連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第68回
今回取り上げるのは、2022年6月10日(金)から新宿シネマカリテほかにて全国順次公開の『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』。
365日、毎日映画を観て過ごすスコットランドの映画オタク監督が、2010年から21年にかけて製作された映画111本を、独自の視点でひも解きます。
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CONTENTS
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』の作品情報
【日本公開】
2022年(イギリス映画)
【原題】
The Story of Film: A New Generation
【監督・脚本・ナレーション】
マーク・カズンズ
【製作】
ジョン・アーチャー
【製作総指揮】
クララ・グリン
【編集】
ティモ・ランガー
【作品概要】
20年以上のキャリアを持つスコットランドのドキュメンタリー監督マーク・カズンズが、タイムズ紙にて“映画について書かれた本の中で最も素晴らしい本”と評された自著「The Story of Film」をベースに、2011年に同名テレビシリーズを制作。
それから10年後、『ようこそ映画音響の世界へ』(2019)を手がけたイギリスの製作会社DOGWOOFと共同の元、映画版を制作。
2010年から21年にかけて公開された111本の世界各国の映画に焦点を当て、その内容や制作背景をマルチにひも解きます。
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』のあらすじ
これまで観た映画は1万6000作品以上にも及ぶという、スコットランドのドキュメンタリー監督マーク・カズンズ。
そのカズンズ自らナレーションを務め、『アナと雪の女王』(2013)、『ジョーカー』(2019)といったメジャー作品から、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督作『光りの墓』(2015)、『グッド・タイム』(2017)などのインディペンデント作品、はては日本映画の『万引き家族』(2018)などなど、ジャンルを問わず選出。
制作に6年の歳月を費やし、独自の視点から近年の映画史をたどっていきます。
究極の映画オタクの“映画深化論”
2011年のイギリスで、とあるドキュメンタリーのテレビシリーズが製作されました。
スコットランドでドキュメンタリー監督として活躍するマーク・カズンズが手がけたその作品『ストーリー・オブ・フィルム』(日本では映画配信サイトJAIHOで配信中)は、19世紀末の草創期から2000年代に至る映画120年の歴史を、数多くの名監督、名優へのインタビューや膨大な数の映画の印象的なシーンを引用し構成。
全15章・全編900分以上にも及んだこのドキュメンタリーは、映画史を新しい視点で紐解こうとする試みに加え、ユニークな作品選びや編集のセンスも評判となり、世界中の映画ファンの支持を得ました。
まさに究極のシネフィル(映画オタク)といえるカズンズ。ですが彼の探求心は、テレビシリーズ制作から10年を経た現在も、尽きることはありませんでした。
本作『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』は、テレビシリーズの映画版として、2010~2021年の11年間に制作された映画111本に着目。社会情勢の変化やテクノロジーの進化とともに、映画を取り巻く環境や新たな表現手法の出現を考察した、最新の映画深化論となっています。
21世紀を代表するアクションとは?革新的なホラーとは?
本作に登場する111本は、ハリウッド・メジャーからインディペンデント資本のアメリカ映画から、インドやアラブ諸国、アフリカ、エチオピア、南アメリカ、中国、韓国、そして日本といった世界各国の作品をピックアップしており、取り上げるジャンルやテーマも多種多様。
「365日、毎日映画を観ている」と豪語するカズンズの選定基準にあるのは、独自の批評的視点です。
冒頭での「『ジョーカー』と『アナと雪の女王』の共通点」を皮切りに、「21世紀のアクション映画は、トーンや視覚的嗜好や色分けが革新的な作品が多い」として、そのすべてが詰まっていると断言する作品を1本挙げます。
そのほか、「21世紀を代表する社会の崩壊を描いた映画2本」の共通点や、「独特の時間感覚が冴える革新的なホラー」、「GoPro、スマートフォンといった新世代カメラを先鋭的に取り入れたアクション」、または「紛争地区で撮られた緊迫のドキュメンタリー」などなど、彼ならでの考察を「映画言語の拡張」、「我々は何を探ってきたのか?」という二部構成で検証していきます。
映画を“冒険”せよ
新型コロナウイルスのパンデミックは、映画業界に大打撃を与えました。ただ逆に言えば、配信サービスの飛躍的な普及やSNSや映画キュレーション(まとめ)サイトの活用で、ステイホームによって映画に触れる機会が増えたという考え方もできます。
カズンズ監督は語ります。
知らない名前の監督を聞けば、その監督のことを調べたくなる。聞いたことのない作品や、新しい考えを持った監督を見つけること。それは、ぼくにとって冒険の旅のようなものなんだ。
コロナという未曾有の体験は、むしろ映画という名の冒険の魅力を再認識させてくれたのかもしれません。
新たな冒険の指針が111も詰まっているという点で、本作はいわば、究極のキュレーション映画。
111本の中には日本未公開作も含まれているため、それらすべてを観ているという方はおそらく皆無でしょう。また日本公開作でも、未見という方もいるはず。
本作をきっかけに、未知の冒険に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
2010年代からは映画ライターとしても活動。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)