連載コラム「インディーズ映画発見伝」第2回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」第2回。
その中から第2回目にピックアップするのは、根岸里紗監督の映画『三つの朝』をご紹介いたします。
フリーターの彼氏と先の見えない同棲を続ける20代の女性、上司と不倫関係にある30代の女性、女手一つで子育てをする40代の女性。
工場の夜勤明け、それぞれの思いを抱え同じ空を見上げる3人の女性。同じ空を見上げまた日常に帰っていく。少しずつ変わりゆく人生を感じさせながら丁寧に日常を切り取った美しい映画です。
映画『三つの朝』の作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【監督】
根岸里紗
【キャスト】
兎丸愛美、根矢涼香、唯野未歩子、曽我部恵一 、山下翔平、小野莉奈
【作品概要】
2016伊参スタジオ映画祭にて脚本賞を受賞し、映画製作を始めたという根岸里紗監督。映画『三つの朝』は伊参スタジオ映画祭2016 短編の部大賞他、門真国際映画祭、湖畔の映画祭、ながおか映画祭、神田ファンタスティック映画祭と数多くの映画祭でグランプリを受賞しました。『三つの朝』の次に製作された映画『ふたり』は2019年池袋シネマ・ロサの特集上映にて田口敬太監督の作品と共に上映されました。
キャストは『シスターフッド』(2019)、『海辺の途中』(2019)の兎丸愛美、『根矢涼香、映画監督になる。』(2020)、『父、かえれ!』(2020)の根矢涼香など。
映画『三つの朝』のあらすじ
工場の夜勤明け、ロッカールームで煙草を吸う岡田麻衣(根矢涼香)、青のネイルを塗る目崎ふみ(兎丸愛美)、メールを打ち込む原真知子(唯野未歩子)。バスに乗り3人はそれぞれの日常に帰っていきます。
フリーターの恋人と先の見えない同棲生活をしている岡田麻衣は、自分のやりたいことや恋人との将来の見えなさに対して不安を抱えています。
上司と不倫関係にある目崎ふみは上司にそっけなくされながらも自分を見てほしいと願っています。
原真知子は女手一人で娘を育て毎日日常に忙殺される日々。
同じ工場の夜勤で働き、同じ朝を迎えつつもそれぞれ違った日常を送り、交わりそうで交わらない3人のありふれた日常。同じようで少しずつ変化しゆく3人の人生が向かう先は…
映画『三つの朝』感想と評価
同じ工場で働く3人の女性。恋人と同棲している岡田麻衣、上司と不倫関係にある目崎ふみ、女手一人で娘を育てる原真知子。それぞれ日常に満足しているわけではないが、絶望しているわけでもなく、どこまでもありふれた日常を切り取った本作。
本作の中で、何か劇的なことが起こるわけでもなく、3人の日常が大きく交わることもありません。しかし、ゆるやかに3人の女性を取り巻く人々の関係性が変わっていきます。
ありふれた日常に埋もれてしまいそうなふとした瞬間を美しく切り取り、些細な心情のゆらぎを丁寧に描く根岸里紗監督の繊細な視点、女優陣の等身大の演技がありふれた日常に含みをもたせます。
かすかに交わる3人の日常、些細な会話に心なしか爽快感を感じ、新たな一日を迎える彼女たちと朝焼けの空に希望を感じる映画になっています。
まとめ
フリーターの彼氏と先の見えない同棲を続ける20代の女性、上司と不倫関係にある30代の女性、女手一つで子育てをする40代の女性。全く境遇の違う女性たちが同じ工場の夜勤で働き、同じ朝を見上げる。ありふれた日常を美しく切り取った映画『三つの朝』。
朝を迎えることに新たな始まりを印象付ける一方で、彼女たちにとっては仕事終わりでもあり、それぞれの人生、日常にかえるのが朝でもあります。
劇的な変化があるわけではないが、ゆるやかに関係性が変わっていく些細な映画を根岸里紗監督ならではの視点で丁寧に描いています。
根岸里紗監督が映画づくりにおいてこだわっている、関心を持っているテーマとしてお酒と煙草をあげています。本作においても喫煙シーンが描かれ、煙草とお酒に対する登場人物の捉え方も描かれており、注意してみてみると面白いかもしれません。
次回のインディーズ映画発見伝は…
連載コラム「インディーズ映画発見伝」第3回は、頃安祐良監督が演出を務め、中村朝佳が主演を演じた『あの娘、早くババアになればいいのに』。
お楽しみに!