連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第111回
嗅覚を失った女性刑事と、猟奇的な犯行を繰り返す天才調香師の、奇妙な関係を描いたドイツのミステリー映画『パルフュメア 禁断の調香』。
普段の生活の中で、嫌でも意識してしまう「香り」をテーマにした本作。
臭いを感じない刑事サニーと、臭いへの異常な執着心を持つ調香師ドリアンの、時に支え合い時に敵対する、奇妙な関係を描いた異色の作品です。
善悪を越えた特別な感情が渦巻く、本作の魅力をご紹介します。
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CONTENTS
映画『パルフュメア 禁断の調香』の作品情報
【公開】
2022年公開(ドイツ映画)
【原題】
Der Parfumeur
【監督・脚本】
ニルス・ビルブラント
【キャスト】
エミリア・シューレ、ルートビヒ・シモン、ローベルト・フィンスター、ソルベーグ・アルナスドッティル、アンネ・ミュラー、アウグスト・ディール
【作品概要】
48カ国語で翻訳され、2000万部以上の売上を誇っている、パトリック・ジュースキンのベストセラー小説「香水 ある人殺しの物語」を、オリジナルのアレンジで映像化。
主人公の嗅覚を失った女性刑事サニーを、『LOST MEMORY B7』(2015)のエミリア・シューレが演じています。
監督はドイツでTVドラマや短編映画を数多く手掛けて来た、ニルス・ヴィルブラント。
映画『パルフュメア 禁断の調香』のあらすじとネタバレ
新たな街で警察官として働き始めたサニー。
サニーは、幼い頃に体調を崩した際、治療が遅れたことが原因で嗅覚を失っていました。
サニーは、警察官としての仕事を開始しながら、同僚のユーロと愛し合うようになります。
ですが、ユーロには家族がいる為、サニーはユーロと不倫関係になります。
サニーが着任して数日後、皮膚と頭皮が剝がされた状態の、女性の死体が見つかります。
その女性は、サニーが新たな街に向かう途中、ヒッチハイクをしていた若い女性でした。
サニーは気分が落ち込みますが、皮膚と頭皮が剝がされた、女性の死体が他にも見つかり、連続殺人事件に発展します。
サニーは捜査を続けますが、犯人に関する進展が無く、捜査規模が縮小されていきます。
さらにユーロから「家族を大事にしたい」と、別れを告げられたサニーは、辛い現実から逃れるように、連続殺人事件の捜査を独自に行います。
独自捜査の末、レックスと言う女性に辿り着いたサニーは、単身レックスの隠れ家に乗り込みます。
レックスを逮捕したサニーは、その場にあった香水を体にかけます。
逮捕の現場に駆け付けたユーロは、サニーが身につけた香水の香りに欲情し、その場でサニーを抱きます。
映画『パルフュメア 禁断の調香』感想と評価
「嗅覚」をテーマにした異色のサスペンス
女性刑事のサニーと、連続殺人事件の黒幕であるドリアンとの、異常な関係性を描くサスペンス『パルフュメア 禁断の調香』。
サニーとドリアンは、刑事と犯罪者と言う「追う者と追われる者」の関係ではあるのですが、それ以上に2人を繋ぐキーワードが「嗅覚」です。
サニーは幼少期の時の病気が原因で、嗅覚を失っています。
それでも、気にすることなく生きて来たサニーですが、子供を妊娠したことで、嗅覚に関する意識が変化します。
嗅覚を取り戻す為、サニーが頼ったのは、天才調香師のドリアンです。
ドリアンは「理想の香水」を作る為、レックスという殺人鬼を操り、香水に必要な素材である、女性の皮膚や頭皮を集めている犯罪者です。
刑事であるサニーが犯罪者を頼るのは、普通であれば考えられないことですが、違和感なく物語が進むのは、サニーのキャラクターの特異性にあります。
サニーは刑事ですが「正義感」や「警察としての使命」で動いている訳ではありません。
連続殺人を捜査しながら、職場の同僚ユーロと不倫関係となり、ユーロと別れた寂しさを紛らわす為に、レックスを独自に捜査します。
サニーは全ての行動が感情的で、良くも悪くも人間らしさが強いキャラクターです。
だからこそ、自身が子供にふさわしい母親になることを最優先し、例え連続殺人事件の首謀者と知っていても、嗅覚を取り戻す為に、ドリアンに接触したのは自然な流れのように感じます。
刑事と犯罪者の関係を越え、嗅覚が繋げたサニーとドリアンの、奇妙な関係性が本作の主軸となっていきます。
臭いを通して問われる「人間らしさ」
サニーがドリアンに接触して以降、2人の過去が次第に明らかになります。
2人に共通するのは、両親に愛されなかった過去で、サニーは幼少の頃に、風邪で体調を崩した際、両親の看病を受けることなく放置されたのが、嗅覚を失う原因となります。
また、ドリアンも、生まれつき異常な体臭を放っていたことが、調香師を目指すキッカケとなります。
ドリアンの体臭は母親さえも耐えられず、ドリアンは両親からまともに愛されることなく育ちました。
その頃の辛い経験から、ドリアンは両親に愛される為に、究極の香水を目指すようになったのです。
ですが、香水の為に女性を殺害し、皮膚や頭皮を材料として集める、ドリアンからはすでに狂気しか感じません。
結果的に、牧師である父親に「悪魔」と恐れられ、ドリアンが求めた両親の愛から、遠のいていきます。
臭いを感じることができなくなったサニーは、母親になる為に、犯罪者であるドリアンと生活を共にするという、普通ではない行動に出ますが、逆に臭いを過剰に感じるドリアンも、自身を苦しめていたのは臭いでした。
我々が生活をする中で、当たり前のように感じている臭いは、人や物、料理などの印象を左右する、重要な要素でもあります。
『パルフュメア 禁断の調香』では、この嗅覚が狂ってしまった人達を通して「人間らしさ」を問いかける、奇抜ながら奥の深い作品でした。
まとめ
あらためて『パルフュメア 禁断の調香』を観て感じたのは、臭いを感じない「映画」と言う形で、嗅覚をテーマに物語を進めることの難しさです。
それでも、監督のニルス・ビルブラントは、俳優の演技やカメラワーク、アート的な画面作りなどで、臭いを視覚的に感じる工夫をしています。
視覚と聴覚で楽しむ「映画」で、嗅覚を刺激するのは不可能に近いのですが、視覚的に臭いを表現した本作は、かなり挑戦的な作品と言えます。
サニーやドリアンのキャラクターも、一筋縄ではいかない面白さがあるので、変わり種のサスペンス作品として、是非おススメしたい作品です。