連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第5回
6月1日(月)よりユーロスペースほか全国ロードショーされている映画『許された子どもたち』。内藤瑛亮監督の8年振りの自主映画制作されたもので、実際に起きた少年事件に着想を得て、いじめによる死亡事件を起こした加害少年とその家族、そして被害者家族の姿を描いたオリジナル作品です。
上村脩、黒岩よしなどキャストのほとんどは、この映画のために開始されたワークショップから選ばれました。
殺人を犯した未成年者たちの更生は可能なのでしょうか? 自分の子どもが人を殺したらどうしますか? と、いじめや少年事件といった社会問題を鋭く問いかけています。
映画『許された子どもたち』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【脚本】
内藤瑛亮 山形哲生
【監督】
内藤瑛亮
【キャスト】
上村脩、黒岩よし、名倉雪乃、阿部匠晟、池田朱那、大嶋康太、清水凌、住川龍珠、津田茜、西川ゆず、野呈安見、春名柊夜、美輪ひまり、茂木拓也、矢口凜華、山崎汐南、門田麻衣子、三原哲郎、相馬絵美、地曵豪
【作品概要】
映画『許された子どもたち』は、『ライチ☆光クラブ』(2015)や『ミスミソウ』(2017)の内藤瑛亮監督が、衝撃的なタイトルと内容により物議を醸した初長編『先生を流産させる会』(2011)以来、再び自主映画のフィールドで問題作を世に放ちます。
実際に起きた複数のいじめ事件をモチーフに取り入れつつも、オリジナル作品として製作。上村脩、黒岩よしなど、出演者の多くはこの映画のために開始されたワークショップから選ばれた若手キャストたちです。
映画『許された子どもたち』のあらすじ
ある地方都市でのこと。中学一年生で不良少年グループのリーダー市川絆星は、同級生の倉持樹を日常的にいじめていました。
ある日、絆星は樹に割箸でボーガンを作らせ、河原に持ってこさせます。何発か試し打ちをし、樹を狙って撃った割箸が樹の喉に命中し、樹は川岸に倒れ込みました。
喉から出血をする樹をみて絆星をはじめとするグループの少年たちは逃げ出し、結局樹を見殺しにしてしまいます。
現場近くの監視カメラの映像などから絆星たちのグループが樹殺害の容疑者として浮上します。
警察に犯行を自供する絆星でしたが、息子の無罪を信じる母親・真理の説得と弁護士の戦術によって否認に転じ、少年審判は無罪に相当する「不処分」を決定。
絆星は自由を得ますが、この決定に対して世間から激しいバッシングが巻き起こり、ネット上などで吊るし上げに遭います。
そんな中、殺された樹の家族は民事訴訟をおこし、絆星ら不良少年グループの罪を問います。
我が子の無実を信じる絆星の母親は抗議活動を行いますが、かえって騒動を大きくする結果となり、一家は引っ越しを余儀なくされました。
半年後、とある中学に名前を変えて通学する絆星の姿がありました。実名も顔写真もネット上にあげられ、絆星一家は素性を隠して住居を転々としていました。
民事訴訟をするために、樹の両親が絆星一家を捜しているのを知りながら、絆星一家は逃げていたのです。
絆星の転校先の学校で、教師との恋愛が発覚したクラスメイトの桃子が女子からいじめられ、絆星のクラス内で問題になりました。
いじめ問題を議論する同級生たちの横で寝たふりをする絆星。隠れ家にしている廃屋で絆星はまた割箸ボーガンを作り、一人で打って遊んでいました。桃子がその現場を知ってしまいます。
桃子と交流を持ってしまったことで、同級生からネットで検索され、絆星の素性が明らかになりました。「同級生殺人事件の犯人」に厳しい声が集まり、クラスは大騒動に。
また引っ越そうと言う真理に対し、父親は「もういい加減にしろ」と言い放ち、「ごめん」と書いたメモと結婚指を残して、姿を消しました。
窮地に立たされた絆星は桃子を連れて家を出ました……。
映画『許された子どもたち』の感想と評価
映画『許された子どもたち』は、『先生を流産させる会』『ライチ☆光クラブ』の内藤瑛亮監督が、実際に起きた複数の少年事件をモチーフに、構想に8年の歳月をかけて自主制作映画として完成させたドラマです。
犯罪が成立するかどうかの闘い
この作品には前半と後半で2つの闘いがあります。まず前半にあるのは、少年犯罪が成立するかどうかの闘い。
いじめの続きからボーガンで同級生を撃って殺してしまった主人公・絆星。13歳の同級生殺人事件として、世間を騒がせます。
それまでの日常的な行為、事件の経緯、監視カメラの映像などから、誰がみても絆星たちの仕業と思われますが、13歳という年齢に伴い、少年法が立ちはだかります。
状況証拠だけでは有罪にならない。弁護側の大人たちは、少年たちの心理を巧みに誘導して、事実を大人の都合のよいように解釈する証言に変えていきます。
絆星の母は、何が何でも我が子はやっていないと言い張りました。我が子に対する一種のモンスターとなった母は強し。
自己主義を通り越し、盲目的な絆星への母性愛で突っ走ります。無罪を主張されて泣き崩れる被害者樹の両親に対して、「やっていないのですから」と毅然とした態度を取ります。
黒を白と言い含めるようなこの母の態度が、間違いの始まりだったのかも知れません。これだけの強さがあれば、子供が世間一般の道からはずれても立ち直らせることができるはずですが、母は“更生指導”よりも“何が何でも潔白”という道を選んだのです。
我が子が殺人を犯したら、どうするか。本作は、ここで究極の問題を突き付けています。
誹謗中傷との闘い
2つ目の闘いは、社会からの誹謗中傷です。法律の網目をかいくぐって絆星たちが「無罪」となっても、世間一般の態度は冷たいものでした。SNSを使ってのインターネットでの絆星への誹謗中傷は物凄いです。
スクリーンいっぱいにむくむくと湧き上がるネット書き込みの言葉が、その気味悪さと陰湿さを表していました。どこに逃げても犯した罪から逃げられず、かえって罪の重さが増しているようです。
「私たちが何をしたの。そっとしておいてちょうだい」。ここで初めてモンスターマザーの絆星の母が叫びます。
僅かな良心を持ちなんとか謝罪しようとするきっかけがあったとしても、姿無き傍観者たちは、書き込みという手段でターゲットを追い込んで来るのです。これがネット社会の恐ろしさでしょう。
ラスト近くでは、樹の両親に謝りながらも、誰にぶつけていいのかわからない怒りを爆発させる絆星の姿がクローズアップされています。
社会では、犯罪を犯した時、法律では許されたとしても絶対に許して貰えない何か、が存在します。
また反対に、正義の味方のフリをして弱者を追い詰める社会の闇ともいえる何か、も存在します。
いじめ問題から殺人事件、ネットの誹謗中傷と、社会の憂き目にあう13歳の絆星を通して、現存する多くの問題点を監督は問いかけているのです。
まとめ
同級生殺人事件を起こした中学生。実際の事件をヒントに作成された映画『許された子どもたち』。なぜ法律で子どもたちを裁けなかったのか。大人たちの歪んだ思惑もそこにあるようです。
13歳という年齢を考慮して、前途のある若者だからという理由だけなら、被害者家族は納得しないでしょう。
殺人が起こる前に止める手立てはなかったのか。加害者と被害者、双方を見守る大人の目の必要性が求められます。
出演者はワークショップから選出されたとのこと。そしてモンスターマザー演じる黒岩よしは、元ソウルオリンピックのスイマーという異色の経歴の持ち主です。
フレッシュなキャストたちの等身大の演技で、社会の歪と対峙するリアルさが際立つ作品となっています。
映画『許された子どもたち』は6月1日(月)よりユーロスペースほか全国ロードショー!