、チョ・ハンチョル、キム・ホンパ、チョ・スヒャン
【作品概要】
韓国で2008年に導入された国民参与裁判制度をテーマにした法廷ドラマ。ホン・スンワン監督は、綿密なリサーチを重ね、脚本を執筆した。
陪審員の一人で8人目の男にあたる人物をドラマ『SUITS/スーツ』などのパク・ヒョンシクが演じ、裁判官をムン・ソリが演じている。
映画『8番目の男』のあらすじ
2008年、国民参与裁判制度が導入され、国民が参加する韓国史上初の裁判が開かれようとしていました。
国民の関心が高まる中、年齢も職業も性格もバラバラな8人の普通の人々が陪審員に選ばれます。
8番目に選ばれたのは、自己破産を勧められながらも、起業を目指し特許の申請を粘り強く行っている青年でした。
被告人が罪を認めているので、それほど難しい裁判ではありません、あとは量刑を決定するだけです、と、8人は説明を受けますが、いざ裁判が始まると、被告人は容疑を否認。陪審員たちは有罪か無罪かの決断を迫られることになりました。
原則主義者の裁判長ジュンギョムは正確かつ迅速に裁判を進めていきます。凶器も発見されており、目撃者もいて、監察医の証言もある状況では、“有罪”という結論しかないように思われました。
そんな中、死体処理の仕事を30年してきたという1人の陪審員が監察医の判断に異議を申し立てて騒ぎ出し、退廷させられます。
8番陪審員も、ある実験を申請し、にわかに裁判は混沌としていきます。
果たして陪審員たちはどのような評決にいたるのでしょうか!?
映画『8番目の男』の解説と感想
身近に感じられるリーガルドラマ
2008年に韓国で初めて導入された国民参与裁判。本作は実際の事例を再構築し、陪審員に選ばれて初めて人を裁かなければならなくなった市民たちと、初めて一般人と裁判を共にしなければならない裁判官の姿を描いたリーガル・ヒューマン・ドラマです。
8番目の陪審員に選ばれた男性のように、当時は陪審員制度ができたことさえ知らなかった人も少なくなかったといいます。
出てくる人々、皆が手探りのような、戸惑った状態だという要素が加わることで、従来のリーガルドラマにはなかった独自の面白さが生まれました。
日本では2009年に裁判員制度が導入され、今年で10年目を迎えました。自分自身や身近な人が実際に裁判員になる機会がないと、なんだかまだまだ遠いところのお話のような感覚がありますが、『8番目の男』は、裁判というものを、身近な自分たち自身の物語として感じさせてくれます。
厳粛な法廷でなぜか流血騒ぎが起こるなど、どんなシチュエーションでも笑いを盛り込んでくる韓国映画らしい演出も小気味よく、一挙にドラマに引き込まれていきます。
考える人・パク・ヒョンシク
8番陪審員を演じているのはボーイズグループ ZE:A(ゼア)のメンバーで、近年は俳優として活躍しているパク・ヒョンシクです。本作で長編劇映画デビューを果たしました。
パク・ヒョンシクは、米国のメガヒットドラマのリメイク・韓国版『SUITS/スーツ』でチャン・ドンゴンと共演し、大手弁護士事務所で敏腕弁護士チェ・ガンソクの助手として働くわけあり偽弁護士コ・ヨヌを演じていました。
コ・ヨヌは、一度目にしたものは忘れない驚異的な記憶力を持つ天才で、本作の男性とはまったく正反対のキャラクターのようにも見えます。
しかし、彼は、“本物の弁護士”を目指しながら弱者を見捨てることができず、戸惑うこともしばしばです。また、頭の切れるチェ弁護士との会話では、いつも一呼吸おいて、考えてから話す動作が見られ、8番陪審員と共通する部分が見られます。
映画の冒頭で、彼は、破産寸前の状態でありながらあきらめず特許申請をしている男として登場します。彼の粘り強さがそこで表現されているわけですが、慣例通り進めればいい、早く仕事を終わらせたいという周囲の空気をものともせず熟考を続ける姿は、コ・ヨヌの仕事の仕方とも重なります。
パク・ヒョンシクが俳優として築いてきたイメージが本作に確かな信頼感を与えているといえるでしょう。
彼の“熟考”が、周りの陪審員に徐々に影響を与え、自分たちが“人を裁かなければいけない”重要な立場にあることをひとりひとりに改めて認識させるのです。
8番目の男以外の陪審員に関してもそれぞれの人柄や人間性が巧みに描かれています。
彼らが裁判を通して成長していく姿も見どころの一つとなっています。
そもそも“法”とは何か?
「なぜ法が必要だと思いますか?」と問われるとあなたはどう応えるでしょうか?
これは、陪審員候補としてソウル中央地裁に呼び出された主人公が受けた質問です。
「罪人を罰するため?」と自身なげに応えた彼に、ムン・ソリ扮する裁判官は、「法は人を罰しないためにあるのです。罰するときには冤罪を防ぐために基準が要る。むやみに処罰できないよう設けた基準が法なのです」と応えています。
このように本作は「法」とは何なのかということを改めて世間に問い直しています。
また、最初は戸惑ったり、言われたまま行動して深く考えていなかった人々が、8番目の男が持った疑問によって自身も次第に変わっていく様子に、裁判員制度の本質を浮かび上がらせています。自身の責任を果たすため、奮闘努力する人々の姿は熱い感動を呼び起こします。
現代の政治や社会問題をエンターティンメントにして喚起させることに長けた韓国映画ならではの真摯でエキサイティングな作品に仕上がっています。
彼らは被告人を無罪とみるのか、それともやはり有罪とするのか、果たして!?
まとめ
監督・脚本のホン・スンワンは、ロースクールの聴講、判事へのインタビュー、模擬裁判の見学など入念なリサーチを行い、脚本を完成させました。
重要な役割である裁判長にはムン・ソリを起用。ムン・ソリは、『ペパーミント・キャンディー』、『オアシス』などのイ・チャンドン監督作品や、ホン・サンス監督の『ハハハ』などで知られる韓国の名女優です。
大阪アジアン映画祭でグランプリに輝きインディーズ映画ながら韓国でクリーンヒットしたイ・オクソプ監督の『なまず』にも出演するなど、若い映画人への協力も惜しまない彼女は映画界での信頼も厚く、まさにこの役柄にぴったりです。
また、『8番目の男』は、韓国で2019年5月に公開された作品で、それが日本で6ヶ月後に公開されるというのは異例の速さです。
近隣の中国や台湾などの国と比べても韓国映画の日本公開は遅く、一年は待たされるのが常でしたが、7月31日に韓国で公開され大ヒットを記録中の『EXIT』が日本でも11月下旬に上映されるなど、少しずつ変化が見られるのは嬉しい限りです。
映画『8番目の男』は、シネマート新宿、シネマート心斎橋にて11月01日(金)よりロードショー公開されます!
次回のコリアンムービーおすすめ指南は…
次回もとびきり強力な韓国映画をお届けする予定です。
お楽しみに。
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