連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile013
『カメラを止めるな!』(2018)の記録的な大ヒットにより、日本でも「低予算映画」への注目度は日に日に高くなっています。
しかし、日本には今までにも、世界的な映画人から根強い人気を持つ低予算映画を製作した映画人たちは多く存在します。
今回はその中でも「北村龍平」監督に注目して、彼の最新作シチュエーションスリラー映画『ダウンレンジ』(2018)のご紹介をしていこうと思います。
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CONTENTS
世界で活躍する北村龍平監督
2001年、北村龍平監督はインディーズ映画として『VERSUS -ヴァーサス-』(2001)を制作します。
この作品における、低予算と言う範疇を圧倒的に越えた斬新なアクション演出は、日本のみならず世界で話題となり、ドイツ、イタリア、スペイン、フランスなどの各国で賞を受賞するほどの高い評価を受けました。
さらに『VERSUS -ヴァーサス-』で主演を勤めた坂口拓は、『TOKYO TRIBE』(2014)や『HiGH&LOW THE RED RAIN』(2016)でアクション監督を勤め、邦画におけるアクション演出を飛躍的に向上させ、日本の映画界に大きな影響を与えます。
このように、日本のアクション映画に革命を起こしたとさえ言える北村龍平監督が、ハリウッドに拠点を移し3作目となる映画『ダウンレンジ』も、”異端とも言える北村龍平節”の光る作品となっていました。
映画『ダウンレンジ』のあらすじ
素性も目的も知らない6人の男女が乗る車が田舎道でパンクする。
トラブルが功を成し徐々に仲を縮める6人だったが、突如何者かに「狙撃」され、6人の旅は悲劇へと変わっていく……。
「スラッシャー」と「シチュエーションスリラー」の見事な融合
以前のコラムでもご紹介させていただいた通り、『ハロウィン』(1978)や『13日の金曜日』(1980)のように殺人鬼が人を次々と殺害していく映画のジャンルを「スラッシャー」と呼びます。
今作は、正体の分からないスナイパーによってひとりまたひとりと撃ち殺されていくと言う「スラッシャー」なのですが、北村龍平監督による様々な工夫により、普通の「スラッシャー」とは一味違った作品となっています
姿の見えない「殺人鬼」
一般的な「スラッシャー」映画では、ブギーマンやジェイソンと言った「殺人鬼」の「存在感」が強烈な印象を与えることで、ジャンルが成立しているとすら言えます。
この要素は「殺人鬼」が普通の人間であっても同じで、目の見えない老人に強盗仲間が殺されていく『ドント・ブリーズ』(2016)や、今作と同様にスナイパーに襲われる『ノー・エスケープ 自由への国境』(2017)でも、「殺人鬼」役となる人物の圧倒的な「存在感」が「狙われる者の恐怖」を演出していたと言えます。
しかし、今作では「殺人鬼」役となるスナイパーは物語の中でほとんど登場せず、セリフどころか、なぜそんなことをするのかと言う「ディテール」すら明らかになりません。
このことにより、「生存者」側に視点を注視させ、より一層の没入感と、同じ人間なのにも関わらず姿も意図も「見えない殺人鬼」と言う恐怖を際立たせています。
「追わない殺人鬼」だからこその、シチュエーションスリラーとの相性
田舎道と言う遮蔽物の無い空間で、身を隠すものは乗っていた車と、切り株だけ。
「生存者」はスナイパーからの射線を意識しながら、所持品や身の回りの物を使い切り抜ける方法を探します。
車から離れた位置にある電波の届く場所にスマホを置くために「自撮り棒」を使ったり、スマホの「ある機能」を駆使しようとしたり、と「殺人鬼」が「追う」性質ではなく「待つ」性質だからこそ、「生存者」たちのあの手この手の脱出方法の模索が楽しめる今作。
時間の変化や、「道」ならではのハプニングを含め、「スラッシャー」には珍しい、場面が転換しない面白さがこの作品にはあります。
まとめ
様々な視点から、定石を打ち破ろうとする北村龍平監督らしい「技」が光るスラッシャーでありシチュエーションスリラーでもある『ダウンレンジ』は、9月15日から新宿武蔵野館で2週間限定で上映。
「見えない殺人鬼」に立ち向かう恐怖体験をぜひ劇場で味わってみてください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile014では、同名の舞台をもとに制作され、練られた脚本が本国で人気を集めたホラー映画『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』(2018年)をご紹介していこうと思います。
9月12日(水)の掲載をお楽しみに!