Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/12/25
Update

映画『ヘレディタリー/継承』ネタバレ解説と評価。家族に潜む“恐怖の意味”と何か⁉︎|サスペンスの神様の鼓動6

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回ピックアップする作品は、『へレディタリー/継承』です。

本作は「かなり怖い」と話題になってるホラー映画。

ただこの映画の恐怖は「何が怖い」と説明する事が難しく、作品中盤まで、何かが「起きていると言えば起きている」程度の展開なのですが、観賞中に異様な不安や恐怖を感じます。

ひとついえる事は、この恐怖は怪物や幽霊に襲われたり、殺人鬼に追いかけられたりする視覚的な恐怖ではなく、心理的な恐怖感を観客に伝える作品であるという事です。

その手法は、まさにサスペンス。という事で、今回はホラー映画『へレディタリー/継承』について、詳細に解説していきます。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『ヘレディタリー/継承』のあらすじ


(C)2018 Hereditary Film Productions, LLC
グラハム家の長女アニーは、夫のスティーブ、高校生で息子のピーター、娘のチャーリーに、母のエレンと暮らしてしました。

ある日、エレンが死去、アニーは家族の力を借りながら葬儀を執り行いました。

アニーは母親を失った事に喪失感を抱きますが、特にエレンの溺愛を受けていたチャーリーは、祖母の死を深く悲しんでいました。

しかし、エレンが死去して以降、アニーは母親の姿を見たり、奇妙な光が部屋中を走り回るなどの、奇怪な現象が発生。

それらの現象は、アニー達家族を襲う、ある悲劇を予兆しているようであり、その悲劇以降、家族の間に亀裂が生じるようになります。

そして、エレンが隠していた秘密をアニーが知った時、もはや逃れられない、恐怖の「継承」が始まりますが…。

サスペンスの仕掛け①「チャーリーの存在」


(C)2018 Hereditary Film Productions, LLC
本作でストーリー展開の主軸になるのは、グラハム家に起きる奇怪な現象とその原因です。

アニーは、ミニチュア作家として活動しており、その夫のスティーブは、アニーの活動を陰ながら支えようとしています。

父親であるスティーブと息子のピーターの関係は良好のように見え、アニーも、大好きな祖母を失った娘のチャーリーを勇気づけています。

表面上は穏やかな家族のように感じるグラハム家に、不吉な影を落とす存在がいます。

それが祖母の溺愛を受けて育ったチャーリーです。

人付き合いが苦手な性格という事ですが、その表情や言動は人付き合いが苦手を通り越して、もはや人を不愉快にする領域に達しています。

特に、チャーリーの癖とも言える、舌を上顎に弾かせて鳴らす「コッ」という音、これがかなり不快です。

このチャーリーを、他の家族がどこか避けるように接しているという印象を受けます。

特に、親に嘘をついてパーティーに参加しようとしいるピーターに、アニーがチャーリーも連れて行かせようとしている場面では、アニーがまるで、厄介者をピーターに押し付けようとしているように見えます。

この場面でのアニーが、これまでと比べ、やたら高圧的な態度を取る為、さらに印象に残る場面となっており、実は「何か」が起きるキッカケとなる、重要な場面でもあります。

穏やかな家族の中で、何か異質な雰囲気を感じるチャーリーという存在が、観客に「何か不安」という印象を与えています。

そして、この「何か不安」という感覚は、クライマックスまで溜まり続ける事になります。

サスペンスの仕掛け②「エレンとアニーの関係」


(C)2018 Hereditary Film Productions, LLC
本作では、アニーが抱える、母親のエレンへのトラウマも重要な要素となっています。

エレンの葬儀での、アニーの挨拶、心理セラピーを受けている際に、アニーが語る家族との思い出、そして何故チャーリーのみがエレンの溺愛を受けたか?などから、エレンが異常な人物であった事が分かります。

エピソードの内容や、アニーがエレンを語る時の何気ない言葉使いなど、全てが伏線になっています。

そして、アニーは夜中に屋敷内を徘徊する夢遊病を患っており「アニーを信じて良いのか?」と、観客はさらに不安を感じるようになります。

サスペンスの仕掛け③「逃げられない家族という共同体の恐怖」


(C)2018 Hereditary Film Productions, LLC
チャーリーの存在と、エレンとアニーの関係性から、観客は本作に何とも言えない不安を感じ続けますが、いよいよクライマックスで、畳みかけるような恐怖の連続が始まります。

ここからは本作のネタバレを含みながら考察していきます。

本作で描かれ続けていたのは、悪魔降臨の儀式です。

エレンは悪魔崇拝者で、過去には自分の家族を使い、儀式を成し遂げようとして家族が崩壊した事を、アニーは心理セラピーで語っています。

また、全てを思い通りにしようとするエレンにより、アニーは無意識に悪魔を崇拝する思想を植え付けらえていたという事が、アニーがエレンを語る際の言葉使いの隅々に感じます。

本作では、屋敷内の壁を通り抜けて撮影しているような映像や、ピーターの部屋がミニチュアのようになっていたり、ピーターとスティーブが食事する場面を、かなり遠くから撮影していたりと、不思議な構図が多いのですが、これはエレンの亡霊目線なのかもしれません。

エレンは死後も亡霊となり、アニー達の家族をコントロールし、悪魔降臨の儀式を成功させる為に導いていたのでしょう。

チャーリーという存在が、何故か不快に感じるのも、儀式の一部だった事が分かります。

「へレディタリー」という言葉には、「先祖代々の」という意味や「世襲の(親譲りの)」という意味があります。

アニー達の家族が崩壊し、恐怖を味わう事になったのは、先祖代々からの血筋が関係していますが、それは絶対に、自分で選択できる事ではありません。

家族という共同体と先祖からの連続性、いくら世間的に間違った思想を持っていても「それらからは絶対に逃げられない」という恐怖を描いた作品です。

まとめ


(C)2018 Hereditary Film Productions, LLC
本作が描いている悪魔崇拝の話を、もし前面に押し出した作品であれば、おそらくここまで話題にならなかったでしょう。

目的を語らず、ただ起きている事実のみを描いている為、観客は内容が掴めず「何を観ているのか?」と不安になります。

そして、観客が全体を把握した時には、儀式は完了しており、もう止める事の出来ない状況を見せられ続ける為、ラストに向けて絶望しか感じない展開となります。

構成が見事としか言えませんが、過去にも見事な構成で話題になった作品があります。

日本では2001年に公開された映画『メメント』です。

参考映像:クリストファー・ノーラン監督『メメント』(2001)

クリストファー・ノーラン監督の出世作とも呼ばれる本作は、記憶を10分しか持てない男の復讐劇を描いています。

記憶喪失を疑似体験させるような構成が特徴で、時間軸が逆行しながら展開していきます。

『メメント』のストーリー自体は、平凡なストーリーなので、見せ方で勝負した辺りに『ヘレディタリー/継承』との共通点を感じます。

本作で監督と脚本を担当したアリ・アスターは、長編デビュー作で「現代ホラーの頂点」とも呼ばれる作品を世に出した、恐ろしい監督です。

次回作もホラー作品で『ヘレディタリー/継承』と同じ製作会社の「A24」と準備中のようです。

次は何が飛び出すか楽しみに待ちましょう。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

2019年1月7日に公開の映画『迫り来る嵐』を考察していきます。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『五億円のじんせい』感想レビュー。望月歩の爽やかな個性と若い世代への暖かな眼差し|銀幕の月光遊戯 36

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第36回 2019年7月20日(土)より、ユーロスペース他にて、『五億円のじんせい』が全国順次ロードショーされます。 『ソロモンの偽証』、『3年A組-今から皆さんは人質です …

連載コラム

映画『れいこいるか』感想評価と考察解説。タイトルが意味深い⁉︎阪神淡路大震災で一人娘を亡くした夫婦の物語|銀幕の月光遊戯 66

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第66回 映画『れいこいるか』は、2020年8月8日(土)より、新宿 K’sシネマ、シネ・ヌーヴォ(大阪)、元町映画館(神戸)ほかにて全国順次公開されます。 映 …

連載コラム

映画『トムホーン』ネタバレあらすじ結末と感想考察。最後の西部劇に挑む名優スティーブ・マックイーンが哀愁込めて演じた生涯【すべての映画はアクションから始まる35】

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第35回 日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画は …

連載コラム

細野辰興の連載小説 戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】⑥

細野辰興の連載小説 戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】(2019年11月下旬掲載) 【細野辰興の連載小説】『スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~』の一覧はこちら CONT …

連載コラム

【ネタバレ】西部戦線異状なし(2022)あらすじ感想評価と結末解説。ラストシーンで描く第一次世界大戦という“新たな戦争”が生んだ無惨|Netflix映画おすすめ135

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第135回 2022年10月28日(金)にNetflixで配信された映画『西部戦線異状なし(2022)』。エドワード・ベルガーが監督を務めた …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学