連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第8回
2019年のTVアニメ放送から2020年の映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』まで社会現象を巻き起こし、未だとどまることを知らない『鬼滅の刃』は、作中で登場する心に突き刺さる名言の数々でも知られ、それらもまたメガヒットの一因になっています。
今後の『鬼滅の刃全集中の考察』では、2021年放送の「遊郭編」など、今後もアニメ化予定の原作コミックのストーリー予習、テレビアニメ1期や映画『無限列車編』のストーリー復習も兼ねて、『鬼滅の刃』を魅力的にした名言・名シーンを解説。
本記事では、2021年内でのテレビアニメ放送が発表され、2021年3月時点で最も注目を集めている「遊郭編」名言・名シーンをご紹介いたします。
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「乗れるわけないだろうが! 今俺が自分の弱さにどれだけ打ちのめされてると思ってんだ」
「無限列車編」にて、“炎柱”こと煉獄杏寿郎が最期に遺した弟・千寿郎と父・眞寿郎への言葉を伝えに、煉獄家に向かった炭治郎。
対面した眞寿郎は自身の息子であるはずの煉獄を侮辱。さらに炭治郎が父・炭十郎から託された耳飾りを見て、彼が“日の呼吸”の使い手だと思い込んだことで「調子に乗るな」と怒鳴った時、炭治郎が思わず言い返したセリフです。
何事にも我慢強く、自身に向けられる悪意にも無頓着な炭治郎ですが、この場面では目の端に涙を浮かべ、激高と共に上記のセリフを叫んでいます。
眞寿郎に対してというよりも、煉獄の危機に何もできなかった自分自身への悔しさが堰を切って流れ出したのだと感じられることからも、それだけに炭治郎にとって煉獄の存在が大きく、未だ喪失感が拭えていないことを物語っているのが理解できるセリフです。
「あがくしかない 今の自分にできる精一杯で前に進む どんなに苦しくても どんなに悔しくても」
煉獄家に残る代々の炎柱が記した手記から、炭治郎は“ヒノカミ神楽”や“日の呼吸”について調べようとしますが、手記は自暴自棄になった眞寿郎に破られ読むことができませんでした。そのことを謝る千寿郎に対し、炭治郎が語ったセリフです。
それまでのストーリーでもそうだったように、とにかく地道な努力を続けてきた炭治郎が、誰にと言うより、自分自身に語り聞かせるようにポツリポツリと呟く様子が印象的です。
煉獄の死によって「もっと強かったら…」と何回も思ってきたであろう炭治郎がたどり着いた“答え”でもあるこのセリフ。だからこそ、その後に続く「煉獄さんのような強い柱に必ずなります」というセリフには、微塵の迷いも感じさないほど強い決意が感じさせられます。
「やべぇ奴だ」/「とんでもねぇ奴だ」
“音柱”宇髄天元に同行し、新たな任務の舞台・吉原に向かう事となった炭治郎、善逸、伊之助。宇随が自分の指示に従うことを三人に説こうとし、表現が誇大になった結果飛び出た「俺を神と思え」と言う発言に対しての善逸の心の声が「やべぇ奴だ」です。
“柱”の一人である宇髄には流石に面と向かってツッコめないものの、表情を隠すことができず明らかにドン引きしてしまっている善逸の様子がとてもコミカルな場面です。
「とんでもねぇ奴だ」も同じく善逸の心の声。「俺を神と思え」という宇髄の発言に何のためらいなく「何を司る神ですか?」と尋ねた炭治郎に対してのツッコミであり、反応に困っていると言った感じの善逸の表情がまた笑いを誘います。
「派手を司る神… 祭りの神だ!!」
上記の炭治郎からの「何を司る神ですか?」の問いに対する宇髄の回答。
宇髄本人は堂々と決め顔で放ったこのセリフですが、初めて目にした原作ファンの中には「やべぇ奴だ」と善逸同様に思わず心の中でツッコんでしまった方も多いはずです。
しかし「遊郭編」を最後まで読み進めていった時、このセリフは派手好き、見栄っ張り、そして粋とまさに“祭り”を体現したかのような宇髄天元というキャラクターを端的に表した、見事なセリフだと改めて気づかされるでしょう。
「姉なんです」
吉原内にある遊郭「ときと屋」に遊女見習として女装し潜入した炭治郎は、宇随の嫁の一人であり、潜入捜査中に音信不通となった須磨の行方を探します。
その際、須磨との関係性を尋ねられた炭治郎はとっさに自分の姉だと嘘をつくのですが、生来の正直者である炭治郎は嘘をつくのが苦手なため、このセリフを発した時にも、白目をむき、顎を突き出した珍妙な表情になってしまいます。
鬼の存在は世間上では隠匿されているため、正直という自身の信条に背き、吉原の人々を巻き込まないようにという炭治郎の優しさが垣間見える場面ではあるのですが、珍妙な表情が全てぶち壊し、ある意味では衝撃的な場面であるため、本編でも一二を争う炭治郎のコミカル場面となっています。
「一大事だ 女の子が泣いてる」
炭治郎と同じく遊郭「京極屋」に女装して潜入した善逸が、聴覚を活かし情報を集めようとする場面にて、偶然聞いてしまった遊女見習の女の子の泣き声を聞いて発したセリフ。
善逸の任務は宇随の嫁の一人・雛鶴の行方を探すことであり、女の子が泣いていることに関わるのは完全に任務外なわけですが、そんなことを意にも介さない善逸らしさが垣間見えます。
この時、いつになく男前な決め顔でこのセリフを発していますが、女装による化粧や髪型のインパクトが強く珍妙に描かれています。
善逸の邪念はさておき、このセリフを発した後に彼は堕姫と遭遇。物語が一気に動き出し始めるきっかけとなる場面であるため、原作ファンの印象にも強く残っているはずです。
「恥じるな 生きてる奴が価値なんだ」
遊郭に潜入した炭治郎と伊之助が定期連絡のため集まる中、善逸が消息を絶った事を伝えた宇随が、二人に吉原を去るよう告げ、その立ち去り際に残した言葉です。
宇随は消息を絶った善逸を死亡したものとみなし、炭治郎と伊之助には荷が重い任務だったと判断。二人を今回の任務から外し吉原から去らせる判断に至ります。
遊郭編において本格的に登場した宇随は、その容姿と言動から一見ハチャメチャな人物という印象を受けますが、この場面では善逸の死亡を即断する冷徹さのみならず、犠牲者を増やさないという決意を通じて“柱”としての責務を果たそうとする姿が見え、誰もが宇随の違った一面に気づかされます。
「お前が言ったことは全部な 今、俺が言おうとしたことだぜ!!」
上記のセリフを放ち宇随がその場を去った後も、伊之助は任務から離れることにどうしても納得できず、しかし鬼の存在を感知しながらもその詳細な居所が掴めず、その心は焦り続けます。
その中で炭治郎は冷静な推理を彼に聞かせ、消息を絶った善逸や宇随の嫁たちは全員生存していると強く信じていると心の内を明かします。そんな炭治郎の言葉に感化された伊之助が発したのがこのセリフです。
一見すると伊之助の強がりのようにも感じられますが、このセリフを発した時の伊之助は曇りのない瞳で晴れやかな表情をしています。
初登場時の頃から何かと炭治郎に突っかかり、競いたがっていた伊之助。ですがいくつもの苦難や過酷な戦いを経験したことで、伊之助の中に炭治郎への信頼が芽生えていることがこの場面では感じられます。自己表現が下手で負けず嫌いの伊之助らしさと彼の精神的成長を感じさせる、力強くも心なごむセリフといえます。
「笑顔でいてください」
炭治郎が潜入していた「ときと屋」を去る際、世話になった花魁・鯉夏に別れを告げる場面。近く吉原を離れ嫁入りをする鯉夏は、人知れず起きている異変を肌で感じながらも何もできない事を憂いていました。そんな鯉夏に、炭治郎は失踪した人たちを助け出すことを強く宣言したのち、彼女にこのセリフを伝えました。
“吉原”という人の欲望渦巻く街で生きることを強いられながら、それでも優しさを忘れなかった鯉夏を気遣った場面ですが、同時に、潜入捜査の中で受けた鯉夏の“優しさ”が、炭治郎の心にとってどれほど重要だったのかが垣間見える場面でもあります。
本編において炭治郎が純粋な“優しさ”に触れた数少ない場面。人に対しても鬼に対しても“優しさ”を決して忘れなかった炭治郎が、誰かの“優しさ”に報われる。そんな場面に感じられてなりません。
まとめ/次回の『鬼滅の刃全集中の考察』は……
『鬼滅の刃』の「遊郭編」名言・名シーン集その1、いかがだったでしょうか。
炭治郎の深い言葉が心に突き刺さる名言が多く感じられますが、伊之助の成長を感じさせるセリフや善逸のコミカルな迷言も登場し、セリフ一つ一つをとっても『鬼滅の刃』の多彩さが感じられます。
次回も引き続き「遊郭編」の名言・名シーンをピックアップ。
ド派手に決める宇髄の名言の数々はもちろん、誰もが涙を流したであろう“上弦の陸”こと堕姫・妓夫太郎の名シーンを紹介していきます。