連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第57回
今回取り上げるのは、2021年01月08日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開の『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』。
ハリウッド映画を文字通り体を張って支えてきたスタントウーマンにスポットを当て、その奮闘の歴史に迫ります。
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CONTENTS
映画『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Stuntwomen:The Untold Hollywood Story
【監督】
エイプリル・ライト
【製作】
ステファニー・オースティン、マリオン・ローゼンバーグ、マイケル・グラスコフ
【製作総指揮】
ミシェル・ロドリゲス、アレックス・ハミルトン、ジェイ・ストロンメン、ラリー・ニーリー、ロバート・ヒックマン、リンウッド・スピンクス、ライアン・バリー、ジェームズ・アンドリュー・フェルツ
【撮影】
スベトラーナ・スベトゥコ
【編集】
ジョナサン・P・ショウ
【キャスト】
ミシェル・ロドリゲス、エイミー・ジョンソン、アリマ・ドーシー、シャーリーン・ロイヤー、ジーニー・エッパー、ジュール・アン・ジョンソン、ジェイディ・デビッド、デブン・マクネア、ポール・ヴァーホーベン、ポール・フェイグ
【作品概要】
『トゥルーライズ』(1994)、「ワイルド・スピード」シリーズ(2001~21)、『マトリックス リローデッド』(2003)をはじめとする映画史に残るアクションシーンを演じてきたスタントウーマンたちに焦点を当てたドキュメンタリー。
スタントウーマンたちの日々の鍛錬の様子や彼女たちの歴史を通して、ハリウッド映画の最前線で活躍するプロたちの姿を映し出します。
監督は、全米のドライブインシアターに着目したドキュメンタリー『Going Attractions: The Definitive Story of the Movie Palace(原題)』(2013)で注目されたエイプリル・ライトが担当。
製作総指揮を、「ワイルド・スピード」シリーズや『アバター』(2009)などに出演するアクション女優のミシェル・ロドリゲスが務めており、ナビゲーターとして出演もしています。
映画『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』のあらすじ
『ワイルド・スピード』(2001)での走る貨物トラックの下を車が走行するシーン、『マトリックス リローデッド』での高速道路をバイクで疾走するシーン、そして『トゥルーライズ』での走る車からヘリに掛かる縄梯子に乗り移るシーン…。
劇中でのこれら名シーンは女性キャラクターが演じていますが、実際には彼女たちのスタントダブル、いわゆるスタントウーマンが代役を務めています。
日々鍛え抜かれた体と弛まぬ努力の結晶によって生み出されたこれらのシーンは、彼女たちの存在なくしては生まれなかったのです。
CGでは表現出来ない動きや迫力あるアクションシーンをより緻密に表現するために、活躍するスタントパフォーマーたち。本作では、その中でもスタントウーマンにスポットを当て、日常や映画にかける情熱を追っていきます。
有名アクションシーンを支える女性たち
スタントパフォーマーは、アクション映画にとって欠かせないスタッフ。
体を張る仕事ゆえ、その大半は男性であるスタントマンが務めるイメージが強いですが、実は女性のスタントウーマンも少なくありません。
本作は、そうした命を懸けるスタントウーマンに焦点を当てています。
『ワイルド・スピード』や『マトリックス』以外にも、「インディ・ジョーンズ」シリーズ(1981~2008)や近作の『ワンダーウーマン』(2017)といった、スタントウーマンが活躍する映画が紹介されるので、改めて彼女たちの仕事ぶりが再確認できるかと思います。
「女性の割にすごい」じゃダメ
本作では、自身もアクションシーンをこなす女優ミシェル・ロドリゲスのナビゲーターにより、20名以上ものスタントウーマンが証言しますが、そのどれもが興味深い内容ばかり。
「女性の衣装は薄着で露出度が高いから防護用パッドをつけられない。男はパッドまみれで楽できていいわね(笑)」、「車に轢かれる練習をするには、実際に轢かれるしかない」、「『女性の割にすごい』ではなく真の一流を目指す」、「似せるのではなく、その女優になり切ることが大事」…。
体を鍛えることも欠かさない彼女たちは、一方で自分の命を大事にすることも忘れません。
自分がイメージできないスタントは危険が潜んでいるとして、臆することなく中止を申し出ることもまた、プロフェッショナルとしての在り方なのです。
証言者の中には、ポール・ヴァーホーベンやポール・フェイグといった男性映画監督も。
とりわけ、『氷の微笑』(1992)、『ショーガール』(1995)といったタフな女性の映画を撮ってきたヴァーホーベンは、「スタントマンとスタントウーマンの力量に差はない」と断言する一方で、『ロボコップ』(1987)撮影時の破天荒エピソードを豪快に語っていて可笑しいです。
男性優位社会への抗いとプライド
スタントウーマンという職自体は、ことアメリカにおいては100年前から存在しており、特に1910年代の映画では出演女優が自らスタントも行っていたといいます。
しかし彼女たちの歴史は、全ての業界にはびこる男性優位社会との闘いでもありました。
「女には危険すぎるから」と女装した男性スタントマンに仕事を奪われる。結婚・出産をすると使ってもらえなくなる。スタントの仕事を断ると「これだから女は…」と言われる。
1960年代に設立されたスタントマン組合にスタントウーマンは所属させてもらえなかったため、自らの手でスタントウーマン組合を設立すると、その組合長は5年間もとある映画会社から干されたといいます。
それでも彼女たちは、業界内での地位向上に尽力してきました。
現在はスタントコーディネーターを務める元スタントウーマンは、スタント能力を疑うスタッフを認めさせるには「とにかくやってみせることよ」と言います。
無意識の性差別に、彼女たちは揺るぎないプロフェッショナルとプライドで抗ってきたのです。
数々のアクション映画を製作してきた香港・中国を代表する映画賞である金馬奨(きんばしょう)には、劇中のアクションが優れた作品や、製作に関わったアクション監督やスタントチームに与えられる「最佳動作設計」という部門があります。
世界の映画賞の中でも極めて珍しい、アクションに特化したこの部門の受賞者には、ジャッキー・チェンやユエン・ウーピン、谷垣健治といった錚々たる面々が名が連ねています。
そして現在、ハリウッドでもスタントパフォーマーの存在を重要視する動きがあり、アカデミー賞のスタント部門設立を求める声が高まっています。
父や息子もスタントマンの道に進み、「ワンダーウーマン」(1975〜79)や「チャーリーズ・エンジェル」(1976〜81)といったテレビドラマでスタントダブルを務めたジーニー・エッパーは、引退して70代となった今でも「まだまだスタントウーマンでいたかった」と涙を流します。
映画というフィクションの世界を成立させるため、プロフェッショナルとしてのフィクションを貫く。
ジーニーら先人が紡いできたスタントウーマンの歴史は、確実に後人に受け継がれています。
「アクション!」のかけ声で撮影がスタートするハリウッドが、スタントウーマンを筆頭とするパフォーマーたちに光を当てる日が来るのも、そう遠くない将来かもしれません。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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