連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第80回
映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、2021年11月5日(金)より、シネマート新宿、池袋シネマ・ロ サ、アップリンク吉祥寺ほかロードショー&NETFLIX全世界配信開始!
誰もが一度は経験するだろう切ない初恋ストーリーを、時代を彩るカルチャーや変化し続ける都会の街並みとともに、描き出します。
主演のボクを演じるのは、森山未來。ボクの初恋の相手は、伊藤沙莉が務め、現在のボクの同僚に東出昌大、現在の彼女に大島優子がそれぞれ扮して熱演。
作家燃え殻の小説を基に、長編映画監督初となる森義仁が手掛けました。望郷にも似た過去への懐古をたっぷり秘めた本作をご紹介します。
CONTENTS
映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
燃え殻:『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮文庫刊)
【脚本】
高田亮
【監督】
森義仁
【キャスト】
森山未來、伊藤沙莉、萩原聖人、大島優子、東出昌大、SUMIRE、篠原篤
【作品概要】
作家の燃え殻の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』を森義仁監督が映画化。
2020年、世知辛い社会の片隅でと折り合いをつけながら生きている46歳のボクは、過去に知り合った人とのいくつかの再会をきっかけに、1995年からの淡い恋をしていた“あの頃”を思い出します。
主人公・ボク(佐藤)を演じるのは、『世界の中心で、愛を叫ぶ』(2004)『モテキ』(2011)『アンダードッグ』(2020)などの出演作のある実力派・森山未來。
ヒロイン・かおりを『幕が上がる』(2015)の伊藤沙莉、佐藤の同僚関口を『コンフィデンスマンJP』(2018)の東出昌大、謎の女・スーを『妖怪大戦争ガーディアンズ』(2021)のSUMIREが演じます。
『そこのみにて光輝く』(2014)の高田亮が脚本を担当した本作は、劇場公開日と同時にNetflixで配信されます。
映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』のあらすじ
2020年、テレビ業界の下働きをするボクは、業界のパーティー帰りに、昔からの知人でバーのマスターだった七瀬に会います。
46歳になり「つまらない大人になってしまった」と思うボク。頭の中にこれまでのことが思い浮かんできます。
1999年、ノストラダムスの大予言に反して地球は滅亡せず、唯一の心の支えだった彼女・かおりは「今度CD持ってくるね」という言葉を最後に、さよならも言わずに去っていきました。
1995年、ボクはある雑誌の文通覧を通じてかおりと出会い、生まれて初めて頑張りたいと思いました。「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」。初めて出来たかおりの言葉に支えられ、がむしゃらに働いた日々でした。
しかし、志した小説家にはなれず、ズルズルとテレビ業界の片隅で働き続けたボクにも、時間だけは等しく過ぎて行きました。
そして2020年。社会と折り合いをつけながら生きてきた46歳のボクは、いくつかのほろ苦い再会をきっかけに、二度と戻らない“あの頃”を思い出しています。
映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』の感想と評価
‟あの頃”のボクたち
映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、作家の‟燃え殻”が半自伝的な恋愛を描いた小説です。
主人公のボクは、社会人となって働き、雑誌の文通覧で知り合った初めての彼女・かおりと交際を始めます。
インターネットや携帯電話が普及する以前の1990年代。ボクは、かおりの励ましを受けて工場の派遣社員をやめ、テレビ業界の下請け仕事を請け負う会社に就職しました。
仕事の依頼や請求書要求のFAXが絶え間なく届き、仕事に忙殺される日々の中、ボクはかおりとの楽しい時間を過ごします。
若かりしボクとかおりが過ごした時間の背景には、小沢健二、ラフォーレ原宿、WAVE、タワーレコード、シネマライズ、仲屋むげん堂、世紀末へのカウントダウンなど、90年代のカルチャーがちりばめられています。
当時のカルチャーを知る人には、たまらなく懐かしい想いを感じることでしょう。
なかでも注目は、文通を通じて知り合った2人が初めてデートするシーンです。初めて会うため、WAVEの袋を目印にして待ち合わせる2人。
ドキドキ感が伝わるような足取りで歩くボクと、そわそわしながら人混みを見つめるかおりの足元が、代わる代わるに大きく映し出され、そこには紛れもなくWAVEの袋がありました。
多くの人が行き交う雑踏の中で、お互いを見つけた2人の初々しい様子に笑みもこぼれることでしょう。
ボクとかおりの名言
ボクを演じるのは、『アンダードッグ』などにも出演する実力派の俳優、森山未來。
自分の夢を果たせないまま、気がつくと43歳になっていて、つぶやいた「つまらない大人になってしまった」という言葉が、ボクの素直な気持ちを表しています。
流されるように生きている、20代から現代の43歳までのボクを、森山未來が一人で演じているのも注目です。
一方のボクの初恋の相手かおりは、初めてボクと会うことを決めたとき、「私ブスですから」と宣言します。ボクは、この一言でよけいにかおりが気になりました。
はたして、どんなブスなのでしょうか……。温かい笑顔が素敵な伊藤沙莉が、自称ブスなかおりを魅力的に演じています。
ボクの回顧は作品中で、自身をそっと支えてくれたかおりとの思い出から現在の仕事の悩みへと続いていきます。
戻りたいけれど、決して戻れない実在の‟あの頃”。
未完成なあの頃のボクが、今完璧な大人になったとは言えません。ですから、ボクの後悔にも似た懐古の気持ちは、増すばかり……。
‟あの頃”の言動の一つ一つが、大切な宝物のように思い出され、今のボクの存在の糧となっていることも違いないのです。
まとめ
作家・燃え殻の初恋ストーリーの映画化『ボクたちはみんな大人になれなかった』。
淡い初恋の思い出から仕事に忙殺される日々を経て、出世の望みもない業界の厳しさに押しつぶされそうな現在までを、時代ごとに分けて描いています。
あの頃出会った友人、仕事仲間、彼女。交わした会話、食べた物。喧嘩、別れ。充実感でいっぱいの時間と傷ついた心の痛みは、今の世代にも通じるものがありました。
これは本作の主人公だけでなく、観る者誰もの「あの時、あの場所、あの人」の物語なのです。
映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、2021年11月5日(金)より、シネマート新宿、池袋シネマ・ロ サ、アップリンク吉祥寺ほかロードショー&NETFLIX全世界配信開始!