連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第161回
今回ご紹介する映画『サントメール ある被告』は、実話の裁判を基にした法廷劇です。2022年・第79回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)と新人監督賞を受賞しました。
監督を務めるのは、国際的に高く評価されてきたセネガル系フランス人監督アリス・ディオップ。作家マリー・ンディアイが脚本に参加し、『燃ゆる女の肖像』(2020)のクレール・マトンが撮影を手がけました。
実際の裁判記録をそのままセリフに使⽤したという緊迫感漲る法廷シーンは必見です。
『サントメール ある被告』は、2023年7月14日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開!
映画『サントメール ある被告』の作品情報
【日本公開】
2023年(フランス映画)
【原題】
Saint Omer
【脚本・監督】
アリス・ディオップ
【製作】
トゥフィク・アヤディ、クリストフ・バラル
【撮影】
クレール・マトン
【出演】
カイジ・カガメ、ガスラジー・マランダ、バレリー・ドレビル、オレリア・プティ、グザビエ・マリー、ロバート・カンタレラ、サリマタ・カマテ
【作品概要】
セネガル系フランス⼈⼥性監督アリス・ディオップが手がけた『サントメール ある被告』。我が子を殺した罪に問われた女性の裁判の行方の実話を描く法廷劇です。
2022年のヴェネチア映画祭で銀獅⼦賞(審査員⼤賞)と新⼈監督賞のW受賞を果たし、セザール賞では最優秀新⼈監督賞を受賞。2023年度アカデミー賞®国際⻑編映画部⾨のフランス代表にも選出されました。
映画『サントメール ある被告』のあらすじ
フランス北部の町、サントメール。若き女性作家ラマは、ある裁判を傍聴しています。
被告は、生後15ヶ月の幼い娘を海辺に置き去りにし殺害した罪に問われた若い女性ロランス。
彼女は、セネガルからフランスに留学し、完璧な美しいフランス語を話します。淡々と質問に答えるロランス。果たて、本当に我が子を殺したのでしょうか?
被告本人の証言も娘の父親である男性の証言も、明確に答えているのですが、何が真実かわかりません。
そして偶然ラマは、被告人の母親と知り合うことになりました。
映画『サントメール ある被告』の感想と評価
映画『サントメール ある被告』では、女性作家のラマが、取材もかねてある裁判を傍聴します。
それは、我が子を海辺に置き去りにして殺したとされる若い母親ロランスを裁くものでした。
法廷の中で質問に答えるロランス。証言によって明らかになる、彼女の半生は徐々に事件の核心へと移っていきます。
本作では、実際の裁判記録のやりとりをセリフにしたそうですから、リアルな法廷劇となっているのも頷けます。
言葉の端々を捉えて嘘を見抜こうとする検察官。嘘は言わないけれど、自己防衛の気持ちがありありと分かるロランスのパートナー。
複雑な家庭事情の若き女性ロランスが事件を起こした背景には、男女間の子どもへの認識のズレや民族的な文化問題もあるようです。
一つずつ丁寧に証言するロランスは、母としての愛を持たないのでしょうか。あまりにも落ち着いていて、問いかけに応える様子からは真実が見えて来ません。
傍聴席のラマも気になっているようです。しかし、同じ年代の女性として共通する‟何か”を感じ取っていたのかもしれません。
事件の内容は、我が子殺し。女性が起こした実話の犯罪記録を基にした本作では、複雑で繊細な女性心理があちらこちらに散りばめられています。
アリス・ディオップ監督は、法廷で暴かれる事件のあらましと被告人の半生を浮き彫りにし、卓越したドキュメンタリー的視点を交えて本作を作り上げました。
厳かな法廷劇でありながら、誰もが抱えるであろう心の闇を身近に感じる作品と言え、世界中のメディアが高い評価をくだし、そうそうたる映画⼈たちも多くのコメントを寄せています。
まとめ
映画『サントメール ある被告』は、2016年にフランス北部の町サントメールで実際にあった事件とその裁判をベースにしたヒューマンドラマ。
女性監督のアリス・ディオップによって、判事と被告、証人、検察と、重苦しい裁判の様子が淡々と描かれます。
我が子を殺した罪に問われる母のロランスは、本当に罪を犯したのでしょうか。
「判決は下せても、正義は真っ当できない」というセリフに注目して、裁判の行方をぜひご自分の目で確かめてください。
『サントメール ある被告』は、2023年7月14日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開です。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。