Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/08/19
Update

映画『ゆきおんなの夏』あらすじ感想と評価解説。亀山睦実監督が異種恋愛ラブストーリーを描く|インディーズ映画発見伝17

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第17回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」

コラム第17回目では、亀山睦実監督の映画『ゆきおんなの夏』をご紹介いたします。

第14回 田辺・弁慶映画祭の受賞作『マイライフ、ママライフ』(2021)が『田辺・弁慶映画祭セレクション2021』で上映される亀山睦実監督の初期作『ゆきおんなの夏』。

中田クルミ主演、人間に恋をしたゆきおんなのひと夏の恋を描く幻想的で美しい恋の物語。

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

映画『ゆきおんなの夏』の作品情報


(C)映画『ゆきおんなの夏』

【公開】
2016年(日本映画)

【監督・脚本】
亀山睦実

【キャスト】
中田クルミ、籾木芳仁、蒼波純、清瀬やえこ、美紀乃、ミネオショウ、森累珠

【作品概要】
監督の亀山睦実は、日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業後、2016年にクリエイティブチーム・ノアドに入社。映画、SNSドラマ、広告、テレビ、2.5次元舞台のマッピング映像演出など、幅広いメディアで活躍します。

2015年、クラウドファンディングで制作支援を呼びかけ、当時若干25歳で脚本・監督を亀山睦実が手がけて製作されたのが『ゆきおんなの夏』。

2016年7月に東京・渋谷のアップリンクにて初の単独上映をしました。本作は第10回田辺・弁慶映画祭コンペティション部門入選、数々の映画賞にノミネートされ、TOKYO月イチ映画祭2016年7月グランプリ、第1回Seisho Cinema Fes グランプリを受賞しました。

待機作に、第14回 田辺・弁慶映画祭で観客賞を受賞した『マイライフ、ママライフ』(2021)、『12ヶ月のカイ』(2021)があります。

主演のゆきおんなのゆき役を演じたのは亀山睦実監督の新作『マイライフ、ママライフ』(2021)にも出演している中田クルミ。他の出演作には、『事故物件 恐い間取り』(2020)、『HARAJUKU CINEMA』(2014)など。

他の出演者は『左様なら』(2019)、『集まった人たち』(2013)の籾木芳仁、『放課後ソーダ日和』(2019)、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(2018)蒼波純。

映画『ゆきおんなの夏』のあらすじ


(C)映画『ゆきおんなの夏』

ゆきおんなのゆき(中田クルミ)は真冬の東京で人間に恋をしました。

温かな彼(籾木芳仁)に触れたいと思ったゆき。

神様はゆきに人間の体を与えましたが、彼に恋をした記憶を消し去ってしまいました。

人間となり、東京の街へ降り立ったゆきは再び彼の元へ。

真夏の東京でゆきは彼が働くカフェで働き始め、次第にゆきは再び恋に落ちていきます……。

映画『ゆきおんなの夏』感想と評価


(C)映画『ゆきおんなの夏』

ゆきおんなと聞いてイメージするのは、人間を凍りつかせてしまう有名な怪談ではないでしょうか。それに反して、一般的に“妖怪”とされているゆきおんなを“恋する乙女”として描いたのが本作。

人は恋をするとその人のことを知りたい、話したい、そして触れたいと思います。しかしそのような全ての好意(行為)は相手を傷つける可能性もあります。

恋した相手に触れたい思いと、相手にどう思われるのか不安な気持ちで人は思い悩みます。

本作では、現代人が誰もが抱える恋の不安や悩みをゆきおんなのゆきを通して描いています。ゆきはゆきおんなであるため、人に触れると凍らせてしまいます。

恋をした記憶を消されてしまったゆきは、自分がゆきおんなであることも忘れています。しかし、ゆきは次第に恋に落ちていき、相手に触れたいと思うようになります。

ゆきの手探りの恋とは対照的に、恋にまっしぐらなのが女子高生のアイコです。アイコはゆきが働くカフェの常連客で同じ常連客の男性に恋をしています。

恋にまっすぐであるが故に、次に進むのを躊躇ってしまいます。しかし、しっかりと自分の気持ちを伝え、前に進むアイコの姿を見てゆきも気持ちを伝えようと思いました。

ゆきおんなというファンタジックな設定ではあるものの、そこに描かれているのは、“恋”という誰もが経験したことのある感情です。ファンタジックな設定は、恋に臆病で不器用な女の子の姿でもあるのです。

ゆきおんなのゆき演じる中田クルミさんは白を基調とした衣装と、透明感のある存在感が光ります。

無機質なゆきの部屋や真夏の東京で一人部屋でアイスを食べている姿など、どこか現実味のない存在感もありながら、生身の人間らしさもある不思議なキャラクターを演じています。

まとめ


亀山睦実監督(C)Cinema Discoveries

ゆきおんなというファンタジックな設定ながら、誰もが経験したことのあるような恋の悩みや不安を描く映画『ゆきおんなの夏』。

ゆきおんなのゆきを演じる中田クルミさんの透明感のあるどこか儚げな雰囲気が、映画の幻想的な世界観を演出します。そして恋をして気持ちを伝えようとするゆきの姿は等身大でもどかしく、愛おしく映ります。

真夏の暑い東京で、誰かが誰かに恋をし、気持ちを伝えようとする。けれど、気持ちを伝えたい、好きな人に触れたいという思いは相手を傷つけるかもしれない、両思いにならないかもしれない。そして、自分が傷つくかもしれない。

そんな恋に対する不安な気持ちをリアルに描きながら、それでも恋をしたい、人は恋をする…ゆきおんなのゆきの気持ちにのせて、観客にそう伝えてくれるような映画です。

亀山睦実Twitter

次回のインディーズ映画発見伝は…

次回の「インディーズ映画発見伝」第18回は、『愛のくだらない』(2021)が公開予定の野本梢監督の初長編作『透明花火』を紹介します。

次回もお楽しみに!

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら





関連記事

連載コラム

『総理の夫』映画原作ネタバレあらすじと小説の感想解説。日本初の女性総理と妻を支え奮闘する夫を中谷美紀×田中圭W主演で描く|永遠の未完成これ完成である25

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第25回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介するのは、原田マハのベストセラー小説『総理の夫 FIRST G …

連載コラム

映画『東京自転車節』感想評価とレビュー解説。青柳拓監督が“新しい日常”を生き抜くために駆け回る路上労働ドキュメンタリー|映画という星空を知るひとよ69

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第69回 映画『東京自転車節』は、実家の家族の反対を押し切り、東京で友人の家に泊まりながら自転車配達をする青柳拓をありのまま撮影したドキュメンタリー映画です。 …

連載コラム

ベルイマン映画『沈黙』解説ネタバレと感想考察レビュー。”神の沈黙三部作”ラスト最終章で描かれる“空虚な心”|電影19XX年への旅8

連載コラム「電影19XX年への旅」第8回 歴代の巨匠監督たちが映画史に残した名作・傑作の作品を紹介する連載コラム「電影19XX年への旅」。 第8回は、『叫びとささやき』や『仮面/ペルソナ』など、数多く …

連載コラム

講義【映画と哲学】第9講「“理由”を問うこと:デイヴィドソンの観点から『ある過去の行方』を見る」

講義「映画と哲学」第9講 日本映画大学教授である田辺秋守氏によるインターネット講義「映画と哲学」。 第9講では、「理由」を問うことをドナルド・デイヴィドソンの観点から再考。それを踏まえた上で、アスガー …

連載コラム

ブラジル映画『SNS殺人動画配信中』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。ラスト怒涛の展開でサイコサスペンスを描いた問題作!|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー73

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第73回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

U-NEXT
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学