こんにちは、野洲川亮です。
2018年11月12日、『スパイダーマン』、『X-メン』などの作品を手掛けたアメコミ原作者、スタン・リーさん(95歳)が逝去されました。(以下、敬称略)
マーベル・コミックス、そしてアメコミというジャンルそのものの発展を支え、原作者、編集者として数々の傑作を生みだしていきました。
今回はコミックだけでなく、テレビアニメの製作、マーベル映画作品でおなじみとなったカメオ出演と、アメコミファンに愛されてきた“スーパーヒーローの生みの親”スタン・リーの軌跡を振り返ります。
MCU映画に最多のカメオ出演
「アベンジャーズとか見に行くと、毎回出てくるおじいちゃんは何者?」映画ファン、アメコミファンならずとも、このように思ったことがあるかもしれませんが、それこそがスタン・リーその人です。
スタン・リーがカメオ出演した初めての作品は、テレビドラマ『The Trial of the Incredible Hulk』 (邦題:『超人ハルク’90』)で、裁判の陪審員役を演じました。
その後、アニメ版『スパイダーマン』では本人役の声優も演じており、実写映画以外にも多種多様な作品に出演しているのです。
そんなスタン・リーが出演した映画はなんと37本、テレビドラマ、アニメ、ゲームなど含めれば、50本以上になり、もはやベテランの俳優と比べても遜色ないどころか、匹敵するような数に上ります(全て2018年11月15日時点の数字)。
さらに、世界で最も多くの作品が映画化されたコミック作家で、カメオ出演した映画の興行収入が世界一の俳優として、ギネス世界記録まで持っています。
このギネス記録は、2008年にスタートし世界的な大ヒット作を連発しているMCU映画が大きく影響していますが、同時に『アイアンマン』(2008)から『アントマン&ワスプ』(2018)まで、MCU全ての作品にカメオ出演しているというシリーズ最多出演記録も、おそらく今後破られることのないものでしょう。
彼が演じる役は本人役だけでなく、エキストラ的な通りすがりから、映画の登場人物たちにジョーク、教訓を伝えるような存在感に満ちたものまで、幅広いものでした。
「今回はどこに、どんな役で登場するのか?」いつの間にかファンにとって、スタン・リーの姿をスクリーン上に探すことは、楽しみな恒例行事と化していきました。
ダンディかつキュートさを携えた風貌と、穏やかながらパワフルな語り口は、ベテラン俳優も顔負けの稀有な魅力を、我々観客に振り撒いてくれました。
コミック原作者としてのスタン・リー
スタン・リーの“俳優”としての活躍は前述した通りですが、では彼の本業であるコミック原作者としては、どのような活躍をしてきたのでしょうか?
ルーマニア系ユダヤ人で、ニューヨークのマンハッタン生まれのスタン・リーは、若い頃から文章を書くのが好きな少年でした。
17歳で後のマーベルコミック、タイムリーコミックスに入社し、『キャプテン・アメリカ』の脚本を担当します。
ちなみに多くの人が勘違いしているかもしれませんが、スタン・リーはコミックの作画は行っておらず、原作や編集のみを担当していました。
その後、編集長として数多くの作品を生み出していく中、1961年にそれまで無かった現実的要素を盛り込んだスーパーヒーローもの『ファンタスティック・フォー』を創刊します。
この作品のヒットをきっかけに、リアリティーを重視した描写、キャラクターが作られ、社会的テーマも入れ込まれていき、アメコミというジャンルそのものに大きな変化を与えていきます。
『ハルク』、『ソー』、『スパイダーマン』、『アイアンマン』、『アベンジャーズ』、『X-メン』など多くの原作の手がけ軌道に乗せた後、原作執筆の第一線から離れていきます。
1980年代から90年代にかけては、アニメ『スパイダーマン』、『X-メン』、『超人ハルク』などの製作総指揮を務めるなど、上述した“俳優業”と合わせて、コミック以外の分野での活躍も目立つようになります。
現代へ通じるスタン・リーが生み出した新しいヒーロー像
アメコミ界に革新をもたらしてきたスタン・リーの作家性は、当時としては画期的なものでした。
その最たる例が『スパイダーマン』で描かれた、主人公ピーター・パーカーのキャラクターです。
それまでのスーパーヒーロー、キャプテン・アメリカ、スーパーマンやバットマンはいわゆる筋骨隆々、マッチョで男らしいキャラクターとして描かれることがほとんどでした。
しかし、スタン・リーは最初に描かれたスパイダーマンを見て「これは違う」と言って、別の漫画家にスパイダーマンを描かせます。
そして、出来上がってきたスパイダーマンは顎、首の細い、弱々しく貧弱な姿かたちになっていました。
これは、スパイダーマンの正体であるピーター・パーカーが、貧乏で気の弱いオタク高校生というキャラクターであり、そのイメージのヒーロー像に合わせたものでした。
この“より現実的な”スパイダーマンの姿は、読んだ読者たちからの共感を得る、自己投影の対象という、全く新しいヒーロー像を作りだします。
その後当たり前になっていく“等身大のヒーロー”を作りだしたスタン・リーは、スパイダーマンでも戦いだけでなく、ヒーローの日常を描くことで作品に奥行きを与えていきます。
ピーター・パーカーはスパイダーマンを続けていく中で、稼ぎに苦労し、身内に秘密を抱え、家庭を持つことに悩み苦しんでいきます。
この徹底したリアリズム描写は、映画版スパイダーマンでもその一端を垣間見ることが出来ます。
他にも、リアリティに満ちた現実描写だけでなく、『X-メン』では政治、社会情勢を下敷きに作劇を行いますが、こういった方向性をアメコミに持ち込んだ革新性が、今日に至るまでスタン・リーが評価されている所以なのです。
また、ユダヤ系移民であり、親戚がホロコーストで虐殺された過去を持つスタン・リーは、“Excelsior”という決め台詞を掲げていました。
これは、彼がかつて原作や編集を担当したコミックに書いた、編集後記の締め言葉として使っていたもので、「上へ行け、前へ行け」という意味で、「世の中にある差別、偏見や憎悪といった欲望の下へは行くな」、そんな思いが込められていました。
この精神は、現在もMCU作品、マーベルコミックに継承されており、私たちを魅了するスーパーヒーローたちの多くは、スタン・リーそのものであると言えるのかもしれません。
次回の「最強アメコミ番付評」は…
いかがでしたか。
次回の第15回戦では、『ダークナイト ライジング』を考察していきます。
Excelsior!