Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/07/30
Update

映画『別れるということ』あらすじ感想と評価解説。渡邉高章監督が描く別れの喪失感と出会いからの始まり|インディーズ映画発見伝15

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第15回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」

コラム第15回目では、渡邉高章監督の映画『別れるということ』をご紹介いたします。

葬式という“別れ”の場面から始まる別れの喪失感、出会い、始まり…別れを通して人々の感情を浮き彫りにしたヒューマンドラマ。

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

映画『別れるということ』の作品情報


(C)zampanotheater

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
渡邉高章

【脚本】
星能豊

【音楽】
隙間三業

【楽曲】
オープニングテーマ 「kitsutsuki」/エンディングテーマ「amefurashi」

【キャスト】
星能豊、梢栄、藤原未砂希、松井美帆、美南宏樹、常間地裕

【作品概要】
本作は、名古屋シネマスコーレで俳優星能豊の特集上映が組まれ、上映のために製作されました。星能豊が自身の実体験を元に、脚本を書き、監督は星能豊と多くタッグを組んでいた渡邉高章が担当。

渡邉高章監督は「ザンパノシアター」にてインディーズ映画の制作を行なっており、星能豊も出演している映画『土手と夫婦と幽霊』が2021年8月6日(金)公開予定です。

音楽を担当したのは新潟県上越市出身の3ピースインストロックバンド隙間三業(sukimasangyo)。

2010年に自主制作ミニアルバム『253』、2014年にカフェオレーベルから1stアルバム『隙間三業』、2018年に同レーベルより2ndアルバム『kitsutsuki』を発表。本作では『kitsutsuki』から同名曲と『amefurashi』の2曲が使われています。

映画『別れるということ』のあらすじ


(C)zampanotheater

「どうして自分の気持を伝えようとするときに限って突然別れが来るんだよ」

自主映画団体「リバーサイドシアター」に入って間もない長浦(星能豊)は、メンバーと喪服姿で土手を歩いていました。

葬式後彼らは集まって助六寿司を食べながら、故人との思い出を語り合います。

出会いのこと、別れのこと……。

映画『別れるということ』感想と評価


(C)zampanotheater

当たり前のように共に過ごしていた人との突然の別れに人は戸惑い、別れに対しどう対応すれば良いのかわからなくなってしまいます。

本作はそのような突然の別れを受け止めきれず、喪失感を抱えた男女の様子を冒頭に映し出します。

葬式を終え、助六寿司を食べながら話題は故人との思い出に。誰もが大きな悲しみを抱えながらもぎこちなく明るく装い、笑い合い、普段と変わらないように装うとします。そんな空気の中、悲しみを堪えきれず、長浦(星能豊)が涙を浮かべます。

長浦と故人の出会い、そして故人と出会って変わったこと、そしてこれからのこと。出会いがあれば、別れもあります。しかし、別れは終わりではなく、新たな始まりでもあるのです。本作はそのことを映画作りを通して伝えてくれます。

皆の思い出の中で語られる故人は、映画作りが好きで無邪気なまでに映画作り一筋であった人のような印象を受けます。

営業の仕事をしていましたが、映画作りをしたいという思いを抱えていた長浦は、故人と出会って映画作りに携わり、のめり込んでいきます。そんな矢先の別れだったのです。

映画を一緒に作りたかった、という思いがいつしか、故人が撮ろうとしていた映画を作ろうと残されたメンバーは思い始めるのです。

故人の映画作りの思いは故人の死によってなくなるのではなく、新たな始まりに繋がっていきます。

また、本作は星能豊が自身の経験をもとに脚本を書き、キャスティングにも携わっています。星能豊だけでなく、インディーズ映画で活躍している俳優陣、監督だからこそ映画作りに対する愛も感じられる映画です。

まとめ


渡邉高章監督(C)Cinema Discoveries

突然の別れに戸惑い、故人との思い出から別れるということ、別れてから始まるものを描いた映画『別れるということ』。

冒頭に“別れ”を描き、故人との思い出を話しながら“はじまり”を描き、別れから新たな“はじまり”を描くという、短いながらも秀逸な構成になっています。

また、星能豊が脚本をかき、星能豊と多くの映画で共演した渡邉高章監督がタッグを組んだ本作は、インディーズ映画に携わる監督・俳優陣だからこその映画作りに対する愛が感じられます。

渡邉高章Twitter

次回のインディーズ映画発見伝は…


(C)2020 オフィスクレッシェンド

次回の「インディーズ映画発見伝」第16回は、清水尋也主演、井手内創監督、内山拓也監督の『青い、森』を紹介します。

次回もお楽しみに!

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

関連記事

連載コラム

『レゴ バットマン ザ・ムービー』ネタバレ感想。キャラクターの魅力や評価を監督らの手腕で増幅させた作品|最強アメコミ番付評27

連載コラム「最強アメコミ番付評」第27回戦 こんにちは、野洲川亮です。 『スパイダーマン:スパイダーバース』で、第91回アカデミー賞長編アニメーション部門を受賞したフィル・ロード&クリストファー・ミラ …

連載コラム

映画『カニバ / パリ人肉事件38年目の真実』感想レビュー。ラスト30分は衝撃と恍惚が控える|だからドキュメンタリー映画は面白い21

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第21回 1981年に前代未聞の猟奇殺人事件を起こした男の、知られざる現状とは――。 今回取り上げるのは、2019年7月12日(金)よりヒューマントラス …

連載コラム

映画『燃ゆる女の肖像』感想レビューと評価解説。女性同士の恋愛を通じ“記憶する”という離別を描く|シニンは映画に生かされて21

連載コラム『シニンは映画に生かされて』第21回 2020年12月4日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほかにて全国順次公開の映画『燃ゆる女の肖像』。18世紀フランスを舞 …

連載コラム

映画『ジョージ・ワシントン』あらすじと感想。デヴィッド・ゴードン・グリーンが幻のデビュー作で描く人間の純粋な強さ|ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館5

2018年3月から一時閉館していた京都みなみ会館が、2019年8月23日(金)に、装いも新たに復活。 リニューアル記念イベントとして、2019年9月6日(金)からグッチーズ・フリースクール×京都みなみ …

連載コラム

『月の満ち欠け』原作ネタバレあらすじと結末までの感想評価。壮大なラブストーリーは生まれかわって愛を紡いだ“女性の軌跡”|永遠の未完成これ完成である36

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第36回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介するのは、佐藤正午の第157回直木賞受賞作『月の満ち欠け』です …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学