連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile140
激動の世の中となり、政府や各企業の動向に注目がより集まるようになりました。
全体を俯瞰した方針の決定を求められる上層部と、目の前の事態に対応しなければならない現場の温度差。
今回は緊急事態下における温度差を描いた映画『機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『機動警察パトレイバー2 the Movie』の作品情報
【公開】
1993年8月7日(日本映画)
2021年2月11日(4DX版)
【監督】
押井守
【キャスト】
大林隆介、榊原良子、竹中直人、根津甚八、古川登志夫、冨永みーな、池水通洋、二又一成、郷里大輔、西村知道、千葉繁、阪脩
【作品概要】
ヘッドギアによって展開されたアニメ、漫画、小説、実写映画などのメディアミックスシリーズ「パトレイバー」の劇場版第2作。
監督を務めたのは前作に引き続き、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995)などの作品で世界中で高い評価を受けるアニメ映画監督の押井守。
映画『機動警察パトレイバー2 the Movie』のあらすじとネタバレ
1999年東南アジア某国、任務にあたっていたPKOの柘植率いる小隊は現地ゲリラに襲われます。
柘植は本部に反撃の許可を求めますが、本部は頑として聞き入れず柘植を除く小隊は崩壊してしまいました。
2002年、特車2課第2小隊は隊長の後藤と山崎を残し出向となり、新しい日々を過ごしていました。
都市部に集中していたレイバーも今や各地に分散され、東京のレイバー犯罪を取り締まる特車2課は、解体の憂き目にもあっています。
特車2課第1小隊で隊長を務めながらも課長代理に出世した南雲は、3年前に失踪した柘植の教え子という過去がありました。
ある日、本部での会合を終え特車2課へと戻る最中に南雲は渋滞に巻き込まれます。
ベイブリッジに爆弾が仕掛けたと言う通報から一帯は通行止めとなり、現地には爆弾処理班が向かっていました。
その直後、ベイブリッジは大きく爆発。
翌日、ベイブリッジの爆発は世界的なニュースになりますが、テレビ局に寄せられた映像から爆破は爆弾によるものではなく戦闘機F-16Jによるミサイル攻撃であることがわかります。
しかし、日本で唯一F-16Jを所有する航空自衛隊は事件への関与を否定します。
後藤は昔馴染みの刑事、松井に現地で撮影されたと言うテープの回収を依頼しますが、そのビデオテープは同じく刑事を名乗る何者かに既に回収されていました。
南雲が後藤が動き出したことに気がついたタイミングで、特車2課に軍の陸幕調査部の荒川と言う男が現れます。
荒川は後藤と南雲にテレビで流されているものとは別のビデオを見せ、事件に関わっていた機体は実はF-16Jではなくアメリカ軍所属の戦闘機であったことを話します。
さらに荒川は、この事件が国防族と呼ばれる日本の国防意識の低さを憂う組織が関わっていることまで突き止めていましたが、彼等には、実際にミサイルを発射するまでの意思はなく、そこに第三者の意思が入っていることを仄めかします。
荒川は後藤と南雲に国防族であり最有力容疑者となっている柘植の捜索への協力を依頼しようとしますが、そこに三沢基地からF-16Jが3機違法発進したと緊急連絡が入ります。
3機は東京に向かい警視庁警備部はF-16Jの即時撃墜を命じますが、違法発信したと言う情報が誤報でありその場は収束。
数日後、荒川は後藤に本来はオフラインであるべきの三沢基地のシステムが、アメリカ軍との情報共有のためネットへとリンクしたことでハッキング可能な穴が出来てしまい、今回のスクランブル騒ぎに繋がったと話します。
政府はベイブリッジの爆破の事実もスクランブル騒ぎも、別組織の介在があったことを世間に隠し、調査を急ぐことを優先していましたが、状況が刻一刻と進展する現状に追いついていませんでした。
荒川はレイバー創設期に柘植が教鞭をとったレイバーの知識を提供する通称「柘植学校」に、南雲が本庁の代表として参加していたことを後藤に話します。
しかし、南雲が妻子のいる柘植と恋愛関係に発展したことがスキャンダルとなり、特車2課と言う僻地に左遷されたことも後藤は既に知っていました。
荒川と別れる前に後藤は柘植の目的が戦争を始めることにあるのかと問うと、荒川は「もう戦争は始まっている」と言いました。
三沢基地に警察から飛行禁止命令が発令され、その事態に抗議する三沢基地は外部との通信を断絶し実質的な籠城状態に突入。
練馬やその他の駐屯地も三沢基地の方針を尊重し、警察と自衛隊の間に緊張が走ります。
後藤はたった1発のミサイルで、警察と自衛隊の敵対関係を作り上げた柘植の計画に驚嘆。
政府は状況を悪化させた警察組織を見放し、治安維持のため首都圏に陸上自衛隊を展開させ実質的な戒厳状態となります。
東京は戦車が街を走行し、武装した軍人が道に並ぶ異様な光景の日々が始まります。
刑事の松井は、荒川が後藤に渡したリストの中にあった柘植のシンパのリストからある飛行船を運営する会社に目をつけていました。
倒産寸前の会社が突如大金を手に入れ、アメリカ軍から何かを仕入れていることまで行き着いた松井は事務所に侵入しますが、逆に犯人たちに捕らえられてしまいます。
映画『機動警察パトレイバー2 the Movie』の感想と評価
前作『機動警察パトレイバー the Movie』(1989)は「SF」に「ミステリ」を巧みに加えた脚本によって、多くの伏線が終盤に繋がっていく爽快さが面白さとなっていました。
しかし、今回は作品のテイストが前作とは全く異なり、緊急事態下における上層部の「混乱」を中心に「正義」とは何かを問う複雑な物語が構成されています。
それぞれの正義がぶつかり合う「戦争」
本作の登場人物はそれぞれが強い「正義」を心に持っています。
ベイブリッジを爆破した上で東京を戦争状態に陥らす柘植は、かつて上層部に見捨てられ部下を全滅させた過去を持ち、日本に住む人間全員を覚醒させるために本作の事件を起こします。
緊急事態下に陥った際に、機能しない政府が運営する日本を「偽りの平和」とし、「真の平和」を創るために行動する柘植ですが、一方で本作の実質的な主人公となる特車2課第2小隊の後藤は、「偽りの平和」の中で生きる人々を守るために「正義」の行動を取ります。
改善を求め犯罪を起こす「正義」と現状を守るために奮う「正義」。
「真の正義とは何か」を問う物語は今の時代に必見の物語と言えます。
シリーズを通して描かれる現場と上層部の「温度差」
特車2課第2小隊を率いる後藤は「カミソリ後藤」と呼ばれるキレ者でしたが、キレすぎるゆえに「上層部」から僻地へと左遷され「現場」の人間となります。
「現場」と「上層部」の板挟みとなる立場となりながらも、飄々と立ちまわる後藤が魅力的な「パトレイバー」ですが、彼こそが両者の温度差のすべてを背負うシリーズの柱と言える存在。
全体を俯瞰した決定とは名ばかりに、自身たちの保身ばかりを考える「上層部」の決定に「現場」が振り回され、事態が取り返しのつかない状態に陥る本作の終盤で、飄々としていた後藤が吠えるシーンはシリーズ随一の見どころです。
まとめ
2021年2月11日より4DXでの再上映が決定され、再度注目を集めること間違いなしの映画『機動警察パトレイバー2 the Movie』。
後手後手に回る政府の行動と、各自の「正義」を掲げ動く人間たちによる「戦争」を描いた本作。
コロナ禍の現代に繋がる部分すら感じる情勢を描いた本作を大迫力の4DXでぜひ鑑賞してみてください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile141では、映画『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』(2010)をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
次回の掲載をお楽しみに!
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