サスペンスの神様の鼓動44
映画『レリック -遺物-』は、2021年8月13日(金)よりシネマート新宿ほかにて全国公開
森に囲まれた家で、1人暮らしをしていた老女エドナが突然失踪した事で、恐怖の連鎖が始まるサスペンススリラー『レリック -遺物-』。
本作が長編デビュー作となる新人監督、ナタリー・エリカ・ジェームズが、認知症によって変わり果てた祖母の姿にショックを受けた事から、誰もが避けて通れない「老い」の恐怖を、独自の解釈で描いています。
家族をテーマにした、この独特の作品に、俳優ジェイク・ギレンホールや、『アベンジャーズ』シリーズの監督としても知られる、ルッソ兄弟がプロデューサーに加り、全米興行収入ランキングで、3週間連続の1位になった話題作です。
老女エドナの娘ケイと、孫娘サムの視点を中心に、静かながらも確実に訪れる「老い」の恐怖を描いた『レリック -遺物-』は、観客に「嫌な予感」を抱かせる「恐怖の予兆」が連続する作品です。
今回は、本作の「恐怖の予兆」に注目しながら、作品の魅力をご紹介いたします。
CONTENTS
映画『レリック -遺物-』のあらすじ
森に囲まれた家で、1人暮らしをしている老女エドナ。
彼女は、ある晩を境に失踪してしまいます。
エドナの娘ケイと、孫娘サムのは、エドナの捜索の為に彼女の自宅を訪ねます。
エドナの自宅には、生活に関する様々なメモが家中に貼り付けられており、ケイとサムは、エドナが認知症に苦しんでいた事実に直面します。
ケイは地元の警察官にも協力してもらい、エドナの捜索を開始しますが、一向に手掛かりが見つかりません。
ケイとサムが、エドナの捜索を諦めかけた時、突然エドナが帰宅します。
エドナは、ケイとサムの事も覚えており、意識と記憶もハッキリしていますが、何故か失踪した日の事だけは、頑なに話そうとしません。
また、エドナの胸に大きなあざが残っており、ケイは心配しますが、エドナは「何でもない」とケイを突き放します。
さらに、エドナは自宅に戻って以降、突然人が変わったかのように凶暴になったり、独り言をつぶやくようになったりと、情緒不安定な面を見せるようになります。
ケイは、エドナが変わってしまったのは「寂しさが原因」と考え、エドナを孤独にしていた事を後悔し、娘として寄り添おうとします。
またサムは、エドナの部屋にある納屋に、不気味な気配を感じるようになります。
エドナは納屋に鍵をかけ、この場所を嫌っていたようでした。
独自に納屋のことを調べるようになったサムは、ある恐怖に迷い込んでしまいます。
サスペンスを構築する要素①「豹変していくエドナの恐怖」
『レリック -遺物-』は、自宅に1人でいたエドナが、突然失踪するところから物語が始まります。
その後、エドナの娘ケイと、孫娘サムが自宅を訪れ、エドナの捜索が開始されます。
手掛かりがないまま、ケイとサムは不安な日々を過ごしますが、突然エドナが帰宅します。
帰宅したエドナは、サムの誕生日を覚えていたり、自分でお茶を用意するなど、意識はハッキリしているのですが「何故、失踪したのか?」の質問には答えず、胸に謎のあざが残っています。
エドナの自宅には、いたる所に不気味な黒いしみが残っているのですが、エドナの胸のあざは、この黒いしみに似ているのです。
さらに、エドナが胸のあざを気にする場面があるので、エドナ自身、このあざに心当たりがあるのでしょう。
帰宅して以降、エドナはケイには母親、サムには祖母として接しますが、突然、人が変わったかのように凶暴になります。
エドナの変化はそれだけではなく、誰もいない部屋で、1人で誰かと会話をするようになります。
もともと認知症の疑いがあったエドナが、どんどん変わり果てていき「別の誰か」になっていく恐怖が、ケイとサムの目線で描かれています。
サスペンスを構築する要素②「『あいつ』とは何者なのか?」
『レリック -遺物-』は、豹変していくエドナの姿と、その様子に戸惑うケイとサムの苦しい心中が、物語の主軸になります。
では、何故エドナは変わってしまったのでしょうか?
その理由は、作中で明確に語られることは無いのですが、それを解き明かす為のヒントが、さまざまな場面に張り巡らされています。
これが本作の特徴である「恐怖の予兆」です。
中でも、エドナが家中に貼ったメモ。
メモの内容は「ドアの鍵をかける」「水道を止める」というような、生活に関係のある内容が多いのですが、中には「あいつに気を付けろ」という意味深なメモも残されています。
エドナは帰宅して以降「あいつが来る」と事あるごとに口にしており、「あいつ」を恐れていることが分かります。
「あいつ」が何者かは不明ですが、本作は注意して見てみると、さまざまな場面に、謎の黒い人影が映りこんでいるのです。
部屋の隅や、鏡の中、ケイの背後など、いたる箇所に映りこむ、この人影は「あいつ」と何か関係があるのでしょうか?
さらにケイは、何度も悪夢を見るのですが、不気味なこの悪夢は、実はラストシーンに繋がる、重要な情報となります。
不気味な人影とケイの悪夢。
この2つの要素が「あいつ」の正体を探る、重要な手掛かりになります。
ですが「あいつ」の解釈に関しては、人それぞれ違いがあるかもしれません。
サスペンスを構築する要素③「2つの恐怖が進行するクライマックス」
『レリック -遺物-』は、物語の後半は、変わり果てていくエドナに直面するケイと、エドナの住む家の秘密を探るサムの、2つのエピソードが同時進行していきます。
それぞれのエピソードが進行していき、辿り着く本作のクライマックスは、ケイとサムが直面する、2つの恐怖が同時進行していきます。
ここまで、観客に「嫌な予感」を与えていた「恐怖の予兆」が、実際の恐怖となって2人に襲いかかります。
変わり果てていく母親に直面したケイは、最後にある決断をくだします。
そして迎えるラストシーンは、誰もが避けることの出来ない「老い」を、独特の表現で描いています。
老いていくことは、本人にとっても恐怖ですが、直面する家族にとっても、これほど恐ろしいことは無いのです。
映画『レリック -遺物-』まとめ
『レリック -遺物-』は、何かが起きそうな「恐怖の予兆」が作中に張り巡らされた作品です。
黒い影や不気味なメモの他、何気ない会話も、ラストシーンに繋がる伏線になっています。
監督ナタリー・エリカ・ジェームズが「愛する人が自分の一部を失っていき、ゆっくりと他人になっていく様子を見ることは、ある意味で死よりも嫌なことです。」と語る「老い」の恐怖。
本作では「決して避けることの出来ない『老い』の恐怖に、対抗するには何が必要か?」というメッセージも込めており、それが反映されたラストシーンとなっています。
怖いだけではなく「家族」という存在について、いろいろ考えさせる作品です。
次回のサスペンスの神様の鼓動は…
次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに!