Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/09/12
Update

『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』感想と解説。人間の内面にある後悔とは|SF恐怖映画という名の観覧車14

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile014

以前のコラムで紹介させていただいた『サマータイムマシン・ブルース』(2005)のように、評判の良い舞台を原作に使い、演出効果に自由のある実写映画として制作するケースは多くあります。

今回のコラムで注目したいのは、イギリスで制作された同名舞台を原作としたホラー映画『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』(2018)。

「舞台」+「ホラー」という少し珍しい組み合わせの今作は、「舞台」ならではの脚本の工夫を組み合わせた意欲的作品となっていました。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』のあらすじ


© GHOST STORY LIMITED 2017 All Rights Reserved.

宗教家だった父親への反発心から、霊能力者として人気を集めている人間のトリックを暴き出す番組を制作するグッドマン教授(アンディ・ナイマン)は、超常現象を科学的に解明することで有名だった研究家のキャメロンに呼び出される。

失踪したとされていたキャメロンは人が変わったかのようにやつれ、ある種同業であるグッドマンに自身が解明することの出来なかった3つのケースについての調査を押し付ける……。

恐怖体験の中に浮かび上がる思念の形


© GHOST STORY LIMITED 2017 All Rights Reserved.

ホラー映画の中でもスラッシャーやモンスターパニックと違い、心霊現象にスポットを当てた作品では「後悔」や「怨念」と言った人の内面に迫る心理描写が重要視されます。

概念は様々ですが、個人的には、「幽霊」とは人の思念が「死」などの強烈なエネルギーが発せられる際に定着するものだと考えています。

そのため、現世に強い「思い残し」を持つ人間こそ「幽霊」となりやすく、心霊現象を描いた作品ではその「幽霊」となってしまった人間の生前の「後悔」や「恨み」を紐解いていく事になるのが定番の流れと言えます。

今を生きる人間の「後悔」の物語


© GHOST STORY LIMITED 2017 All Rights Reserved.

しかし、今作では「幽霊」には特に内面的スポットが当たらず、逆に心霊現象を経験した「生きた人間」の内面が深く描かれています。

夜間警備員のマシューズのケースでは、数十年前に妻を亡くし、ただ1人の家族である娘が「閉じ込め症候群」を患ってしまい、意識があるかも定かではなく、そんな娘に会いに病院に行く事すらしなくなったマシューズが夜間警備の仕事中に恐るべき現象に巻き込まれる様子が描かれています。

かつての経験で精神を痛めた男の妄言と断定するグッドマンですが、壮絶な経験のあとマシューズにはある変化が訪れ、心霊体験の真偽はともかく、1人の人間の人生を変えたことを知ります。

このように、3つのケースでそれぞれの心霊体験が1人の人間の「道」を大きく変えたことを聞くグッドマン。

その調査の「道」の果てに、グッドマンの人生最大の「後悔」が浮き彫りになる終盤は、この作品が単なる「ホラー」の一言では片づけられない衝撃のラストを迎えることになり、「人間の内面」を深く描いた作品だと驚愕するほどでした。

舞台ならではの巧みな脚本


© GHOST STORY LIMITED 2017 All Rights Reserved.

近年では舞台でも様々な特殊効果が用いられ、表現の幅は大きく拡大してきましたが、自由にアングルを動かせる撮影と違い、やはり視覚的な表現に限界があるのも事実です。

ですが、逆にそのデメリットを活かした巧みな脚本や、小細工抜きの俳優の演技に驚嘆できる作品が多く、映画やドラマとは違った楽しみ方が味わえることが舞台の大きな魅力であると言えます。

今作は、原作が同名の舞台劇であり、主演・監督・脚本のアンディ・ナイマンが原作の舞台で脚本を務めていただけあり、「舞台」としての面白さが映画でも表現されています。

散りばめられた不可解なキーワードの数々


© GHOST STORY LIMITED 2017 All Rights Reserved.

例えばすべてのケースに共通する「3時45分」と言う心霊現象の発生時間など、挙げるとキリの無いほどの量のワードが作品中盤までに登場するのですが、ラストに全てが1つに繋がります。

後味こそ良いとは言えないラストなのですが、あまりにも巧みな伏線の回収に不思議と気持ちは後ろ暗くなく、どこかすっきりとした感覚さえも覚えます。

あくまでも「ホラー」として「人間の内面」に焦点を当てた巧みな「脚本」の今作を、ぜひ皆さんもご覧になってください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile015では、格差社会の闇と特異な世界観とビジュアルが人気を集める『パージ』シリーズを「SF」と言う概念から紐解いていこうと思います。

9月19日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

『すべてうまくいきますように』あらすじ感想と評価考察。映画監督フランソワ・オゾンが‟家族の安楽死”問題を投げかける|映画という星空を知るひとよ133

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第133回 サスペンスフルなストーリーテリングを得意とするフランソワ・オゾン監督が、安楽死を望む父親とその娘たちの葛藤を描いた映画『すべてうまくいきますように』 …

連載コラム

Netflix映画『君が最後の初恋』ネタバレあらすじと結末の感想考察。ロイチウ扮する心優しきイケメンチンピラが奔走する恋模様|Netflix映画おすすめ55

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第55回 『君が最後の初恋』は、2021年3月台湾初公開作品。監督はそれまでミュージック・ビデオの映像監督経験を持つイン・チェンハオで、本作 …

連載コラム

映画『破天荒ボクサー』ネタバレ感想と解説。山口賢一がリング外でも闘い続ける姿を捉えた物語|だからドキュメンタリー映画は面白い22

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第22回 闘う相手は、反対コーナーのボクサーだけではなかった――。 今回取り上げるのは、2018年製作の武田倫和監督作『破天荒ボクサー』。 日本ボクシン …

連載コラム

『メン・イン・ブラック』ネタバレあらすじと感想。ラスト結末も【映画と都市伝説の関係を深掘り解説】|SF恐怖映画という名の観覧車131

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile131 2021年に公開される清水崇監督の映画『樹海村』。新ビジュアルとなるポスターデザインが発表され話題となりました。 シリーズの前作である2 …

連載コラム

『帰れない山』あらすじ感想と評価解説。映画化で北イタリア・モンテローザを舞台に描く大人の青春劇|映画という星空を知るひとよ145

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第145回 第75回カンヌ国際映画祭にて審査員賞を受賞した感動作『Le otto montagne』が、邦題『帰れない山』として日本で公開されます。 イタリア文 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学