連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第107回
刑事歴30数年の元刑事が本人役として主演を務め、かつて自身が捜査にあたった未解決事件の真相に迫る異色ミステリーの映画『とら男』。
時効となった未解決事件は実際に存在し、事件を解決できなかった無念の想いは、それを追っていた刑事の胸の奥にくすぶり続けます。
そんな執念にも似た刑事の‟やり残したこと”にスポットを当てて描かれた映画『とら男』。監督・脚本は、『堕ちる』(2016)の村山和也が務め、事件を担当した実際の刑事が主演を務めました。
映画『とら男』は2022年8月6日(土)ユーロスペースほか全国順次公開です。
映画『とら男』の作品情報
【日本公開】
2022年(日本映画)
【監督・脚本・プロデユーサー】
村山和也
【出演】
西村虎男、加藤才紀子、緒方彩乃、河野朝哉、河野正明、長澤唯史、南一恵、吉田君子、中谷内修、深瀬新、安澄かえで、大塚友則、河原康二、石川まこ
【作品概要】
1992年に起きた金沢女性スイミングコーチ殺人事件が題材。実在する刑事歴30数年の元刑事が本人役として主演を務め、かつて自身が捜査にあたった未解決事件の真相に迫る、セミドキュメンタリータッチの異色ミステリーです。
主人公のとら男役を元・石川県警特捜刑事の西村虎男、女子大生のかや子役を『海辺の映画館 キネマの玉手箱』(2019)の加藤才紀子がそれぞれ演じます。
監督は『堕ちる』(2016)の村山和也。現実とフィクションの二重構造によって、闇に葬られた事件の謎と真実を世間に問いかける作品となっています。
映画『とら男』のあらすじ
東京から植物調査に金沢に来た女子大生・かや子は、おでん屋に立ち寄ったときにそこで吞んでいた元刑事のとら男と出会います。
実はとら男には、刑事として後悔にも似た大きな心残りがありました。
1992年に起きた、未解決の金沢女性スイミングコーチ殺人事件で、担当刑事のとら男は、犯人の目星をつけながらも逮捕に至ることができなかったのです。
その事件は、未解決のまま2007年に時効が成立。
そして事件から15年後、警察を退職したとら男は、事件のことが忘れられないまま孤独に暮らしていたのです。
とら男の話に興味を持ったかや子は、当時の事件について調査をスタートさせます。
まずは聞き込みからと当時の状況を知っていそうな人に事件について何か知っていることはないかと、行動を起こすのですが……。
映画『とら男』の感想と評価
誰もが多かれ少なかれ過去の出来事について「後悔」を持っているのではないでしょうか?
社会人ともなれば、仕事で犯したミスや対人関係など、忘れようとしても忘れられない出来事に遭遇することがあります。
映画『とら男』は、そんな後悔を引き摺る元刑事が主人公となっています。
演じているのは実際に事件を担当していた刑事ご本人なので、隠そうとしても隠しようのない事件への思い入れが色濃く描かれています。
そんな刑事の心残りを晴らそうと、主人公・とら男の手助けをして、再調査に乗り出すのは、女子大生のかや子。
にわか探偵のかや子の頑張りがどこまで実を結ぶのかと、注目は高まります。
また、未解決事件の犯人は本当に捕まるのでしょうか。犯人を追い詰める刑事ドラマのミステリー作品として、その結末は気になるところです。
けれども、事件の解決という結末よりもリアルに描き出されるのは、おでん屋で呑んだくれ、家庭農園をしている元刑事・とら男の「化石のような思い」。
女子大生・かや子視線でストーリー展開する本作ですが、とら男の抱える‟刑事としての執念や後悔”がクローズアップされています。
本作では、時効を迎えても未解決事件はまだ終わっていないこと、また事件を追った刑事がどんな思いでいるのかということを鋭く描いています。
まとめ
未解決事件の再調査に乗り出した元刑事を描く映画『とら男』をご紹介しました。
元刑事が本人役として主演を務めて、自身が捜査にあたった未解決事件の真相に迫る異色ミステリーです。
未解決事件が時効を迎えても、何の解決にもなりません。
本作では、村山和也監督が事件に関わった人々の化石のような未解決事件への複雑な想いを描き出しました。
監督が本作で伝えたかったものとは何か……。鑑賞してみて初めてそれが分かることでしょう。
映画『とら男』は2022年8月6日(土)ユーロスペースほか全国順次公開です。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。