連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第19回
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
今回紹介するのは、2020年11月13日公開の『ドクター・デスの遺産』です。人気作家・中山七里の刑事・犬養隼人シリーズから「ドクター・デスの遺産」が映画化となりました。
「どんでん返しの帝王」の異名を持つ、ミステリー作家・中山七里原作の映画『ドクター・デスの遺産』。今回はどんな「どんでん返し」が待ち受けるのか!
終末期の患者ばかり狙われる連続不審死事件が発生。捜査に乗り出した警視庁の犬養と高千穂は、「ドクター・デス」と呼ばれる安楽死を請け負う闇医者にたどり着く。
安楽死は善か悪か。生きる権利と死ぬ権利。禁断のテーマに踏み込んだ問題作を、『神様のカルテ』『そらのレストラン』の深川栄洋監督が映画化。
刑事役を演じる綾野剛と北川景子のバディの相性はいかに!?映画公開にあたり、原作のあらすじ、映画化で注目する点を紹介します。
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CONTENTS
映画『ドクター・デスの遺産』の作品情報
【公開】
2020年(日本)
【原作】
中山七里
【監督】
深川栄洋
【キャスト】
綾野剛、北川景子、岡田健史、前野朋哉、青山美郷、石黒賢
映画『ドクター・デスの遺産』のあらすじとネタバレ
警視庁本部にある通信指令センターに男の子から通報が入りました。「悪いお医者さんが来て、お父さんを殺しちゃったんだよ」。馬籠大地(まごめだいち)君、8歳でした。
始めは、子供のいたずらだと取り次がなかった警察でしたが、刑事部捜査一課の犬養隼人と相棒の高千穂明日香が、話だけでも聞きに行くことになりました。
大地の家に着くと忌中の張り紙がしてあります。父親が亡くなったのはどうやら本当のようです。葬儀式場に赴き、母親にも事情を聞いてみることにしました。
犬養から息子が警察に通報したと聞いた母親は、「父親の死で動揺したのでしょう」と事件を否定します。
大地の父親は肺がんを患い、ここ何年かは自宅療養に切り替えていましたが、急に容態が悪化し医者を呼んだ時にはすでに呼吸が止まっていたとのことでした。
一方、大地から詳しく事情を聞いていた高千穂は、担当医が来る前にもう一人、別の医者が父親を視に来ていたことを聞き出します。
母親と息子の証言がまるで相違していました。犬養は大地の言葉を信じ、父親の遺体を半ば強引に司法解剖へ持ち込みます。
結果は、心臓疾患であることには違いありませんでしたが、血液から異常に高いカリウムが発見されました。
そして、近所の聞き込みや防犯カメラから、大地の証言通り、もう一人の医者の存在が明らかになります。
大地の母親に改めて事情徴収をする犬養と高千穂。母親が明かした真実は、驚くものでした。
終末期患者に安らかに苦痛のない死、つまり安楽死を20万円で請け負う医師が存在したのです。その名も「ドクター・デス」。
ドクター・デスへの依頼は、インターネットのサイトで行われていました。安楽死させたい人の病歴を記し、本人の同意をあることと安楽死の選択を後悔しないかという条件を承認し契約が成立します。
サイトの訪問者数はもはや2000人を超えていました。今回の馬籠家の父親殺しは氷山の一角に過ぎない!?
2年前からネット上に現れた「ドクター・デスの往診室」は、海外のサーバを複数経由させログを改ざんされており追跡は不可能でしたが、犬養と高千穂はサイバー犯罪対策課の協力を得て、サイトのコメント欄から依頼人の目星をつけ当たっていきます。
ドクター・デスは、安楽死を募っているのではないと宣言していました。実際、依頼人と思われる人たちには、家族の中に終末期患者がおり、痛みに苦しみ治療費もままならず、安楽死を望む患者ばかりでした。
始めに訪れたのは、増渕耕平。長女の桐乃はサイト訪問の半年後に亡くなっています。
耕平はドクター・デスに依頼したことをすんなり認めました。娘の桐乃は、全身性エリマトーデスという難病で激痛と絶望の中、鬱も患い「死にたい」と繰り返すようになっていました。
安らかで苦痛のない死。増渕は娘の願いを叶えてやりたい一心でドクター・デスのサイトへたどり着きます。
しかし増渕は、「桐乃の死はドクター・デスによる安楽死ではない」と断言します。「容態が急変した桐乃は、それはそれは苦しみながら死んでいきました。もっと早くドクター・デスにお願いしていたら…」。増渕は両手で顔を覆います。
病死だと思われていたものが実は第三者による安楽死だった。馬籠家の事件が報道され、ドクター・デスの存在が世間一般にさらされることとなりました。
世論は真っ二つに割れます。増悪や金銭目的ではなく、終末期患者の苦痛を緩和するための殺人。ドクター・デスは連続殺人犯だという者がいる反面、終末期医療の必要悪として擁護する声も上がりました。
犬養と高千穂は、その後の捜査でドクター・デスと接触した何人かの依頼人に事情聴取するも、ドクター・デスの特徴さえも掴めずにいました。
誰もが口を揃えて言うのです。「印象がないんです。頭頂部が禿げていたのは覚えているのですが、どこでも見かけるような顔でした」。医師免許を持つ全国の医者の中からも見つけ出すことは出来ません。
犬養はある危険な賭けにでます。それは、自分が依頼人となりドクター・デスをおびき出すという作戦です。
実際、犬養には病気療養中の娘・沙耶香がいました。沙耶香は腎不全を患い尿毒症の透析を続けていました。
犬養は、ドクター・デスのサイトに書き込みを残します。警察官が違法行為を切望することへの葛藤。仕事より家族の絆を大切にしたいということ。犬養は、沙耶香が入院している病院こそ警察病院と嘘を付きましたが、娘のことを思う父親の心境を綴ります。
犬養が思い描くドクター・デスの人物像はこうでした。自信家で慎重、自分の行為を正義と信じ疑わず、他人の悲しみを嗅ぎ取るのに敏感な男。目立たない風貌の下に秘めた悪魔性を持つ男。
翌日、ドクター・デスからの返信がありました。ドクター・デスは娘の症状を見舞う素振りをみせながらも、決行の日を告げてきます。
決行の日がやってきました。犬養は警察病院でドクター・デスを待ちます。しかし、ドクター・デスは時間になっても現れません。「やられたぞ」。班長からの連絡が入ります。
沙耶香が実際に入院していた帝都大付属病院から、「謎の郵便物が沙耶香宛に届いた」と連絡がありました。中身は点滴パックに入れられた塩化カリウム製剤でした。
病院でその点滴パックをそのまま使うようなことはなかったものの、明らかにこれは脅しです。
娘をおとりにしたばかりか、危険な目に合わせてしまった。犬養は父親として動揺する気持ちを抑えることが出来ません。
事件が動き出したのは、ドクター・デスへの依頼人のひとり、法条英輔の証言によるものでした。
ドクター・デスの顔はやはり印象に残っておらず似顔絵の協力も無理だが、付き添いの女性の看護師なら顔を覚ているというのです。
そうです。ドクター・デスには付き添いの看護師が同行していたのです。さっそく似顔絵を作成し、各地のナースセンターに登録されている潜在看護職員の中から徹底的に探し出していきます。
その看護師は雛森めぐみ、37歳でした。めぐみは、5年前勤務していた病院が潰れ、それから医療業務には携わっていないということでした。
「これは連続殺人事件です。事情を知らず手伝っただけであっても共犯者になりますよ」。犬養は詰め寄ります。
「し、知らなかったんです」。2年前、ネットの求人広告で診療補助のバイトを見つけためぐみは、往診がある時だけ先生に呼び出され、終末期患者の家を訪問し緩和ケアの補助をしていたと証言します。
「安楽死を招くものだとは気付かなかったのですか?」犬養の質問に、めぐみは「これでも看護師として働いていたんです。しかも、そんな低額で依頼を受けるなんてありえません」。
めぐみもまた、被害者なのかもしれません。「先生の素性はご存じですか」。「名前だけなら。寺町亘輝と名乗っていました」。
その後も雛森めぐみへの事情聴取は続けられましたが、寺町亘輝に関する他の情報は何一つ得られませんでした。
犬養は、ドクター・デスの依頼人の中で、気になる事件がありました。それは、化学工場の事故で大火傷を負い入院していた安城邦武の事件でした。
完璧主義者にとわれるドクター・デスの安楽死の中で、安城邦武の場合だけは昏睡状態にしなかったことで、最後まで苦しみ死んでいきました。安楽死とはとても言えない状態でした。
犬養は、この件についてもう一度、ドクター・デスとコンタクトを試みます。案の定、ドクター・デスからの返信が届きました。
「安城の依頼は受けていない」。それがドクター・デスからの回答でした。「わたしは敬愛するジャック・ケヴォーキアンの方式を継承し、塩化カリウム製剤を注入する前には必ずチオペンタールで患者を昏睡状態にさせています。患者本人が安楽な状態で死に至らなければ、それは安楽死ではなくただの殺戮だからです」。それは丁寧な返答でした。
ドクター・デスからの証言もあり、改めて安城の事件を洗いなおしてみたところ、ドクター・デスの安楽死を模倣した殺人であることが判明します。犯人は安城の職場の上司で、自分のミスを安城に擦り付け、口封じのための犯行でした。
犬養はドクター・デスの安楽死へのこだわりに、医療分野のスペシャリストとしての姿を重ねていました。そして、自分の尺度で突き進む「はみ出し者同士」であることに少なからず共感していたのかもしれません。
「まさか毒された訳じゃあるまいな」。班長の麻生は、犬養に釘を刺します。「どうしたんですか、犬養さん。弱気じゃないですか。腰が引けるのはやっぱり沙耶香ちゃんを狙われたから…」。高千穂も相棒の異変に不安を覚えます。
映画『ドクター・デスの遺産』ここに注目!
ミステリー作家・中山七里原作『ドクター・デスの遺産』。「ドクター・デス」とは、1980年代に実在したアメリカ人医師ジャック・ケヴァーキアンに付けられた呼び名です。
彼は、積極的安楽死の肯定派で、終末期患者を苦痛から救うべく自殺の手助けをし始めます。関わった人数は、なんと130人以上。
1999年には殺人犯で逮捕となりますが、全米が安楽死の賛成派と反対派に別れ、激しく議論を戦わせる事件となりました。
日本では安楽死は殺人罪に当たります。実際に日本でも医師が担当の末期患者に筋弛緩剤を投入し、有罪判決を受けた事例が何件かあります。海外では、スイス、オランダ、ベルギーなど安楽死が許されている国も存在します。
人間はどこまで生かされるべきなのか。末期や難病患者が本人の意思で安楽死を選択できるのかは、国の価値観によるところが大きいようです。
この物語のテーマでもある「生きる権利」と「死ぬ権利」。日本では特にタブーとされる「安楽死」に果敢に切り込んだ作品です。
ひとりひとりがこのテーマに向き合わなければならない時が、すぐそこまで来ているのかもしれません。
犬養、高千穂の凹凸コンビ
原作での、高千穂明日香(北川景子)は婦警というよりは保育士のような雰囲気の女性で、生活安全課を志望していたのに捜査一課に回されたという女性刑事です。
相棒である犬養毅(綾野剛)刑事は、鋭い洞察力で事件の匂いを嗅ぎつけ、ひとりで突っ走る、はみ出し刑事。高千穂は、振り回されてばかりです。
犬養と高千穂の凹凸コンビが、お互いの苦手な部分を補い合って事件解決へと奮闘する様が面白さのひとつになっています。
映画化で、北川景子演じる高千穂は冷静沈着な分析型の刑事となっています。破天荒で直感型の綾野剛演じる犬養刑事とは両極端な設定です。
北川景子と綾野剛の共演が生み出した、映画化ならではの新しい犬養・高千穂バディの相性に注目です。
死との向き合い方
「安楽死」というテーマを取り扱った今作は、誰もが直面する死について考えるきっかけを与えてくれます。
もし自分が終末期患者だったら、もし自分が苦しむ家族を見守る立場だったら、もし自分の目の前で死を願う者がいたら、自分だったら…。
また、クライマックスで明かされる、ドクター・デスの犯行の裏にある悲しい物語。一見残酷なサイコキラーと思える犯行にも、ひとつの信念がありました。
犬養は、最後まで刑事という立場と父親という立場の間で揺れ動きます。世の中には、法では解決できない事柄が存在します。
法で裁いてしまうのは簡単なことかもしれませんが、当事者にしか分からない心の葛藤は裁くことが出来ません。
安楽死は善なのか悪なのか。命の尊さとは。この問いこそが、ドクター・デスが残した遺産なのかもしれません。
新米刑事・沢田圭
原作では登場しない人物がいます。新米刑事の沢田圭(岡田健史)です。原作の高千穂のやんわりした雰囲気を彼が担当するのか。また、事件解決にどのように関わってくるのか。
演じるのは、『中学聖日記』の黒岩役、『MIU404』では情熱のある刑事役と、話題作への出演も続く注目の若手俳優・岡田健史です。
綾野剛と北川景子のベテランバディの間で、新米刑事・沢田がどこまで活躍するのか注目です。
まとめ
人気ミステリー作家・中山七里の刑事・犬養隼人シリーズ「ドクター・デスの遺産」を紹介しました。
警視庁捜査一課NO.1コンビが挑む、安楽死を手口にする連続殺人犯「ドクター・デス」の正体とは!?その医者を追ってはいけない!
綾野剛と北川景子のコンビがおくる、クライムサスペンス映画『ドクター・デスの遺産』は、2020年11月13日、全国一斉公開です。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回紹介する作品は2020年11月6日公開の映画『おらおらでひとりいぐも』です。
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