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Entry 2021/12/11
Update

映画『浅草キッド』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。ビートたけしの芸人誕生秘話を柳楽優弥と大泉洋ら熱演す!|Netflix映画おすすめ76

  • Writer :
  • からさわゆみこ

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第76回

今回ご紹介するNetflix映画『浅草キッド』は、漫才師ビートたけしの自伝小説で、彼の師匠である芸人・深見千三郎との出会い、下積み時代の浅草での青春模様が原作で、劇団ひとりが監督・脚本を手がけた作品です。

舞台は昭和40年代の浅草です。大学を中退したビートたけしこと北野武は、「お笑いの殿堂」と呼ばれる、ストリップ劇場の“フランス座”のエレベーターボーイをしていました。

タケシはストリップ劇場の幕間(まくあい)で、深見千三郎のコントを観てほれ込み、芸人を目指し弟子入りを志願します。

しかし、テレビの普及と共にストリップ劇場の客足が減り、幕間や小劇場のコントや漫才は下火になってきます。

タケシはフランス座の元先輩キヨシから誘いをうけ、漫才コンビ「ツービート」を結成し、深見の反対を押し切ってフランス座を飛び出し、テレビ出演をするとみるみる人気者になっていきます。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら

映画『浅草キッド』の作品情報

(C)2021 Netflix

【公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本】
劇団ひとり

【原作】
北野武

【キャスト】
大泉洋、柳楽優弥、門脇麦、土屋伸之、中島歩、古澤裕介、小牧那凪、大島蓉子、尾上寛之、風間杜夫、鈴木保奈美

【作品概要】
芸人・作家・役者とマルチに活躍する、監督の劇団ひとりは幼少時からビートたけしのファンで、彼が芸人として世に出たのも、ビートたけしがプロデュースする、「天才たけしの元気が出るテレビ」オーディションです。

原作「浅草キッド」は劇団ひとり監督にとって、バイブル的なものでいつか自分で映画化したいと、脚本を手掛けはじめ撮影に至るまでに、7年間かかったといいます。

たけし役の柳楽優弥の起用に関しては、ビートたけしと通じる「天才がゆえに誰とも分かち合えない孤独な人」という、オーラがあったからだと語りました。

ビートたけしの師匠・深見千三郎役には、「探偵はBARにいる」シリーズ、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2019)、『騙し絵の牙』(2021)の大泉洋が演じます。劇団ひとり監督の『青天の霹靂』(2014)でも主演を務め、2度目のタッグとなりました。

他にもビートきよし役に漫才コンビ・ナイツの土屋伸之、HIPHOPユニット「Creepy Nuts」が、カメオ出演しているところにも注目してご覧ください。

映画『浅草キッド』のあらすじとネタバレ

(C)2021 Netflix

1974年、“松鶴家タケシキヨシ”の2人は、地方のキャバレーや温泉宿のステージで、漫才興行に歩く日々……キャバレーの客は酒とホステスと乱痴気騒ぎで、漫才を聞く者など1人もいません。

しだいにそんな客に苛立っていくタケシは、「黙って聞いてろバカ野郎」と暴言を吐きます。その場を取り繕うとするキヨシの努力も虚しく……。

怒った客から「何なんだよ、オマエ!」と詰め寄られ、“芸人だよ、バカ野郎”と言い返し大乱闘となってしまい、激怒した支配人は2人を店から追い出します。

タケシはそんなのどこ吹く風……しかし、どこへ行っても無名の芸人の漫才を聞く者などおらず、大部屋の控室でもタケシだけは浮いた存在です。誰も聞かない漫才をするため練習をし、笑いの取れない虚しさをかみしめる日々でした。

用意された宿がラブホテルの時もありました。ベッドに寝ころびいっそのこと、頭下げてフランス座に戻ってみるかとキヨシは聞きますが、師匠は戻って来ても一歩も小屋へは入れるなと、言ってるらしいとタケシは遠い眼で天井をみつめます。

2年前、白のスラックスにブルーの背広、白いハットをかぶって皮カバンを持ち、颯爽と歩く“深見千三郎”がやってきます。

彼は浅草の住民や“フランス座劇場”の従業員のおばちゃんから、“師匠”と呼ばれきつい冗談を言いながら中へと入って行きます。

タケシはフランス座で“エレベーターボーイ”をしていました。深見はフランス座の座長兼“芸人”で、タケシは働き出してから彼のコントを観て、その芸風にとことん惹かれていきました。

そして、いつしか深見の弟子になり、フランス座のステージに立ちたいと、チケット売りのおばちゃんに、口利きしてもらおうと待っていました。

フランス座の楽屋で寝泊りをしていたタケシはある晩、誰かが歌う声を聞きステージへ行くと、踊り子の千春が衣装を繕いながら、流行歌を歌っていました。

彼女は旅芸人の一座で、芝居や歌をしながら日本中を巡り、気がつけばフランス座で裸で踊っていると自虐しますが、タケシは彼女は歌が上手いと褒めます。

千春は褒めるタケシには下心があると思い、「ヤラせないよ」と言ってからかいます。

以下、『浅草キッド』ネタバレ・結末の記載がございます。『浅草キッド』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2021 Netflix

次の日、劇場の入り口に行くと従業員の塚原さんが、深見にタケシのことを口利きしてくれています。

深見はタケシを見ると「で、何ができるの?」キョトンとしてしまうタケシに、“芸事”は何ができるのかと聞きますが、タケシには取柄となるものが何もありません。

深見は“バカ野郎!なめてんのか!?”と、タケシを一喝します。タジタジになってしまうタケシに深見は言葉を畳みかけ、黙ってしまったタケシに“言われたら、すぐ言い返すのが芸人”だと、他をあたるよう諭します。

タケシは「他ではダメなんです」と食い下がり、深見のコントに勝るものがないと、熱く訴えますが、深見はど素人に言われてもと一蹴します。

しかし、エレベーターで2人になると楽屋のある4階までの間、深見はタケシにカバンを持たせタップダンスを見せます。タケシはそのステップに見惚れ、深見は本気でやる気があるなら教えてやるとタケシに告げました。

その日からタケシは開けても暮れても、劇場の仕事の合間にタップの練習をし、スニーカーの底が擦り減るほどになります。

そんなある日、深見のコントに出演する、先輩芸人の“兼子キヨシ”が出られなくなり、その代役でタケシが出演するチャンスがきます。

深見のコントには台本はなく、ほとんどがアドリブで構成されていました。タケシはコントの流れだけ説明され、ナンパされるホステスという役で登場します。

タケシは厚塗りの可笑しなメイクをして、深見に叱られます。作った顔で笑わせず、芸人なら芸で笑いを取れと怒られます。

芸でホステスになり、世界で一番キレイになってやるという心意気で化粧をしろと……。そして、深見一座で芸人をやるなら、「笑われるな、笑わせるんだ」と諭されます。

タケシ扮するホステスと深見のアドリブ劇は、深見のリードで展開し笑いをとっていきます。調子をつかみかけてきたタケシも客から拍手がおきますが、深見は言います。

こんな下手な芸に拍手なんかしたらこいつがダメになっちまうと……、客は深見に何様のつもりだとヤジをとばすと、「芸人だよ、バカ野郎。見てもらってるんじゃないんだ。芸を見せてやってるんだ。黙って見てろ」と言ってのけます。

この言葉にタケシの瞳は輝き、初舞台はなんとか切り抜けることができました。

深見の妻麻里はタケシや先輩芸人の高山、脚本の井上、千春を連れて“捕鯨舩”という居酒屋で労います。

この店は芸人が“鯨(げい)”を食べて、芸を磨けと銘打っていて、浅草の演芸場や劇場の芸人たちのたまり場です。

帰り道、タケシは客の入りの悪さが気なると井上に話します。井上は娯楽も時代はテレビに移っていると指摘しますが、深見はテレビで芸が伝わるわけがないと毛嫌いしていました。

しかし、ストリップを観に来る客も年配者ばかりだと言います。

井上が実家の母親に手紙を出すと、タケシは一度人生を切ってきたと話しだします。大学を中退して家を飛び出し、バイトで食いつないでいました。

学生運動でいきり立っていた学生は、ちゃっかりサラリーマンになっていた時、タケシはその波に乗らず、うだつの上がらない暮しで、情けなく悔しさを感じていました。

タケシは芸人としてやっていこうと決め浅草に出てきました。そんなタケシに井上はみんなそうやって夢見て、のたれ死ぬんだよと茶化します。

ある晩、舞台装置の修理を頼まれたタケシが作業を終えると、ステージ袖に深見が使っているタップダンス用の靴をみつけ、それを履いてステージに立ってみます。

修理に付き合っていた井上は気転をきかせ、タップミュージックをかけて、タケシにスポットライトをあてました。

音楽が流れるとタケシは軽快なステップを踏み始め、水を得た魚のように弾んで踊ります。

しばらくすると井上の隣りに深見が現れます。慌てて音楽を止めようとしますが、深見は制止してジッとタケシのタップダンスをみつめます。

踊り終わったタケシに井上が師匠が観てたと告げ、タケシはあとを追いかけます。深見はふざけたマネしやがってと言いますが、タップダンスの靴はくれてやる、“500円”でと言います。

その言葉には深見の不器用な愛情が込められているように、顔には穏やかな笑みが浮かんでいます。

次の日、タケシが深見の楽屋にいくと、舞台の進行や芸人の世話も頼むといいます。そして、深見の住んでいるアパートの下が空いたから、借りる手筈をしたと話します。

(C)2021 Netflix

深見の私生活は劇場の経営に比例し、豊かとはいえませんでしたが、アパートにタケシが帰ってくる気配がすると、「ちょっと出かけてくるわ」と身支度をします。

財布に現金がなければ妻の麻里が補充してくれます。深見はそれをもって偶然を装い、タケシや井上に夕飯を食べさせに出かけるのです。

タケシは日常のこともネタにして、芸人なら普段から、“ボケ”ろと深見から伝授され、幕間のコントに頭角を現し、人気も上々となっていきます。

それでも劇場の経営は悪くなる一方で、噂を聞いた深見のかつての弟子、東八郎がやってきて劇場を畳む“潮時”だと、下請けの仕事を紹介しますが、深見は反発して断ります。

ある日、幕間のコントに空きができ、タケシは千春に歌手として、ステージでるよう提案します。その提案は実現しますが、客は歌を聴きに来たわけではないと、実感させられてしまいます。

タケシもまた、コントを目的に来ている客ではないと自覚し始め、悶々とする日々となっていきます。そこへかつてフランス座でコントをしていた、兼子キヨシがタケシを訪ねます。

キヨシはタケシに一緒にコンビを組んで、漫才をやらないかと誘います。タケシはフランス座や深見のことが気がかりで、一旦その話しは断ります。

しかし、浅草演芸場へ出向いたタケシは、そこで漫才の面白さではなく、笑いを求めにくる観客を相手に“笑わしている”ことに衝撃をうけました。

タケシは深見にフランス座を辞めて、外で勝負させてほしいと願い出ます。深見は反対をしますが、裸見たさの客を笑わせても何にもならないと、フランス座を後にします。

タケシとキヨシは“松鶴家タケシ・キヨシ”としてコンビを開始し、地方巡業に出かけますが、鳴かず飛ばずの時代を過ごしました。

タケシはネタを過激にし、コンビ名を“ツービート”と改名して、ビートたけし・ビートきよしとして、浅草を拠点にやり直そうと提案します。

2人は浅草松竹演芸場で人気を高め、芸人仲間が観に来たり、立ち見が出るほど名の通った漫才師になります。

フランス座は経営の資金繰りが厳しく、貸付会社から借金をしたり、麻里は芸者として料亭で、深見も東八郎が紹介した仕事で身を立てるようになりますが、麻里は過労で倒れます。

ツービートには転機が訪れます。お笑いオーディション番組に穴ができて、そこに出演することになり、リハーサルではネタが過激すぎると、変更を求められますが、タケシは満を持して、演芸場でウケる過激なネタで勝負します。

ツービートはテレビで成功し、1980年代に入ると“THE MANZAI”ブームが訪れました。テレビで彼らを観ない日がないほどの人気になりました。

1983年、タケシは第11回日本放送演芸大賞で、“ビートたけし”として大賞を受賞し、賞金を持って浅草の深見のアパートへ向かいます。

麻里を亡くし酒びたりの日が増えた深見は、孤独に暮らしていました。テレビで活躍するタケシを“俺の弟子”だと、喜びながらも心は空虚でした。

部屋を訪ねたタケシは麻里に線香をあげ、深見に賞金を差し出し“小遣い”だといいます。深見は“おちょくってるのか”といいつつ、祝儀袋の中を覗き込み紙幣を数え始めます。

2人はボケてツッコミながら、元の師弟に戻り“捕鯨舩”へ飲みにいきます。2人の掛け合いはフランス座での幕間コントのように、店の中を笑いの渦にします。

深見はタケシの人気を気遣って店を出ると、タクシー代を渡して乗せて早々に帰します。深見はタケシの才能をたいしたもんだと、麻里の遺影に話し“負けてらんねぇ”と言います。

そして、タバコを一服吸いますが、酩酊した深見はそのまま眠ってしまい、火の不始末が原因の火事で亡くなってしまいます。

タケシは深見の通夜で東と会います。彼がフランス座を畳むよう促したとき、タケシに芸の全てを教えるまで畳めないと言い、“あいつは本物だ”と語ったこと、劇場の支配人に酒を持って、“あいつらを頼む”と頭を下げて回っていたと話します。

タケシは祭壇の深見の遺影に向かい、毒まじりの弔辞を捧げいつまでもむせび泣きました。

映画『浅草キッド』の感想と評価

(C)2021 Netflix

深見千三郎は踊り子目当ての客から、ヤジを飛ばされても「バカヤロー!黙って観てろ」というような、破天荒な芸人でしたが、生涯ストリップ劇場の“幕間”でコントを披露することに執着し、テレビ出演には背を向けてきました。

ほとんどメディアに出なかったことで、「幻の浅草芸人」とも呼ばれた、深見千三郎は独特のカリスマ性とリーダーシップがあり、人望も厚かったので芸人以外の浅草の人達からも慕われていました。

そんな深見千三郎とビートたけしの師弟愛を描いた映画『浅草キッド』は、“切羽詰まった男同士の絆”を描いた作品ともいえます。

柳楽優弥のビートたけしが、意外と自然であったことに驚きがありました。深見千三郎には映像的な資料がないにも関わらず、大泉洋が深見の姿を蘇らせたと思わせました。

芸人として座長としての生き様

“深見千三郎”は浅草で芸事を習い、戦後は舞台芸人として一座を旗揚げし、全国を巡り1959年頃に再び浅草へ戻ると、ストリップ劇場“フランス座”の立ち上げに参画しました。

深見は中学校卒業から、ギターやタップダンスといった芸事に勤しみ、第二次世界大戦中に軍事工場で左手の指を4本失っても、そのハンデを気づかせないほどのテクニックを持っていたといいます。

またテレビを毛嫌いし、出演しなかったと言われていますが、指の欠損を気にしてが理由だったともいわれています。

兎にも角にも彼は浅草の地で、幕間芸人を仕切り、最期まで浅草の舞台を全うし、「浅草の師匠」「幻の浅草芸人」と呼ばれるようになりました。

タケシは深見の乱暴な言葉遣いや厳しさは、「師匠は芸をなんでも持っていたが売れなかった。だから、イライラしていたのだろう」と、気持ちとは逆の態度が出ていたのだと回想しています。

そして、芸人にありがちな封建的な師弟関係に批判的だった深見は、作中にあったように住まいや食事の面倒をよくみて、一緒に楽しむことを第一に考える師匠でした。

弟子は次々にテレビで活躍し、衰退の一途を辿るストリップ劇場でコント一本で立ち直らせようとし、現れたのが風来坊的なタケシです。

何の芸もないタケシを一から鍛えたのは、彼に大きな期待も込めていたこと、居場所を失いつつある不安や寂しさが、深見を突き動かしたともみれます。

弟子のピンチに寄り添った“師匠”の存在

ビートたけしと深見千三郎の師弟関係は、2年間と短い期間でしたが、たけしは他の弟子の中でも、特別に可愛がられていたことが、『浅草キッド』から伝わります。

そんな、ビートたけしの口癖だと思っていた「バカ野郎、この野郎」は、深見が枕詞のごとく言っていたからだとわかりました。

2人が出会ったタイミングは、ストリップ劇場の衰退とも重なり、現実をわかっていたのは、深見自身で自分の持っている全てを託せるのは、たけししかいないと見抜いています。

ところがたけし自身は“芸”はないが、アイデアはたくさんあり成功を重ねます。そんな彼は人生の中で大きな失敗も経験し、そこから復活しています。

たけしは失敗を起こすと、敬愛する“師匠”のことを思い出し、芸もなく中途半端に売れてしまった自分は、“芸人”として新しいことをやっていくことが定めと感じました。

師匠・深見千三郎について、ビートたけしは「自分は有名になる事では師匠を超えられたが、芸人としては最後まで超えられなかった」と語ります。

まとめ


(C)2021 Netflix

Netflix映画『浅草キッド』は、辛い時、苦しい時に“師匠”と呼べる存在がいて、師匠を思い出すことで、人生に行き詰まりがないと感じさせる作品でした。

師匠が真剣に弟子と向き合い、弟子が師匠に食らいつく、そんな濃厚な関係が時間の長短ではなく、一生ものの“師弟関係”になるのだと知らしめてくれました。

ビートたけしが深見千三郎を「理想の芸人」と評しているのは、現代の「理想の上司」とも受け取れるでしょう。

威張り散らして命令するだけの上司ではなく、部下が悩み苦しんでいるのを察知して、さりげなく手を差し伸べるような上司です。

深見の言葉はぶっきらぼうでも、厚い人望は人への気遣いが作り上げたものでした。自分のことよりもまずは相手を思う深見の気質が、浅草の人々(浅草キッド)から今も愛され続ける理由で、“タケシ”もまたそれを受け継いでいると言えるのではないでしょうか。

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