連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第10回
映画制作に情熱を注いだ2人の男の、友情と確執の果てにあるものとは、一体なんだったのか?
『だからドキュメンタリー映画は面白い』第10回は、2015年公開の映画『キャノンフィルムズ 爆走風雲録』。
1980年代に、映画界に彗星のごとく現れてヒット作を連発し、彗星のように消えていった製作会社、キャノン・グループの栄枯盛衰を辿っていきます。
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CONTENTS
映画『キャノンフィルムズ 爆走風雲録』の作品情報
【日本公開】
2015年(イスラエル映画)
【原題】
The Go-Go Boys: The Inside Story of Cannon Films
【監督】
ヒラ・メダリア
【キャスト】
メナハム・ゴーラン、ヨーラン・グローバス、シルヴェスター・スタローン、ジャン=クロード・バン・ダム、ジョン・ボイト、チャールズ・ブロンソン、チャック・ノリス、イーライ・ロス
【作品概要】
1980年代のハリウッドに颯爽と現れて、大ヒット作を次々と発表していった映画会社、キャノンフィルムズ。
その創設者であるメナハム・ゴーランとヨーラン・グローバスの映画人生と、キャノンフィルムズがいかにして凋落の道を辿ったのかを検証します。
ジャン=クロード・バン・ダムやチャック・ノリスといった、キャノン映画に出演したスターの貴重なインタビューも見どころ。
映画に情熱を捧げた者の、哀しくも熱い人間模様が映し出されます。
メナハムやヨーランと同じイスラエル出身の、ヒラ・メダリアが監督しました。
映画『キャノンフィルムズ 爆走風雲録』のあらすじ
イスラエル出身のメナハム・ゴーランと従兄弟のヨーラン・グローバス。
母国で映画製作を開始した彼らは、青春映画の「グローイング・アップ」シリーズで国民的ヒットを記録し、この勢いを受けて映画の都ハリウッドへの進出を決意します。
アメリカで、“B級映画の帝王”ことロジャー・コーマン(コーマンについては『コーマン帝国』を参照)に師事を仰いだのち、1979年に独立系映画会社だったキャノンフィルムズを買収します。
買収以降、2人はチャールズ・ブロンソン、チャック・ノリス、シルヴェスター・スタローンといった大スターの主演作を製作。
彼らが主演した、『デルタ・フォース』(1986)、『暴走機関車』(1986)、『オーバー・ザ・トップ』(1987)、「狼よさらば」シリーズといった映画は次々とヒットを放ちます。
さらには、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ショー・コスギといった新たなアクションスターも輩出する一方で、ジャン=リュック・ゴダール、ジョン・カサヴェテス、ロバート・アルトマンといった、個性ある映画監督の作品も手がけていきます。
こうして、一躍ハリウッド界の寵児となったキャノンでしたが、その快進撃も徐々に停滞。
それに伴い、とにかく映画の大量生産が経営安定につながると信じるメナハムと、資金面を担うシビアなヨーラムとの関係に亀裂が生じることとなります。
本作は、わずか10年ほどの活動期間で300本超という映画を作ってきたキャノンフィルムズの歴史を振り返りつつ、映画製作に情熱を注いだ2人の友情と確執、及びその後を映し出していきます。
意見が食い違うメナハムとヨーラムを、客観視点で捉える
Meet a SACRED filmmaker: @hillamedalia, director of "To Die in Jerusalem" (2007) and "Dancing in Jaffa" (2013) pic.twitter.com/dmkMnaWiLi
— Sacred: The Movie (@SacredTheMovie) May 12, 2016
本作監督のヒラ・メダリアは、出身がメナハム・ゴーランやヨーラム・グローバスと同じイスラエルです。
メダリア監督が本作を撮ったのは、以前に知り合ったヨーラムの息子から、父親とメナハムについてのドキュメンタリー製作を依頼されたことがきっかけでした。
監督は、もちろん2人が自国では超が付くほどの有名人とは知っていたものの、彼らが手掛けてきた作品までは詳しく把握していなかったとのこと。
そうした背景からも、本作は監督の主観ではない、“客観”視点で撮られています。
実際、仲違いしたメナハムとヨーラムから揃ってインタビューするのは無理と判断した監督は、個別にインタビューを敢行。
2人の全く異なる視点を客観的に捉えることで、彼らの栄枯盛衰がいかなるものだったのかを、観客に分からせる構成としています。
パワフルにして繊細な“ゴーゴーボーイズ”
メナハムとヨーラムを観て思うのは、当人たちがとにかく映画が好きであるということです。
アクション、バイオレンス、ホラー、エロスといった、徹底的に娯楽に特化した映画作りからも分かるように、元々映画ファンだった2人からこそ、自分たちが観たい映画を作ってきたことが伺えます。
その勢いはとどまる事を知らず、カンヌ国際映画祭では、キャストも脚本もタイトルも決まっていない映画のポスターアートを作ってアピールし、その上映権を売りまくります。
本作の原題『Go-Go Boys』とは、業界内で言われた2人のあだ名。
とにかくそのパワフルかつ強引なやり方でハリウッド界にのし上がってきたゴーゴーボーイズが、キャノンのロゴ入りトレーナーを着てランニングする様は、ある種の痛快さを感じます。
その一方で、ゴダールやカサヴェテス、アルトマンといった、資金調達が難しい芸術性の高い映画を撮る監督にも、惜しまず製作の場を提供。
儲けのためだけで映画を作ってきたわけではない、繊細さも兼ね揃えていたのです。
主なキャノンフィルムズ製作の映画
ここで、キャノンフィルムズがどういった映画を製作してきたのか、代表的なのを数本ピックアップしておきましょう。
『デルタ・フォース』チャック・ノリスの頼れる強さ
参考映像:『デルタ・フォース』予告
アラブ系テロリストにハイジャックされた人質の救出命令を受けた特殊部隊デルタ・フォースの活躍を描く、チャック・ノリス主演のアクション。
製作・監督・脚本をメナハムが担当し、共演にリー・マービン、ジョージ・ケネディ、スーザン・ストラスバーグ、シェリー・ウィンタースといった名優を揃えました。
ノリス扮するデルタ・フォースリーダーの圧倒的強さで、安心して観られる一作となっています。
『オーバー・ザ・トップ』スタローン黄金期を象徴する一本
参考映像:『オーバー・ザ・トップ』予告
離ればなれとなった息子のために、腕相撲(アーム・レスリング)大会のチャンピオンを目指すトラック運転手を描く、シルヴェスター・スタローン主演、メナハム監督の感動ドラマ。
右手一本での闘いでさえも観客を惹きつけてしまうという、1980年代のスタローン黄金期を象徴する作品となりました。
MTV全盛期に作られた挿入曲も、いかにも80年代テイストあふれるものとなっています。
『スーパーマン4/最強の敵』キャノンフィルムズ終焉の決定打に
参考映像:『スーパーマン4/最強の敵』プレビュー
DCコミックスの代表的ヒーロー、スーパーマンをクリストファー・リーヴが演じるシリーズ第4作の『スーパーマン4/最強の敵』(1987)。
リーヴ自身がストーリー原案に参加し、スーパーマンが核廃棄の演説をするシーンが話題を呼びました。
しかし、それに伴うあらすじや、ヴィランとなったニュークリアマンに対する不評が響き、興行的に惨敗。
これによりキャノンフィルムズは実質的な倒産状態に陥ってしまい、メナハムがヨーラムと袂を分かつ要因にもなりました。
この作品に対する2人の評価が本作に収められていますが、真っ二つに分かれているあたりが面白いところです。
映画界に功績を遺した、2人の和解と別れ
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— TéléObs.com (@teleobs) 2016年2月24日
製作の目途が立っていない映画の上映権を売ったり、芸術肌の映画監督にチャンスを与えるといったメナハムとヨーラム。
当時でこそ、彼らの行為は無謀かつ常識はずれと言われましたが、実は今の映画界ではすっかり日常的光景となっています。
ティム・バートン監督は、自作『ビッグ・アイズ』(2015)の予算を取り付けるために、企画段階のまま自らカンヌに赴いてバイヤーにプレゼンしました。
また、セクハラ問題で業界を追放されたプロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインは、アート志向の強いヨーロッパの映画作家たちに資金を提供することで、彼らに飛躍のチャンスを与えています。
つまり、メナハムとヨーラムが行ってきたことは、一歩も二歩も先を歩んでいたことになります。
そんな、意見の相違から決別してしまった2人が、本作のラストで数十年ぶりに顔を合わせます。
ポップコーン片手に、かつて自分たちが作った映画を観ながら談笑する2人。
本作が2014年のカンヌ国際映画祭で上映された3ヶ月後に、86歳で亡くなったメナハムとしても、悔いなき再会となったのではないでしょうか。
次回の「だからドキュメンタリー映画は面白い」は…
次回は、2016年公開の森達也監督作『FAKE』をピックアップ。
「現代のベートーベン」と称されるも、ゴーストライター疑惑をかけられたことでワイドショーの主役となってしまった作曲家、佐村河内守の素顔に迫ります。