連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile112
3週に亘り題材とさせていただいている、イギリスのSFオムニバスドラマ「ブラックミラー」シリーズも今回のコラムで遂にシーズン2最終話となります。
今回ご紹介させていただくエピソードは『ブラックミラー シーズン2 時の”クマ”、ウォルドー』(2013)。
現実の大統領選とも比較される秀逸な政治風刺エピソードをネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら
CONTENTS
ドラマ『ブラックミラー シーズン2 時の”クマ”、ウォルドー』の作品情報
【日本公開】
2013年(イギリスドラマ)
【原題】
The Waldo Moment
【監督】
ブリン・ヒギンズ
【キャスト】
ダニエル・リグビー、クロエ・ピリー、ジェイソン・フレミング、トビアス・メンジーズ、クリスティーナ・チョン、ジェームズ・ランス
【作品概要】
「ブラックミラー」シリーズのメイン脚本家の1人であるチャーリー・ブロッカーによって執筆された脚本を、ブリン・ヒギンズが映像化したシーズン2の最終作。『フライボーイズ』(2006)に出演したダニエル・リグビーが主演を務め、共演として『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011)などに出演しハリウッドでも活躍するジェイソン・フレミングが出演しました。
ドラマ『ブラックミラー シーズン2 時の”クマ”、ウォルドー』のあらすじとネタバレ
グラッドウェル議員が下劣なスキャンダルによって辞職を余儀なくされ、イギリスでは議員の補欠選挙が行われようとしています。
役者の動きをリアルタイムにモーションピクチャーしたアニメーションキャラクター「ウォルドー」は深夜のワイドショーのキャラクターとして世間では大人気ですが、「ウォルドー」を演じるジェイミーは「ウォルドー」としての下品な言動に日に日に嫌気が差していました。
政治家のリアムを番組に呼び「ウォルドー」が彼を下品に貶し笑いをとったことで翌日、リアムより番組に猛抗議がありました。
しかし、その一方で世間ではさらに「ウォルドー」の人気が増したことで、番組の製作陣はワイドショーの垣根を越え「ウォルドー」の専用番組を制作しようと協議します。
「ウォルドー」専用番組のためにセンセーショナルな話題を作るため、製作陣は「ウォルドー」を補欠選挙に立候補させ、既に保守党から立候補しているリアムを徹底的に妨害することでさらなる注目を得ようと行動を開始します。
ジェイミーを乗せたトラックがリアムの選挙活動現場に到着すると、内部でジェイミーを撮影することでリアルタイムでトラックのボディ部分に「ウォルドー」が投影。
この方法で「ウォルドー」は街頭での選挙活動に励むリアムをたびたび妨害し、辟易したリアムは部下に命じ「ウォルドー」の内部の人間を探らせることにします。
ある日の夜、ジェイミーは補欠選挙の労働党立候補者の女性、ハリスと出会います。
「ウォルドー」としての活動に嫌気が差していたジェイミーは自身の素性をハリスに話し、一方でハリスはジェイミーのユーモアに惹かれ2人は1晩を共にします。
ハリスはジェイミーに自身の携帯番号を伝え今後も連絡を取り合おうとしますが、労働党の戦略担当の男がハリスがジェイミーと連絡を取り合うことを許可せず、2人の間に徐々に距離が生まれていくことになります。
ある日、「ウォルドー」に補欠選挙の立候補者を集めた討論番組への参加を求められ、ジェイミーは「ウォルドー」のアニメーションを使い討論番組へと参加します。
討論番組が始まるや否や調子良くリアムを小馬鹿にする「ウォルドー」でしたが、リアムは「ウォルドー」を操作しているのが売れない劇団員だったジェイミーであることを生放送中に暴露。
あっけにとられるジェイミーでしたが、「ウォルドー」としての姿勢を崩さず、リアムがいかに嘘つきであるかやハリスが実は自身のキャリアのための出馬であり勝つ気なんか初めからないことを批難し、今の政治が嘘まみれであると吐き捨て討論番組から去ります。
翌日、番組の様子はYouTube上で大ヒットとなり、「ウォルドー」は知名度だけでなく人気も獲得していました。
ここに至り、番組の筆頭プロデューサーであるジャックは話題作りのためだけでなく「ウォルドー」を議員にしようと考え始めます。
しかし、ジェイミーは自身に政治の知識や確固たる主張も信念もないことから、あくまでも「ウォルドー」は「冗談」で終わらせるべきだと反発。
ジャックは「ウォルドー」は番組に所有権があり、ジェイミーがいなくても自分が「ウォルドー」を演じると言い強硬姿勢を取ろうとします。
「ウォルドー」が自分のキャラクターであることに信念を持つジェイミーは、渋々「ウォルドー」として政治活動を続けていくことになります。
ドラマ『ブラックミラー シーズン2 時の”クマ”、ウォルドー』の感想と評価
脚本家のチャーリー・ブロッカーが、デーモン・アルバーンとジェイミー・ヒューレットが生み出した仮想覆面アーティスト「ゴリラズ」から着想を得て製作した『ブラックミラー シーズン2 時の”クマ”、ウォルドー』。
本作は実際の政治選挙からも着想を得ており、時に政治方針を述べるよりも既存体制への反発を並べた方が、民衆の支持を集められるという社会的な皮肉を作中で描いています。
2020年7月に行われた「東京都知事選挙」では、投票率が前回から減少し55%に留まりました。
大きな理由なく投票に行かなかった人の多くは「政治に無関心」であり、「政治に無関心」な人ほど分かりやすくエンターテイメント性の強い候補者に票を入れる可能性があります。
本作の「ウォルドー」は下品な言動を繰り返すアニメーションキャラクターであり、他者に対する批判は大得意であれどそこに政治的主張もなければ強い信念もありません。
しかし、現体制の批判という、今の暮らしに満足の出来ない民衆に共感の得られるパフォーマンスを繰り返すことで、理路整然とした政治的主張がなくとも支持を得ていく様子は、アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプの大統領選を想わせると評価され、「虚構」に収まらない「現実」の恐ろしさを感じるエピソードになっています。
まとめ
2020年現在、日本では演者をリアルタイムでアニメーション化した「バーチャルYouTuber」がブレイクし、CMやテレビ出演を果たすなど人気の広がりを見せています。
既に『ブラックミラー シーズン2 時の”クマ”、ウォルドー』が作られた当時の「SF」要素は完成している状況であり、「ブラックミラー」シリーズが掲げる理念「私たちが生きるであろう10分後を表している」物語は本当に10分後に迫っているのかもしれません……。
本シリーズはNETFLIXにて配信中、世界的に高い評価を受ける本シリーズをぜひ一気見してみてください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile113では、今年もやってきた「夏のホラー秘宝まつり2020」特集第1弾として同イベントで上映予定の映画『ワーニング その映画を観るな』(2020)の魅力をご紹介させていただきます。
7月29日(水)の掲載をお楽しみに!
【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら