Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/03/19
Update

映画『三つの朝』あらすじ感想と評価解説。根岸里紗監督の描くありふれた“愛しい朝”|インディーズ映画発見伝2

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第2回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」第2回

その中から第2回目にピックアップするのは、根岸里紗監督の映画『三つの朝』をご紹介いたします。


(C) Risa NEGISHI

フリーターの彼氏と先の見えない同棲を続ける20代の女性、上司と不倫関係にある30代の女性、女手一つで子育てをする40代の女性。

工場の夜勤明け、それぞれの思いを抱え同じ空を見上げる3人の女性。同じ空を見上げまた日常に帰っていく。少しずつ変わりゆく人生を感じさせながら丁寧に日常を切り取った美しい映画です。

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

映画『三つの朝』の作品情報


(C) Risa NEGISHI

【公開】
2017年(日本映画)

【監督】
根岸里紗

【キャスト】
兎丸愛美、根矢涼香、唯野未歩子、曽我部恵一 、山下翔平、小野莉奈

【作品概要】
2016伊参スタジオ映画祭にて脚本賞を受賞し、映画製作を始めたという根岸里紗監督。映画『三つの朝』は伊参スタジオ映画祭2016 短編の部大賞他、門真国際映画祭、湖畔の映画祭、ながおか映画祭、神田ファンタスティック映画祭と数多くの映画祭でグランプリを受賞しました。『三つの朝』の次に製作された映画『ふたり』は2019年池袋シネマ・ロサの特集上映にて田口敬太監督の作品と共に上映されました。

キャストは『シスターフッド』(2019)、『海辺の途中』(2019)の兎丸愛美、『根矢涼香、映画監督になる。』(2020)、『父、かえれ!』(2020)の根矢涼香など。

映画『三つの朝』のあらすじ


(C) Risa NEGISHI

工場の夜勤明け、ロッカールームで煙草を吸う岡田麻衣(根矢涼香)、青のネイルを塗る目崎ふみ(兎丸愛美)、メールを打ち込む原真知子(唯野未歩子)。バスに乗り3人はそれぞれの日常に帰っていきます。

フリーターの恋人と先の見えない同棲生活をしている岡田麻衣は、自分のやりたいことや恋人との将来の見えなさに対して不安を抱えています。

上司と不倫関係にある目崎ふみは上司にそっけなくされながらも自分を見てほしいと願っています。

原真知子は女手一人で娘を育て毎日日常に忙殺される日々。

同じ工場の夜勤で働き、同じ朝を迎えつつもそれぞれ違った日常を送り、交わりそうで交わらない3人のありふれた日常。同じようで少しずつ変化しゆく3人の人生が向かう先は…

映画『三つの朝』感想と評価


(C) Risa NEGISHI

同じ工場で働く3人の女性。恋人と同棲している岡田麻衣、上司と不倫関係にある目崎ふみ、女手一人で娘を育てる原真知子。それぞれ日常に満足しているわけではないが、絶望しているわけでもなく、どこまでもありふれた日常を切り取った本作。

本作の中で、何か劇的なことが起こるわけでもなく、3人の日常が大きく交わることもありません。しかし、ゆるやかに3人の女性を取り巻く人々の関係性が変わっていきます。

ありふれた日常に埋もれてしまいそうなふとした瞬間を美しく切り取り、些細な心情のゆらぎを丁寧に描く根岸里紗監督の繊細な視点女優陣の等身大の演技がありふれた日常に含みをもたせます。

かすかに交わる3人の日常、些細な会話に心なしか爽快感を感じ、新たな一日を迎える彼女たちと朝焼けの空に希望を感じる映画になっています。

まとめ


映画『三つの朝』の演出を務めた根岸里紗監督

フリーターの彼氏と先の見えない同棲を続ける20代の女性、上司と不倫関係にある30代の女性、女手一つで子育てをする40代の女性。全く境遇の違う女性たちが同じ工場の夜勤で働き、同じ朝を見上げる。ありふれた日常を美しく切り取った映画『三つの朝』

朝を迎えることに新たな始まりを印象付ける一方で、彼女たちにとっては仕事終わりでもあり、それぞれの人生、日常にかえるのが朝でもあります。

劇的な変化があるわけではないが、ゆるやかに関係性が変わっていく些細な映画を根岸里紗監督ならではの視点で丁寧に描いています。

根岸里紗監督が映画づくりにおいてこだわっている、関心を持っているテーマとしてお酒と煙草をあげています。本作においても喫煙シーンが描かれ、煙草とお酒に対する登場人物の捉え方も描かれており、注意してみてみると面白いかもしれません。

根岸里紗監督Twitter

次回のインディーズ映画発見伝は…


(C)2014「あの娘、早くババアになればいいのに」製作委員会

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第3回は、頃安祐良監督が演出を務め、中村朝佳が主演を演じた『あの娘、早くババアになればいいのに』。

お楽しみに!

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら



関連記事

連載コラム

映画『グンダーマン』感想評価と解説レビュー。アレクサンダーシェーアが実在した‟東ドイツのボブ・ディラン”を熱演|心を揺さぶるtrue story4

連載コラム『心を揺さぶるtrue story』第4回 第二次世界大戦で、日本と同様に敗戦国となったドイツ。終戦後、ドイツ民主共和国(東ドイツ)、ドイツ連邦共和国(西ドイツ)に分断されてしまいました。 …

連載コラム

【ネタバレ】キャドー湖の失踪|あらすじ感想と結末評価。シックスセンスのシャマラン製作のタイムリープスリラー|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー119

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第119回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞 …

連載コラム

映画『アメリカン・アニマルズ』あらすじと感想。実話の強盗事件を本人も登場させて描く青春サスペンス|銀幕の月光遊戯 31

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第31回 何かが起こる日を俺たちは待っていた! 大学図書館が所蔵する時価12億円を超えるヴィンテージ本を狙った、 普通の大学生が起こした普通じゃない強盗事件を描く『アメリカ …

連載コラム

『さくら』小説ネタバレと結末までのあらすじ解説。西加奈子原作の一匹の老犬が見守る家族のヒストリー|永遠の未完成これ完成である16

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第16回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介する作品は『さくら』です。直木賞作家・西加奈子の同名ベストセラ …

連載コラム

仮面ライダーフォーゼ&オーズ|ネタバレ結末感想とあらすじ考察。劇場版のMEGAMAXな歴代7人と未来のヒーローの活躍【邦画特撮大全97】

連載コラム「邦画特撮大全」第97章 今回の邦画特撮大全は、『仮面ライダー×仮面ライダーフォーゼ&オーズ MOVIE大戦MEGAMAX』(2011)をご紹介します。 「フォーゼ&オーズ」製作委 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学