Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/10/23
Update

映画『死体語り』あらすじと感想。ラストまで考察させる心理的ホラーの魅力|SF恐怖映画という名の観覧車72

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile072

大好評開催中の「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」。

当コラムでは今週もイベント内で上映される作品のご紹介をさせていただきます。

今回ご紹介する作品は各アルファベットをモチーフとした人の死にざまを描いたオムニバス映画『ABC・オブ・デス2』(2015)に参加した監督デニソン・ラマーリョが製作した『死体語り』(2019)。

デニソン・ラマーリョの初長編作品となるブラジル産ホラーの魅力を深掘りしていこうと思います。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『死体語り』の作品情報


Globo Filmes, Casa de Cinema de Porto Alegre and Canal Brasil

【日本公開】
2019年(ブラジル映画)

【原題】
The Nightshifter

【監督】
デニソン・ラマーリョ

【キャスト】
ダニエル・デ・オリベイラ、ファビウラ・ナシメント、ビアンカ・コンパラート

【作品概要】
犯罪が多発する街を舞台に、死体と対話する能力を持った男が遭遇する恐怖を描いた、ブラジル製の心霊ホラー。監督と脚本を担当したデニソン・ラマーリョは、本作が長編デビュー作となります。

映画『死体語り』のあらすじ


Globo Filmes, Casa de Cinema de Porto Alegre and Canal Brasil

犯罪多発地区の死体安置所で働くスニーニョは死体と会話できるという特殊な能力を持っていました。

ある日、家族と上手くいっていないスニーニョが死者の独白を不正に利用したことで死者の怒りを買ってしまい…。

「死者との会話」がもたらす純粋なホラー

参考画像:『ヒア アフター』(2010)


(C)2010 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

主人公の持つ「死者との会話」能力が巻き起こす騒動を描いた本作。

「死は今生の別れ」と言う自然界の大原則を覆すこの能力を題材とした作品は多岐に及びますが、死者の言葉を聞きながら殺人犯を追い詰める日本ドラマ「BORDER」や、死者と繋がりを持てる能力によって人が繋がっていく『ヒア アフター』(2010)など、ヒューマンドラマや推理ドラマが多くを占めています。

しかし、本作は「死と別れ」を描かれがちなプロットでありながら、描いているのは純粋なホラー。

死者の言葉が恐怖へと繋がる本作には、鑑賞者の心を揺さぶる様々な工夫が脚本に仕込まれていました。

先が読めない恐怖、二転三転する心理ホラー


Globo Filmes, Casa de Cinema de Porto Alegre and Canal Brasil

「死者との会話」の能力を持つスニーニョですが、死体安置所に運ばれてきた死体と最期の会話を交わすだけであり、積極的に関わろうとはしません。

それどころか自身の子供や妻とも上手くいっておらず、追い打ちのように死者から妻が浮気をしていることを聞かされてしまいます。

怒りに燃えるスニーニョは死者の独白を悪用することで、妻と浮気相手への復讐を行い始めます。

死者、妻、浮気相手、子供、ギャングと様々な種類の人間が絡み合う序盤の愛憎劇としての「恐怖」と、死者の独白を悪用したことによる呪いを描く「恐怖」。

鑑賞者はどう物語が完結するのかが一切分からない心理的な「恐怖」に襲われることになり、心がかき乱されること間違いなしの見事な脚本でした。

考察の余地を残す物語


Globo Filmes, Casa de Cinema de Porto Alegre and Canal Brasil

物語が中盤に差し掛かると死者との暗黙のルールを破り「罪」を背負うことになったスニーニョの精神は徐々に乱れ始めます。

悪夢と幻覚にうなされ、周囲の人間から見ると奇々怪々な行動を取り始めるスニーニョですが、その行動が「幻覚」によるものなのか「呪い」によるものなのか判然としないシーンがいくつもあります。

終幕の仕方も多くの疑問と考察を残すものであり、果たしてスニーニョの見ていたものがどこまで「現実」なのかを考察してみたくなります。

また、本作の中でも死体安置所に大量の死体が持ち運ばれるシーンは印象深く、「呪い」と「自然災害」の壁を隔てるものはほとんど存在せず、仮にどちらであったとしても同様に無慈悲なものであるということに「恐怖」を覚えました。

「因果応報」と不条理な存在による「無慈悲」な「恐怖」が襲い来る本作は、スニーニョの心情の変化とともに様々な見方と考察が可能な作品です。

能力の代償

参考動画:『ブライトバーン/恐怖の拡散者』(2019)予告編

天から特殊な能力を与えられた1人の男。

しかし、漫画や映画のようにヒーローにはなれず、家族から見放され無為な日々を過ごす男がその能力を私欲に使い始めたとき、その反動が街を巻き込んでいく。

仮に自分自身がその能力を手にした時、私利私欲に使わないと自信を持って言えるでしょうか。

日本では11月15日に公開が予定されている映画『ブライトバーン/恐怖の拡散者』(2019)では、特殊能力を手に入れた少年が「悪」の方面に染まっていく「恐怖」が描かれており、特殊能力の使い方によって見方はヒーロー映画にもホラー映画にもなると言う新たな映画の方向性が本国で評価を受けました。

しかし、本作の主人公であるスニーニョは『ブライトバーン/恐怖の拡散者』に比べると一般の人間らしい性格を持っており、バレない絶対的自信が道を踏み外すきっかけとなってしまいます。

「壁に耳あり障子に目あり」と言うことわざが似合う物語であり、特殊能力を持った男と言う設定でありながらも誰しもが迎えてしまいかねない悪事を描いているため、強く共感できる作品でした。

まとめ


Globo Filmes, Casa de Cinema de Porto Alegre and Canal Brasil

二転三転するサスペンス的要素と、「因果応報」を描いた不条理なホラーを融合させたブラジル産ホラー映画『死体語り』。

無為な人生を送る男が迎えることになる激動と恐怖の体験の結末を劇場でご覧になってはいかがでしょうか。

東京・名古屋・大阪の三都市で開催される「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」にぜひとも足を運んでみてください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…


(C)2019 The Golem Partnership and Epic Pictures Group, Inc.

いかがでしたか。

次回のprofile073は遂に「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」特集の最終回、イスラエル製のホラー映画『ザ・ゴーレム』(2019)をご紹介させていただきます。

10月30日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら


関連記事

連載コラム

映画『アーミー・オブ・ザ・デッド』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の解説。ゾンビによる仲間たちの死と強盗計画の裏にあるタナカの思惑|Netflix映画おすすめ40

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第40回 2021年5月21日(金)にNetflixで配信された、アメリカのゾンビアクション・アドベンチャー映画、『アーミー・オブ・ザ・デッ …

連載コラム

シンウルトラマン長澤まさみはフジ隊員?予告特報と原作ネタバレで活躍を考察予想!【光の国からシンは来る?5】

連載コラム『光の国からシンは来る?』第5回 2016年に公開され大ヒットを記録した『シン・ゴジラ』(2016)を手がけた庵野秀明・樋口真嗣が再びタッグを組んで制作した新たな「シン」映画。 それが、19 …

連載コラム

映画『別れるということ』あらすじ感想と評価解説。渡邉高章監督が描く別れの喪失感と出会いからの始まり|インディーズ映画発見伝15

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第15回 日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝 …

連載コラム

ゲーム『デス・ストランディング』や動画配信とゲームとの境界線について考察と解説。CG技術の進歩がもたらした可能性とは|SF恐怖映画という名の観覧車87

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile087 「シナリオ重視」のゲームは古くから存在し、選択肢を選び物語が展開する「ノベルゲーム」や探索をメインとした「アドベンチャーゲーム」はその代 …

連載コラム

【ネタバレ感想】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ南北英雄|チウ・マンチェク演じる武術家ウォン・フェイホン(黄飛鴻)が復活!|未体験ゾーンの映画たち2019見破録31

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第31回 今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。様々な58本の映画が公開中ですが、今回はカ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学