連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile076
元号が平成から令和へと変わり、時代の移り変わりを肌で感じ始める今日この頃。
いずれ今公開中の映画も「古典映画」として扱われていくのであろうと考えると感慨深くもあります。
そして、そうなった時代に現代における「古典映画」の存在を忘れられてしまわないようにするため、今回は1950年代の名作SF映画を順位形式で5作紹介することで保管していこうと思います。
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CONTENTS
50年代のおすすめSF映画:5位『遊星よりの物体X』
映画『遊星よりの物体X』の作品情報
【原題】
【日本公開】
1952年(アメリカ映画)
【監督】
クリスティアン・ナイビイ
【キャスト】
ケネス・トビー、マーガレット・シェリダン、ロバート・コーンスウェイト、ダグラス・スペンサー、ジェームズ・アーネス
【作品概要】
SF小説界の大物ジョン・W・キャンベルの短編小説「影が行く」を実写化したSFホラー映画。
およそ20年にわたり放送された大人気西部劇ドラマ「ガンスモーク」で主人公を演じ、高い評価を受けたジェームズ・アーネスが「物体」を演じました。
【映画『遊星よりの物体X』のあらすじ】
アラスカに謎の飛行物体が落下。
調査のため訪れた調査隊のメンバーは、飛行物体の中から氷漬けになった人のような「物体」を発見し基地に持ち帰りますが…。
伝説的モンスターパニック映画の原点となった注目作
『ハロウィン』(1978)や『ニューヨーク1997』(1981)などホラーやSF界に多大なる貢献をした監督ジョン・カーペンター製作の映画『遊星からの物体X』(1982)は、リドリー・スコットによる『エイリアン』(1979)と並びモンスターパニック映画の伝説的作品と呼ばれています。
そんな『遊星からの物体X』の原点ともなった本作は、意外なことに「ホラー」としての面白さよりも特殊なシチュエーションで展開する「会話劇」のような面白さがあります。
50年代と言う時代背景から見ても特殊効果自体は稚拙なものであり、恐怖描写へのこだわりは感じるものの現代の作品から見るとやはり劣った印象を受けてしまいます。
しかし、「物体」を通して科学の発展を目論む研究者と、「物体」の危険性を知り抹殺を望む軍人の対立から起きるジョークを交えた会話が魅力的であり、センスの高さが伺えます。
ジョン・カーペンター版が語られることの多い「影が行く」の実写化作品ですが、原点であり違った面白味のある本作も別作品としてオススメです。
50年代のおすすめSF映画:4位『宇宙人東京に現わる』
映画『宇宙人東京に現わる』の作品情報
【公開】
1956年(日本映画)
【監督】
島耕二
【キャスト】
南部彰三、山形勲、見明凡太朗、苅田とよみ、目黒幸子、川崎敬三
【作品概要】
宮崎駿によってアニメ映画化されたことで若年層にも有名な堀辰雄の小説「風立ちぬ」を50年代に実写化した島耕二が手掛けたSF映画。
独特なビジュアルで高い人気を持つヒトデ型の宇宙人「パイラ星人」のデザインを手がけたのは「太陽の塔」で有名な岡本太郎。
【映画『宇宙人東京に現わる』のあらすじ】
原水爆の開発が地球を破壊に導くことを危険視し、開発の中止を訴えるため地球の上空に飛来したヒトデ型の宇宙人「パイラ星人」。
原爆を唯一落とされた国であり、説得相手として最も適任とされた日本に来訪した「パイラ星人」でしたが、その特異な見た目が恐怖を煽ってしまい…。
信じあうことの難しさ、団結することの意味を描く異色SF
ヒトデ型の宇宙人のビジュアルが目を引く、50年代の日本による壮大なSF映画『宇宙人東京に現る』(1956)。
岡本太郎が手掛けた「パイラ星人」は地球よりも遥かに進んだ技術と知能を持ち、関係のない地球のために奮闘する生物として現代でもカルト的な人気を誇っています。
その独特のビジュアルから「ネタ」として捉えられがちな本作ですが、実は戦争が終わって間もない時期だからこそ描けるメッセージが大量に盛り込まれた作品。
「パイラ星人」は地球に訪れる災厄を防ぐために善意から警告に訪れますが、特異な外見から話し合いにすらならず別の方法を模索することになります。
さらに、利権や来る次の戦争のために人類は兵器の開発を止めようとはせず、「パイラ星人」は頭を悩ませます。
地球規模の災厄を前に強さで上位に立たれることを恐れ疑心暗鬼となっていく本作の物語はこの時代だからこその重みを感じさせる内容。
後にこの作品で使用された技術の多くが「ウルトラマン」などの特撮作品に使われたこともあり、まさに邦画SFとして後世に影響を与えた作品です。
50年代のおすすめSF映画:3位『地球の静止する日』
映画『地球の静止する日』の作品情報
【原題】
The Day the Earth Stood Still
【日本公開】
1952年(アメリカ映画)
【監督】
ロバート・ワイズ
【キャスト】
マイケル・レニー、パトリシア・ニール、ヒュー・マーロウ、サム・ジャッフェ
【作品概要】
幅広いジャンルで数多くの映画を製作し、映画界に多大なる貢献を果たしてきたロバート・ワイズが50年代に製作した古典SFの傑作。
SFと言うジャンルにおいてロバート・ワイズは後年に『アンドロメダ…』(1971)や『スタートレック』(1979)を製作したことでも有名。
【映画『地球の静止する日』のあらすじ】
ワシントンに着陸した円盤から降りてきた人型の宇宙人クラトゥ。
地球の兵器の攻撃を苦にしない圧倒的技術のロボットを従えるクラトゥは、平和の使者として地球にやってきたと話しますが…。
「友好的な宇宙人」を描いた名作SF
後に『地球が制止する日』(2008)としてキアヌ・リーヴス主演でリメイクされたことにより、現代でも知名度を上げた1952年公開の映画『地球の制止する日』(1952)。
『ウエストサイド物語』(1961)や『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)と言えば聞き覚えがあるであろう、ロバート・ワイズ監督によって製作された本作は当時の映画としては斬新な設定が話題となりました。
70年代に巨匠スピルバーグが製作した『未知との遭遇』(1978)で人類にとって「友好的な宇宙人」が描かれたことにより、「実在する宇宙人と人類の懸け橋となるために製作された映画」と言う都市伝説が出来たことは有名です。
そのくらい70年代以前のSF映画では「友好的な宇宙人」の存在は希薄であり、地球にやってきた宇宙人は侵略を目的にしていると言った固定概念に捕らわれていたとも言えます。
そんな中、50年代に製作公開された本作は宇宙人クラトゥの人類のための献身が光る作品であり、時代背景から見ると間違いなく異色の作品。
前述した『宇宙人東京に現わる』は間違いなく本作の影響を受けており、またスピルバーグ映画の基礎部分を作り上げたともいえる古典SFの名作です。
50年代のおすすめSF映画:2位『ゴジラ』
映画『ゴジラ』の作品情報
【公開】
1954年(日本映画)
【監督】
本多猪四郎
【キャスト】
宝田明、平田昭彦、河内桃子、志村喬、村上冬樹、堺左千夫
【作品概要】
「ウルトラマン」シリーズでお馴染みの円谷プロダクションの初代社長円谷英二と本多猪四郎が手を組み製作された怪獣映画。
本作の大ヒットを機に『マタンゴ』(1963)や「ゴジラ」シリーズなどの特撮映画の名作の数々が製作されていくことになります。
【映画『ゴジラ』のあらすじ】
小笠原諸島の近海で貨物船と漁船が相次いで消息を絶ちます。
発見された生存者は古くから伝わる謎の巨大生物「ゴジラ」の仕業であると語り、研究者たちは対策のため調査団を派遣。
数日後、東京湾に突如上陸したゴジラは日本を恐怖に包み込み始め…。
巨大怪獣への恐怖と真の「怪物」のメッセージを含んだ特撮映画の金字塔
ハリウッドで大迫力の怪獣映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)が公開され、日本の全世代だけでなく世界的にも大人気の「ゴジラ」。
怪獣の象徴ともいえる伝説のゴジラは日本の天才、本多猪四郎と円谷英二によって生み出されました。
スピルバーグも少年時代に影響を受けたと明言するほどに卓越した特撮映像の偉大さもさることながら、本作における重要な部分は「ゴジラ」への恐怖にあります。
現代では「怪獣映画」と言われると、巨大怪獣同士が戦いあうアクション性を重視した作品に捉えてしまいがちですが、本作では「ゴジラ」による破壊の恐怖を前面に押し出し徹底的にシリアスに描写。
そしてそんな「破壊の象徴」とも言える「ゴジラ」はどうして日本に上陸したのか、と言う部分から真の「怪物」の存在が明らかになるメッセージは深く、本作が「反核映画」とも呼ばれる深い作品であることが分かります。
本作の意思は庵野秀明監督による『シン・ゴジラ』(2016)にしっかりと受け継がれ、「ゴジラ」の恐怖とそれを生み出してしまった存在への批難が現代にも継承されています。
50年代のおすすめSF映画:1位『地球最後の日』
映画『地球最後の日』の作品情報
【原題】
When Worlds Collide
【日本公開】
1952年(アメリカ映画)
【監督】
ルドルフ・マテ
【キャスト】
リチャード・デア、バーバラ・ラッシュ、ピーター・ハンセン、ラリー・キーティング、ジョン・ホイト
【作品概要】
撮影監督としてアカデミー撮影賞に幾度となくノミネートしたルドルフ・マテが製作したSF映画。
H・G・ウェルズの「透明人間」を映画化した作品で脚本を務めたフィリップ・ワイリーが作家のエドウィン・バーマーと共に書き上げた小説が原作となっています。
【映画『地球最後の日』のあらすじ】
地球に迫る2つの隕石が天文台によって観測されます。
隕石の地球への衝突は不可避であり、その衝撃で地球が崩壊することを悟ったヘンドロン博士は富豪のスタントンと手を組み、優秀な若者のみをロケットによって脱出する計画を進めますが…。
自己犠牲と人間の業、現在とは違う価値観を目の当たりにできる傑作SF
『ディープ・インパクト』(1998)の基となり、様々な創作物の源となった古典SFの傑作映画『地球最後の日』(1952)。
迫る終焉から一部の優秀な若者だけを脱出させると言う物語である本作は、旧約聖書における「ノアの箱舟」のエピソードを彷彿させます。
本作の面白さは一部の人間のみを脱出をさせる主人公側が「正義」として描かれている部分であり、現代との価値観の違いをはっきりと感じさせてくれます。
本作から多大な影響を受けた本多猪四郎による映画『妖星ゴラス』(1962)や、2019年のアニメ映画『プロメア』(2019)では『地球最後の日』における主人公たちの選択に対し完全なアンチテーゼとして物語が展開するなど、本作の影響は日本にも確実に伝播。
一方で、開発者なのに乗船できないと知りロケットへの乗船を強行しようとする人間らしい行動の描写の数々は現実感があり、それでも人類の存続を重んじ行動するヘンドロン博士の偉大さに自己犠牲の尊さを見出すことが出来る本作。
確実な滅亡を前に巻き起こる人間ドラマから目を離せない、SFとヒューマンドラマの融合作として完璧ともいえるSF映画の名作です。
まとめ
荒唐無稽な作品の多いSF映画と言うジャンルの中でも1950年代の映画に際立つのは「争いの愚かさ」と言う不快メッセージ。
第二次世界大戦の終結から間もない時期における「人類の滅亡の未来」への漠然とした不安が、「科学の発展」を描くSF映画に強く出ているのではないかと考えられます。
時代背景から映画を読み解くことで、より深い映画の楽しみと教訓を学ぶことが出来るのも映画鑑賞の1つの楽しみ。
今回の【糸魚川悟セレクション】で1作でも興味を持った作品が生まれた方は、DVD化されている作品たちをぜひその目で楽しんでみてください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile077では、クラウドファンディングで製作された中小企業を題材とした奇抜すぎるSF映画『宮田バスター(株)』(2019)をご紹介させていただきます。
いつもとは日付を変更し11月22日(金)の掲載となります、お楽しみに!