サスペンスの神様の鼓動29
こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。
このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。
今回ご紹介する作品は、同僚の敵を討つため、犯人を追いかける刑事が、巨大な陰謀に巻き込まれるアクション・サスペンス『ドミノ/復讐の咆哮』です。
自身のミスにより、相棒の刑事を失ったデンマーク警察のクリスチャンが、新たな相棒となった女性刑事アレックスと共に、犯人を追走するアクション・サスペンス。
監督は、1983年の『スカーフェイス』や、1996年の『ミッション:インポッシブル』など、数々の名作を手掛けた巨匠、ブライアン・デ・パルマです。
CONTENTS
映画『ドミノ/復讐の咆哮』のあらすじとネタバレ
デンマーク警察の刑事クリスチャンは、定年が近い老刑事、ラースを相棒に、日夜市内をパトロールしていました。
クリスチャンは、警察の仕事に対して不真面目な部分があり、拳銃を家に置いたまま、ラースと共にパトロールに出ていました。
2人の無線に「家庭内暴力発生」の連絡が入ります。
家庭内暴力という、夫婦間の争いに、クリスチャンは全く関わる気が起きませんが、現場が近かった事により、ラースが無線に応答し現場へ向かう事になります。
エレベーターで、部屋に向かうクリスチャンとラースですが、そこへ1人の男が入って来ます。
男の靴に血が付いていた事に気付いたクリスチャンは、男がエレベーターから降りたタイミングで話しかけますが、男の反撃に遭います。
何とか男を取り押さえたクリスチャンは、男をラースに任せ、自分は犯行現場へ向かおうとします。
その際に、自身が拳銃を持っていない事に気付き、クリスチャンはラースから拳銃を借ります。
犯行のあった部屋に入るクリスチャン。
そこには、果物の段ボールが積まれており、無残に首を切られた男の死体が、椅子に座ったままの状態となっていました。
慌ててラースの所へ戻るクリスチャン。
一方、男に手錠をして応援を呼んでいたラースですが、男が手錠から腕を抜き去ります。
ラースは、男を取り押さえようとしますが、男は隠していたカッターで、ラースの首を切り窓から逃走します。
クリスチャンは、男を追いかけますが、ビルの上で揉み合いになり落下します。
落下した衝撃で動けなくなったクリスチャンは、男が何者かに連れ去られる所を目撃します。
サスペンスを構築する要素①「それぞれのドラマを描いた追走劇」
相棒のラースを失った刑事、クリスチャンが、ラースの命を奪った殺人犯タルジの行方を追う、アクション・サスペンス『ドミノ/復讐の咆哮』。
本作のストーリー展開は、逃げるタルジと、それを追うクリスチャンという関係が軸になっています。
追う者と追われる者の関係、つまりサスペンスの基本とも言える「追走劇」です。
ただ、本作の特徴として、犯人を追う立場であるクリスチャンが、タルジを追跡する中で、刑事として成長していく面白さがあります。
ラースと組んでいた時のクリスチャンは、パトロールに出る時間になっても恋人と過ごしており、先輩のラースに迎えに来させたうえ、拳銃を忘れてパトロールに出るという、かなり怠慢な性格として描かれています。
ですが、物語が進むにつれて、自身の怠慢な性格が引き起こしたミスで、相棒のラースを失い、ラースを愛していた人達を悲しませた事を後悔します。
クリスチャンは罪滅ぼしの為、タルジ逮捕に執念を燃やし、刑事として成長していきます。
一方、追われる立場のタルジも、ただ殺人を繰り返している訳ではなく、そうしなければならない理由があります。
そして、この追う者と追われる者の関係に、CIAのジョーが絡んで来た事で、本作は意外な方向に物語が進んでいきます。
サスペンスを構築する要素②「CIAやテロ組織が絡む三つ巴の追走劇」
本作の物語の軸は、クリスチャンとタルジの、追う者と追われる者の関係である事は、前述した通りですが、CIAのジョーの登場により、CIAと国際テロ組織の攻防戦に、クリスチャンとタルジが巻き込まれる展開となります。
タルジはCIAに脅される形で、半ば強引に協力させられる形となり、物語の中盤まで、凶悪な殺人犯という印象だったタルジが、中盤では悲しい物語が浮き彫りになり、ドラマに厚みを持たせる事となります。
また、クリスチャンが共に捜査に挑む、女性捜査官のアレックスにも、ラースとの深い関係が明らかになっていきます。
中盤からは、世界中で国際テロを行う首謀者のアルディーンを、CIAと共に追いかけるタルジ、そして、そのタルジを追いかける、クリスチャンとアレックスという、国際的テロ組織、CIA、デンマーク警察が絡む三つ巴の追走劇に発展します。
サスペンスを構築する要素③「デ・パルマ演出が光るクライマックス」
三つ巴の追走劇は、スペインの闘牛場で決着となります。
クライマックスの闘牛場でのシーンは、ドローンを使った「ISIS」の爆破テロを、クリスチャンとアレックスが、実行犯を探し出し、捕まえて、阻止するという、一連の流れを一切のセリフを使わずに表現しています。
セリフの代わりに、さまざまな撮影方法でクライマックスを盛り上げており、アルディーンが双眼鏡越しに、闘牛場の中を見ている「のぞき見」の映像や、ドローンに搭載したカメラの映像により、起爆コードが、爆破実行犯に近付いていく様子を映し、爆破までの時間が迫っている様子を描いています。
また、1つの画面を分割して、別々の場所にいる、クリスチャンとアレックスの表情を映し、緊迫した状況を演出しています。
このクライマックスでは、「映像の魔術師」とも呼ばれる、ブライアン・デ・パルマの職人技が光っています。
映画『ドミノ/復讐の咆哮』まとめ
本作で描かれているのは、アメリカと国際テロ組織の、終わりの無い報復の連鎖です。
タルジは、「ISIS」に恨みを持ち、独自に復讐を重ねていました。
そして、タルジの犠牲になった相棒の恨みを晴らす為、クリスチャンはタルジを追い、最後は愛する人をタルジに奪われた、アレックスの銃弾でこの追走劇は幕を閉じます。
ですが、エンドロールでは、首謀者のアルディーンを失いながらも、「ISIS」が新たな同志を募る動画を公開した場面となり、新たな復讐の連鎖が示唆されるという形となります。
現在も、アメリカとイラン・イスラム革命防衛隊との緊迫した状況が続いている事を考えると、アメリカと国際テロ組織の関係を「復讐のドミノ倒し」として表現した本作は、今、観るべき作品と言えるでしょう。
映画『ドミノ/復讐の咆哮』は現在、全国順次公開中です。
次回のサスペンスの神様の鼓動は…
次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに。