連載コラム「銀幕の月光遊戯」第10回
こんにちは、西川ちょりです。
今回取り上げる作品は、11月10日(土)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋他にて全国ロードショーされる『ポルトの恋人たち 時の記憶』です。
『ビッグ・リバー』(2006)、『フタバから遠く離れて』(2012)などの舩橋淳が監督を務め、18世紀リスボン大震災後のポルトガルと21世紀の日本を背景にした、日本、アメリカ、ポルトガル合作のラブミステリーです。
柄本佑、アナ・モレイラ、中野裕太の三人が一人二役に挑み、時代を超えた愛憎劇を繰り広げます。
世界遺産として有名なポルトガルのギマランイスや、静岡県の浜松市などでロケが行われました。
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映画『ポルトの恋人たち 時の記憶』のあらすじ
1755年のポルトガルを襲った大地震は、何万人もの死者を出し、街は壊滅状態となりました。
二年後、再建のためにガスパールは日本人使用人の宗次と四郎らを連れてアジア遠征から帰還します。
宗次と四郎は、名目上は腕利きの鍛冶屋として連れてこられたのですが、ガスパールは先祖が日本で惨殺されたことを恨んでいて、彼らを死ぬまでこきつかってやろうと考えていました。
震災で両親を亡くしたマリアナはガスパール家に拾われ、下女として働いていました。彼女は、奴隷同然に働かされる宗次たちの世話をしてくれる心優しい女性でした。
宗次とマリアナは次第に心を通わせていきます。断崖絶壁から海を眺めたマリアナは、「海の向こうにはこことは違う場所がある。自分がなりたいものになれる場所が」と宗次に語るのでした。
ある日、体調を崩して作業中に倒れた男に罰をくだそうとする雇い主にはむかったことで宗次は無情にも射殺されてしまいます。
マリアナは愛する人を亡くした悲しみにくれながら、ガスパールへの復讐を誓うのでした。
時は流れ、2021年の日本。東日本大震災から10年目にオリンピックが開催されましたが、前代未聞の不況に見舞われていました。
浜松の移民労働者たちはその影響をもろに受けていました。
日系ブラジル人の幸四郎は、ポルトガルギターの店を出したいという長年の夢にあとちょっとで手が届くところにいました。
しかし、ある日、東京からマネージメントリーダの加瀬柊次という男がやってきて、工場縮小のために5人を解雇すると告げます。
彼にくってかかった男が解雇通告されるのを見て、幸四郎は彼に変わって自分が辞めると申し出ました。店ができればどのみち、工場はやめるつもりだったからです。
ところが、銀行員から仕事についていないと融資はおりないと聞かされ、幸四郎は愕然とします。
ほんのちょっとでいいから、仕事をさせてくれと加瀬に談判しますが、聞き入れてもらえません。
絶望した幸四郎は同じく工場で働いている妻マリナを残し首を吊って死んでしまいます。
加瀬は彼の死の責任を感じていました。君のせいじゃない、彼が他の努力をしなかっただけだと上司たちは口を揃えていいますが、かれらのふうには納得することが出来ずにいました。
上司の誘いを断り、ポルトガルの民族音楽が聴けるお店に出かけた彼はそこで歌を歌っていたマリナと知り合います。
マリナは彼がくれた名刺を見て、夫の死の原因を作った男だとすぐに悟ります。復讐心が芽生え、彼女は加瀬に近づきますが・・・。
18世紀と近未来の日本という時代も場所も違う世界で、3人の俳優が一人二役を演じ、微妙に役割をずらしながら、ほとんど同じプロットが反復されます。
憎しみと愛が激しく交錯する中、彼らはどのような運命をたどるのでしょうか?
映画『ポルトの恋人たち 時の記憶』のキャスト紹介
宗次/加勢柊次役の柄本佑のプロフィール
1986年東京生まれ。
映画『美しい夏キリシマ』(2003/黒木和雄監督)のオーディションに合格し、主演デビューを果たします。同作で、第77回キネマ旬報ベストテン新人男優賞、第13回日本映画批評家大賞新人賞を受賞。
その後も、若松孝二監督の『十七歳の風景〜少年は何を見たか』(2005)、『僕たちは世界を変えることができない。』(2011/深作健太監督)、『横道世之介』(2013/沖田修一監督)、『追憶』(2017/降旗康男監督) 、『素敵なダイナマイトスキャンダル』(2018/冨永昌敬監督)、『きみの鳥はうたえる』(2018/三宅唱監督)など、バイプレーヤーから主演まで数多くの作品に出演しています。
NHK連続テレビ小説『あさが来た』(2015~16)や『エドワード二世』(新国立劇場)、『桜の園』(新国立劇場)などの舞台でも活躍しています。
四郎/幸四郎役の中野裕太のプロフィール
1985年、福岡県出身。
大学卒業前後に『仮面ライダーキバ』のオーディションに合格し、俳優デビュー。2011年、佐々部清監督『日輪の遺産』で映画デビューを果たしました。
その後、『ツレがうつになりまして。』(2011/佐々部清監督)、『遠くでずっとそばにいる』(2013/長澤雅彦監督)、『新宿スワンⅡ』(2017/園子温監督)などに出演。
モキュメンタリー映画『もうしません!』(2015)で映画初主演を果たしました。
Facebookで出会い国際結婚した日本人男性と台湾人女性の実話を映画化した日本・台湾合作映画『ママは日本へ嫁に行っちゃダメというけれど。』(2017/谷内田彰久監督)や、中国映画『男たちの挽歌2018』(2018/ディン・シェン監督)に出演するなど海外作品でも活躍しています。
英語、イタリア語、フランス語を話せるマルチリンガルで、本作ではポルトガル語を習得し、役に望みました。
マリアナ/マリヤ役のアナ・モレイラのプロフィール
1980年、ポルトガル・リスボン出身。
1998年、『Os Mutantes』(日本未公開/テレーザ・ヴィラヴェルデ監督)に主演し、タオルミナ映画祭、バスティア映画祭で最優秀女優賞を受賞。
『Adriana』(2004、未/マルガリーダ・ジル監督)ではポルトガルのゴールデン・グローブ賞で最優秀女優賞を受賞するなど高い評価を受けている女優です。
日本の映画ファンには、リスボンで暮らす老女の現在と過去を二部構成で描いたミゲル・ゴメス監督『熱波』(2012)が馴染み深いでしょう。アナ・モレイラは老女の若き日を演じ、強烈な印象を残しました。
舩橋淳監督のプロフィール
1974年、大阪出身。
東京大学教養学部表象文化論分科卒業後、ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアルアーツで映画製作を学びました。
デビュー作の16ミリ作品『echoes』(2001)がアノネー国際映画祭で審査員特別賞・観客賞を受賞。
テレビ番組『人生を楽しみたい ~アルツハイマー病への取り組み~』は、米テリー賞シルバーアワードを受賞しました。
オダギリジョーを主演に迎えた日米合作映画『ビッグ・リバー』(2006)で、商業長編監督デビューを果たします。
2011年の東日本大震災による原発事故で町全体が避難を強いられた福島県双葉町の人々に長期密着したドキュメンタリー映画『フタバから遠く離れて』(2012)、『フタバから遠く離れて 第2部』(2014)を発表。
第一部は、キネマ旬報ベストテン文化映画第7位を獲得しました。同シリーズは国内外の映画祭で上映され、仏Signes de Nuit 国際映画祭でエドワード・スノーデン賞を受賞、ベルリン国際映画祭へ5作連続の正式招待という快挙を成し遂げました。
その他の作品に、テレビドキュメンタリー『小津安二郎・没後50年隠された視線』(2013 /NHK)、映画『谷中暮色』(2009)、『桜並木の満開の下に』(2013)、『道頓堀よ、泣かせてくれ! DOCUMENTARY of NMB 48』(2016)などがあります。
映画『ポルトの恋人たち 時の記憶』の感想と評価
1755年のリスボン地震のことを、恥ずかしながらこの作品で初めて知りました。津波による死者1万人を含む、9万人が亡くなったそうです。
本作は二部構成で、最初のパートは、この地震が起こったあとのポルトガルが舞台となっています。2年がたっても復興は進まず、ガスパールという権力者は奴隷をこき使い、彼らが少しでも刃向かえば、暴力を振るい、時には命まで平然と奪ってしまいます。
もう一つのパートは今より少し未来の日本。2011年3月11日の東日本大震災で壊滅的な打撃を受けた10年後、二度目のオリンピックを開催したものの空前絶後の不況に見舞われ、もろにその影響を受けることになった人々の姿を、浜松を舞台に描いています。
時も場所も遠く隔たった2つの舞台の共通点は“震災”です。
東日本大震災による原発事故で町全体が避難を強いられた福島県双葉町の人々に長期密着したドキュメンタリー映画『フタバから遠く離れて』を撮った舩橋淳監督は、震災以降の社会をいかに生きるかという問題にアプローチし続けています。
本作も震災後の社会をきちんと見据えようという強い意志が感じられます。
浜松の工場で働くブラジル人労働者は、会社の都合で簡単に首を切られ、彼らの生活や家族、未来の計画などは、考慮にいれられることはありません。
外国人の労働問題に関しては多くの問題がありますが、人権意識が極めて乏しいのが今の日本の現状です。
18世紀の権力者となんらかわらない意識が企業の根底にあると言わざるを得ません。
そうした問題を背景に、「愛」と「復讐」の物語が展開します。2つの舞台で同じ物語が、同じ俳優を使って反復されます。野心的で、壮大な試みです。
復讐の対象である“搾取する者”にも苦しみがあることが描かれ、それを知った復讐者が振り上げたナイフを引っ込める場面が、どちらのパートにも存在します。
死者への想いと生者への想いが複雑に絡み合い、胸が引き裂かれんばかりの苦しみが描かれています。
そうした憎しみと愛が交錯する複雑な感情を、ポルトガルの名女優アナ・モレイラが圧巻の演技で表現しています。
そのアナ・モレイラが崖の上から蒼い海を見て、「海の向こうにはここと違う場所がある。自分がなりたいものになれる場所が」と語るシーンが冒頭に現れます。
蒼く染まったアナ・モレイラと柄本佑が並んで腰掛けているこのシーンは、18世紀パートで再び現れ、さらに浜松パートでも再築されます。
その言葉には遠い世界への憧憬と希望が込められています。
また、18世紀パートで、中野裕太扮するポルトガルにつれてこられた日本人使用人は、必ず日本に帰る!と叫びます。
そうした彼女、彼らの想いは、敵わない虚しい望みかもしれません。ここと違う場所が天国であるという保証は何もありません。むしろここと同じ地獄かもしれません。
叶わぬ夢を持つくらいならはじめから諦めておくほうがましだという人もいるかもしれません。
ですが、映画は、「希望」について語る人間をしっかりと画面に刻んでみせます。
“希望”というキーワードが一つのメッセージとして静かに立ち上がってくるのです。
希望を持つこと、諦めないこと、そうした感情が、時を超え、越境し、人々の運命を左右するかもしれない・・・。
本作は“愛”と“復讐”の物語であると同時に “希望”と“奇跡”の物語なのです。
まとめ
ポルトといえば、ジム・ジャームッシュが製作総指揮を務め、アントン・イェルチンが主演した『ポルト』(2016 /ゲイブ・クリンガー監督)が即座に思い出されます。
ポルトガル第2の都市ポルトを舞台に主人公二人の出逢いから別れまでをバラバラのパズルのようにばらして描いた素晴らしい作品でした。
そのプロデューサーを務めたロドリゴ・アレイアスが、本作、『ポルト 時の記憶』のプロデューサーを務めています。
また、アキ・カウリスマキ監督、ペドロ・コスタ監督、ビクトル・エリセ監督、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の4人の巨匠によるオムニバス『ポルトガル、ここに誕生す~ギマランイス歴史地区』(2012)も彼のプロデュース作品で、そのオリヴェイラ作品のスタッフが本作に参加しています。
撮影は、ポルトを始め、ポルトガルの世界遺産ギマランイス、ブラガ、ペニシェ、静岡県浜松市で行われました。
ポルトガルの美しい風景は勿論のこと、浜名湖が大変魅力的に撮られていて素晴らしいので、そのあたりも是非チェックしてみてください!
『ポルトの恋人たち 時の記憶』は、11月10日(土)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて全国順次ロードショーされます!
次回の銀幕の月光遊戯は…
次回の銀幕の月光遊戯は、12月01日(土)より新宿バトル9他にて全国公開されるSUBU監督の新作『jam』をご紹介いたします。
お楽しみに。