連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第62回
今回取り上げるのは、2021年9月24日(金)より、新宿シネマカリテ・ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開の『素晴らしき、きのこの世界』。
本作は、きのこ・菌類の秘めたる力に迫ったドキュメンタリー映画。「タイムラプス映像のパイオニア」と言われる映像作家ルイ・シュワルツバーグが手掛けました。
きのこ・菌類の秘めたる力に迫った、驚異の映像美が話題の一本です。
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映画『素晴らしき、きのこの世界』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Fantastic Fungi
【監督】
ルイ・シュワルツバーグ
【脚本】
マーク・モンロー
【ナレーション】
ブリー・ラーソン
【キャスト】
ポール・スタメッツ、マイケル・ポーラン、ユージニア・ボーン
【作品概要】
ナショナルジオグラフィックやディズニーネイチャーのドキュメンタリー作品を手掛け、「タイムラプス映像のパイオニア」と言われる映像作家ルイ・シュワルツバーグが、きのこ・菌類の秘めたる力に迫ったドキュメンタリー映画。
アカデミー賞受賞作『イカロス』(2017)や『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』(2018)のマーク・モンローが脚本を担当。大のきのこ好きという女優のブリー・ラーソンが、ナレーションを務めているのも話題です。
本国アメリカでは20週にわたる超ロングラン上映が行われ、アメリカの映画批評サイト「ロッテントマト」でも100点を獲得するなど高く評価されました。
映画『素晴らしき、きのこの世界』のあらすじ
食物としてのみならず、生命の再生や維持、アルツハイマーやがんの治療、環境汚染の浄化にまで役立つことから、地球上の様々な問題への応用が期待されているきのこ・菌類。
幻覚作用をもたらす一方で、人間の命を救うほどの力も持っていると言われます。
本作では、そうしたきのこ・菌類の可能性を提示すべく、菌類学者ポール・スタメッツやジャーナリストのマイケル・ポーラン、人気フードライターのユージニア・ボーンら専門家が、医療や環境問題に対する菌類を用いた解決策を明かしていきます。
秘密主義者きのこ
本作『素晴らしき、きのこの世界』は、おそらく映画史上初と思われる、“きのこ・菌類”に特化したドキュメンタリーです。
動物のように自ら動くわけでもなく、かといって草木のような植物にカテゴライズされるかといえば、ちょっと違う。動物でも植物でもない、秘密主義に包まれたこの不思議な生物。
ですがその実は、土中に張り巡らせた菌類のネットワークによって、物質を腐らせ分解し、菌類同士や他の生物と栄養素を共有、つながりを形成し、それを生きた土壌に変える力を備えています。
そうしたきのこ・菌類の生態を、『素晴らしき、きのこの世界』は1枚ずつ撮影された写真をつなぎ合わせてコマ送り動画にする手法「タイムラプス」で撮影。神秘的かつ驚異の映像美が堪能できます。
好きこそ物の上手なれ
本作では、そんなきのこ・菌類に憑りつかれた専門家たちが多数登場し、その魅力と可能性を語ります。
たとえば、メイン被写体ともいえる菌類学者のポール・スタメッツは、吃音症に悩まされていた少年時代に、好奇心で口にしたマジックマッシュルームでトリップ体験をしたことで、吃音が突然治り、これが菌類の世界に目覚めたと告白。
また、ニューヨークで活躍するフードライターのユージニア・ボーンは、自身を含めた菌類愛好者を“マイコフィリア”と称し(逆にきのこが嫌いな者は“マイコフォビア”と呼ぶとか)、「万物はきのこが原因で起きている」として、きのこからなる新薬開発や地球環境の保全エネルギー問題など、私たちの生活にいかにきのこが密接に関わっているのかを、切々と語ります。
愛してやまない物事を追求していくうちに、いつの間にかその分野の第一人者に……「好きこそ物の上手なれ」とばかり、彼らはさかなクンや恐竜くんのように、きのこ・菌類で人生が大きく変わったのです。
きのこ・菌類にまとわりついている怪しさ、いかがわしさ、そして神秘性が、本作にはすべて詰まっています。
専門家たちが語る意見の中には、正直眉唾ものと感じずにはいられないものもあるかと思います。しかし、怪しさ、いかがわしさ、そして神秘性は、未来への希望と置き換えることもできるでしょう。
空中を舞う胞子を掴みきれないように、知っているようで知らないきのこワールドに足を踏み入れてみるのも、また一興かもしれません。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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