連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile079
以前、コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile022で「都市伝説」を実写化した数々の名作映画についてご紹介しました。
口伝のみで「都市伝説」が広まり続けた以前とは違い、現代ではSNSや掲示板などの発展により、情報の流通速度が桁違いとなった昨今では「都市伝説」とは少し違う、「定番のネットジョーク」のようなものが存在し始めました。
例えば「台風の日にコロッケを買う」と言うネタのように、何だかよく分からない間に広まり、元となった投稿すら定かでなくなる様子はまさに「都市伝説」。
今回はそんな「都市伝説」的ジョークの1つ、「童貞のまま30歳を迎えると魔法使いになれる」を基とした映画『魔法少年☆ワイルドバージン』(2019)をご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『魔法少年☆ワイルドバージン』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督】
宇賀那健一
【キャスト】
前野朋哉、佐野ひなこ、芹澤興人、濱津隆之、田中真琴、斎藤工
映画『魔法少年☆ワイルドバージン』のあらすじ
保険会社に勤めながら営業成績も悪く、恋人が出来た経験もない星村幹夫。
幼少期に母親を亡くしてしまった経験から、根だけは優しい星村は「童貞のまま30歳を迎えた」ことで「魔法使い」として覚醒します。
上司からの激しいパワハラ、新入社員の女性との恋、冴えない先輩との友情、進展するはずも無かった様々な事柄が「魔法使い」としての能力に目覚めたことで進展していくことになりますが…。
くだらなさと魂の叫びが同居するコメディ映画
「性欲」は人間の三大欲求の中でも、満たされなくとも生命活動に直接影響しない特殊な欲求。
しかし、多くの人間がこの欲求に駆られ、自分を磨くために邁進したり、時に道を踏み外してしまったりします。
そんな中、タイミングや性格、めぐりあわせの問題で異性との性交渉を経験しないまま性欲のピークである20台を越え30歳を迎えた男は、世俗的な争いとは無縁の達観した男と言うことを揶揄、または尊敬し「魔法使い」とネットでは呼ばれるようになりました。
本作は緩さたっぷりのヒューマンコメディ映画であり、「くだらなさ」を全力で楽しむ作品であると同時に主人公の苦悩を前面に描いた、様々な方向で脳をかき乱す作品でした。
「自己の欲求」と「世界の平和」を天秤にかける苦悩
「魔法使い」としての覚醒を迎えた主人公の星村は、自身の中に目覚めた力を活用するため「ヒーロー」としての行動を開始。
その行為がやがて話題となり星村と会社の先輩でもありヒーロー仲間である月野は、人生の中で得ることのなかった「知名度」と「人気」を手にすることになります。
しかし、いくら人気が出て異性が近くにやってこようとも、「童貞」を捨てることは自身の「魔法使い」としての「能力」を失うことに他なりません。
婦女暴行犯を成敗したり、自殺を試みようとする男を救ったりと「世界の平和」に少しでも貢献出来る「ヒーロー」としての道を選ぶか、それとも一般的な幸せでありながらも決して自分の人生には訪れなかった「自己の欲求」を優先するのか。
一見して「くだらない」と思いがちな物語の中に「最大多数の最大幸福」の命題が隠されている奥が深い作品でもあります。
名バイプレイヤーから大物俳優まで個性豊かなキャスト
本作で主演を務める前野朋哉は数多くの映画及びドラマに出演し、確かな印象を与える名バイプレイヤーとしてお馴染みの俳優。
名前に聞き覚えがなくとも顔を見れば間違いなく「知ってる!」となること間違いなしの俳優であり、その個性豊かな雰囲気と演技は本作でも活かされています。
それだけに収まらず、本作は主題が「童貞」や「性欲」を主軸としていることもあり、もちろんながら下ネタのオンパレードであるのですが、出演俳優は話題の俳優ばかり。
各シーズンのドラマに出演し、窪田正孝主演の人気漫画を実写化したドラマ『デスノート』に出演したことで話題となったヒロインの佐野ひなこだけでなく、主人公の星村に執拗なパワハラを行う上司役には2018年に『カメラを止めるな!』(2018)でブレイクし2020年に主演ドラマを控える濱津隆之を起用するなど話題性が抜群。
さらに、地球を守り続ける不老不死の「伝説の魔法使い」役にはドラマ『昼顔』でブレイク後も、どんな役でも引き受けることでお馴染みの超大物俳優、斎藤工が登場。
下ネタを吐き散らしながらも主人公のことを温かく見守る斎藤工の演技は本作最大の見どころとも言えるほどであり、その斎藤工の圧倒的な存在感に負けないほど、ほかの出演陣も印象的な演技を見せる凄まじい熱量をシュールな笑いに向けた全力の作品でした。
まとめ
俳優としてドラマや映画に出演すると同時に、ロングラン上映やアンコール上映など熱狂的なリピーターを生み出した『黒い暴動❤』(2016)や『サラバ静寂』(2018)を製作した映画監督、宇賀那健一。
彼のシュールなギャグセンスと世界観、そしてその奥に潜むメッセージが隠された『魔法少年☆ワイルドバージン』は12月6日より新宿シネマカリテを始め全国で順次ロードショー。
話題の俳優たちによる全力演技や本作の独特のセンスを楽しむために、ぜひ劇場へと足を運んでみてください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile080では、『暗いところで待ち合わせ』や『GOTH』などの著作で知られる小説家の乙一がメガホンを取った和製ホラー映画『シライサン』(2020)をご紹介させていただきます。
12月11日(水)の掲載をお楽しみに!