連載コラム「最強アメコミ番付評」第36回戦
こんにちは、野洲川亮です。
今回は2019年10月4日公開、ヴェネツィア国際映画祭でアメコミ映画史上初の、コンペティション部門最高賞にあたる金獅子賞を受賞した『ジョーカー』の魅力を、歴代作品のジョーカーから考察していきます。
バットマンの一悪役に過ぎなかったジョーカーが、その枠組みを飛び越えてきた歴史を、各作品のジョーカーから探ります。
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初代ジョーカーTVドラマ『怪鳥人間バットマン』(1966~68年)
記念すべき実写版ジョーカーの初登場作品は、後述する近年の“シリアスでダーク”なバットマン作品しか知らない人たちにとっては、拍子抜けするほどの牧歌的な雰囲気をまとったコメディドラマでした。
敵を殴った瞬間に画面いっぱいに擬音文字が拡がる、この作品を語る上で外せないコミカルな演出ですが、作品全体がこのような陽気でのん気な、チープなテイストに満ちています。
そこで“初代”ジョーカーを演じたのはシーザー・ロメロ、終始ハイテンションなキャラクターですが、その後のジョーカー像としておなじみとなる、凶悪性や素性の底知れなさのような奥深さは皆無でした。
ビジュアル面では、緑の髪、白塗り、紫のスーツといった主な部分は抑えていますが、不気味さや邪悪さは強調されず、それこそピエロのようなとっつきやすさすら感じるものに仕上がっています。
それはある意味で、製作当時のハリウッドの空気感を端的に表しているとも言え、作品自体も現在では“一周回って”ファンの評価も高く、カルト的な人気を博しています。
怪優ニコルソン炸裂!『バットマン』(1989)
バットマンシリーズおよそ20年ぶりの映画化作品で、前年に『ビートルジュース』(1988)をヒットさせていたティム・バートンが監督を務めました。
ジョーカー役には、オスカー受賞経験を持つ名優ジャック・ニコルソンが選ばれます。
バットマン役を務めたマイケル・キートンを含め、アメコミの持つイメージを打ち破るようなキャスティングであり、ティム・バートンが打ち出したゴシックでダークな世界観にハマり、評価、興行の両面で成功をおさめます。
この時のニコルソン版ジョーカーは、序盤ではただのマフィアとして登場し、バットマンとの戦いの最中に事故に遭い、肌は真っ白に、表情は笑顔で固定された状態になってしまう、という誕生譚が描かれました。
元々凶悪で残虐だった男が、さらに自分に身に降りかかった悲劇から狂気と異常性をまとっていく様を、エキセントリックでユーモラスに、観客の心を離さないギリギリのラインでニコルソンは表現します。
このジャック・ニコルソンが生み出したジョーカーは、バットマンのみならずアメコミ映画の格式までも高めたと言っても過言ではなく、怪優ニコルソンの影響力の凄さを世間に示したとも言えます。
伝説となったヒースの熱演『ダークナイト』(2008)
クリストファー・ノーラン監督が手掛けたバットマン3部作、その第2弾でバットマンの宿敵ジョーカーを演じたのはヒース・レジャーでした。
ジャック・ニコルソンが演じて以降、そのあまりの偉大さからなのか、実写版でジョーカーが登場することはなく、まだ若いヒース・レジャーに周囲から相応のプレッシャーがかかっていたことは容易に想像がつきます。
そんな中で、このヒース・レジャーが演じたジョーカーは、その見た目から過去の2人とは一線を画すものでした。
コーディネイトこそ同じものの、雑然とセットされゴワゴワのヘアースタイル、乱暴に白く塗りたくられた顔、紫のスーツをしわくちゃに着こなす様は、このキャラクターが精神に異常をきたしていることが、パッと見ですぐに分かるものです。
見た目だけにとどまらず、レジャー版ジョーカーが観客を引き付けたのは、単に残虐性が高いだけではなく、この世にあるモラルを破壊や混乱と共に人々に問うてくるという、鮮烈なキャラクターからでした。
ナース姿で病院を爆破する際の、とぼけた表情とたたずまいでの大破壊シーンは、映像の迫力と共にジョーカーの狂気と知性、魅力が一度に伝わる名場面となっています。
前述した『バットマン』以上に、アメコミ映画の社会的地位と評価を変動させてみせたこの作品で、ヒース・レジャーはアカデミー助演男優賞を受賞しました。
残念ながら、ヒース・レジャー本人はこの受賞だけでなく作品の公開を待たずして、薬物の過剰摂取で28歳の若さでこの世を去りました。
この過剰摂取に至ったのは、常軌を逸したジョーカーというキャラクターの役作りも影響しているのではと言われています。
シリーズ完結編となる、『ダークナイト ライジング』での再登場の予定もあったと言われていましたが、その出演も幻に終わってしまったのです。
ヴィランたちの祭典でよみがる『スーサイド・スクワッド』(2016)
『マン・オブ・スティール』(2013)、『バットマン vs スーパーマン』(2016)に続き、DCEUシリーズの第3作として製作された、ヴィランのオールスター映画『スーサイド・スクワッド』で、ジョーカーはスクリーンへと帰還します。
今度のジョーカーは『ダラス・バイヤースクラブ』(2013)でアカデミー助演男優賞を受賞した、ジャレッド・レト。
ジャック・ニコルソン、ヒース・レジャーと、3人続いてオスカー受賞者が演じたことからも、ジョーカーという役がどれだけ大きなものかということが伝わります。
この作品では、“豪華な賑やかし”とでも言うような役回りとなったジョーカー、メインストーリーの中ではあまり登場せず、ヒロインのハーレイクイン(マーゴット・ロビー)との絆が描かれる、回想シーンで主に登場することとなります。
これは作品自体がR指定を避けるために過激なシーン、演出を抑えていった結果だったようで、レト本人も認めているように、ジョーカーの登場シーンは大幅にカットされていました。
そんな中でも、共演者たちに動物の死骸やアダルトグッズを送り付け、現場で役名ではなく本名で呼ばれた場合は完全無視を決め込むなど、先代ジョーカーたちに負けない強烈な役作りを敢行したジャレッド・レト。
過去のジョーカーたちと比較しても、白塗りメイクをガッチリ決め込んで、数あるスーツをいくつも着こなす、最もスタイリッシュなジョーカーを完成させました。
これらの作品の他にも、TVドラマ『ゴッサム』シリーズの最終シーズンでもジョーカーが登場が示唆されており、映画版と合わせて注目が高まっています。
初の単独主演、あの名作がモチーフとなる『ジョーカー』(2019)
ジョーカー最新作のタイトルは『ジョーカー』、史上初めてバットマンが登場しない、DCEUシリーズとも別の世界観で描かれる単独主演作品となりました。
予告が公開されると、映画ファンの多くがある名作を彷彿とさせる予告に熱狂しました。
その内容は、ある男が世の不条理と闇に包まれ、孤独の中で精神を病んでいく、ロバート・デ・ニーロ主演の『タクシードライバー』を連想させるもので、製作側も『タクシードライバー』からの影響で書かれた作品であると認めています。
しかも、そのデ・二ーロ自身が出演することも決定し、本作はより大きな注目を浴びることになります。
主演を務めるのはホアキン・フェニックス、これまた受賞経験こそないものの幾度もオスカーにノミネートされ、ゴールデングルーブ賞などいくつもの栄冠を勝ち取ってきた実力俳優です。
一目見ただけで心身が病んだ状態である事が伺えるフェニックス版ジョーカー、この役を演じる上で欠かせないキャラクターの奥深さをどのように表現するのかが楽しみです。
物語は、大道芸人として生きる冴えない男が、懸命に人生を送る中で悪へと堕ち、ジョーカーが誕生する瞬間が描かれます。
鏡に向かい笑顔を作り、自らの内面と向き合っていく様は、正にタクシードライバーそのもので、悪のカリスマと呼ばれるジョーカーがなぜ、どのように生み出されていったのか、これまでの作品では断片的にしか語られなかったその過程を、本作では2時間たっぷりと堪能することが出来るのです。
そしてもちろん、ジョーカーの魅力と同時に、ヴェネツィアを制し、アカデミー賞の受賞まで確実視されるほどの高評価を受ける本作自体のクオリティーにも期待しましょう。
次回の「最強アメコミ番付評」は…
いかがでしたか。
次回は、今回特集した『ジョーカー』のネタバレ感想をお送りします。
お楽しみに!