Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/06/12
Update

映画『シンク・オア・スイム 』マチュー・アマルリックのインタビュー【沈むそして泳ぐ】FILMINK-vol.13

  • Writer :
  • FILMINK

FILMINK-vol.13 Mathieu Amalric: Sinking and Swimming

オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携して海外の映画情報をお届けいたします。


(C)2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

「FILMINK」から連載13弾としてピックアップしたのは、本国フランスで動員400万人突破の大ヒットを記録し2019年セザール賞において最多10部門ノミネート(助演男優賞受賞)を果たしたコメディ映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』の主演を務めたマチュー・アマルリックです。

【連載レビュー】『FILMINK:list』記事一覧はこちら

人生は映画を作ることにある


(C)2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

監督としても活躍するフランスの不思議な名優マチュー・アマルリックは、ジル・ルルーシュ監督の新作コメディ『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』に出演しています。

「私は映画の世界に初めはカメラの後ろの人間、技術スタッフとして入りました。アルノー・デプレシャンが私を俳優の道へ誘ったのですが、その時、既に30歳でした」

アシスタント・ディレクターとしてキャリアをスタートさせ、アルノー・デプレシャンの映画『そして僕は恋をする』(1996)で脚光を浴びたマチュー・アマルリックは語ります。

「私の人生は映画を作ることにあります。それが抗いがたい魅力を持っている時には、俳優としても参加します。生きていくために演技をすることはありません」

正反対にいるジル・ルルーシュとの協業


(C)2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

そんな彼の最新作はジル・ルルーシュ監督作品、2019年Alliance Française French Film Festivalで初公開された『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』です。アマルリックによれば、彼が出演を決めたのはルルーシュとの友情に起因するのだとか。

「我々はリュック・ベッソン監督の『アデル/ファラオと復活の秘薬』(2010)で俳優として共演し、友人になりました。私たちは正反対の人間なんです。二人とも映画界の異なる分野からやってきました。ですから映画がうまくいく理由ではありません…。だからこそ私は彼のトーンを知り、混じり合ってみたいと思ったのです」

アマルリックは芸術性の高い作品に関わる俳優、映画製作者として見なされ評価されていますが、反してルルーシュは商業的な映画人として認識されています。

「最初に、私は感動しました。そしてジル(ルルーシュ監督)に言ったんです。脚本を読む必要はないよ、とにかく私は参加するって。いつ制作を開始するかと尋ねたらジルは10月と答えました。でも私はその時、自分の映画に取り掛からなければならなかったんです。」

アマルリックは当時『バルバラ 〜セーヌの黒いバラ〜』(2017)の製作途中でした。

「そうしたらジルは、君を待つと言ってくれたんです。彼は7ヶ月私を待ってくれました。今思えばなかなかクレイジーなスケジュールなのですが、私は日中『バルバラ』の撮影をし、夜間に『シンク・オア・スイム』に参加しました。私はこの映画『シンク・オア・スイム』の精神の一部は『バルバラ』の編集が影響していると思います」

メダルなんかは実生活にはない


(C)2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』は中年男性たち(ギヨーム・カネ、ブノワ・ポールヴールド、ジャン=ユーグ・アングラードとフランスを代表する俳優、映画監督、コメディアンたちが自らの意思で参加しています)が地元のプールでシンクロナイズド・スイミングのチームを結成するというストーリーです。

「ジルは分別がないような地域社会での物語について考えていました。ジルはアルコール中毒者の役を演じた時にアルコール依存者たちのもとに行き、そこで彼らのあまりの開放的な様子に驚いたそうです。私はその経験が彼に人間性を信じさせたのではないかと思っています。

しかし『シンク・オア・スイム』にあるのは尊敬、友情、愛といった、美を見出すことのできるコミュニティです。もちろん、登場人物たちの試みは嘲笑されるようなものでしょう。ですが私はとても感動的なことだと思います。

私は様々なトーンや色を混ぜ合わせたようなジルのスタイルが好きなんです。コメディでもドラマでもなく、少し苦くてしょっぱい人生の喜びがこの映画にはあります。思うように人生でやり遂げられなかったこと、思い残したことがある人は、年を重ねるごとにただただ心が乾いていってしまう場合もあります。自身の問題を振り返ってみても、体はとにかく衰える一方です。

それでも私たちが映画業界というコミュニティで好きで働く理由もあります。なぜ彼らは物事に挑戦しようとし、続けようとするのか?その問いが映画の一部だからです。しかしメダルなんかは実生活にありません。テレビの中にも、紙の上にもない。でも私たちは皆メダルを必要としています。それは精神的な輝きを持つメダルです。私はそれを描くジルの人間性が大好きなんです」

人が愛するものは暗くて美しい


(C)2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

アマルリックと話をした時、彼はロマン・ポランスキーの新作『J’accuse』の撮影に参加しようとしていました。アマルリックは以前にも『毛皮のヴィーナス』(2013)でポランスキー監督の作品に出演しています。過去の不祥事が今も取り上げられている監督と仕事を共にすることについてどう考えているのでしょうか?

「私たちは今、人は変わることができるのか否かを問う時期にいます。どうやって罪を償うか、あなたはいったい誰か、あなたはどうやってあなた自身になったか。ひょっとすると私たちは変化しないかもしれません。しかし罪は償わなければならないし、被害者に対して何をするのかも問われます。これは非常に大きな問い掛けです。

もちろん私はポランスキー監督と仕事をしますし、したいです。ジルの映画も道徳的完全性は存在しないということを描いています。そして人が愛するものは暗くて美しいのです。私だってあまり道徳的じゃない。人間の狂気の大きさ、広さによく驚かされるものです」

FILMINK【Mathieu Amalric: Sinking and Swimming

英文記事/James Mottram
翻訳/Moeka Kotaki
監修/Akira Okubo(Cinemarche)
英文記事所有/Dov Kornits(FilmInk)www.filmink.com.au

本記事はオーストラリアにある出版社「FILMINK」のサイト掲載された英文記事を、Cinemarcheが翻訳掲載の権利を契約し、再構成したものです。本記事の無断使用や転写は一切禁止です。

映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』の作品情報

【日本公開日】
2019年7月12日(フランス映画)

【原題】
Le grand bain

【監督】
ジル・ルルーシュ

【キャスト】
マチュー・アマルリック、ギョーム・カネ、ブノワ・ポールブールド、ジャン=ユーグ・アングラード、フィリップ・カトリーヌ、ビルジニー・エフィラ、レイラ・ベクティ、マリナ・フォイス、フェリックス・モアティ、アルバン・イワノフ、バラシンガム・タミルチェルバン

【作品概要】
本国フランスで動員400万人突破の大ヒットを記録し、2019年セザール賞において最多10部門ノミネート(助演男優賞受賞)を果たした本作。

人生の折り返し地点を過ぎ、家庭、仕事、将来、etc…で生き悩む8人のおじさんたちが、プールを舞台にイチかバチかの再起に挑む姿を描いたヒューマンドラマです。

実際にスウェーデンに存在する男子シンクロナイズド・スイミングチームをモデルに、俳優としても活躍するジル・ルルーシュが初の単独監督を務めました。

キャストは『バルバラ セーヌの黒いバラ』(2018)、『潜水服は蝶の夢を見る』(2007)のマチュー・アマルリック、『ザ・ビーチ』(2000)のギョーム・カネ、『チャップリンからの贈り物』(2015)のブノワ・ポールヴールド、『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』(1986)のジャン=ユーグ・アングラードなど名俳優陣が揃います。

映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』のあらすじ


(C)2018 -Tresor Films-Chi-Fou-Mi Productions-Cool industrie-Studiocanal-Tf1 Films Production-Artemis Productions

2年前からうつ病を患い、会社を退職して引きこもりがちな生活を送っているベルトラン(マチュー・アマルリック)。

子供たちからは軽蔑され、義姉夫婦からも嫌味を言われる日々をどうにかしたいと思っていたある日、地元の公営プールで「男子シンクロナイズド・スイミング」のメンバー募集を目にします。

途端に惹きつけられたベルトランはチーム入りを決意しますが、そのメンバーは、妻と母親に捨てられた怒りっぽいロラン(ギョーム・カネ)、事業に失敗し自己嫌悪に陥るマルキュス(ブノワ・ポールヴールド)、内気で女性経験のないティエリー(フィリップ・カトリーヌ)、ミュージシャンになる夢を捨てられないシモン(ジャン=ユーグ・アングラード)など皆、家庭・仕事・将来になにかしらの不安を抱え、ミッドライフ・クライシス真っただ中の悩めるおじさん集団でした。

元シンクロ選手のコーチ、デルフィーヌ(ヴィルジニー・エフィラ)のもと、あらゆるトラブルに見舞われながらもトレーニングに励むおじさんたち。

そして無謀にも、世界選手権で金メダルを目指すことになりますが…。

【連載レビュー】『FILMINK:list』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『重ねる』あらすじ感想評価。釣りファン必見!フィッシング・恋愛ラブストーリーの誕生|映画という星空を知るひとよ232

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第232回 『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012)に出演した配島徹也が、自身の経験から着想した完全オリジナルストーリーの映画『重ねる』。 …

連載コラム

映画『ダウンレンジ』感想と考察。スラッシャーとシチュエーションスリラーの融合|SF恐怖映画という名の観覧車13

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile013 『カメラを止めるな!』(2018)の記録的な大ヒットにより、日本でも「低予算映画」への注目度は日に日に高くなっています。 しかし、日本に …

連載コラム

映画『グレートウォー』ネタバレ評価と感想レビュー。第1次大戦の米軍黒人部隊の死闘を描く|未体験ゾーンの映画たち2020見破録24

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第24回 様々なジャンルの映画を集めた劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて実 …

連載コラム

映画『返校』ネタバレ結末感想とあらすじ考察の解説。NETFLIXドラマとのラストシーンとの違いを徹底検証|SF恐怖映画という名の観覧車149

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile149 ゲーム配信サイト「Steam」で一時世界第3位の売り上げを記録し、世界的に話題となったゲーム『返校 Detention』。 この作品は幽 …

連載コラム

『TOCKA[タスカー]』あらすじ感想と評価考察。実話を基にキャストの菜葉菜が‟嘱託殺人”に挑む|映画という星空を知るひとよ152

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第152回 死を決意した男からの嘱託殺人願いをめぐる男女の人間ドラマ『TOCKA[タスカー]』。 もしも誰かから「自分を殺してくれ」と頼まれたらどうしますか?  …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学