連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第22回
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
今回紹介するのは、1956年発行、アメリカのSF作家ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』です。今回、物語の舞台を日本に再構築し、三木孝浩監督より映画化となりました。
発明家のダン・デイヴィスは、信頼していた恋人と友達の裏切りに合い発明品をだまし取られ、冷凍睡眠にかけられてしまいます。
30年後、目覚めたダンが見たものは、テクノロジーの進化と、驚くべき未来の真実でした。ダンは本当の幸せを掴むため、時間旅行へ出かけます。
原作では1970年から2000年へのタイムトラベルとなっていますが、映画化では1995年から2025年への設定になっています。舞台も日本へと移り、どのような時間旅行となるのか注目です。
映画公開に先駆け、原作のあらすじ、映画化で注目する点を紹介します。
【連載コラム】「永遠の未完成これ完成である」記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『夏への扉 キミのいる未来へ』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
ロバート・A・ハインライン
【監督】
三木孝浩
【キャスト】
山崎賢人、清原果耶、夏菜、眞島秀和、浜野謙太、田口トモロヲ、高梨臨、原田泰造、藤木直人
映画『夏への扉』のあらすじとネタバレ
1970年12月3日、天才発明家のダン・デイヴィスは、愛猫のピートを連れ、ミュチュアル生命保険会社を訪ねていました。冷凍睡眠を受けるためです。
これまでダンは、友達のマイルズと立ち上げた会社で、家庭用お掃除ロボットの開発を進めてきました。会社は軌道に乗り、仕事を手伝ってくれた美女・ベルとも婚約。
次なる新商品開発に向け、順風満帆な日々を送っていたのです。共同経営者である友人マイルズと、愛する婚約者ベルによる裏切りに合うまでは。
ある日、マイルズとベルは株主総会と称し、ダンにある提案を持ち掛けます。会社を大きくするためにマニックス財閥の傘下となり、ロボット開発の技術を引き渡すというものでした。
ダンは純粋に発明を続けたいだけでした。人に雇われ大工場の長になり、大量生産をし儲けたとしても、そこには何も魅力を感じません。
「ベルは、僕の気持ちを分かってくれるよね」。ダンの願いも空しくベルは言います。「私はマイルズに賛成よ」。
確かにダンは、ベルに株を譲渡していました。しかし、それは婚約の引出物として渡したもので、会社の経営権を分与したつもりはありませんでした。
そのあと送られてきたいくつかの書類には、いつの間にか自分がサインしたと思われる特許の譲渡証書が入っていました。ダンは、経理担当のベルを信用し、よく確認もせずサインをしていた自分を悔います。
こうしてダンは、信頼していた友と恋人の裏切りに耐え切れず、飼い猫ピートを道ずれに冷凍睡眠を決意したのでした。
「いや、まてよ」。冷凍睡眠を明日に控えダンは、考えを改めます。「このまま何もしないで逃げるのか。勇敢な牡猫ピートに習い、マイルズとベルを問い詰めハッキリさせてやる」。
ダンはマイルズの家に押しかけます。そこには、すでに結婚もしたというベルの姿がありました。いつからこの2人は自分をだましていたのか。腹の中が煮えくり返る思いです。
さんざん罵声を浴びせ問い詰めるダン。逆上したベルが、注射器を取り出しダンに打ちつけます。「ゾンビー・ドラッグ」は、強力な催眠自白剤です。
ダンは、意識が朦朧とする中、猫のピートがベルとマイルズに襲い掛かり、勇敢に引っ搔き回しているのをただ眺めていました。ピートは、どうやら開いていた網戸から外へと出て行ったようです。
怒り心頭のベルは、ダンを冷凍睡眠へと送り込みます。ダンが予約していたミュチュアル生命保険会社では薬がバレてしまうと、偽造の書類を作成しマニックス財団の傘下でもあるマスター保険会社の方へと移しました。
さらにベルは、ダンが所有したままの株券が気がかりでした。ダンは自分に何かあったらと念のため、株券を信頼できる人に郵送していました。
受取人は、リッキィという9歳の女の子です。リッキィはマイルズの継娘ではありますが、猫のピートが唯一懐いた女性でもあります。小さいながらもしっかり者のリッキィをダンも好きでした。
「あなたの株券はどこにあるの?車の中?」。執拗に質問ばかりするベルに、催眠術をかけられたダンは上手く答えることができません。諦めたベルは、強制的にダンを冷凍睡眠に入れました。
それから30年後の2000年。ダンは眠りから目覚めます。驚いたのは、テクノロジーの進化でした。ダンがまさに開発しようとしていた万能ロボットは、人々の日常にすでに溶け込んでいました。
想像よりもはるかに性能もよく、見栄えもスマートです。ダンは、技術者として30年の遅れを受け入れなければなりませんでした。
また、資産を預けた保険会社は倒産し、リッキィの足取りも掴めません。ダンは無一文で、工場の下働きをしながら、2000年をどうにか生きていました。
そんなダンに電話を寄越した人物がいました。なんと、60歳のベルです。ダンは、リッキィの居場所を聞きだそうと、怒りを抑え会いに行きます。
30年前、ベルとマイルズが企んでいたマニックス財閥との契約は、ダンが開発した万能ロボットとその設計図が何者かに盗またことで破棄されていました。それから2年後にマイルズが亡くなっています。
ベルはその後、得意のしたたかさで男を誘惑し続け再婚するも、ドラッグに手を出し、今では醜い老女となっていました。リッキィのことも、なんら覚えていないようです。何事もなかったかのように親し気に誘惑してくるベルに、ダンはとことん嫌気がさしました。
リッキィとの再会を諦めかけたその時、ダンは新聞の冷凍睡眠蘇生者名簿の中にリッキィの名前を見つけます。リッキィもまた20年前、冷凍睡眠を受けていたのです。一緒に暮らしていた祖母が死に、21歳の時でした。
ダンは冷凍睡眠保険会社に問い合わせ、急いでリッキィの足取りを追います。そして、訪ねたユマの役場でリッキィの婚姻届けを見つけます。ダンは、ある決意を胸にトウィッチェル博士の元を訪ねるのでした。
映画『夏への扉 キミのいる未来へ』ここに注目!
1956年に発行された原作『夏への扉』では、1970年に冷凍睡眠に入れられた主人公が、2000年に目覚めるという設定です。
作者のロバート・A・ハインラインは、この物語を書く時すでに14年先の未来を想像していたことになります。
主人公の天才発明家ダンは、家庭用お手伝いロボットの開発に力を注いでいます。ルンバなどAI搭載商品の開発が進む2021年の現在に、読み返しても全く古さを感じさせない作品です。
またこの作品の面白さは、30年後に冷凍睡眠から目覚め、再び過去へ、そしてさらに未来へと戻るタイムトラベルにあります。
ダンはなぜ再び過去へ戻ったのか。決して諦めないダンの行動は、運命に導かれるように本当の幸せへとたどり着きます。
映画化では原作のタイトル『夏への扉』に、「キミのいる未来へ」のサブタイトルがつきました。そしてタイムトラベルの期間が、1995年から2025年の設定になっています。
さらに、舞台を日本に再構築された新しいストーリーでは、どんな未来が待っているのか注目です。
猫のピート
牡猫のピートは冬になると、家にあるいくつもの扉を「開けろ」と、ダンにせがみます。その扉の中に、暖かい夏へと続く扉があると信じているのです。
また、ピートの頭にはワッフル型の傷跡があり、喧嘩でも決して怯むことはありません。舌がピリピリするジンジャエールも大好きです。
最後まで諦めないピートの勇姿に、ダンは同じ男として敬意を払い接しています。そんなピートの存在はダンの人生の選択に大きな影響を与えました。
映画化では、原作には登場しない未来のロボット(藤木直人)が登場します。そして、その未来ロボットが、猫のピートを抱いています。
果たして、猫のピートはロボットになるのか。主人公とピートは一緒に未来への扉を開くことが出来るのでしょうか。
過去への旅
映画では、主人公が行く未来は2025年に設定されています。現在2021年からすると4年後の近い未来です。
原作では1970年から2000年が描かれており、テクノロジーの進化も読みどころのひとつとなっていますが、映画化での重点は別のところにあるように思います。
映画の予告編では、「30年の時を超え、大切な人を救う旅の果て」「すべては一緒に見たい未来のため」というキーワードが登場しています。過去に戻る理由も、原作とは大きく変わっているようです。
まとめ
(
1956年発行のロバート・A・ハインラインのSF小説『夏への扉』のあらすじと、映画化で注目する点を紹介しました。
物語の舞台を日本に再構築し、『キングダム』の山崎賢人を主人公に、『坂道のアポロン』『フォルトゥナの瞳』の三木孝浩監督が映画化した『夏への扉 キミのいる未来へ』。
60年にわたり愛され続けてきた伝説のSF小説が世界初の映画化となり、2021年6月25日より公開されます。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回紹介する作品は『キネマの神様』です。原田マハの同名小説を山田洋次監督が映画化。2021年8月6日から、全国公開が決定しました。
主人公のダメ親父・ゴウ役は当初、志村けんが演じる予定でしたが、昨年逝去されたことで叶いませんでした。かつて志村と同じ事務所でもあった沢田研二が後を引き継ぎ、映画完成となりました。
小説『キネマの神様』は、家族の絆や友情、そして何より映画愛に溢れた感動作です。映画の公開前に、原作のあらすじと、映画化で注目する点を紹介していきます。