連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第18回
大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。
今回からは「刀鍛冶の里編」の名言/名シーンを紹介・解説していきます。
「遊郭編」にて“上弦の陸”こと堕姫・妓夫太郎を倒し確実な成長を見せる炭治郎は、訪れた刀鍛冶の里で“恋柱”の甘露寺蜜璃や“霞柱”の時透無一郎、同期隊士の不死川玄弥と出会います。しかし里の存在を嗅ぎつけた“上弦の伍”玉壺、“上弦の肆”半天狗がそこに襲いかかります。
刀鍛冶の里で繰り広げられる激闘の中で様々な想いが交錯し、熱い言葉が交わされていきます。
CONTENTS
「折れるような鈍(なまくら)を作ったあの子が悪いのや」
刀鍛冶の里を訪れた炭治郎は、里の長である鉄地河原鉄珍から炭治郎の日輪刀の製作・管理をしている刀鍛冶の鋼鐵塚蛍が癇癪を起こし、姿を消してしまった事を伝えられます。
炭治郎は自分が何度も刀を折ったり、刃こぼれさせたためだと鋼鐵塚を庇いますが、鉄珍はこの言葉で彼を評します。その際の鉄珍のあまりの迫力に、炭治郎は気圧されてしまいます。
一見すると厳しい言葉ですが、刀鍛冶達の長として、そして自身もまた一流の刀鍛冶として“誇り”と“責任”を背負っていることが感じられます。その容姿と言動から珍妙な印象を受ける鉄珍ですが、この言葉を放つ際の「凄み」からは、その面に隠れた表情が非常に険しいものである事が想像される、緊迫した場面でもあります。
「でもまだまだです/もっともっと頑張ります 鬼舞辻無惨に勝つために!」
「遊郭編」にて上弦の鬼を破った事で確実に以前より強くなっていると、偶然出会った“恋柱”の甘露寺蜜璃は炭治郎を評します。それに対し、炭治郎はこの言葉を蜜璃に返します。
113年ぶりとなった上弦の鬼の撃破に貢献した事に奢ることなく、自分を高め続けようとする炭治郎のひたむきさと謙虚さを感じさせる、彼らしいどこまでも真っすぐなセリフです。
しかしその表情は自信に満ち、頼もしさを感じさせる精悍な顔つきへ変化しており、炭治郎が確実に成長を果たしていることが分かります。
「戦っているのはどちらも同じです」
鬼を斬り人の命を救う「剣士」と刀しか打つことの出来ない「刀鍛冶」の価値を説く“霞柱”時透無一郎の無情な思想に対し、それが「正論」であると認めながらも、炭治郎は鍛冶師が刀を打ってくれるから自分たちは戦えると反論。その刀鍛冶たちも意地や誇りを懸け刀と向き合っている事を知る炭治郎は、このセリフを放ちます。
心優しい炭治郎らしいセリフですが、前述の鉄珍の言葉が彼の胸に響いたがゆえに出た言葉とも言えます。また無一郎は「くだらない話」と遮ってしまいますが、この場面が後に無一郎を変える伏線となっており、興味深い場面になっています。
「次につなぐための努力をしなきゃならない/必ず誰かがやり遂げてくれると信じてる」
里に伝わる訓練用の絡繰人形「縁壱零式」が無一郎によって壊されそうになり、零式が大昔の技術で作れた人形でありながら、現在の刀鍛冶たちでは修復が不可能である事を知る少年・小鉄は悲しみに暮れます。
零式を管理してきた一族の末裔として自身の不甲斐なさを嘆く小鉄ですが、その姿を見た炭治郎は喝を入れ、このセリフを続けます。
この言葉の裏には自分たちが今現在鬼と戦えているのも、上弦の鬼を撃破する事が出来たのも、これまでの剣士たちの意志を引継ぎ、尊い犠牲があったからだと言う事を自覚しており、自身もそれを次代に繋げようとしている事が感じられます。
なにより炭治郎の脳裏には、「無限列車編」で命を落とした煉獄、「遊郭編」での堕姫・妓夫太郎戦を経て一線を退いた宇髄の姿があったのは確かでしょう。未来を信じ、今できる精一杯の事をひたむきに努力する前向きな炭治郎らしい言葉に思わず、胸が熱くなる名言です。
「人のためにすることは結局 巡り巡って自分のためにもなっているものだし」
里の刀鍛冶の一人・鉄穴森鋼蔵を探す無一郎を手伝おうとする炭治郎。他人の為に行動しがちな彼を不思議に思った無一郎は、何故自分の事よりも人を助けようとするのか問い、炭治郎はこの言葉を返します。
炭治郎の思いやり、優しさが感じられる言葉ですが、この場面で虚ろだった無一郎の瞳に一瞬、光が戻るのが印象的であり、のちに他者に興味がない無一郎の心に変化をもたらすきっかけとなる、重要な場面となっています。
「邪魔になるからさっさと逃げてくれない?」
“上弦の伍”こと玉壺が血鬼術で生み出した使い魔に襲われる小鉄。それを目撃した無一郎が彼を助けた際、言い捨てるように発した言葉です。
一見冷たいように感じられますが、元々無一郎は刀鍛冶としても未熟な小鉄を見捨て、熟練の刀鍛冶を優先的に助けるほうが自身や鬼殺隊にとって有益と考えていました。しかし脳裏に前述の炭治郎の言葉がよぎり、気付いた時には小鉄を助けていたのです。
のちに自分の「使命」としてではなく、自らの「意志」で人々を守るために戦おうとし始める無一郎にとって転換点となる場面です。この場面での彼の瞳はまだ虚ろなままではありますが、どこか強い意志を感じさせる無一郎の表情には確かな変化が訪れつつあるのが見受けられます。
「テメェを殺す男の名だァ」
不死川玄弥は“上弦の肆”半天狗の血鬼術による分裂体・哀絶と交戦。何度致命傷を与えても立ち上がる玄弥への「一体何なのだお前は」という哀絶からの問いに、玄弥は自身の名を名乗ってこの言葉を続けます。
炭治郎と同期の隊士であり、これまで物語の中で触れられる事がなかった玄弥だけに、読者も哀絶同様に疑問を浮かべている場面ですが、それ以上に玄弥の力強い言葉に頼もしさを感じます。
また玄弥の語尾の「~ァ」という言い方は、兄である“風柱”不死川実弥と同じ語尾であり、血走った眼も相まって兄弟である事が強く感じられます。
「おい いい加減しろよクソ野郎が」
無一郎と対峙した玉壺は、自身が制作したと言う「作品」を披露します。しかし里の刀鍛冶達の亡骸を「材料」として扱い、人の尊厳を踏みにじった醜悪な「作品」に対し、無一郎はこの言葉をぶつけます。
この時に表情を変えることはおろか、感情と呼べるものをほとんど見せる事がなかった無一郎が、明らかに怒りの表情を露わにしています。
これまでにも触れた通り、他者に対し興味を示さず感情を持たなかった無一郎が、炭治郎との出会いにより人間らしさを現し始めていることが感じられます。一方でその後の玉壺との戦闘では冷静に玉壺の動きを分析している事から、無一郎が感情を制御している、あるいは自身の感情の変化をまだ自覚していない事が分かります。
「私 いたずらに人を傷つける奴にはキュンとしないの」
里が襲撃されていると言う知らせを受けて駆け付けた蜜璃は、鉄珍を襲う玉壺の使い魔と対峙します。そして建物を容易に破壊する巨大な体躯の使い魔を一刀のもと瞬く間に倒し、この言葉を口にします。
可愛らしい見た目と常に恋する乙女のような発言で、柱の中でも特徴的なキャラクターである蜜璃の強さが初めて明らかになる場面であり、鞭のようにしなる日輪刀の特異さも相まって、普段の言動とのギャップに驚かされます。
またこのセリフを放った時の凛とした彼女の表情に、思わず見惚れてしまった原作ファンも多いのではないでしょうか。
「俺はそれに応えなければ!!!」
炭治郎と共に半天狗と対峙した禰豆子は、瓦礫に挟まれ動けなくなってしまいます。少しでも力になろうと、禰豆子は自身の血を炭治郎の刀に塗って血鬼術「爆血」を発動。炭治郎は自身の刀の刀身が赤く変色することに気付きます。
炭治郎は禰豆子をはじめ多くの人々の助けのおかげ生き抜き、戦えている事を自覚。胸中でこの言葉を叫び、半天狗に向かっていきます。
この刀身が赤く変色する現象は以降の物語においても大きな意味を持ち、初めてそれが明らかになった重要な場面でもあります。そしてシリーズを通して描かれる「兄弟の絆」、その中で炭治郎たちが紡いできた人々との交流、受け継いだ想いを感じさせる熱い場面となっています。
「柱になるんじゃないのか!! 不死川玄弥!!」
半天狗の本体・怯の頸を斬ろうとするも失敗したは、半天狗の分身体・積怒に背後を取られ、死を覚悟をする中でかつての記憶を思い出します。
かつて鬼となってしまった母をやむなく殺めた兄・実弥を「人殺し」と責めてしまった事、破綻した兄弟関係を修復するため謝りたかった事、“柱”となり実弥に認めてほしかった事……鬼殺隊内で再会した実弥に拒絶された事を思い出し、玄弥の心は折れてしまっていました。
しかし、そこへ助けに現れた炭治郎にこの言葉を掛けられ、玄弥は我に返ります。
玄弥と兄・実弥の隠された過去が明らかになる場面であり、炭治郎のどこまでも前向きな言葉に励まされた玄弥が再び闘志を取り戻す場面となっています。
何よりもこれまでの戦いの場において、冨岡や鱗滝、煉獄や宇髄から影響を受け、励まされてきた炭治郎が戦闘の中で玄弥を「励ます」側になると言う、炭治郎の成長を感じる場面にもなっています。
まとめ/次回の『鬼滅の刃全集中の考察』は……
「刀鍛冶の里編」名言/名シーン集、いかがだったでしょうか。
作中では“上弦の陸”堕姫・妓夫太郎との戦いを経て、炭治郎は誰かに励まされるだけではない、誰かを励ます事で「他者の成長」をもたらせる人間になったと言う彼の成長を感じさせる、力強い名言が多く見られます。
そして炭治郎の言葉に感化される無一郎の心境の変化がそのセリフにも感じられ、心震わせる名言へと繋がってゆくのも特徴的です。また無一郎と同じく本格参戦を果たした“恋柱”甘露寺蜜璃のキュンとする名言も見どころです。
次回記事では、「刀鍛冶の里編」の名言/名シーンその2をピックアップ。無一郎が取り戻す記憶にまつわる名言、禰豆子のシリーズ屈指の感動的な名場面が登場します。