連載コラム「最強アメコミ番付評」第10回戦
こんにちは、野洲川亮です。
今回は11月2日に公開となる映画『ヴェノム』に先立ち、同キャラクターが登場した映画『スパイダーマン3』を考察していきます。
サム・ライミ監督、そしてトビー・マグワイア版3部作の最終作となった『スパイダーマン3』の中で描かれたヴェノムはどのようなキャラクターだったのか?
さらには最新作との共通点、相違点までアメコミに至るまで探っていきます。
『スパイダーマン3』の憎悪と嫉妬が生み出したヴェノム
『スパイダーマン3』(2007)は北米興行収入記録を打ち立て、年間ランキングでも1位の大ヒットとなりました。
シリーズ前2作がヒーローの誕生と成長を描いたのに対し、この3作目はシリーズ通して蓄積した宿命と負の側面に焦点を当てています。
爽快で軽快なアクション映画を飛び越えた、ある種のカルト映画じみた演出が見られと言えるでしょう。
ピーター・パーカー(スパイダーマン)は、2作目でメリー・ジェーン(以下、MJ)に正体を明かし、受け入れられることで、長年の恋を成就させ恋人同士になりました。
しかし、スーパーヒーローとしてニューヨーク市民の喝さいを浴び、公私共に充実していくピーターとは逆に、主演舞台が酷評され役者として行き詰っているMJとの間には、気持ちのすれ違いが生じるようになっていきます。
そんな状況で、叔父を殺した真犯人(サンドマン)の存在が発覚し、憎悪を募らせるピーターに謎の黒い生命体が寄生します。
この奇生体こそがヴェノムの元となる、“シンビオート”と呼ばれる地球外の寄生生命体。
ピーターは“ブラックスパイダーマン”となり、それまで感じたことの無いパワーを得て、凶暴で乱暴な言動をするようになってしまいます。
仕事上のライバル、エディのカメラを破壊、後に合成写真を暴いてエディの職を奪います。
またサンドマンを無慈悲に殺し(実は生きていた)、ハリー(ニューゴブリン)に爆弾を投げつけ、別れたMJの前で別の女とイチャついてみせるなど、およそスーパーヒーローらしからぬ行動の限りを尽くします。
ただ、上述したような「黒いピーター」は、街を小躍りし練り歩きながら女性たちに指をさしまくり、黒いスーツを身に付け街中で決めポーズをかましてもいます。
“ちょい悪”というより“ちょいキモ”風に描かれており、オタク心あふれるサム・ライミらしい演出、かつ観客のピーターへの感情移入を失わないようなバランスも取られています。
周囲の人間を傷つけてしまったことに危機感を抱いたピーターは、力づくで黒いスパイダースーツを脱ぎ捨てます。
脱ぎ捨てた先には、偽造写真をピーターに暴かれ逆恨みするエディ・ブロックがおり、エディはシンビオートに寄生されます。
ピーターに恋人や仕事を奪われたエディは、その嫉妬と憎悪を力に“ヴェノム”へと変身し、サンドマンと手を組んでMJを人質にとりスパイダーマンを襲います。
最後の戦いの中で、友人ハリーを犠牲にしながらも、ヴェノムの弱点が金属音であることに気付いたスパイダーマンは、ヴェノムを鉄パイプで取り囲みパイプを鳴らす音で、シンビオートをエディから引きはがすことに成功。
ところが、シンビオートを爆破しようとした瞬間、ヴェノムだった自分を捨てられないエディは、シンビオートへ自ら飛び込みともに爆発。消滅してしまいました。
ちなみに、『スパイダーマン3』劇中では“ヴェノム”や“シンビオート”といった呼称は使われておらず、終始“スーツ”と呼ばれていました。
その後、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズ、『スパイダーマン ホームカミング』に至るまで、ヴェノムは登場していません。
“共生”する地球外生命体
ヴェノムの原作コミックでの初登場は1984年、前述してきた通りシンビオートと呼ばれる寄生生命体であり、映画版と同じく黒いスーツの状態でした。
他のアメコミ人気キャラクター同様に、何人かが代替わりでヴェノムへとなっていて、大きな共通点としては宿主の持つ性格や力を増幅させる特性、高熱や波長音を弱点とするところでしょう。
初代ヴェノムは映画版と同じようにコスチュームを無理やり引きはがし、それをスパイダーマンへの憎しみを抱くエディが身に付けてしまうところまで同じような展開をみせます。
原作のエディはボディビルダーで、ヴェノムとなることでその力を増幅させ、スパイダーマンを超えるパワーを持つ、という設定がありました。
しかし、映画版のエディを演じたトファー・グレイスの体格が普通だったため、この設定は活かされませんでした。
その後、数代に渡って新たなヴェノムが生まれる中で、より凶暴で人を喰らうヴェノム、エージェントとして活動するヴェノムなど、様々な方向へキャラクターが拡がってきています。
人間のアドレナリンを食料とするという設定も原作にはあります。
そこではスパイダーセンス発動時にアドレナリン放出が起こっていることが、ヴェノムがスパイダーマンに執着する理由となっています。
最新作『ヴェノム』で、こういった原作設定の数々がどのように活かされているのか。
人気キャラクターのヴェノムは、ファンの期待にどのような形で応えてくれるのかが注目ポイントです。
スパイダーマンとの共演を阻む? ややこしい事情
今後を考えた際、必然的に浮かぶ疑問は、映画『ヴェノム』にスパイダーマンは登場するのかとう点です。
スパイダーマンの映画化権を持っているのはソニーピクチャーズであり、『ヴェノム』も同じソニーが手がけていることから、本来であれば当たり前のように共演するべき間柄です。
ところが、スパイダーマンはマーベルスタジオが製作しているMCUシリーズに”レンタル移籍中”の身。
「アベンジャーズ」シリーズも現在進行形で進んでいる最中にヴェノムと共演することは、世界観の関係上とてもややこしい事態を生み出すことになります。
ソニーは映画『ヴェノム』がMCUとは別の世界観を持つ、Sony’s Universe of Marvel Characters(SUMC)作品であることを発表しています。
これまでスタッフ、キャストのインタビューでも、スパイダーマンとの共演については明言を避けてきていました。
しかし、9月末のルーベン・フライシャー監督のインタビューで「スパイダーマンの登場はない」との発言も聞かれ、少なくとも『ヴェノム』での共演の可能性は低くなりました。
同時に監督は「将来的な共演は必然」とも発言していることから、次作以降の共演、もしくは本作でも台詞だけでスパイダーマンの存在を匂わせるなど、何かしらの形で触れてくることも考えられます。
次回の「最強アメコミ番付評」は…
いかがでしたか。
次回の第11回戦では、グラフィックノベル『I KILL GIANTS』の実写映画化作品、『バーバラと心の巨人』を考察していきます。
お楽しみに!