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Entry 2020/07/26
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実話映画『ファヒム パリが見た奇跡』感想と考察評価。政治難民の少年がチェスチャンピオンを目指す|映画という星空を知るひとよ10

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第10回

映画『ファヒム パリが見た奇跡』が、2020年8月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開されます。

この映画は、パリへ逃れた政治難民の少年がチェスチャンピオンを目指す感動の実話を映画化したものです。

監督はピエール=フランソワ・マンタン=ラバル、少年ファヒムの師匠をジェラール・ドパルデューが演じています。

強制送還の怖れなど暗い影がある一方、難民となってパリへ来ても変わらぬ親子の愛、チェスに真剣に挑む師弟の絆、スクール生との友情などに支えられて成長する主人公に胸が熱くなるヒューマンドラマです。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『ファヒム パリが見た奇跡』の作品情報

(C)POLO-EDDY BRIERE.

【日本公開】
2020年(フランス映画)

【原題】
Fahim

【監督】
ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル

【キャスト】
ジェラール・ドパルデュー、アサド・アーメッド、ミザヌル ラハマン、イザベル・ナンティ

【作品概要】
映画『ファヒム パリが見た奇跡』は、バングラデシュからパリに逃れた政治難民の少年がチェスのチャンピオンを目指した実話をもとにしたヒューマンドラマです。

監督は俳優としても活躍するピエール=フランソワ・マンタン=ラバル。シルヴァン役を『シラノ・ド・ベル・ジュラック』(1990)などで知られるフランスの名優ジェラール・ドパルデューが演じています。


映画『ファヒム パリが見た奇跡』のあらすじ

(C)POLO-EDDY BRIERE.

バングラデシュの天才チェス少年8歳のファヒムと父親は、母国に他の家族を残してパリにやって来ました。

当時のバングラデシュは政変が続いていました。親族が反政府組織に属していたことに加え、チェスの大会で勝利を重ねるファヒムに対する妬みや、誘拐という最悪の事態を恐れ、父親はファヒムを連れて母国を出たのです。

フランスに到着して以来、政治難民として強制送還の可能性に怯えながら、政府に政治的保護を求める戦いが始まりました。

仕事もなく行き場もないファヒム親子は、やがて保護されて難民収容所で暮らすようになります。

そんな時、チェスの才能を持つファヒムはフランス国内で最も優秀なチェスの指導者の1人であるシルヴァンに出会い、彼の運営するチェススクールに通い始めます。

初めて会ったときは「授業はフランス語で」と冷たい態度だったシルヴァンですが、ファヒムと対局をしてその才能を認め、「チェスの世界チャンピオンになりたい」という夢を叶えてやろうとします。

ファヒムも最初はシルヴァンに警戒心を抱いていますが、チェスを通してお互いを知り、次第にシルヴァンと友情を築いて行きます。

ファヒムのチェスの実力が分かるにつれ、チェススクールに通う他の子供たちも警戒心をとき、友情が生まれます。

やがてファヒムの目指すチェスのフランス国内大会が始まりました。ファヒムたちは、実力を発揮して、勝利の快進撃を続けます。

その一方で、フランス語を理解できないファヒムの父親は難民申請を却下され、保護された難民収容所を出て消息不明になりました。

チェス仲間の家を泊まり歩くファヒム。やっと見つけた父はホームレスたちの集落にいました。法的措置は何もなく、ファヒムは強制送還の脅威にさらされます。

解決策はただ1つ。チェスのフランス王者になることでした。

映画『ファヒム パリが見た奇跡』の感想と評価

(C)POLO-EDDY BRIERE.

映画『ファヒム パリが見た奇跡』には、ファヒムが母国から亡命しなくてはならなかった“背景”と、フランスが滞在を認めるかどうかという“現実”問題があります。

政治難民としての苦労

ファヒムは当初、政治的な深い理由は理解できなかったので、“世界一の先生にチェスを習う”という目的でパリに来たと思っています。

チェスなら誰にも負けないという自信があったファヒムは、パリに着いた当初は生き生きとしていました。しかし、その行く手にある大きな壁にすぐに気が付きます。

政治難民は難民認定をしてもらわないと滞在証明書が出ず、それがないと滞在国から強制送還されてしまうというのです。

ファヒムの父はこの難民認定を取得するために奔走。ファヒムは、チェスの世界チャンピオンになるという夢に向かって走り出します。

しかし、見知らぬ外国では言葉が通じないと何も出来ません。ファヒムは短い間に努力して、フランス語を理解し話すことが出来るようになりました。

保護された難民収容所からチェススクールに通い、ますますチェスの腕前をあげていくファヒム。

滞在証明書がなければバングラデシュへ強制送還。もちろん、チェス大会出場も出来ません。もどかしい気持ちを抱えながらも、チェスに挑むファヒムがとても頼もしく見えます。

強制送還は避けられるのか

(C)POLO-EDDY BRIERE.

「チェスはゲームではない。盤上の頭脳戦だ」という師匠のシルヴァンの言葉を胸に、人種差別と同じぐらいに根深い難民への行動規制もものとせず、ファヒムは「チェスチャンピオンになる!」という自分の夢へと向かって行きます。

家無し、国無し、不法滞在者になりかけているファヒムが大きな夢をつかみ取るには、特技であるチェスは強い味方。ファヒムの家族はその特技で少年が身を立てることを願っていました。

本作が実話であるだけに、ファヒムの小さな肩にのしかかる家族の夢や希望はとても重いものと思えます。

けれどもファヒムはそれを負担としていません。むしろ自分に課せられた宿命と受け止めています。

ファヒムにとって、チェスチャンピオンになる夢は、将来的には家族をよびよせて一緒に暮らせることであり、元気の出る希望の光だったのです。

この家族を想う優しい気持ちや叩かれても這い上がるハングリー精神は見習うべきものでしょう。

キャッチコピーにもあるように、“その一手に希望を乗せて”いたといえます。一手、一手、勝負に挑むその姿からあふれ出る不屈の魂は、チェス大会の観客をも魅了するものでした。

才能あるチェスプレーヤーをフランスは不法滞在者として除外するのでしょうか。政府のとる対策にハラハラします。

まとめ

(C)POLO-EDDY BRIERE.

映画『ファヒム パリが見た奇跡』の主人公・ファヒムを演じたのは、演技初挑戦であり、彼自身も撮影が始まる約3ヶ月前にバングラデシュから政治亡命者の息子として逃れてきたというアサド・アーメッド。

難民に課せられた状況がにじみ出るような彼の演技が、本作の意図するものと見事にマッチしています。

ファヒムのチェスの師匠・シルヴァンは『シラノ・ド・ベル・ジュラック』などの作品で知られる名優のジェラール・ドパルデューが好演。

シルヴァンの持つチェスへの熱い想いとともに、才能ある者には出来る限りの広き門を求める懐の深さをいぶし銀のような演技で表現し、新人アサド・アーメッドを盛り上げていました。

本作は、自分の手で人生を切り開こうとする少年の物語。常に前を向いて夢を勝ち取ろとするその姿に、勇気と感動を与えられることでしょう。

映画『ファヒム パリが見た奇跡』は、2020年8月14日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開です。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら



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