連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile135
「先を読ませない展開」はサスペンス映画のキモであると言えます。
近年では映画の宣伝文句として「どんでん返し」の存在をあらかじめ周知させることも珍しくありません。
しかし、「どんでん返し」は伏線を丁寧に積み上げてから物語をひっくり返してこそのものであり、「伏線の丁寧さ」と「先を読ませない展開」をしっかりと満たした作品は多いとは言えません。
今回はそんな「どんでん返し」を見事に成功させたサスペンス映画でありながら、人間の恐ろしさを描いた「恐怖映画」でもある映画『ゴーン・ガール』(2014)をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『ゴーン・ガール』の作品情報
【原題】
GONE GIRL
【配信】
2014年(アメリカ映画)
【監督】
デヴィッド・フィンチャー
【キャスト】
ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス、タイラー・ペリー、キャリー・クーン、キム・ディケンズ
【作品概要】
『セブン』(1996)や『ファイト・クラブ』(1999)で知られるデヴィッド・フィンチャー監督が製作したサスペンス映画。
本作は『アルゴ』(2012)など監督業としても活躍するベン・アフレックと、本作への出演が高い評価を受けたロザムンド・パイクが主演を務めました。
映画『ゴーン・ガール』のあらすじとネタバレ
7月5日、5年目の結婚記念日を迎えるエイミーとニックですが、2人の仲は今や夫婦として破綻したものとなっています。
朝、ニックがバーから家に帰るとリビングが荒らされエイミーの姿が消えていました。
通報を受けやってきた刑事のボニーは、家の中のの至るところにある傷をチェックしていきます。
ボニーは部屋の状況から、エイミーの失踪を深刻な事態と考え事件として捜査を始めます。
ボニーはニックを聴取をすると、彼はエイミーの昼間の行動や友人の有無を知らないだけに留まらず血液型すら知りませんでした。
警察の捜査の間、ニックはバーを運営する妹のマーゴの家に泊まることにします。
一方、ボニーはニックの家のキッチンの血痕と、ニックとエイミーが結婚式に行っている宝探しゲームの1つ目のヒントと書かれた封筒を見つけます。
失踪から2日目、ニックは警察からの指示でエイミーの情報を呼びかける記者会見を行います。
エイミーを題材にした絵本で大成功を収めるエイミーの両親も記者会見に参加し、ニュースは瞬く間にアメリカ中で話題になります。
警察は20年前にエイミーと付き合い、接近禁止令を受けているデジーに注目しますが、あまりに古い情報であるため重要筋から外します。
ボニーはヒント1の封筒をニックに見せ、エイミーの残した謎を解いていくことで失踪前の行動がわかるとニックに謎を解かせることにします。
エイミーの残していたヒントはニックのオフィスや無人のニックの父の家を指し示していました。
捜査を続けるボニーはホームレス街にいる麻薬の売人にエイミーの写真を見せ、彼女が銃を買いに来たと言う情報を手に入れます。
失踪から3日目、教え子のアンディとの不倫がマーゴにバレたニックはニュースを見せられ、妻が失踪したにも関わらずニックに動揺が見られないことで世論が自身に批判的であることを知ります。
キッチンで行ったルミノール検査の結果、エイミーの多量の血痕の跡が発見され、ボニーは殺人の線を視野に含め始めます。
夜、ボニーからキッチンで発見された致死量とも思える血痕と偽装された現場について詰問されたニック。
さらに身に覚えのない多額の負債の存在とエイミーの生命保険が引き上げを挙げられ、ニックはボニーに疑われていることを確信。
弁護士を通さなければ何も話さないとニックは口を閉ざし、ボニーは立件する為にはエイミーの死体が不可欠であると考え捜査を続けます。
その夜、ボニーはニックの父の家の焼却炉からエイミーの日記を見つけます。
その日記には、ニックとの結婚生活が破綻していることや、ニックが邪魔になった自分を殺すかもしれないと言う恐怖が書き綴られていました。
一方、ニックはエイミーの残したヒントからマーゴの家の使われていない倉庫に行きつき、そこでエイミーの計画を知ります。
映画『ゴーン・ガール』の感想と評価
「夫婦生活とは何か」と言う答えの出ない哲学的な問いと「サイコサスペンス」を組み合わせた異色の映画『ゴーン・ガール』。
本作は再鑑賞必須の映画であり、1度目と2度目で全く違った映画性を楽しめる作品でもあります。
初見時に注目して欲しい「ジャンルの変化」と再鑑賞時に注目して欲しい「社会への皮肉」。
それぞれの要素の特徴をピックアップしてご紹介させていただきます。
映画途中でガラリと変わるジャンル
本作の特徴はなんと言っても物語の「どんでん返し」にあります。
物語の序盤は「エイミーの失踪」をミステリー用語で言う「フーダニット(誰がやったのか)」に絞り「ミステリー」調に展開されていきます。
しかし、物語の中盤で「エイミーの失踪」の真実の様相が一変し、異常性を持ち合わせた犯人の内面と水面下での心理戦を描く「サイコサスペンス」映画へと変貌。
事件の様相をひっくり返すだけでなく映画のジャンルすらもひっくり返し、「前半と後半で観ている映画が違うのではないか」とすら思える程の衝撃を味あわせてくれます。
移り変わりやすい世論への皮肉
物語の序盤から中盤で、エイミーの夫ニックが「エイミーの失踪」の犯人として警察だけでなく世間にも疑われ始めます。
本作の犯人は「世論の操作」を得意とし、「世論の支持を受けること」を巡り水面下での心理戦が繰り広げられます。
物事の一面しか見えていないにも関わらず、マスコミによる扇動や関係者の証言一つで簡単に変わる「無関係の人」の心情。
演技や捏造された証拠の1つで変わるその心を本作は皮肉ると共に、登場人物の印象をあっさりと変えることで鑑賞している人自身も「無関係の人」のひとりであること痛感させられる、デヴィッド・フィンチャー監督による最大級の皮肉も感じさせてくれます。
まとめ
本作への出演で高い評価を受けた主演のベン・アフレックとロザムンド・パイク。
「結婚生活への絶望」を象徴すると言える本作の生み出す、登場人物への疑心暗鬼の気持ちは2人の俳優の巧みな演技があってこそ。
ドイツの哲学者ニーチェは結婚生活を「長い会話」と定義し、夫婦間の会話の大切さを説きました。
相手が何を考えているかを推し量ることより、会話をしっかりとしていくべきだと日々の気持ちを改めたくなるようなサスペンス映画『ゴーン・ガール』。
「サイコサスペンス映画」としても「恐怖映画」としてもオススメの作品です。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile136では、2021年公開映画の中から「SF」と「ホラー」映画の期待大の作品をピックアップし、注目点をご紹介させていただきます。
次回の掲載をお楽しみに!