連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第52回
彼らを抜きにして、ポピュラー音楽界の発展はなかったかもしれない──。
今回取り上げるのは、2020年8月7日(金)より渋谷ホワイトシネクイント、9月4日(金)よりシネ・リーブル梅田、9月12日(土)より神戸アートビレッジセンターなど全国にて順次公開される映画『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』。
アメリカ・インディアン(アメリカ先住民)をルーツに持つミュージシャンたちが、いかにアメリカ国内のポピュラー音楽に影響を与えてきたかを、名だたるミュージシャンや関係者たちのインタビューを交えつつ、ひも解いていきます。
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CONTENTS
映画『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』の作品情報
【日本公開】
2020年(カナダ映画)
【原題】
Rumble: The Indians Who Rocked The World
【製作・監督・脚本】
キャサリン・ベインブリッジ
【製作】
クリスティーナ・フォン、リンダ・ラドウィック、リサ・M・ロス
【製作総指揮】
スティーヴィー・サラス
【編集】
ベンジャミン・ダフィールド、ジェレマイア・ヘイズ
【キャスト】
リンク・レイ、チャーリー・パトン、ミルドレッド・ベイリー、バフィ・セント・マリー、ロビー・ロバートソン、ジェシ・エド・デイビス、レッドボーン、マーティン・スコセッシ、クインシー・ジョーンズ、スティーブン・タイラー
【作品概要】
多くのジャンルのポピュラー音楽に影響を与えた、インディアン音楽の真実を明かすドキュメンタリー。ネイティブ・アメリカンことインディアンの血を引くミュージシャンたちが、ロック、ジャズ、ブルース、フォーク、ファンクなど様々なジャンルの音楽にいかに影響を及ぼしてきたか、そして彼らの豊かな音楽が、ポピュラー音楽の歴史からいかに抹殺されてきたかをたどります。
製作総指揮を、自らもアパッチ族出身で、日本のロックユニットB’zの稲葉浩志とのコラボでも名を馳せた、ギタリスト兼プロデューサーのスティーヴィー・サラスが担当。監督は、これまでインディアンを題材にしたドキュメンタリーを多く手がけてきた実績を持つ、キャサリン・ベインブリッジです。
映画『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』のあらすじ
ネイティブ・アメリカンことショーニー族の血を引くシンガーソングライター、リンク・レイによる1958年発表の『ランブル』。
歌詞のないインストゥルメンタルにも関わらず、「少年の暴力犯罪を助長する」という理由で、ラジオ局では放送禁止になりました。
しかしながら、アメリカだけでなくイギリスでもヒットを記録したその曲なくしては、パンクもメタルも生まれなかったとまでいわれています。
本作では、そうしたインディアンをルーツに持つミュージシャンたちが、ロック、ジャズ、ブルース、フォーク、ファンクといった様々なジャンルの音楽にいかに影響を及ぼしてきたか。
そして、どのように彼らが虐げられてきたかといった、これまで公にされなかった真実に迫っていきます。
埋もれていたインディアンの血を持つミュージシャンたち
本作『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』は、ギタリスト兼プロデューサーとして活躍する、アパッチ族出身のスティーヴィー・サラスが抱いた一つの疑問から生まれました。
音楽業界に自分以外のインディアンがいないことを不思議に思ったサラスは、いざ調べたところ、実は他にも先住民のアーティストがいることを知ります。
しかしその事実は、一般はおろか、リンク・レイやインディアン文化にも陶酔していた、名ギタリストのジェフ・ベックでさえも知らなかったといいます。
そこでサラスは、インディアンの血を引くミュージシャンたちが、いかにポップ・カルチャーに影響を与えていたかを立証すべく、長らく先住民をテーマとするドキュメンタリー映画を製作・監督し続けてきたキャサリン・ベインブリッジと、その夫でクリー族のアーネスト・ウェッブに接触。
そうした有志たちによって完成した本作は、ポピュラー音楽史に埋もれていた1ページを刻む役目を果たすこととなりました。
略奪と迫害を受けた者たちの旋律と叫び
本作を観て驚かされるのは、アメリカのポピュラー音楽に、いかにインディアンたちが影響を与えてきたかという点です。
そもそも、現在のアメリカ合衆国は、500以上のインディアン部族が生活していた大陸にありました。
しかし、1492年にコロンブスが大陸を発見して以降、世界各国から続々と押し寄せた移民たちにより、インディアンは住む場所を次々奪われ、文化をも封じられてしまいます。
僻地に追いやられた彼らが、その怒りや哀しみ、自由を叫ぶツールとして、時には傷ついた心を癒すツールとして密かに用いたのが、「音楽」。
やがてアフリカから奴隷として連れてこられ、KKKなどからの迫害を恐れた黒人たち(後のアフリカ系アメリカ人)が南部のインディアン保留地に逃げ込んだことで、2つの人種が交ります。
ブルーズやジャズが、奴隷となっていた黒人たち発祥の音楽ということはよく知られていると思いますが、実はインディアンもその役割を担っていたのです。
大物ミュージシャンたちが語るインディアン・ビートの影響力
“デルタ・ブルーズの父”と称されたチャーリー・パトン、ジャズ界初の非アフリカ系アメリカ人女性シンガーのミルドレッド・ベイリー、“ギターの革命児”ジミ・ヘンドリクス、「ブラック・アイド・ピーズ」のメンバーであるタブーなど、本作ではインディアンの血を引いている大物ミュージシャンたちが多数登場。
そして、インディアン・ビートが様々なミュージック・シーンに与えた影響力を伝えるべく、「ガンズ・アンド・ローゼス」のスラッシュ、「エアロスミス」のスティーヴン・タイラー、クインシー・ジョーンズ、イギー・ポップ、スティーブン・タイラーに、映画監督のマーティン・スコセッシといった豪華な顔ぶれがインタビューに応じているのも見どころです。
なかでも、やはり本作のタイトルにもなっている「ランブル」の、生々しく、かつ荒々しいギター音を奏でるリンク・レイにしびれた者は後を絶ちません。
「ザ・フー」のピート・タウンゼントは、「リンク・レイは帝王だ。彼と『ランブル』がこの世に存在しなかったら、私はギターを手にすることはなかっただろう」とまで断言。
『パルプ・フィクション』(1994)や『12モンキーズ』(1995)など多くの映画で使用されていることからも、一度は耳にしたことのある方もいると思います(ちなみに、『パルプ~』の監督クエンティン・タランティーノは、インディアンのチェロキー族の血筋を持つ)。
とあるインディアン系ミュージシャンは、劇中で、「私たちが奏でるのは、大地から受け継いだオーガニックなビート」と語ります。
劇中では、インディアンの血を引くミュージシャンたちが携わった、約50曲もの音楽が流れます。
母なる大地の鼓動(リズム)を、あなたも体感してみてはいかがでしょうか。