連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第5回
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
今回、紹介するのは、2020年3月6日公開の『仮面病棟』です。
人気ミステリー作家・知念実希人の累計発行部数100万部を突破した「病棟シリーズ」から、『仮面病棟』が、坂口健太郎を主演に映画化となりました。
監督は、昨年公開したばかり『屍人荘の殺人』を始め、ドラマ「99.9刑事専門弁護士」などスピード感あふれる演出を得意とする、木村ひさし監督。
ある日、ピエロの仮面を被る凶悪犯に、病院が占拠された。当直医・速水(坂口健太郎)と、怪我を負った女子大生・愛美(永野芽郁)は、密室と化した病院から無事脱出することが出来るのか?
ピエロの正体、犯行の真の目的とは。そして、病院の隠された秘密が暴かれる。
現役の医師でもある知念実希人が描く、医療ミステリー小説『仮面病棟』を紹介します。
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小説『仮面病棟』のあらすじとネタバレ
その晩、外科医の速水秀悟は、先輩医師の変わりに、田所病院の当直バイトを引き受けていました。
田所病院は療養型病院で、入院患者は老衰や寝たきりと意識状態の悪い患者が多く、身寄りのない患者も積極的に受け入れている病院です。
週に1度の当直バイトは、急変する患者がでない限り楽なものでした。その日も秀悟は、看護師の東野良子に自分が変わりに入ることを告げ、当直室で休むことにします。
うとうとしかけた時、外から破裂音が聞こえてきました。東野からの内線電話で、1階に呼び出された秀悟は、異様な光景を目の当たりにします。
そこには、ラバー製のグロテスクなピエロのマスクを被った男と、腹を銃で撃たれた女が横たわっていました。
「こいつを治療しろ」。ピエロは、秀悟に命令します。「あんたが撃ったのか?」。「そうだって言ってんだろ」。
パニックを起こしかけている精神を必死に落ち着かせ、秀悟は女性を手術室へと運びます。看護師の東野と佐々木の助けもあり、どうにか傷口をふさぐことが出来ました。
女性の名前は、川崎愛美と言いました。コンビニ強盗に入ったピエロと、運悪く出くわし事件に巻き込まれたようです。
ピエロは、朝5時までこの病院に立てこもると言い出しました。その時、ピエロを押さえようと、この病院の院長・田所三郎が背後へと迫ります。
しかし、ピエロに気付かれ足を撃たれてしまいました。さいわい、軽くかすっただけでしたが、ピエロの気持ちを逆なでするには十分でした。
「警察に通報したり、ひとりでも逃げ出したら、お前らと入院患者全員殺してやる」。ピエロは、階段に付けられた鉄格子を閉め、2階へと全員を追い出します。
田所病院はもともとは、精神科病院だったこともあり、階段と窓に鉄格子が付いていました。階段を封鎖され、1つあるエレベーターはピエロによって監視されています。
秀悟、愛美、田所、東野、佐々木、そして入院患者たちは、病院に閉じ込められる形となりました。
「朝までの辛抱だ」。田所は、念のため皆の携帯電話を預かると言い、病院内の固定電話の線まで切りだします。
秀悟は、田所院長のやりすぎの態度に戸惑うも従うことにします。心配なのは、巻き込まれた愛美のことでした。
秀悟は、怪我を負いながらも健気に振る舞う愛美に、どこか惹かれていきます。彼女を守らなければ、秀悟は強く思うのでした。
そんな中、入院患者のひとりが痛みを訴えベッドから落ちてしまいます。患者は、左わき腹にあった手術痕が開き、出血していました。
「新宿11」と書かれた患者は、新宿で保護された身元不明の患者11番目という意味です。
秀悟は患者の治療をしようとしますが、そこにやってきた田所に「後は私が責任を持って引き受ける」と、追い出されてしまいます。
秀悟は患者の新しい手術痕が気になり、患者のカルテをこっそりのぞきます。そこには、「以下の7名の患者のカルテを調べろ」と書かれたメモが残っていました。
いったい誰が。ピエロに操られているのか。秀悟は指示された7名のカルテを集めます。分かったことは、全員が緊急手術を行っているということ。そして、その執刀医と看護師が田所と東野、佐々木のコンビによるものでした。
秀悟は愛美の治療の際、使用した手術室に違和感を覚えていました。療養型病院には似つかわしくない最新の手術室には、2台のベッドが並べられていました。
そして、執刀医が田所院長なのは当然としても、看護師が東野か佐々木だけというのは違和感がありました。
当直室で考えを巡らす秀悟と愛美の元に、田所が血相を変えて怒鳴り込んできます。「院長室を荒らしたのは君か」。
5階にある院長室に集まった皆の前に、ピエロが現れます。「荒らしたのは俺だよ」。
「目的は何だ」と問う田所に、ピエロは「金だよ」と答えます。「金を払えば出て行ってくれるのか」。田所は隠し金庫を開け、3千万を手渡します。
「何の金だよ」。ピエロは冷淡な声で訪ねます。「個人的な金だ」と曖昧に答える田所。ピエロは金をもらっても怒りが収まらない様子でした。田所に拳銃を向けます。それを止めたのは、愛美でした。
ピエロは1階へと戻り、皆はただただ朝になるのを待つしかない状況です。そんな時、看護師の佐々木が、入院患者の様子を見に行ったきり帰ってきません。
東野が探しに行くと、佐々木は胸をナイフで刺され死んでいました。
とうとう犠牲者が出てしまいました。秀悟は、不審な行動が多い田所と東野の態度が気になっていました。
「田所院長、あなたは何かを隠していますね。なぜピエロがこの病院に来たのか、知っているんじゃないですか」。田所は頑なに口を閉ざします。
映画『仮面病棟』
【日本公開】
2020年(日本)
【原作】
知念実希人
【監督】
木村ひさし
【キャスト】
坂口健太郎、永野芽郁、内田理央、江口のりこ、朝倉あき、丸山智己、笠松将、永井大、佐野岳、藤本泉、小野武彦、鈴木浩介、大谷亮平、高嶋政伸
映画『仮面病棟』ここに注目!
物語の舞台は、元精神科病院。そこに現れた、ピエロの仮面をかぶった男。ピエロは銃で撃った女・愛美(映画では瞳)を連れてやってきて、病院に籠城します。
たまたま当直医として勤務していた速水秀悟と、院長の田所、看護師の東野、佐々木、入院患者たちが人質となってしまいました。
ピエロの正体とは?犯行の目的とは?果たして、無事に脱出できるのか?
この小説の面白さは、凶悪犯によって閉ざされた病院からの、ただの脱出劇ではないという点があげられます。
ピエロに怯えながらも、秀悟は何かに導かれるように病院の謎へと迫っていきます。
3つの仮面
1つ目の仮面は、ピエロの仮面の男です。コンビニ強盗をし、銃で女を撃ち、入院患者を人質にとり、病院を封鎖する凶悪犯です。
しかし、女を治療させたり、金を受け取っても逃げようとせず、病院内を動き回ります。ピエロの行動は、誰かによって操られているかのようです。
2つ目の仮面は、病院の隠された秘密の仮面です。舞台の病院は、療養型病院として、身元不明の患者をも積極的に受け入れている病院です。
好意的に見れば、入院先が見つからない患者に救いの手をさしのべている良心的な病院と言えますが、その裏にある目的が透けて見えた時、この病院の仮面が剥がれます。
3つ目の仮面。それは、女性の化粧です。「女は化粧によって別人になれるんです」。このセリフは、銃で撃たれた女・愛美(映画では瞳)のものでした。
女が化粧の仮面で隠していた素顔とは?男は女の仮面を剥ぎ、素顔を見ることが出来るのでしょうか。
新宿11
田所病院に入院している患者は、身元不明者も多く、「新宿11」のように、見つかった場所と番号で呼ばれています。
秀悟は、新宿11、池袋8、川崎13を含めた7名のカルテを見るように何者かに指示されます。
これらの患者の共通点が、この病院の秘密に迫る大きな1歩になります。そして、数字を漢字に置き換えた名前の人物が紛れ込んでいます。あなたは、気付くことが出来るでしょうか。
秀悟と愛美(映画では瞳)
秀悟はこの日、たまたま、先輩の変わりに引き受けた当直のせいで、事件に巻き込まれてしまいます。
そして愛美も、たまたまコンビニの近くを歩いていた時に、犯人に銃で撃たれ、病院に連れて来られます。
2人は本当に、事件に偶然巻き込まれた悲劇の男女なのでしょうか。
愛美は、最初から秀悟に親し気に接っしてきます。そして、愛美の可愛らしさに秀悟は次第に惹かれていきます。
秀悟は愛美を助けるために、体当たりでピエロと対峙します。愛美も秀悟の気持ちに応えたかのように見えました。果たして2人の恋の行方は?
まとめ
現役医師でもある知念実希人の人気ミステリー小説『仮面病棟』が、坂口健太郎と永野芽郁の共演で映画化。
繋がらない携帯電話、病院の鉄格子、秘密の倉庫、7人のカルテ、2つの手術台、65人の入院患者、撃たれた美少女。
散りばめられたピースがはまり、そしていくつかの仮面が剥がされた時、衝撃の真実が顔を出す。
究極のノンストップ脱出ミステリー『仮面病棟』。いよいよ、3月6日公開です。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回取り上げる作品は、2020年1月17日公開の『記憶屋 あなたを忘れない』です。
都市伝説と化した、人の記憶を消すことが出来るという「記憶屋」の存在。記憶を消したい者と、消された者。描かれたそれぞれの心の葛藤に、あなたも感動の涙を流すことでしょう。
映画公開後、原作との違いを比較し、作品をより深く考察していきます。
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