連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile094
「携帯の破片が頭の中に入ったことで電子機器を操れるようになる」と言うスーパーヒーローのような設定で話題となったイギリス映画『iBOY』(2017)。
しかし、その内容は「貧困層」の実態を描いたシビアなものであり、青春とヒーロー、そして団地に生まれ育った青年たちの葛藤を絶妙なバランスで仕上げていました。
今回はNETFLIX独占配信映画である『iBOY』をネタバレあらすじを交えご紹介いたします。
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映画『iBOY』の作品情報
【日本公開】
2017年(NETFLIX独占配信映画)
【原題】
iBOY
【監督】
アダム・ランドール
【キャスト】
ビル・ミルナー、メイジー・ウィリアムズ、ミランダ・リチャードソン、ロリー・キニア、ジョーダン・ボルジャー、チャーリー・パーマー・ロースウェル、エイメン・アンドゥーシ
【作品概要】
コメディ映画『リトル・ランボーズ』(2010)で主演を務め、高い評価を受けたビル・ミルナー主演で製作されたイギリス産SF映画。
ヒロインのルーシーを演じたのは大ヒットを記録したドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のアリア・スターク役としてレギュラー出演し話題となったメイジー・ウィリアムズ。
映画『iBOY』のあらすじとネタバレ
祖母と暮らす学生のトムは、片想いの相手でもあるルーシーの部屋を訪ねた際に覆面を被った男たちに襲われます。
通報しようと携帯をかけながら逃げるトムでしたが、そのことで覆面の男に撃たれてしまいます。
10日後、病院で目を覚ましたトムは、弾丸は急所を逸れたものの頭の中に携帯の部品が残ったままであることを医師に聞かされます。
それ以来、すれ違った相手の電話の内容が入ってくるなど不思議な現象が起こりますが、トムはルーシーの安否を知るべく彼女の部屋を訪ねることにしました。
暴漢から逃げたことを後ろめたく感じるトムは、暴漢たちにレイプされたルーシーと会い、彼女が心に負った傷を再認識し復讐を誓います。
頭に入った携帯の影響からか、様々な電子機器の情報が頭に入ってくる感覚に悩まされるトム。
彼は自身の部屋のベッドで眠りに着く際に、同級生の不良であるユージーンがあの日現場にいたことを思い出します。
翌日、トムは友人のダニーにパーティーに参加し、ユージーンの携帯の中にルーシーのレイプ動画が存在することを知り、犯人の一味であることを確信します。
パーティーにはあの日現場にいた覆面の男たちが多数いることも分かり、苛立ちを募らせます。
その日の夜、携帯のクラッキングの方法をネット上で学ぶトムは翌日、ユージーンやその仲間の携帯のハッキングに成功します。
頭に入った携帯の破片のお蔭か、触れることなく様々な電子機器を操れるようになり、ユージーンやその仲間の携帯カメラを監視し、部屋の電気やラジオをオンオフするなど様々な嫌がらせを行います。
一方でトムは匿名の「iBOY」というハンドルネームを使い、自身だとバレないようにルーシーと連絡を取り、暴漢たちの情報を集めていました。
ルーシーの情報からルーシーの弟がギャングへの入団を断ったことがルーシーが襲われた原因であると知り、ユージーンとキャスが盗もうとした車に鍵をかけ、エンジンを破壊しユージーンたちを拷問にかけます。
カッツと言う男に指示されたことでルーシーを襲ったとキャスが白状し、トムは次の狙いをギャングであるカッツに決めます。
カッツの車のいたずら映像を流し、カッツを家から追い出した後、家にあった大量の麻薬を盗み出したトムは「団地の浄化作戦」と名付け、ユージーンを始めとしたカッツの手下たちの家に麻薬を置き警察に通報することでカッツの手下を一掃します。
「iBOY」というハンドルネームで動画を投稿し、「iBOY」はたちまち人気となりますが、カッツのボスである謎の男エルマンが動き出したことで団地の治安はさらに悪化することになります。
映画『iBOY』の感想と評価
本作は登場する少年少女のほぼ全員が、あまり裕福でない団地に住んでいます。
薬物中毒の母が他界し家賃にも困窮する祖母と共に暮らす主人公のトム、そして親友のダニーや片想いの相手であるルーシー、そして不良のユージーンまでもが同じ団地に住み、苦楽を共にしてきました。
一方で、ギャングであり街に麻薬を流すカッツは最新機器の揃う部屋でギャング仲間と悠々自適な暮らしをしており、車にこだわる様子も見せます。
メインは主人公のトムによる復讐劇ではあるのですが、「貧困から抜け出すためには悪事に手を染めるしかない」というメッセージが裏には流れ続けます。
オタクの少年が力を手に入れたことで悪と戦うヒーロー映画のような展開でありながら、その裏のメッセージは決して払拭されません。
100万世帯以上の貧困層を抱えるとされるイギリスの現状は厳しく、少年少女ですら悪事に手を染めなければ暮らしていくことの出来ない世相を真正面から描いた目を背けたくなるようなリアルさすらある作品でした。
まとめ
物語は復讐を実行するほどに主人公が抱えることになる「乾いた心」を描いた少し暗めなヒーローものではありますが、電子機器を操るシーンの演出は「攻殻機動隊」のようなビジュアルでスタイリッシュに映ります。
立ち並ぶ構造物の映し方にもこだわりを感じ、主人公の住む団地やコンテナ街など、電子機器を操る主人公の「SF」成分と真逆を行くような人間味の高い背景に目が釘付けになるようなセンスの高い作品である『iBOY』。
約90分とあっさりと観ることの出来る尺であり、時間がないけど満足感の高い映画を観たい、と言う方にオススメの作品です。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile095では、同時多発的に大量出血での死亡が相次ぐ奇怪な連続殺人事件を追うSFスリラー映画『月影の下で』(2019)をネタバレあらすじを交えご紹介いたします。
3月25日(水)の掲載をお楽しみに!