連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile072
大好評開催中の「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」。
当コラムでは今週もイベント内で上映される作品のご紹介をさせていただきます。
今回ご紹介する作品は各アルファベットをモチーフとした人の死にざまを描いたオムニバス映画『ABC・オブ・デス2』(2015)に参加した監督デニソン・ラマーリョが製作した『死体語り』(2019)。
デニソン・ラマーリョの初長編作品となるブラジル産ホラーの魅力を深掘りしていこうと思います。
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CONTENTS
映画『死体語り』の作品情報
【日本公開】
2019年(ブラジル映画)
【原題】
The Nightshifter
【監督】
デニソン・ラマーリョ
【キャスト】
ダニエル・デ・オリベイラ、ファビウラ・ナシメント、ビアンカ・コンパラート
【作品概要】
犯罪が多発する街を舞台に、死体と対話する能力を持った男が遭遇する恐怖を描いた、ブラジル製の心霊ホラー。監督と脚本を担当したデニソン・ラマーリョは、本作が長編デビュー作となります。
映画『死体語り』のあらすじ
犯罪多発地区の死体安置所で働くスニーニョは死体と会話できるという特殊な能力を持っていました。
ある日、家族と上手くいっていないスニーニョが死者の独白を不正に利用したことで死者の怒りを買ってしまい…。
「死者との会話」がもたらす純粋なホラー
参考画像:『ヒア アフター』(2010)
主人公の持つ「死者との会話」能力が巻き起こす騒動を描いた本作。
「死は今生の別れ」と言う自然界の大原則を覆すこの能力を題材とした作品は多岐に及びますが、死者の言葉を聞きながら殺人犯を追い詰める日本ドラマ「BORDER」や、死者と繋がりを持てる能力によって人が繋がっていく『ヒア アフター』(2010)など、ヒューマンドラマや推理ドラマが多くを占めています。
しかし、本作は「死と別れ」を描かれがちなプロットでありながら、描いているのは純粋なホラー。
死者の言葉が恐怖へと繋がる本作には、鑑賞者の心を揺さぶる様々な工夫が脚本に仕込まれていました。
先が読めない恐怖、二転三転する心理ホラー
「死者との会話」の能力を持つスニーニョですが、死体安置所に運ばれてきた死体と最期の会話を交わすだけであり、積極的に関わろうとはしません。
それどころか自身の子供や妻とも上手くいっておらず、追い打ちのように死者から妻が浮気をしていることを聞かされてしまいます。
怒りに燃えるスニーニョは死者の独白を悪用することで、妻と浮気相手への復讐を行い始めます。
死者、妻、浮気相手、子供、ギャングと様々な種類の人間が絡み合う序盤の愛憎劇としての「恐怖」と、死者の独白を悪用したことによる呪いを描く「恐怖」。
鑑賞者はどう物語が完結するのかが一切分からない心理的な「恐怖」に襲われることになり、心がかき乱されること間違いなしの見事な脚本でした。
考察の余地を残す物語
物語が中盤に差し掛かると死者との暗黙のルールを破り「罪」を背負うことになったスニーニョの精神は徐々に乱れ始めます。
悪夢と幻覚にうなされ、周囲の人間から見ると奇々怪々な行動を取り始めるスニーニョですが、その行動が「幻覚」によるものなのか「呪い」によるものなのか判然としないシーンがいくつもあります。
終幕の仕方も多くの疑問と考察を残すものであり、果たしてスニーニョの見ていたものがどこまで「現実」なのかを考察してみたくなります。
また、本作の中でも死体安置所に大量の死体が持ち運ばれるシーンは印象深く、「呪い」と「自然災害」の壁を隔てるものはほとんど存在せず、仮にどちらであったとしても同様に無慈悲なものであるということに「恐怖」を覚えました。
「因果応報」と不条理な存在による「無慈悲」な「恐怖」が襲い来る本作は、スニーニョの心情の変化とともに様々な見方と考察が可能な作品です。
能力の代償
参考動画:『ブライトバーン/恐怖の拡散者』(2019)予告編
天から特殊な能力を与えられた1人の男。
しかし、漫画や映画のようにヒーローにはなれず、家族から見放され無為な日々を過ごす男がその能力を私欲に使い始めたとき、その反動が街を巻き込んでいく。
仮に自分自身がその能力を手にした時、私利私欲に使わないと自信を持って言えるでしょうか。
日本では11月15日に公開が予定されている映画『ブライトバーン/恐怖の拡散者』(2019)では、特殊能力を手に入れた少年が「悪」の方面に染まっていく「恐怖」が描かれており、特殊能力の使い方によって見方はヒーロー映画にもホラー映画にもなると言う新たな映画の方向性が本国で評価を受けました。
しかし、本作の主人公であるスニーニョは『ブライトバーン/恐怖の拡散者』に比べると一般の人間らしい性格を持っており、バレない絶対的自信が道を踏み外すきっかけとなってしまいます。
「壁に耳あり障子に目あり」と言うことわざが似合う物語であり、特殊能力を持った男と言う設定でありながらも誰しもが迎えてしまいかねない悪事を描いているため、強く共感できる作品でした。
まとめ
二転三転するサスペンス的要素と、「因果応報」を描いた不条理なホラーを融合させたブラジル産ホラー映画『死体語り』。
無為な人生を送る男が迎えることになる激動と恐怖の体験の結末を劇場でご覧になってはいかがでしょうか。
東京・名古屋・大阪の三都市で開催される「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」にぜひとも足を運んでみてください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile073は遂に「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019」特集の最終回、イスラエル製のホラー映画『ザ・ゴーレム』(2019)をご紹介させていただきます。
10月30日(水)の掲載をお楽しみに!
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