連載コラム「インディーズ映画発見伝」第15回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第15回目では、渡邉高章監督の映画『別れるということ』をご紹介いたします。
葬式という“別れ”の場面から始まる別れの喪失感、出会い、始まり…別れを通して人々の感情を浮き彫りにしたヒューマンドラマ。
映画『別れるということ』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
渡邉高章
【脚本】
星能豊
【音楽】
隙間三業
【楽曲】
オープニングテーマ 「kitsutsuki」/エンディングテーマ「amefurashi」
【キャスト】
星能豊、梢栄、藤原未砂希、松井美帆、美南宏樹、常間地裕
【作品概要】
本作は、名古屋シネマスコーレで俳優星能豊の特集上映が組まれ、上映のために製作されました。星能豊が自身の実体験を元に、脚本を書き、監督は星能豊と多くタッグを組んでいた渡邉高章が担当。
渡邉高章監督は「ザンパノシアター」にてインディーズ映画の制作を行なっており、星能豊も出演している映画『土手と夫婦と幽霊』が2021年8月6日(金)公開予定です。
音楽を担当したのは新潟県上越市出身の3ピースインストロックバンド隙間三業(sukimasangyo)。
2010年に自主制作ミニアルバム『253』、2014年にカフェオレーベルから1stアルバム『隙間三業』、2018年に同レーベルより2ndアルバム『kitsutsuki』を発表。本作では『kitsutsuki』から同名曲と『amefurashi』の2曲が使われています。
映画『別れるということ』のあらすじ
「どうして自分の気持を伝えようとするときに限って突然別れが来るんだよ」
自主映画団体「リバーサイドシアター」に入って間もない長浦(星能豊)は、メンバーと喪服姿で土手を歩いていました。
葬式後彼らは集まって助六寿司を食べながら、故人との思い出を語り合います。
出会いのこと、別れのこと……。
映画『別れるということ』感想と評価
当たり前のように共に過ごしていた人との突然の別れに人は戸惑い、別れに対しどう対応すれば良いのかわからなくなってしまいます。
本作はそのような突然の別れを受け止めきれず、喪失感を抱えた男女の様子を冒頭に映し出します。
葬式を終え、助六寿司を食べながら話題は故人との思い出に。誰もが大きな悲しみを抱えながらもぎこちなく明るく装い、笑い合い、普段と変わらないように装うとします。そんな空気の中、悲しみを堪えきれず、長浦(星能豊)が涙を浮かべます。
長浦と故人の出会い、そして故人と出会って変わったこと、そしてこれからのこと。出会いがあれば、別れもあります。しかし、別れは終わりではなく、新たな始まりでもあるのです。本作はそのことを映画作りを通して伝えてくれます。
皆の思い出の中で語られる故人は、映画作りが好きで無邪気なまでに映画作り一筋であった人のような印象を受けます。
営業の仕事をしていましたが、映画作りをしたいという思いを抱えていた長浦は、故人と出会って映画作りに携わり、のめり込んでいきます。そんな矢先の別れだったのです。
映画を一緒に作りたかった、という思いがいつしか、故人が撮ろうとしていた映画を作ろうと残されたメンバーは思い始めるのです。
故人の映画作りの思いは故人の死によってなくなるのではなく、新たな始まりに繋がっていきます。
また、本作は星能豊が自身の経験をもとに脚本を書き、キャスティングにも携わっています。星能豊だけでなく、インディーズ映画で活躍している俳優陣、監督だからこそ映画作りに対する愛も感じられる映画です。
まとめ
突然の別れに戸惑い、故人との思い出から別れるということ、別れてから始まるものを描いた映画『別れるということ』。
冒頭に“別れ”を描き、故人との思い出を話しながら“はじまり”を描き、別れから新たな“はじまり”を描くという、短いながらも秀逸な構成になっています。
また、星能豊が脚本をかき、星能豊と多くの映画で共演した渡邉高章監督がタッグを組んだ本作は、インディーズ映画に携わる監督・俳優陣だからこその映画作りに対する愛が感じられます。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第16回は、清水尋也主演、井手内創監督、内山拓也監督の『青い、森』を紹介します。
次回もお楽しみに!