連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第233回
日本映画のサイレントからトーキー初期にかけて活躍し、その後若くして夭折した映画監督・山中貞雄。
彼が生前遺した『鼠小僧次郎吉 江戸の巻』は、私腹を肥やす強欲な悪人たちから金を盗んで貧しい人々に分け与える義賊・鼠小僧の活躍を描いた作品です。
このたび劇場アニメ『銀河鉄道999』(1979)『幻魔大戦』(1983)『メトロポリス』(2001)などで知られるりんたろう監督が、本作をサイレントアニメーション化しました。
『山中貞雄に捧げる漫画映画「鼠小僧次郎吉」』は、2024年11月23日(土)よりユーロスペースにて上映決定!
『山中貞雄に捧げる漫画映画「鼠小僧次郎吉」』の作品情報
【日本公開】
2024年(日本・フランス合作映画)
【監督】
りんたろう
【脚本】
山中貞雄、りんたろう
【作画監督】
兼森義則
【キャラクターデザイン】
大友克洋、兼森義則
【音楽】
本多俊之
【キャスト】
小山茉美
【作品概要】
若くして夭折した映画監督・山中貞雄が生前遺した『鼠小僧次郎吉-江戸の巻』を、『銀河鉄道999』(1979)『幻魔大戦』(1983)『メトロポリス』(2001)のアニメーション監督・りんたろうが『山中貞雄に捧げる漫画映画「鼠小僧次郎吉」』と称して、サイレントアニメーションにしました。
キャラクターデザインを担当したのは、『AKIRA』(1988)の大友克洋です。
2023年3月開催の第1回新潟国際アニメーション映画祭でワールドプレミア上映され、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭、リュミエール映画祭での上映を経て、2024年9月にアメリカ・ロサンゼルスで行われた日本映画祭で最優秀アニメーション賞を受賞しました。
『山中貞雄に捧げる漫画映画「鼠小僧次郎吉」』のあらすじ
江戸八百八町が夜の闇に包まれると屋根裏でガサゴソとする奴が現れます。
大富豪から富をいただき貧しい庶民にばら撒く義賊、ご存じ鼠小僧次郎吉。
夫に先立たれ、小さな我が子と辛い日々を送る町人お鈴がいました。
そんなお鈴を利用して鼠小僧の正体を暴こうとするのは、梵字安五郎と長五郎。そして罪を憎んで人を憎まず、経験と勘で補物名人と謳われる岡っ引き勘右衛門です。
江戸の街を舞台に繰り広げられる哀愁を誘う人間ドラマ。映画監督山中貞雄はそんな夢をみています……。
『山中貞雄に捧げる漫画映画「鼠小僧次郎吉」』の感想と評価
短編サイレントアニメ『山中貞雄に捧げる漫画映画「鼠小僧次郎吉」』は、山中貞雄が『鼠小僧次郎吉 江戸の巻』の撮影をするパートと、りんたろう監督が脚色した『鼠小僧次郎吉 江戸の巻』のパートに分かれています。
パートごとの構想もユニークで、江戸八百八町を駆け抜ける義賊・鼠小僧の華々しい活躍や、一心不乱に映画をつくる山中貞雄監督の姿もアニメーションで楽しめます。
映画監督・山中貞雄は、長い顎に無精髭、頭に手ぬぐいを巻き、薄っぺらな下駄履きという風貌で、サイレントからトーキー時代の映画界を28歳という若さで駆け抜けて逝きました。
冒頭とラストで登場する頭に手ぬぐいをまいた男性こそ、山中貞雄監督なのです。そのキャラはいかついながらも、どこか微笑ましい! りんたろう郎監督の仕事人・山中貞雄への尊敬の念がにじみ出ているようです。
鼠小僧次郎吉の作品で終始流れるコミカルな音楽が、山中貞雄監督が映画に忍び込ませた遊び心をしっかり表し、観る者を楽しませる作品となっています。
まとめ
アニメーション映画監督りんたろうによる『山中貞雄に捧げる漫画映画「鼠小僧次郎吉」』をご紹介しました。
『山中貞雄に捧げる漫画映画「鼠小僧次郎吉」』は、2024年11月23日(土)よりユーロスペースにて上映!
本作の上映にあわせ、【りんたろう MEETS 山中貞雄】と題し、現存する数少ない山中作品の中から『丹下左膳余話 百万両の壺』『河内山宗俊』『人情紙風船』の傑作3本が同時上映されます。
また、【りんたろう自選作品集】として、『カムイの剣』『幻魔大戦』といったメインストリームな作品から『48×61』『オサムとムサシ』『火の鳥 鳳凰編』ほか、滅多にスクリーンではお目にかかれないオルタナティブ的な作品まで日本アニメ史に刻まれる名作を一挙上映されますので、こちらもお楽しみに。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。