連載コラム「銀幕の月光遊戯」第11回
こんにちは、西川ちょりです。
今回取り上げる作品は、12月01日(土)より、東京・新宿バルト9ほかにて全国ロードショーされる『jam』。
SABU監督の新作で、劇団EXILEが総出演しているユニークで痛快な、アクション・クライム・コメディーです。
映画『jam』のあらすじ
場末のアイドル演歌歌手、横山田ヒロシがマイクを持ってステージに出ていくと、熱狂的な熟女ファンがサイリウムをふって彼を迎えました。
ライブ後に行われるファンミーティングでは、ファンの女性は時々感極まって涙を流しながら、ヒロシへの愛を告白するという儀式めいたことが行われていました。
札束のついた首飾りをひろしにプレゼントしたある女性は、セットリストについて語り、曲の順番を入れ替えたほうがいいんじゃないかと提案します。
すると後ろの方に座っていた女性が、このセットリストはものすごくよく考えられている、ヒロシはアーティストなのだから、そんなつまらないことを気まぐれで言うべきではないと真顔で反論し、ファン同士一触即発の雰囲気になります。
ヒロシは、なんとかその場をおさめると、明日はいよいよコンサートホールで歌うので応援よろしくとファンに伝えるのでした。
「あの女、余計なこといいやがって。空気が悪くなっちまったじゃないか」と文句を言いながら、ヒロシが歩いていると、先程の反論した女が待ち伏せしていました。
女は昌子という名前で、自分で作ったというスープをヒロシに飲むようしつこくすすめます。ファン相手なので無碍に断れず、言われるままにヒロシはスープを口にしました。
夜のシャッターのしまった商店街を歩いていた二人は、車椅子に乗った老婆と、それを押す不気味な男とすれ違います。
男は刑期を終え、刑務所からシャバに出たばかりのテツオでした。彼は自分を刑務所に送ったヤクザ者たちに、復讐してきたばかりでした。
彼らとすれ違ったあと、ひろしは急に嘔吐して倒れてしまいます。一台の車が通りかかり、運転手が降りてきました。「大丈夫ですか? なにかお手伝いしましょうか?」男は側にいた女に問いかけました。
この親切な男の名はタケルといい、彼は、日々善行に励んでいました。「善いこと貯金」をすれば、意識不明の恋人が回復するのではないかと考えたからです。警官に追われた強盗が苦し紛れに発砲した際、流れ弾がタケルの恋人に命中し、以来、彼女は病院で寝たきりの状態にありました。
タケルは二人を車に乗せ、女に指示されるまま、ヒロシを彼女の家に送るのでした。
こうしてヒロシは昌子に拉致されてしまいます。
その頃、車椅子を押して街を行くテツオをたくさんのヤクザが追っていました。一方、タケルは飲み屋で知り合った男二人組に、明日、公民館に車で送る約束をしていました。男たちが強盗をたくらんでいるとも知らずに・・・。
全く違う生活を送っていた三人の男たちの人生が交錯し、物語は思わぬ方向に向かっていきます。
SABU監督プロフィール
1964年生まれ。和歌山県和歌山市出身。俳優として活動を始め、1991年、「AKIRA」の大友克洋が監督した『ワールド・アパートメント・ホラー』では主演を果たします(当時は田中博樹の芸名で活動)。
1996年『弾丸ランナー』で映画監督デビュー。田口トモロヲ、ダイアモンド☆ユカイ、堤真一が、ほぼ全編走り続けるというユニークなクライム映画で、大きな反響を呼びました。
『ポストマン・ブルース』(1997)、『アンラッキー・モンキー』(1998)と快作を発表し続け、第四作目の『MONDAY』(1999)でベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞、『幸福の鐘』(2002)でNETPAC(最優秀アジア映画賞)を受賞するなど、海外の映画祭でも高く評価されています。
近作に『ハピネス』(2017)、台湾のチャン・チェンを起用した『Mr.Long ミスター・ロン』(2017)などがあります。『Mr.Long ミスター・ロン』に出演した青柳翔が本作で主演の一人を務めています。
映画『jam』の感想と評価
ヒロシ(青柳翔)の場合
切羽詰まった様子でスピードをあげた車が画面を横切って行きます。どうやら、病院へ向かっているらしく、車の後部座席には血を流した女性が横たわっています。車が急ブレーキをかけた途端、思いがけない展開が待っていました。
SABU監督作品らしいスピーディーな演出で冒頭から一気に物語に引き込まれていきます。
この物語には三人の男が登場します。彼らの人生は微妙にリンクし、複雑に交錯していくのですが、まずなんといっても青柳翔が演じる演歌歌手・ヒロシと、彼のファンの昌子の関係を描くパートが秀逸です。
昌子はヒロシを拉致することに成功。目を覚ましたヒロシは椅子にロープで縛り付けられ身動き一つとれない状況におかれていることに愕然とします。
ファンがアーティストを拉致!といえば、真っ先に思い出されるのがスティーブン・キング原作の同名小説の映画化『ミザリー』(1990/ロブ・ライナー監督)です。
『ミザリー』に登場するファンの女は、小説家を拉致した上に、彼の新作を自分の都合の良いように改変させようとします。昌子も同様にヒロシのナンバーワンのファンの座を得るため、彼を計画的に拉致したのです。彼女は何をたくらんでいるのでしょうか、そしてどんな恐ろしいことが待ち受けているのでしょうか…!?
と、想像させておいて、ここでも「あっ!」という展開が待っています。
青柳翔は、2006年に18歳以上の男性を対象としたEXILEの新ボーカルオーディションに参加し、二次審査まで進んだほどの歌の実力者。彼の歌唱力なくしては、この映画は生まれなかったのでは?と思わせるくらいのはまり役です。
彼が劇中で披露する数々の演歌も、本作の音楽担当、松本淳一とSABUによるオリジナル作品で、どこかで聴いたような聴いたことないようなとぼけた仕上がりになっています。歌のリズムに合わせてセットリストまで考えられている徹底さです。
ディテールがきっちりしているからこそ生まれた、この昌子とヒロシの濃密な時間。昌子を演じる筒井真理子と青柳翔の二人芝居に手に汗握ることとなるでしょう(!?)
テツオ(鈴木伸之)の場合
鈴木伸之が演じたテツオは深く暗い夜が似合う男です。
ひたすら闘っているのですが、これが滅茶苦茶動けて強くて、こんな喧嘩キャラ他にないだろう、と驚くばかりです。マーシャルアーツとは一線を画する、ズバリ“喧嘩”としか呼べない泥臭い戦法ですが、最高級のアクションスターと呼びたくなってしまいます。
彼が敵を倒せば倒すほど、相手の人数が増えていき、暴力の負の連鎖が続いていきます。こちらのパートは、くすりと笑う要素が一つもないシリアスな展開となっています。
タケル(町田啓太)の場合
ドラマ『中学聖日記』でも話題を集めている町田啓太は、不幸に見舞われ、善行を積むことで光明を見出そうとするキャラ、タケルを演じています。一生懸命さに好感が持てますが、善行と信じていることがことごとく逆の結果を生み出すことになってしまう、ある意味特異なキャラクターです。
他の二人に比べて地味な役柄に見えますが、物語の狂言回しとして重要な役割を果たしています。
他にも「因果応報」という言葉を口にするヤクザな二人組など、「劇団EXILE」のメンバーが総出演し(秋山真太郎、八木将康、小野塚勇人、佐藤寛太、野替愁平)、SABUの生み出すユニークな世界とがっちりタッグを組んでいます。
果たして彼らはどのような絡みをみせ、物語にどう関係してくるのでしょうか!?
予測不可能なノンストップ・アクション・クライム・コメディーをたっぷりと堪能してください。
映画『jam』は、2018年12月1日(土)より、東京・新宿バルト9ほかにて全国で公開されます。
次回の銀幕の月光遊戯は…
次回の銀幕の月光遊戯は、12月22日(土)よりシネスイッチ銀座他にて全国順次公開されるスペイン・アルゼンチン合作映画『家(うち)へ帰ろう』をご紹介いたします。
お楽しみに。