連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile095
唐沢寿明主演で海外ドラマ「24」シリーズが日本のドラマとして生まれ変わることが発表され、驚きが広がっています。
海外ドラマ「24」シリーズと言えば、ドラマ内の時間経過が現実と同じであり、24話で24時間が描かれる構成の独自性とそれによる1分1分の緊迫感が世界で人気となりました。
一方で、2時間の映画内で人の一生を描いたような作品は多くあり、そう言った作品は映画の鑑賞後に不思議な疲労感のような感覚を覚えることがあります。
今回は30年以上に渡る1人の捜査の物語を描いたSFミステリー映画『月影の下で』(2019)を、ネタバレあらすじを交え、解説させていただきます。
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映画『月影の下で』の作品情報
【日本公開】
2019年(NETFLIX独占配信映画)
【原題】
In the Shadow of the Moon
【監督】
ジム・ミックル
【キャスト】
ボイド・ホルブルック、マイケル・C・ホール、クレオパトラ・コールマン、ボキーム・ウッドバイン、ルディ・ダーマリンガム、レイチェル・ケラー
【作品概要】
『肉』(2014)などの映画で知られるジム・ミックルが製作したSFミステリー映画。
主演を務めたのは『LOGAN/ローガン』(2017)で印象的なヴィランを演じた後に『ザ・プレデター』(2018)では主演を務めることになったボイド・ホルブルック。
映画『月影の下で』のあらすじとネタバレ
2024年、フィラデルフィアの街は日に包まれ、世界は終わりを迎えようとしていました。
1988年、コンサート中のピアニスト、バスの運転手、料理中のコックが同時に全身から血を吹き出し死亡します。
身重の妻を抱える警察官のトーマスは、相棒のマドックスと共に死亡したバスの運転手が引き起こした事故の整備に呼び集められます。
運転手の死体から流れ出たおびただしい量の出血が事故によるものではなく、さらに脳みそが融解し血と共に流れ出ていることに興味を持ったトーマスは死体の首筋に三本の注射痕のようなものを見つけます。
義兄のホルト刑事に詮索を止められるトーマスでしたが、コンサートホールやダイナーでも同じような死体が発見され、一介の警察官から刑事になるチャンスであると確信し、現場へと急行。
大量出血、脳みその融解、首筋に三本の注射痕と言う共通項により事件は連続殺人の様相を帯び始めます。
ホルトはトーマスの介入を快く思わず情報をひた隠しにしますが、検視医の所見を聞くことに成功したトーマスは注射された薬物が放射性同位体であり、現状では未知の物質であることを知ります。
パトロールの最中、首筋を殴られた女性の事件を聞き現場に駆け付けると、ディスコで殴られた女性が警察官たちに保護されている様子を発見し女性に事情を聞きます。
死体たちと同様に首筋に三本の注射痕がある女性は青いパーカーを着た黒人女性に殴られたことを話すと、全身から血を出し始めてしまいます。
ホルトは青いパーカーを着た女性を指名手配とすると、あてはまる人間を次々と検挙し始めます。
パトロール中のトーマスとマドックスは、たまたま青いパーカーを着た手が血だらけの女性を発見し追跡。
女性を駅に追い詰めた2人でしたがマドックスは反撃を受け負傷、女性の落とした棒状の何かを広い追いかけるトーマスは遂に彼女を追い詰めます。
そのころトーマスの妻の陣痛が始まっており、トーマスの娘は誕生間近でした。
追い詰められた女性はパーカーのフードを外すと、トーマスに娘の誕生を祝う言葉と「ここで起きてしまう」と言う謎の言葉を吐きます。
今後マドックスに起こる事柄に対する謝罪の言葉を話す女性に気味の悪さを感じるトーマス。
その後、身をひるがえした女性は驚くべき身体能力でトーマスを組み伏せ、手錠を奪いベンチにトーマスを固定します。
「また会いましょう」と言う言葉を聞いたトーマスは女性の落とした棒状の「何か」で攻撃すると、女性はバランスを崩しホームへと落ち、そこに通過する電車がタイミング悪く来たことで女性は轢かれてしまいます。
殺人事件の容疑者であった女性は素性も分からないままでしたが、ひとまず事件は終えたものとして解決されます。
一方、トーマスの妻は娘を出産すると命を落としてしまうのでした。
1997年、娘のエイミーと二人で暮らすトーマスは1998年の事件の解決を機に刑事へと昇進していました。
しかし、犯人であると疑われていた女性が黒人であり、彼女を殺害してしまった警察官の存在を快く思わない黒人市民たちは日夜デモ活動を行っていました。
ある日、9年ぶりに1988年の事件と同様に全身から血を吹き出し死亡する事件が発生。
首筋に3本の傷があり、警察は模倣犯として捜査を進めようとしますが、手口の類似性や1988年に押収された薬物が未だに解析が終わっていないにも関わらず同一のものが使われていることからトーマスは不審に思います。
さらに監視カメラの映像には9年前に死んだはずの黒人女性が映っており、トーマスが9年前に見た女性の手の傷まで再現されていることに気づきホルトは直ちに彼女を指名手配とします。
1988年の事件の証拠品を洗い直すトーマスは、押収品の中から発見した鍵が昨年開発されたばかりの飛行機のカギであることを知ります。
事件の話しを聞き、駆け付けた物理学者のナヴィーンはこの事件は月蝕の際に起こることを指摘、さらに月の接近によって別次元との扉が開くことを示唆しますが、あまりに常識離れした内容にトーマスは話しを聞きませんでした。
一方、近辺に1機のみカギが一致する飛行機が存在することを知ったトーマスはマドックスと共に直ちに飛行場に駆け付けます。
そこには9年前に死んだはずの女性がおり、トーマスに銃を向けます。
トーマスを拘束する女性でしたが、トーマスは外で待機しているマドックスに密かに連絡を取り、マドックスは密かに女性に忍び寄り拘束しようとします。
しかし、マドックスの声に驚いた女性は反射的にマドックスを撃ってしまい、マドックスは即死しトーマスも気を失ってしまいます。
空を飛ぶ飛行機の中で目を覚ましたトーマスは、女性から「マドックスの件は誤算だったが、人類を救うために行動しているから邪魔をするな」と忠告されます。
9年前に死んだはずであることを指摘すると、女性は月が接近する周期で戻ってこれると言い、トーマスを飛行機から海へと突き落としました。
何とか海岸へと泳ぎ切ったトーマスは、墜落し炎上している飛行機を発見。
駆け付けた警察とホルトに、犯人の女性は9年周期で未来からやってくると語るのでした。
2006年、警察を辞職し、探偵となっていたトーマスは1988年に死亡した人間の死体を掘り起こし首筋に傷がついていないかを確認します。
さらに1997年に会った物理学者のナヴィーンが失踪していることに気づき、月の周期や彼の行方を探していました。
1988年に死亡したハロルドの遺族に話しを聞くトーマスは、ハロルドはヘザーと言う女性と共に過激な白人至上主義を掲げ武装蜂起すらも目前としていたことを知ります。
ハロルドに同調していたメンバーのリストを手に入れたトーマスは、1988年と1997年にトーマスの管轄内で怪死した人間のほぼすべてがそのリストに載っていることを突き止め、夜にホルトを呼び出すことに決めます。
事件の捜査に没頭するあまりエイミーとは上手くいっておらず、エイミーは叔父のホルトの家に住んでいました。
夜、バーでホルトと待ち合わせ、ホルトに死者の共通点のことを話しますが、実験に没頭しすぎるトーマスにホルトは頭を抱えており、トーマスの話しを取り合おうとしません。
トーマスは我々が通常の時間を過ごしているのに対し、犯人の女性がマドックスの死を知っていたことや手の傷が継続していることから彼女のみが9年周期で時間を逆行していると仮説を立てていました。
しかし、ホルトはトーマスの頼んだヘザーの住所を教えることなくバーを去っていこうとします。
ホルトから警察手帳を盗んでいたトーマスは、警察手帳を使いヘザーの住所を独自に取得し、彼女の家を訪ねます。
ヘザーの家へ無断で侵入したトーマスはヘザーが全身から血を流し死亡しているのを発見。
2階から飛び降りてきた女性に迷わずに発砲すると、手を負傷させることに成功しますが、バイクに乗り逃げられてしまいます。
女性の逃げた先にトンネルのようなものを発見し、潜り込むトーマス。
そこには水槽型のタイムマシンのような装置に入った女性がおり、機械を止めようとしますが間に合いませんでした。
トンネルから出るトーマスはバイクの跡を見て追いかけてきたホルトと警官隊に逮捕され連行されてしまいます。
映画『月影の下で』の感想と評価
NETFLIX独占配信作となる本作『月影の下で』は、ジャンルとしては「SF」であることに間違いありません。
事件の根幹となる部分において「未来技術」の存在が重要になり、「SF」の要素を切り離して本作を語ることはできないと言えます。
しかし、本作の一番の魅力は主人公トーマスの生涯を賭けた捜査とその結末にあり、「ミステリー」かつ「サスペンス」、そして「ヒューマンドラマ」でもある物語が鑑賞後に不思議な感覚を与えてくれます。
物語は9年ごとに発生する怪死事件以外の部分は作中では描かれず、鑑賞者もその間にトーマスに起きた変化については想いを馳せるしかありません。
捜査に生涯を賭けた余り徐々に荒んでいくトーマスの姿は痛々しく映りますが、一方でトーマスの捜査は順調に真実へと近づいていき、終盤には数多くの真相が明かされます。
その際の心の揺さぶりは、鑑賞者がトーマスと共に人生を歩んできたからに他ならず、この形式だからこそのラストになっていました。
まとめ
「SF」を見事に使った事件の真相に驚愕し、作中に丁寧に張られた伏線に感心する映画『月影の下で』。
「SF」色が強い映画ではあるものの、「サスペンス」や「ミステリー」好きにも率先して観ていただきたい良質な脚本の映画です。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile096では、ゾンビが徘徊する荒野を娘と共に歩くホラー映画『カーゴ』(2017)をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。
4月1日(水)の掲載をお楽しみに!