Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/10/12
Update

スパイダーマン3とヴェノムの考察と評価。解説は原作アメコミの比較まで紹介|最強アメコミ番付評10

  • Writer :
  • 野洲川亮

連載コラム「最強アメコミ番付評」第10回戦

こんにちは、野洲川亮です。

今回は11月2日に公開となる映画『ヴェノム』に先立ち、同キャラクターが登場した映画『スパイダーマン3』を考察していきます。

サム・ライミ監督、そしてトビー・マグワイア版3部作の最終作となった『スパイダーマン3』の中で描かれたヴェノムはどのようなキャラクターだったのか?

さらには最新作との共通点、相違点までアメコミに至るまで探っていきます。

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

『スパイダーマン3』の憎悪と嫉妬が生み出したヴェノム

『スパイダーマン3』(2007)は北米興行収入記録を打ち立て、年間ランキングでも1位の大ヒットとなりました。

シリーズ前2作がヒーローの誕生と成長を描いたのに対し、この3作目はシリーズ通して蓄積した宿命と負の側面に焦点を当てています。

爽快で軽快なアクション映画を飛び越えた、ある種のカルト映画じみた演出が見られと言えるでしょう。

ピーター・パーカー(スパイダーマン)は、2作目でメリー・ジェーン(以下、MJ)に正体を明かし、受け入れられることで、長年の恋を成就させ恋人同士になりました。

しかし、スーパーヒーローとしてニューヨーク市民の喝さいを浴び、公私共に充実していくピーターとは逆に、主演舞台が酷評され役者として行き詰っているMJとの間には、気持ちのすれ違いが生じるようになっていきます。

そんな状況で、叔父を殺した真犯人(サンドマン)の存在が発覚し、憎悪を募らせるピーターに謎の黒い生命体が寄生します。

この奇生体こそがヴェノムの元となる、“シンビオート”と呼ばれる地球外の寄生生命体。

ピーターは“ブラックスパイダーマン”となり、それまで感じたことの無いパワーを得て、凶暴で乱暴な言動をするようになってしまいます。

仕事上のライバル、エディのカメラを破壊、後に合成写真を暴いてエディの職を奪います。

またサンドマンを無慈悲に殺し(実は生きていた)、ハリー(ニューゴブリン)に爆弾を投げつけ、別れたMJの前で別の女とイチャついてみせるなど、およそスーパーヒーローらしからぬ行動の限りを尽くします。

ただ、上述したような「黒いピーター」は、街を小躍りし練り歩きながら女性たちに指をさしまくり、黒いスーツを身に付け街中で決めポーズをかましてもいます。

“ちょい悪”というより“ちょいキモ”風に描かれており、オタク心あふれるサム・ライミらしい演出、かつ観客のピーターへの感情移入を失わないようなバランスも取られています。

周囲の人間を傷つけてしまったことに危機感を抱いたピーターは、力づくで黒いスパイダースーツを脱ぎ捨てます。

脱ぎ捨てた先には、偽造写真をピーターに暴かれ逆恨みするエディ・ブロックがおり、エディはシンビオートに寄生されます。

ピーターに恋人や仕事を奪われたエディは、その嫉妬と憎悪を力に“ヴェノム”へと変身し、サンドマンと手を組んでMJを人質にとりスパイダーマンを襲います。

最後の戦いの中で、友人ハリーを犠牲にしながらも、ヴェノムの弱点が金属音であることに気付いたスパイダーマンは、ヴェノムを鉄パイプで取り囲みパイプを鳴らす音で、シンビオートをエディから引きはがすことに成功。

ところが、シンビオートを爆破しようとした瞬間、ヴェノムだった自分を捨てられないエディは、シンビオートへ自ら飛び込みともに爆発。消滅してしまいました。

ちなみに、『スパイダーマン3』劇中では“ヴェノム”や“シンビオート”といった呼称は使われておらず、終始“スーツ”と呼ばれていました。

その後、「アメイジング・スパイダーマン」シリーズ、『スパイダーマン ホームカミング』に至るまで、ヴェノムは登場していません。

“共生”する地球外生命体

©&TM 2018 MARVEL

ヴェノムの原作コミックでの初登場は1984年、前述してきた通りシンビオートと呼ばれる寄生生命体であり、映画版と同じく黒いスーツの状態でした。

他のアメコミ人気キャラクター同様に、何人かが代替わりでヴェノムへとなっていて、大きな共通点としては宿主の持つ性格や力を増幅させる特性、高熱や波長音を弱点とするところでしょう。

初代ヴェノムは映画版と同じようにコスチュームを無理やり引きはがし、それをスパイダーマンへの憎しみを抱くエディが身に付けてしまうところまで同じような展開をみせます。

原作のエディはボディビルダーで、ヴェノムとなることでその力を増幅させ、スパイダーマンを超えるパワーを持つ、という設定がありました。

しかし、映画版のエディを演じたトファー・グレイスの体格が普通だったため、この設定は活かされませんでした。

その後、数代に渡って新たなヴェノムが生まれる中で、より凶暴で人を喰らうヴェノム、エージェントとして活動するヴェノムなど、様々な方向へキャラクターが拡がってきています。

人間のアドレナリンを食料とするという設定も原作にはあります。

そこではスパイダーセンス発動時にアドレナリン放出が起こっていることが、ヴェノムがスパイダーマンに執着する理由となっています。

最新作『ヴェノム』で、こういった原作設定の数々がどのように活かされているのか。

人気キャラクターのヴェノムは、ファンの期待にどのような形で応えてくれるのかが注目ポイントです。

スパイダーマンとの共演を阻む? ややこしい事情

今後を考えた際、必然的に浮かぶ疑問は、映画『ヴェノム』にスパイダーマンは登場するのかとう点です。

スパイダーマンの映画化権を持っているのはソニーピクチャーズであり、『ヴェノム』も同じソニーが手がけていることから、本来であれば当たり前のように共演するべき間柄です。

ところが、スパイダーマンはマーベルスタジオが製作しているMCUシリーズに”レンタル移籍中”の身。

「アベンジャーズ」シリーズも現在進行形で進んでいる最中にヴェノムと共演することは、世界観の関係上とてもややこしい事態を生み出すことになります。

ソニーは映画『ヴェノム』がMCUとは別の世界観を持つ、Sony’s Universe of Marvel Characters(SUMC)作品であることを発表しています。

これまでスタッフ、キャストのインタビューでも、スパイダーマンとの共演については明言を避けてきていました。

しかし、9月末のルーベン・フライシャー監督のインタビューで「スパイダーマンの登場はない」との発言も聞かれ、少なくとも『ヴェノム』での共演の可能性は低くなりました。

同時に監督は「将来的な共演は必然」とも発言していることから、次作以降の共演、もしくは本作でも台詞だけでスパイダーマンの存在を匂わせるなど、何かしらの形で触れてくることも考えられます。

次回の「最強アメコミ番付評」は…

いかがでしたか。
次回の第11回戦では、グラフィックノベル『I KILL GIANTS』の実写映画化作品、『バーバラと心の巨人』を考察していきます。

お楽しみに!

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

講義【映画と哲学】第5講「 ロマンティック・コメディの行為:スタンリー・カヴェルの「再婚喜劇」論」

講義「映画と哲学」第5講 日本映画大学教授である田辺秋守氏によるインターネット講義「映画と哲学」。 Stanley Cavell, Contesting Tears: The Hollywood Me …

連載コラム

映画『陰陽師: とこしえの夢』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。夢枕獏の原作小説を中国の実写化で豪華絢爛なアクションに仕立てる|Netflix映画おすすめ18

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第18回 人の“執念”や“欲”とは格も恐ろしく、古ではそれらを糧とし成長する蛇が“禍蛇”という妖魔となり、世の中に悪影響を及ぼす存在として忌 …

連載コラム

NETFLIX『攻殻機動隊SAC_2045 シーズン1』ネタバレ感想と考察。キャラの魅力を引き出したアニメシリーズとは|SF恐怖映画という名の観覧車100

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile100 遂に当コラムも今回で100回目を迎えます。 新型コロナウイルスという新たなる人類に対する脅威の発生が映画やドラマ、アニメ界に大打撃を与え …

連載コラム

【ネタバレ】シン仮面ライダーはがっかり?“賛否両論”評価解説で知るシンシリーズの“好きにした”の到達点ד更なる激闘”への期待|仮面の男の名はシン8

連載コラム『仮面の男の名はシン』第8回 『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『シン・ウルトラマン』に続く新たな“シン”映画『シン・仮面ライダー』。 原作・石ノ森章太郎の特撮テレビドラマ『仮 …

連載コラム

映画『女子高生に殺されたい』あらすじ感想評価と解説考察。漫画原作で田中圭は“真逆の少女の殺意”という愛を渇望する|のび編集長の映画よりおむすびが食べたい8

連載コラム『のび編集長の映画よりおむすびが食べたい』第8回 「Cinemarche」編集長の河合のびが、映画・ドラマ・アニメ・小説・漫画などジャンルを超えて「自身が気になる作品/ぜひ紹介したい作品」を …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学