連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第83回
韓国映画『ユンヒへ』は、日本の北海道と韓国で暮らす2人の女性が心の奥に封じてきた恋をミステリアスに描いたラブストーリー。
韓国のある都市で高校生の娘・セボムと暮らすシングルマザーのユンヒのもとに、小樽で暮らす友人ジュンから1通の手紙が届きました。ユンヒとジュンはある秘密を抱えており、手紙を見てしまったセボムはジュンに会うことを決意します。
監督は新鋭イム・デヒョン。主人公ユンヒにはキム・ヒエ、ジュンを『ストロベリーショートケイクス』の中村優子、セボムを元「I.O.I」出身のキム・ソヘが演じました。
北海道と韓国を結ぶラブストーリー『ユンヒへ』は、2022年1月7日(金)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー!
映画『ユンヒへ』の作品情報
【日本公開】
2022年(韓国映画)
【原題】
Moonlit Winter
【脚本・監督】
イム・デヒョン
【キャスト】
キム・ヒエ、中村優子、キム・ソへ、ソン・ユビン、木野花、瀧内公美、薬丸翔、ユ・ジェミョン
【作品概要】
本作は、韓国で暮らすシングルマザーのユンヒが、初恋の女性から一通の手紙を受け取ったことから始まるラブストーリーです。
主人公ユンヒを『優しい嘘』(2014)『夫婦の世界』(2020)のキム・ヒエ、ジュンを『野火』(2015)『ストロベリーショートケイクス』(2006)の中村優子、セボムを元「I.O.I」出身でドラマ『最高のチキン~夢を叶える恋の味~』(2019)に出演したキム・ソヘが演じています。
監督は新鋭イム・デヒョン。本作は2020年・第41回青龍映画賞で最優秀監督賞・脚本賞を受賞し、2019年・第24回釜山国際映画祭でクィアカメリア賞も受賞しました。
映画『ユンヒへ』のあらすじ
北海道の小樽で暮らすジュンが一通の手紙を書きました。
「ユンヒへ」。こんな出だしで始まる手紙は、書いた本人の意志に反し、偶然の成り行きによって、韓国で暮らす高校生の娘を持つシングルマザーのユンヒのもとに届けられます。
20年以上も連絡を絶っていた2人には、互いの家族にも打ち明けられない秘密がありました。
たまたま郵便受けに入っていたその手紙を取り出したのは、ユンヒの娘セボムです。
手紙を盗み見てしまったセボムは、そこに自分の知らない母の姿をみつけ、差出人であるジュンに会うことを決意します。
「卒業旅行はみんなママと海外旅行に行くのよ」と、セボムは半ば強引にユンヒをジュンのいる北海道小樽への旅行に誘いだしました。
セボムは、ユンヒとジュンを会わせようとしたのですが……。
映画『ユンヒへ』の感想と評価
作中光るセボムの想い
韓国で学校が一緒だったユンヒとジュンは、友情を通り越して恋愛感情をお互いに抱いていました。しかし、それを公言できるような周囲の状況ではありません。
母が韓国人で父が日本人だったジュンは、両親が離婚をしたのをきっかけに、父と一緒に北海道の小樽に帰ります。一方のユンヒは、そのまま韓国で暮らし、結婚して子供を授かりました。
会いたくても会えない寂しい思いを「ユンヒへ」で始まる手紙を書くことで紛らしていたジュン。出すつもりのない手紙だったのですが……。
ひょんなことから手紙は海を渡ってユンヒの家に届けられ、娘のセボムが読んでしまいます。
そこにあったのはセボムの知らない母の秘密。それを知って悩みながらも、母の笑顔が見たいセボムは、2人を会わせようとします。
果たして、長い年月という障害を乗り越えて、2人の女性は無事に再会できるのでしょうか。
会話は少な目で反抗的でも、母を想いやるセボムの姿に胸が熱くなります。
女性の視点から描く
本作『ユンヒへ』を手掛けたのは、女性監督のイム・デヒョンです。
イム・デヒョン監督は、岩井俊二監督の『Love Letter』(1995)にインスパイアされたと語り、ロケ地を北海道・小樽に選び、2人の女性達が心の奥にしまってきた恋の記憶を描き出しました。
現代では通信手段はSNSが主流になりつつありますが、本作では相手に語り掛けるように優しい口調で手紙を読み上げるナレーションが流れます。
手紙というコミュニケーションツールの良さを改めて認識できるシーンではないでしょうか。
そして、手紙から行き着く現実。小樽の美しい冬景色を背景に、交錯する2人の女性の想い。同性愛者の物語ですが、あくまで心情だけで制作された、とても清らかな印象を受けます。
イム・デヒョン監督は、「韓国と日本の女性は確かに違います。しかし、男性中心的な社会秩序が強固に成立した国で生きてきたという点では似ていると思いました。『ユンヒへ』で東アジアの女性たちが互いに連帯し、愛を分かち合う姿を見せたかったのです」と語っています。
本作は、東アジアにおける中年女性たちの同性愛と、彼女たちが経験してきた抑圧を真摯に描き出していますが、女性ならではの細やかな視点で描かれ、純粋に人を思う気持に溢れた作品だと言えます。
まとめ
韓国映画『ユンヒへ』は、2019年の第24回釜山国際映画祭のクロージングを飾り、2020年には韓国のアカデミー賞とも言える青龍映画賞で最優秀監督賞と脚本賞をW受賞しました。
新鋭イム・デヒョン監督が、北海道の小樽と韓国に暮らす2人の女性の初恋を描き出した作品です。
会いたいけれど会えないもどかしさ。背中を押してやりたくなるほどじれったい2人の女性を引き合わせようと、涙ぐましい努力をする娘セボンの優しさにホロリとすることでしょう。
本作には女性同士で惹かれあう2人のほろ苦い思いを描きながらも、彼女たちを支えながら見守る叔母とセボムの温かな気持ちが溢れています。
北海道の小樽と韓国。幻想的な雪景色の中で逞しく生きていこうとする女性たちの姿が印象的な作品です。
韓国映画『ユンヒへ』は、2022年1月7日(金)よりシネマート新宿ほか全国ロードショー!
次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。