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Entry 2021/02/06
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映画『ラスト・フル・メジャー 』感想解説と評価レビュー。米国空軍兵ピッツェンバーガーの実話を映像化したドラマで勲章授与の意味を探る|映画という星空を知るひとよ49

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第49回

ベトナム戦争で自らの命を犠牲にして仲間を救った米国空軍兵士、ウィリアム・H・ピッツェンバーガー。

ピッツェンバーガーの実話に感銘を受けたトッド・ロビンソン監督が映画化し、『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』が誕生しました。

ピッツェンバーガーに助けられた帰還兵たちが、兵士の最高の栄誉を称える「名誉勲章」受賞者に彼を推薦しますが、30年以上も却下され続けています。

なぜ彼の受賞は認められないのでしょう。空軍省に勤める1人の男がその謎を解くために調査を始めました。

キャストにクリストファー・プラマー、ウィリアム・ハート、サミュエル・L・ジャクソン、それにピーター・フォンダといった豪華な顔ぶれが勢揃い。

映画『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』は2021年3月5日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開されます!

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』の作品情報

(C)2019 LFM DISTRIBUTION, LLC

【日本公開】
2021年(アメリカ映画)

【原題】
The Last Full Measure

【監督・脚本】
トッド・ロビンソン

【キャスト】
セバスチャン・スタン、クリストファー・プラマー、ウィリアム・ハート、エド・ハリスサミュエル・L・ジャクソン、ピーター・フォンダ、リサ・ゲイ・ハミルトン、ジェレミー・アーバイン、ダイアン・ラッド、エイミー・マディガン、ライナス・ローチ、ジョン・サベージ、アリソン・スドル、ブラッドリー・ウィットフォード

【作品概要】
『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』は、「アベンジャーズ」シリーズのセバスチャン・スタンが主演を務め、ベトナム戦争で多くの兵士の命を救った実在の米空軍兵ウィリアム・H・ピッツェンバーガーを描いた社会派ドラマ。

この実話のことを知った、『ファントム 開戦前夜』(2013)のトッド・ロビンソンが監督を務め、クリストファー・プラマー、ウィリアム・ハート、サミュエル・L・ジャクソンといった豪華キャストが集結。『イージーライダー』(1969)の名優ピーター・フォンダの遺作となった作品です。

映画『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』のあらすじ

(C)2019 LFM DISTRIBUTION, LLC

1999年、アメリカ。

空軍省に勤めるエリートのハフマン(セバスチャン・スタン)は、30年以上も請願されてきた空軍落下傘救助隊の医療兵ピッツェンバーガー(ジェレミー・アーヴァイン)の名誉勲章授与について調査を始めました。

ベトナム戦争で戦士した彼は、一兵士が授かれる最高位の勲章「名誉勲章」を推薦されていますが、なぜかいつも却下されていたのです。

1966年、ピッツェンバーガーは、ベトナムで敵の奇襲を受けて孤立した陸軍中隊の救助に向かいましたが、激戦のためヘリが降下できず、身体ひとつで地上へ降りて救出活動にあたります。しかし彼は銃弾に倒れ、帰らぬ人となってしまいました。

ハフマンは、当時の戦地でピッツェンバーガーと関わりのあった退役軍人たちの証言を集めるために奔走します。

歩兵師団のビリー・トコダ(サミュエル・L・ジャクソン)は、ハフマンに対して語ることは無いとばかりに、録音レコーダーを投げ捨ててしまいます。

このベトナム戦争で初めて敵と対峙したジミー・バー(ピーター・フォンダ)は、過酷な戦場でピッツェンバーガーに命を救われたのですが、帰国後戦争がもたらした重度の後遺症によって、昼夜が逆転した生活を送っていました。

スクールバスの送迎運転をしている退役軍人モントーヤ(エド・ハリス)は、‟戦場の出来事”について重い口を開こうとはしません。

ハフマンが諦めかけたころ、ベトナムで暮らすキーパー(ジョン・サヴェージ)が、戦場の真相を知る人物だという情報をキャッチし、空路ハノイへ向かいます。

そしてついにハフマンは、ピッツェンバーガーの名誉勲章授与を阻み続けた驚くべき陰謀の存在を知ることになりました。

映画『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』の感想と評価

(C)2019 LFM DISTRIBUTION, LLC

本作の中に、頭上から降りて来る空軍兵士を見た傷ついた陸軍兵士たちの「空から天使が降りて来たと思った」と語る場面があります。

‟空から降りる天使”。これはまさに当時の医療兵ピッツェンバーガーを称した言葉でした。

上官の命令よりも大切な人の命

空軍に医療兵として所属するピッツェンバーガーは、ベトナム戦争中に敵の奇襲にあって孤立している陸軍兵士たちの救助に向かって戦死しました。

「空軍兵士の息子がなぜ地上戦で戦死するのだ」。ピッツェンバーガーの父親は、何処にもぶつけられない思いをハフマンに打ち明けます。

親としては腑に落ちないところでしょう。しかし、ピッツェンバーガーは医療兵。ナースが赤十字の腕章をつけて、傷を負った人々の手当てに奔走するのと同様、傷ついた人を見捨てられなかったのです。

たった1人で砲弾の飛び交う中、ホバリング中のヘリコプターからロープを使った懸垂下降で降りて来たピッツェンバーガー。

傷ついた数人の兵士たちの手当をした後、安全な空の上から上官が「危険な状態だから戻って来い」と命令しても、どうしてもその場を後にすることができませんでした。

軍人であるなら上官の命令は絶対服従ですが、それよりも怪我人を救うという医療兵としての責務の方が勝っていたのです。

だからこそ、彼に助けられた陸軍の帰還兵たちは、彼に名誉勲章を授けたかったと言えます。

勲章受章によって称えられる功績

(C)2019 LFM DISTRIBUTION, LLC

ところで、この「名誉勲章」を始めとする勲章ですが、軍隊では正装とされる軍服に必ずと言っていいほど、左胸に略綬と呼ばれる受章歴を示す長方形の略綬をつけています。

軍隊生活が長ければ長いほど、それまでの働きによって与えられる勲章が多くなり、階級が上がるごとにその数と責務の重みも増します。

初対面の軍人でも、それを見れば相手がどんな階級でどんな働きをしてきたのかが一目瞭然。階級章と勲章は軍人人生の象徴でもあり、もらった人、または与えられた人の輝かしい業績となるのです。

ピッツェンバーガーが自分の命と引き換えに、多くの傷ついた同胞を助けたという事実を知る兵士たちが、彼にこそ「名誉勲章」を与えたいと思うのは当然でしょう。

しかし、受賞者を決めるのは軍の最上層部。陸軍幹部の推薦者たちが多い中、空軍の下士官であるピッツェンバーガーはなかなか受賞できません。ですが、実はそこには受賞させたくない理由があったのです。

勲章受章という輝かしい名誉を純粋に与えてあげたいと思う相手がいるのに、実際には与えられないというもどかしさ。

この辺りに、損得で動く人間の浅ましさと下っ端の命を何とも思わない組織上層部の冷酷な狡さが見え隠れしています。

ベトナム戦争から命からがら帰還した兵士たちは、みな一様にあの戦争について口を閉ざします。彼らはピッツェンバーガーの勇気ある行為の影に何があったのか、知っていました。

そんな彼らの帰還後の人生は決して幸福なものではなく、戦争によってもたらされた大きな損失に、怒りと悲しみを感じます。

まとめ

(C)2019 LFM DISTRIBUTION, LLC

ベトナム戦争で多くの兵士の命を救った実在の米空軍兵ウィリアム・H・ピッツェンバーガーの真実の物語を描いた『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』。

若き空軍医療兵が、地上戦で敵の攻撃を受けて苦しむ陸軍兵士を救います。敵の砲弾で命を落とした医療兵ですが、彼の死を無駄にしたくない帰還兵たちは、遺族に彼の功績を称える証をと、行動を起こしました。

30年以上という長い年月をかけても彼の功績が忘れられず、無かったものにしたくないほど偉大であり、彼こそ真の英雄と呼べる者だったのです。

本作では、自分の使命に燃えるピッツェンバーガーにジェレミー・アーヴァイン。彼と遭遇し真実の語り部となる帰還兵たちを、ウィリアム・ハート、サミュエル・L・ジャクソン、ピーター・フォンダといった顔ぶれが熱演。帰還兵たちの心を解き明かす調査員ハフマンにセバスチャン・スタンが扮します。

また、最愛の息子を戦死という形で失うことになるピッツェンバーガーの父を、クリストファー・プラマーが演じます。『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)のトラップ大佐役以来、活躍し続ける名優の味わい深い安定感ある演技が、本作に一層の重みを加えていました。

ピッツェンバーガーという英雄がいたという事実を知ると共に、戦争で生き残ることの辛さ、都合の悪い事は見ないふりをする社会の狡さ、愛する者を喪った怒りと悲しみといったものが切実に伝わって来る本作。ピーター・フォンダの遺作ということもあり、とても印象深い作品です。

映画『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』は、2021年3月5日(金)よりシネマート新宿ほか全国公開!

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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