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Entry 2020/03/29
Update

細野辰興の連載小説 戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】⑧

  • Writer :
  • 細野辰興

細野辰興の連載小説
戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】(2020年3月下旬掲載)

【細野辰興の連載小説】『スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~』の一覧はこちら

第二章「播磨屋錦之助とは誰なのか」

第三節「蓋河プロデューサーのミッション」

 この『戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】』の作者である細野辰興監督と連絡が取れなくなってから早くも2ヶ月が経とうとしている。

勿論、八方手を尽くし心当たりは全て探した。
一説には、新コロナウィルス肺炎で死亡したのではないかと云う噂が流れたと思えば、例のオムニバス映画企画『21世紀のオッサンたち』の撮影に赤字を覚悟でクランクインしたと云う噂も聞こえてきた。が、共に定かではない。

しかし、私としては三月中には第二章第三節をCinemarcheに載せなければいけない。細野辰興監督との刷り合わせ無しで語らなければいけなく成って来たようだ。
刷り合わせ無しに語れることは何だ。何を語れば良いッ。「語り手」に成って未だ日の浅い私は些かパニックに成り、狼狽えた。

「なに言っているの? 舞台のことを、『スタニスラフスキー探偵団〜日本俠客伝・外伝〜』のことを書けば良いじゃないの。」

またしても晴美が忖度なくぶっきら棒に金言を放ってくれた。
地獄で仏。否、知らぬ仏より知っている鬼。否、違う。溺れる者、藁をも掴む。ウン。晴美の言葉は藁ではないが、一番私の心情に近いかも知れない。

ともあれ、晴美の言葉が切欠でやるべきことを思い出した。

 第二章第一節で私は、飯尾明演じるチーフ助監督・綾部が登場する件を省き、風間がトイレに立ち綾部と向井一平演じる脚本家の円山の二人になる処までの舞台を紹介した。
「播磨屋錦之助」と云う固有名詞が飯尾、否、綾部の口を通して初めて舞台で発せられる件だ。

 そこから「小返し」することにしよう。

○ 喫茶店・会議室

円山「ふふふ、ハハハハハ。しかし、凄いことを言
 いだすものだね蓋河さんも。前にも言ったが、俺
 はこういうホン屋だから直せと言われれば直しも
 するさ。誰かにチェンジされたり企画が潰れるよ
 りはマシだからね。譬え名前が作品に載らずとも
 ギャラと印税だけは欲しいからね。しかし、風間
 監督は黙ってはいないだろう。」
綾部「降りたきゃ降りてもいいって。高田健二がマ
 タゾロ監督に色気を出しているんですよ」
円山「亦、高田健二が主演なの!? その上、未だ
 監督やりたがってるのか。こんなことが風間監督
 の耳に入ったら!? 亦、荒れるぞ」
綾部「…僕、帰ります。」
円山「しかし、相変わらず、そんなことまで綾部君
 が監督に伝えなければいけないのか?!」
綾部「僕から伝えたほうが、監督も怒りやすいです
 から。ひとしきり怒らせてガス抜きしてから、そ
 の後で蓋河さんが話すと云うパターンは不変の方
 程式ですよ。けどこの企画を、戦後映画界最大の
 ターニングポイントとなる、播磨屋錦之助と片倉
 健の『日本俠客伝』主演交代事件を全国公開させ
 ようっていうんですから、やっぱり蓋河さんは凄
 いですよ」
円山「オイ、綾部君ッ、君は今、私に洩らした蓋河
 プロデューサーのミッションを忘れたのか?」
綾部「あ、そうだった!?」

 と此処までを第一節で紹介した。

目的は、「播磨屋錦之助」と云う中村錦之助の劇中の役名が初めて発せられる件を読者に紹介するためだった。綾部が登場し風間がトイレに去った直後の描写は省いた。
何故ならば、綾部と円山との間で綾部が蓋河プロデューサーから命じられたミッションが語られていたからだ。蓋河のミッションに付いては新たな節を立てて語りたかったのだ。

作者である細野辰興監督と刷り合わせ出来なくなった今、私が自前で語ることが出来るテーマはこの蓋河のミッションに関連することしかない。
「語り手」を引き受けてから三回目。少し早い気もするが背に腹は代えられない。

省いた綾部と円山の遣り取りは次の様なモノだった。

○ 喫茶店・会議室

円山「・・・綾部君、その様子だと未だ他にも何か
 ありそうだね。」
綾部「では、円山さんは未だ何も蓋河プロデュー
 サーから聴いてないんですか!?」
円山「聴くッて何を? また、恋愛要素を加えてく
 れとでも言って来ているのか?」
綾部「それならまだ良いのですが。」
円山「ほう、まさか、『日本俠客伝・外伝』はヤク
 ザが主人公だから映画館は兎も角、後々、全国地
 上波での放映が出来なくなるッ、だから『二十四
 の瞳』のリメイクに変えてくれ、とでも言ってる
 のではないだろうね。」
綾部「不埒な映画しか撮って来ていない風間監督に
 『二十四の瞳』をオファーする人が居ると思いま
 すか? そうではなくてですね、錦之助の話では
 なくてですね、・・・市川雷蔵の話に変えて欲し
 いと。」
円山「なんと!?」
綾部「そうなんです! 風間監督の市川雷蔵嫌いは
 有名なのに、蓋河さんってそう云う処が所詮、女
 なんですよ。」
円山「ピーッ! レッドカード、それってセクハラ
 だよ。」
綾部「円山さん、よしましょうよ、そういう詰まら
 ないことを言うのは。少なくとも映画人にはコン
 プライアンスは関係ありませんのでッ。」
円山「ふふふ、同期の助監督が次々に監督デビュー
 し取り残され感があるとは言え、流石、助監督歴
 二十年、綾部君も進歩したものだね」
綾部「伊達にチーフ助監督を10年やってませんから
 ね。それに早くデビューすれば良いと言うモノで
 はありませんよ。所詮はどんな作品を創ったか、
 ですのでッ。」

 と云う綾部と円山の遣り取りがあったのだ。

『スタニスラフスキー探偵団』では、細野は、戯曲に「恋愛要素」を加えることを風間達に要請する蓋河をVSとして劇しく描いた。しかも、風間の執拗且つ強かな抵抗に遭い物語がロールプレイへと発展していくと云う構成を取っていた。

今回は、「恋愛要素」導入の様なマイナーチェンジではなく、モチーフを中村錦之助から市川雷蔵に替えろと言って来ると云う設定に昇華させている。これは実は初世・中村錦之助を語る上で正鵠を射ていると言わざるを得ないのだ。
追々、判って来るが、『スタニスラフスキー探偵団〜日本俠客伝・外伝〜』は、錦之助と健さんの話だけではなく錦之助と市川雷蔵のこともサブ・テキストに成っているのだ。

その片鱗を判って頂くためにはもう少し舞台の紹介を進めなければならない。

風間がトイレから戻り、「市川雷蔵バージョン話」を小耳に挟んでしまう処から再開しよう。

◯ 喫茶店・会議室

   風間がトイレから戻ってくる。
   それには気づかぬ円山と綾部の遣り取りが続
   く。
   気づかれぬように黙って聴く風間。
円山「しかし、よりによって錦之助を止めて雷蔵に
 しろとは凄い要請だなッ。雷蔵が『座頭市物語』
 を降りて勝新太郎が代わりに主演したと云う様な
 事実でもあると云うのか!?」
綾部「蓋河さんとしては、雷蔵と同じ年に同じ作品
 でデビューしていながら7年近くも鳴かず飛ばず
 だったカツシンが、『悪名』『座頭市』とヒット
 を飛ばし、それ以降、雷蔵との大映での立場が逆
 転して行く辺りの処をやりたいと。どうやら座組
 みで角川とのタイアップを狙っているらしいんで
 すッ。」
円山「『座頭市』も『雷様』も未だに商売になって
 いるからな」
風間「市川雷蔵がどうかしたって?」
綾部「ああ、監督!?」
風間「ああ、監督!? ってトイレに行ったのは
 知っているんだから、そのリアクションはオカシ
 イだろう。それとも、俺に聴かれては不味いこと
 でも話していたと言うのなら解かるが?」
円山「まあ、そう苛めなさんな。後は蓋河プロ
 デューサーが来るのを待ちましょう。」
風間「綾部、俺のも注文しただろうな?」
綾部「勿論です。前もって人数分の飲み物を注文し
 ておかないと、このスペースは借りられませんの
 で。ブルマンを頼んでおきました。」
風間「綾部、何年俺の助監督をやっているんだ! 
 一昨年から胃酸過多で悩む俺にブルマンが飲める
 と思っているのか?」
綾部「ではカフェ・オレかなにか?」
風間「この店のメニューにはロイヤル・ミルクティ
 は存在しないのかッ。」
綾部「あ、えっと、すぐ変更してきます」
   綾部、出て行く。
風間「蓋河大プロデューサー、来ないつもりじゃな
 いんでしょうね」
円山「全てが済んだ頃にやって来るのが、彼女のや
 り方だろう。」
   そこへプロデューサーの蓋河久子が携帯片手
   にアタフタと入ってくる。
蓋河「(携帯に)何よ、何よその言い方。私を女だ
 と思ってそう云う口の利き方するんだったら全部
 白紙に戻すわよ! 当たり前よッ、令和の世の中
 に相応しくセクハラにはパワハラで対抗するの
 よ!! ・・・だから、その理由を調べてって
 言ってるの。・・・そう、そうよ。・・・今日中
 に」
円山「ほう、今回もまた全てが済まないうちにやっ
 て来ましたね」
蓋河「遅刻のことは言わないで。いちいち弁解する
 のが面倒ですから。それより、どうです。直しの
 話は綾部君から聴いて貰えました?」
風間「何の話だって? 何も聴いてないぞ、まさか
 俺の嫌いな市川雷蔵に関する話じゃないだろう
 な? 綾部、また何か俺に隠しているのか?」
   丁度、戻って来た綾部を睨む。
蓋河「綾部君! 話してくれてなかったのね!?」
綾部「(蓋河に)チーフ助監督がプロデューサーに
 言われたことを右から左に実行するとは限りませ
 んよ。(風間に)そして何でも監督に話すとも限
 りませんよ。お耳に入れない方が良いと判断した
 ら監督の耳に入れないことだってあるのですッ。
 助監督は助ける監督なんですから!」
円山「よ、アヤベ!!」
   綾部、照れる。
蓋河「そんなことだと思ったわ。他の組では名助監
 督と言われている綾部君も師匠の風間監督の前で
 は言うべきことも言えなくなる凡庸な助監督に成
 り下がってしまうのね。デビュー作の話は無かっ
 たことにしてッ。」
綾部「そんなァ!?」
風間「足元を見られるな綾部ッ。そんなコロコロ言
 うことが変わるプロデューサーを当てにしてどう
 する。この『日本俠客伝・外伝』を完成させた
 ら、俺がお前をデビューさせてやる。」
蓋河「その為にも今度こそヒットさせないと。い
 い、『貌斬り』なんて世界上映どころか、否、全
 国四百館どころか、都内は新宿K’s cinemaだけ
 だったのよ。全国でも10館で上映されたかどう
 かなんですからネ。今度こそは全国一斉公開作品
 にして赤字を取り戻すんですから、市川雷蔵とカ
 ツシンでお願いしますッ。」
円山「よ、蓋河!」
風間「今度は恋愛映画の要素は要らないらしい
 な。」
蓋河「全部変化球にしてしまう風間監督には直球の
 恋愛映画は無理だと良く解かったから。でも当て
 たいの、兎に角、当てたいのッ。そのためにも播
 磨屋錦之助と片倉健の話ではなくて『悪名』『座
 頭市』以降の勝新太郎と市川雷蔵の大映の看板ス
 ター入れ替わりの話にしたいの。クライマックス
 をカツシンの『人斬り』の公開初日、すなわち雷
 蔵の死んだ日の話に絞って! 」
風間「冗談じゃない。陰気な市川雷蔵なんか映画に
 出来るかッ。雷蔵とカツシンの『カツライス』
 に、錦兄ィと健さんの『日本俠客伝』に勝るドラ
 マなんかある訳がないッ。」
蓋河「だから~、そこは~、『座頭市』がァ、本当
 は市川雷蔵の為の企画だったッ、とか何とかにし
 て貰ってェ~。」
風間「フザケルな! あくまでも史実に基づき企画
 を立て、調査に調査を加え新たな視点で切り口を
 発見する。これが風間重兵衛の創作の基本なん
 だ。そんな荒唐無稽なことが出来るかッ。虚実皮
 膜と荒唐無稽とは似て非なるモノなのだッ。それ
 に、メジャーでの仕事なんて二度とやる気はな
 い!」
円山「出たァ! 十八番、風間重兵衛の『メジャー
 は二度と御免です!!』宣言!」
風間「嗚呼、今でも忘れることが出来ない『燃え尽
 きたとき』の屈辱ッ。スポンサーの一つでもあり
 モデルだった『マルサン』に忖度した企画プロ
 デューサーから、決定稿に書いてあるラストと違
 うラストに編集を変えられた屈辱ッ。風間は、風
 間重兵衛は死んでも忘れることは出来ないので
 す。プロデューサーと脚本家と打ち合わせして出
 した決定稿。それをなんで最後の最後で真逆の意
 味を持つラストに変えられなければいけないので
 す。やりたかったのは、ピュロスの勝利、だった
 のにッ。メジャーの馬鹿馬鹿馬鹿!! メジャー
 は二度と御免ですッ。」
蓋河「心配しないで、あちらさんも貴方以上にそう
思っている筈ですから。上等じゃないですか、メ
ジャーに頼らず全国400館やってやろうじゃない
ですかッ。」
円山「良いじゃない市川雷蔵。遺作になった『博徒
一代 血祭り不動』、企画会議の一言が奮ってい
る。『俺に鶴田の真似をさせるのかッ、』流石だ
よね。雷様、鶴田浩二を呼び捨てだもの。」
蓋河「そうなのよ。『日本俠客伝・外伝』なんて
 『貌斬り』より酷い企画よ。今や誰も播磨屋錦之
 助のことなんか知らないんですから、ね?」
風間「でも健さんのことは知っている。片倉健の話
 でもあるんだから。健さんがこの作品を足掛かり
 にトップスターへの道を歩み始めたのは歴史上の
 事実なんだ!」
蓋河「いくら片倉健と言っても『日本俠客伝』なん
 て今の若い子は誰も知らないのッ。第一、健さん
 がヤクザ映画に出ていたことすら知らないの
 よ。」
風間「知らなければ教えてやるのが先達たちの仕事
 だろう! 現在はアニメと特撮のジャリ番、キラ
 キラ系の映画しか上映しない三角マークにも嘗て
 は素晴らしい映画を創っていた時代があったんだ
 と云うことを伝えなくてどうするッ。深作欣二監
 督の『仁義なき戦い』シリーズに代表される「実
 録ヤクザ映画」の時代! それ以前の10年間は
 健さん、鶴田浩二、藤純子を主演とした着流しの
 任侠映画の時代! そして、更にその前の10年間
 は戦前からの大スター片岡千恵蔵、市川右太衛門
 の両御大と戦後の若手スター錦之助、大川橋蔵を
 中心に美空ひばりまで加えた時代劇の黄金時代が
 あったことを!!」
蓋河「じゃあ、本質を突くわよ。『貌斬り』は当た
 らなかったけど、面白かった。傑作だったッ。そ
 れは何故か解る? 綾部君」
綾部「勿論、風間監督の脚本力と演出力!」
蓋河「矢張り当分、監督昇進は無理な様ね。イ
 イッ、それは、剃刀で顔を斬ると云う歴史的なア
 クションがあったからよ。そのアクションに色々
 と作劇的にサスペンスや情念を乗せることが出来
 たから面白かったのよ。」
綾部/円山「なんと!?」
蓋河「『日本俠客伝・外伝』に『貌斬り』の顔を斬
 る様な歴史的なアクションがあるの? 演者の、
 役の想いを乗せることが出来るアクションがある
 の? ないじゃない! 役の、演者の情念をアク
 ションで表現出来ないじゃないッ。駄目よ。こん
 な企画、絶対に当たりません。否、面白く成りま
 せん!」
風間「(拍手して)良い話だった。作・演出の私、
 風間重兵衛としては作家冥利に尽きる想いです。
 有難う。しかし、しかし甘いッ。所詮はプロ
 デューサーの浅知恵と云うもの。何故ならば、映
 画監督は作品的勝算なくして企画は立てないもの
 なのですッ。」

 少々、長い引用に成ったが、「100%細野印」と云われた丁々発止の掛け合いの心地よさと、これも細野の手の内の戦後日本映画界を弄る台詞は御楽しみ頂けたのではないかと思う。

「満映」で働いていた映画人引揚者の受け皿として作られた映画製作配給会社の東映。その東映を舞台に日本映画黄金期からの凋落期に当たる昭和39年に焦点を当て、映画『日本俠客伝・外伝』を創ろうと夢見る映画監督、風間重兵衛の前に敢然と立ちはだかる蓋河プロデューサーの台詞は、鮮烈だった。

「『日本俠客伝・外伝』に『貌斬り』の顔を斬る様な歴史的なアクションがあるの? 演者の、役の想いを乗せることが出来るアクションがあるの? ないじゃない! 役の、演者の情念をアクションで表現出来ないじゃないッ。」

戦前の1937年(昭和12年)に松竹から東宝に移籍したことに端を発し、暴漢に美貌の左頬を剃刀で12cmも斬られた長谷川一夫(林長二郎)の悲劇。

1964年(昭和39年)、時代劇の灯を消すまいとヤクザ映画の主演を高倉健に譲り、逆に東映を去る切欠を作ってしまったとされる初世・中村錦之助の悲劇。

この二人に先ず悲劇を齎したのは「移籍」、「主演辞退」と云いう政治的アクションだ。

しかし、映画としてドラマを描く場合、移籍+「顔斬り」と云う具体的な「一瞬のアクション」を持つ長谷川一夫の方が、主演辞退+東映去就と云う「緩慢なアクション」しかない中村錦之助より映画的に描き易かったことは論を待たない。

南千草演じる蓋河プロデューサーにこの台詞を言わせているのだから細野には勿論、企画段階からアクション性で見せる困難さは解かっていたことだろう。

その上で細野が、この題材に挑んだ勝算がどの様なものだったかは、『スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~』を観劇した方にはお解かり頂けると思う。観劇なさってない方は、これからの『戯作評伝』の展開を楽しみに待って頂きたい。

少なくとも、劇中、風間重兵衛も言っている様に、映画監督は作品的勝算なくして企画は立てない、と云う言葉の醍醐味は味わって頂ける筈だ。

 さて、作者である細野辰興監督と連絡が取れなくなったことから恥ずかしながら第二節と第三節は少し取り乱した様だ。
ともあれ、初世・中村錦之助を劇中では播磨屋錦之助とした細野なりの狙いが少しでも解かって頂ければこの章の役目も果たしたことには成る。

と此処まで語って来た処で作者の細野辰興監督からやっと連絡が入った。

「クランクアップしたから刷り合わせでもしないか。」

矢張り、オムニバス映画『21世紀のオッサンたち/謎のオジサン十箇条』を撮っていたのだ。全く映画を撮っている時の映画監督ほど当てに成らない者はない。

高井明の後を受けて第二章だけ「語り手」を引き受けた積りだったが、この流れではもう少し語らざるを得ない様だ。

 明、そう云えば未だ感想が届いていないぞ。

【この節】了

【細野辰興の連載小説】『スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~』の一覧はこちら

*この小説に登場する個人名、作品名、企業名などは実在のものとは一切関係がありません。作家による創作物の表現の一つであり、フィクションの読み物としてご留意いただきお楽しみください。

細野辰興のプロフィール


(C)Cinemarche

細野辰興(ほそのたつおき)映画監督

神奈川県出身。今村プロダクション映像企画、ディレクターズ・カンパニーで助監督として、今村昌平、長谷川和彦、相米慎二、根岸吉太郎の4監督に師事。

1991年『激走 トラッカー伝説』で監督デビューの後、1996年に伝説的傑作『シャブ極道』を発表。キネマ旬報ベストテン等各種ベストテンと主演・役所広司の主演男優賞各賞独占と、センセーションを巻き起こしました。

2006年に行なわれた日本映画監督協会創立70周年記念式典において『シャブ極道』は大島渚監督『愛のコリーダ』、鈴木清順監督『殺しの烙印』、若松孝二監督『天使の恍惚』と共に「映画史に名を残す問題作」として特別上映されました。

その後も『竜二 Forever』『燃ゆるとき』等、骨太な作品をコンスタントに発表。 2012年『私の叔父さん』(連城三紀彦原作)では『竜二 Forever』の高橋克典を再び主演に迎え、純愛映画として高い評価を得ます。

2016年には初めての監督&プロデュースで『貌斬り KAOKIRI~戯曲【スタニスラフスキー探偵団】より』。舞台と映画を融合させる多重構造に挑んだ野心作として話題を呼びました。


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