連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第75回
今回取り上げるのは、2022年11月11日(金)から新宿シネマ・カリテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショーの『ランディ・ローズ』。
80年代ヘビー・メタルシーンに多大な影響を与えたギタリスト、ランディー・ローズの25年の生涯をたどります。
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『ランディ・ローズ』の作品情報
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
Randy Rhoads: Reflections of a Guitar Icon
【監督・製作・製作総指揮】
アンドレ・レリス
【製作】
ジェシカ・ベネット
【脚本・編集】
マイケル・ブルーイニング
【撮影】
リッチ・バーマン
【キャスト】
ランディ・ローズ、オジー・オズボーン、ドリュー・フォーサイス、エドワード・ヴァン・ヘイレン、ルディ・サーゾ、フランキー・バネリ、ジョージ・リンチ、ゲイリー・ムーア、ダグ・アルドリッチ、ジョエル・ホークストラ、ブルース・キューリック、ドゥイージル・ザッパ
【ナレーション】
トレイシー・ガンズ
【作品概要】
25歳の若さで他界したクワイエット・ライオット、オジー・オズボーン・バンドの初代ギタリスト、ランディ・ローズの栄光と悲劇をたどったドキュメンタリー。
アメリカの伝説的ヒップホップグループN.W.Aの真実を暴くドキュメンタリー『N.W.A & EAZY-E:キングス・オブ・コンプトン』(2016)のアンドレ・レリスが監督を務め、貴重なライブ映像や本人の肉声インタビュー、プライベートショットなどを通してその軌跡を振り返ります。
オズボーンや同時代に活躍したエディ・ヴァン・ヘイレン、ランディの家族のインタビューも収録。L.A.ガンズのトレイシー・ガンズがナレーションを担当します。
『ランディ・ローズ』のあらすじ
1980年代、端正なルックスと華麗な演奏で多くのファンを魅了したランディ・ローズ。
自身のバンドであるクワイエット・ライオットのプロデビューは日本のみで、全米デビューは果たせなかったものの、その後オジー・オズボーン・バンドのギタリストに抜擢されたことで転機が訪れます。
オジーとランディの相反する個性は強烈な化学反応を起こし、ランディは瞬く間にスターの座へと駆け上がります。しかし、人気絶頂期の全米ツアー中、突然の悲劇が彼を襲うのでした…。
カリスマとオーラをまとった伝説のギタリスト
1956年に、カリフォルニアのサンタモニカで音楽家の両親の元で生まれたランディ・ローズは、離婚した母ドロレスが経営する音楽学校で6歳からギターを学びます。
貪欲だったランディは、フォーク、クラシック、ロックなどさまざまなジャンルの音楽を聴き込んでギターの弦を鳴らしていくうちに、「すぐに教えることがなくなった」と音楽学校の先生が嘆くほど卓越したテクニックを会得。
中学生になると、友人でベーシストのケリー・ガルニと一緒にバンド活動をスタート。
73年にヴォーカルのケヴィン・ダブロウ、2年後にドラムのドリュー・フォーサイスが加わり、ハードロックバンド、クワイエット・ライオット(以下QR)が結成されます。
小柄で細身の体ながらも、繰り出されるパワフルと繊細さを融合したリフに、「カリスマ性があった」(ケリー)、「オーラに満ち溢れていた」(ドリュー)と、元メンバーが述懐するほどのランディの存在感。アーカイブに遺された彼のライブ映像は、今観ても衝撃を受けることでしょう。
メジャーに羽ばたき、逝った天使
ケヴィンの野太い歌声と激しいランディのギターのシャウトが引き金となり、全米各地のライブ会場でトラブルを起こすも、徐々に知名度を上げていったQRは、やがてメジャーレコード会社との契約を目指します…が、なかなか決まりません。
ライブでの集客力はすさまじいのに、レコード契約に至らないジレンマ。
バンド結成から3年後の78年、世界中のレコード会社に楽曲を送っていたQRは、ようやく日本のCBSソニーとレコード契約を締結。しかしながらドリューが語るそのデビュー経緯は、日本人からしたらなんとも苦笑するしかありません。
QRのメンバーたちは、自分たちがアメリカで契約を取れなかったのは、70年代末期から80年代初頭の音楽界の主流にそぐわなかったからと考察します。当時はゴーゴーズのようなニューウェーブ、ディスコソングがヒットチャートを占めており、ハードロックは受け入れられなかったのだと。
ミュージシャン、特にバンドは人気の頂点を極めると、メンバー間にさまざまな確執が生じて解散に至るケースが多々ありますが、QRの悲運は、その確執が頂点を極める前に生じてしまったことでした。
そしてランディも、オジー・オズボーン・バンドへの抜擢を機にQRを抜け、メンバーとは別の道を進むことに。「ある意味で裏切りだよね」、「ケヴィンとの曲作りに疲れたせいだと思う」と語るドリューの表情からは、ランディに去られたことへの複雑さと寂しさの両方を感じさせます。
オジー・オズボーン『ミスター・クロウリー<死の番人>』
“闇の帝王”を自称するオジーと対比するかのように、“天使”に喩えられたランディ。陰と陽、水と油のような両者は奇跡のような融合をはたし、一気にメインストリームへと上り詰めます。
念願だったメジャーの道にようやく羽ばたいた天使。ですが1982年3月19日、突然の飛行機事故により、本当に天使となってしまうことに…。
天使を失った闇の帝王の思いは今も変わっておらず、2019年11月にランディの遺品が盗まれた際には、犯人に関する情報提供者に25,000ドル(約270万円)を支払うと発表したり(遺品の大半は12月にゴミ収集箱から発見)、ツイッターでは頻繁にランディの画像をツイートしたりしています。
オジー・オズボーンのツイッター
Happy Birthday Randy
You Are Forever Missed
📸: @RossHalfin pic.twitter.com/MPqjRTq27r— Ozzy Osbourne (@OzzyOsbourne) December 6, 2021
永遠のギターアイコン
本作を観た率直な感想は、ランディ・ローズは伝記ドラマの題材としても魅力的な人物ということ。
ライブでは刺激的なギタープレイを披露するかたわら、プライベートではテクニック向上のためクラシックを学び続けていたという一面も興味深く、レコード契約を勝ち取ろうとQRが試行錯誤するエピソードなどは実にドラマ向き。
母ドロレスの音楽学校で才能を開花させたという点で、エルヴィス・プレスリーやジョン・レノンのように「ミュージシャンは母性によって生まれる」説を裏付ける作劇も可能でしょうし、なによりも夭折で存在が神格化されていることが大きいです。
今年2022年に没後40年を迎えたランディですが、彼のギタープレイを手本にするフォロワーは後を絶ちません。それはエンドクレジットを観ても明らか。
生前、プロになってからも母の学校でギターを教えていたというランディ。死してなお、天使は永遠のメンター(指導者)にして、ギターアイコンであり続けます。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
2010年代からは映画ライターとしても活動。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)