連載コラム「最強アメコミ番付評」第32回戦
こんにちは、野洲川亮です。
今回は4月19日公開の『シャザム!』をネタバレ考察していきます。
DCEUシリーズ第7作目となる異色のヒーロー映画を、少年がスーパーヒーローへと成長する過程を中心に考察していきます。
『シャザム!』のあらすじとネタバレ
1974年、サデウス・シヴァナは父、兄とともに雪道を車で走っていました。
すると突然、父と兄の姿が消え、サデウスは謎の宮殿へと召喚され、魔術師シャザムと出会います。
シャザムから魔術の力を継承する資格を問われたサデウスでしたが、宮殿に封印されている“七つの大罪”からの誘惑に負ける姿を見せてしまい、シャザムに現実世界へと戻されてしまいます。
時は流れ現在、15歳の少年ビリー・バットソンは、これまで何組もの里親に引き取られてきましたが、幼い頃に生き別れた母親を一人で探そうと度々脱走する問題児でした。
今回も母親は見つからず、警察に保護されたビリーは、また新しい里親のグループホームで引き取られることとなります。
そこでビリーは、足が不自由なフレディ、おしゃべりなダーラ、大学進学を目指すメアリー、ゲーム好きなユージーン、無口なペドロといった個性的なホームの兄弟たちと出会いますが、家族を知らないビリーは馴染もうとはしません。
その頃、サデウス(マーク・ストロング)はシャザムに資格が無いと言われた日から数十年、自分のようにシャザムに召喚された人たちを研究していました。
そして、宮殿へ行く方法を見つけ、再びシャザムの前へと現れたサデウスは、“七つの大罪”を封印する目の力を解き放ち、自らの体に魔物たちの力を取り込んでしまいます。
一方、兄弟たちと同じ学校へ通うことになったビリーは、いじめっ子に絡まれていたフレディが、母親がいないことをなじられていることに怒り、いじめっ子を殴りつけ追いかけられます。
地下鉄に乗って逃れたビリー、しかし目の前から乗客たちが姿を消し、電車を降りると謎の宮殿へと着いていました。
シャザムと出会ったビリーは勇者と認められ、シャザムから力を継承し、スーパーヒーロー・シャザム(ザッカリー・リーヴァイ)へと変身します。
突然、ヒーローのコスチュームをまとった大人の肉体となってしまったビリーは、スーパーヒーローマニアであるフレディを呼び出し、助けを求めました。
フレディはシャザムの超能力を撮影しながら試させ、その力の凄さ、「シャザム!」と叫ぶことで元の姿に戻ることを発見した二人は、人助けや金稼ぎをしながら撮影したビデオを投稿し、シャザムはスーパーヒーローとしての知名度をあげていきます。
ところが、ヒーローの力を自分のためだけに使い、自作自演の救出劇で喝さいを浴び、いじめっ子からも助けてくれようとしないビリーにフレディは怒り、ケンカになってしまいます。
そこへ魔物たちの力を手にして、自分を軽んじてきた父や兄を殺し、シャザムの誕生を知ったサデウスが現れ、シャザムの力を奪おうと襲いかかってきます。
サデウスの力に圧倒され恐怖したビリーは、「シャザム!」と叫んで元の姿に戻り、戦いの混乱に乗じて逃げ出しました。
ビリーを見失ったサデウスは、居合わせたフレディがシャザムの正体を知っていることに気付き、人質に取ります。
何とか逃げ出してグループホームへ戻ったビリーは、ホームの兄弟たちからビリーの母親の居場所がわかったと告げられ、急いでその場所へと向かいます。
母親と再会したビリーは、すでに母親が再婚していること、ビリーと生き別れたのは偶然だったものの、その後シングルマザーとなる不安から、ビリーを探さなかったことを知りショックを受けますが、母を思いその場を去りました。
そこへフレディの携帯を奪ったサデウスから、ホームに戻ってくるようにと連絡が入り、ビリーはシャザムに変身しホームへと急行します。
子供がスーパーヒーローへと成長する喜び
本作において、主人公ビリーは孤児の15才、数々の里親から見放されるほどの問題児として描かれています。
そんな少年が、純粋で正義の心を認められシャザムとなるわけですが、セリフで本人が述べている通り、「僕はそんな純粋じゃない」キャラクターにしか見えません。
どういう基準でビリーがシャザムに選ばれたかは、最後まで劇中で語られることはなく、脚本上ではあえて言い落されていることがうかがい知れます。
ここまでにビリーが生き別れた母親を探し、家族という絆に飢えている存在であり、里親などに仮初めの家族関係を否定していることは観客にも示されています。
観客は決してヒーローに向いているとは思えないビリーに疑問を持ちますが、それもそのはず、この物語はどこにでもいる少年が、数々の試練や他人との交流の果てに、スーパーヒーローへと成長する過程をこそ楽しむものなのです。
中盤でサデウスとの戦いの末、ビリーはサデウスに心から怯え、ただただ自分がその場から逃げ出すことだけを考えて行動します。
しかし、その後に仲たがいしていたフレディが人質になっていることを知らされると、迷うことなくシャザムへと変身し、フレディの元へと駆け付けます。
それまで自分の利益しか考えず行動していたビリーが、明確に利他的な行動をするのを見て、観客はビリーが人間的な成長を遂げていることを実感します。
その成長が行きついた先に、兄弟たちを心から信頼することで全員がヒーロー・シャザムに変身する、という一見トンデモな展開が感動を呼ぶことになるのです。
9割ボケ続ける純正コメディだからこその感動
初期のDCEUシリーズは『マン・オブ・スティール』(2013)、『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)など、シリアスでリアリティーを重視した、硬質な世界観が築かれてきました。
しかし、その作品傾向は『ジャスティス・リーグ』(2017)あたりから徐々に変化していき、シリーズ前作の『アクアマン』(2019)に至っては、作品全体が陽気でコミカルな雰囲気を前面に押し出していました。
この流れの一つの到達点となったのが本作の、“9割ボケ続ける純正コメディ”仕様のストーリーでしょう。
シャザムに変身し手にした超能力を使い、子供のような遊びに興じていく様をとことんユーモラスに描き、敵との戦闘時も中身が子供という設定を忘れず、大人の姿で放つ子供なセリフが笑いを誘います。
こういったコメディ性をベースとしているからこそ、サデウスが家族を虐殺するシーンの凄惨さに恐怖し、ビリーたちが家族の絆を築く姿に感動しやすくなります。
作品全体に漂う安心感は、スピルバーグ作品や『グーニーズ』(1985)などの、ジュブナイル、SF映画の系譜を継ぐ意志を感じさせます。
MCU作品で言えば、「アントマン」シリーズ、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」が好きな人にとっては、本作の持つカラッとした陽気さはとても相性が良いと思われます。
次回の「最強アメコミ番付評」は…
いかがでしたか。
次回の第33回戦は4月26日公開、MCU10年の集大成となる作品『アベンジャーズ/エンドゲーム』を考察していきます。
お楽しみに!