連載コラム「最強アメコミ番付評」第5回戦
どうも、こんにちは野洲川亮です。
今回は、この連載でも度々取り上げて来た『アントマン』の続編でMCUシリーズ最新作『アントマン&ワスプ』の魅力を徹底考察していきましょう。
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『アントマン&ワスプ』のあらすじ
本作は『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』から2年後が描かれており、アントマンことスコット(ポール・ラッド)は、キャップに加担しソコヴィア協定に違反した罪でFBIの監視下で2年間の自宅軟禁を強いられる身となっていました。
勝手にアントマンスーツを持ち出して逮捕されたことで、スーツ開発者のピム博士(マイケル・ダグラス)、その娘のホープ(エヴァンジェリン・リリー)は、政府から追われることとなり、スコットとも2年間疎遠になっていました。
あと数日で軟禁が解除されるというところで、スコットはある夢を見ます。
それは自分がピム博士の妻ジャネット(ミシェル・ファイファー)になる夢でした。
ジャネットはかつてピム博士と共に、初代アントマン&ワスプとして活動中に、世界を守るため量子世界へと突入し、そのまま30年間行方不明となっていました。
夢の内容を告げ、博士、ホープと再会を果たしたスコットは、FBIの目を盗みつつ、量子世界からジャネットを救い出そうとする二人に協力することになります。
そんな3人の前に、物質をすり抜ける謎の敵ゴースト(ハナ・ジョン=カーメン)や縮小技術の悪用を企む武器商人ソニー・バーチ(ウォルトン・ゴギンズ)が立ちはだかります。
果たしてスコットは無事に軟禁の刑期を全うし、自由の身となれるのか?
ピム博士とホープは、ジャネットを量子世界から救出できるのか?
謎の敵ゴーストの狙いは何なのか? というのが今作の大まかなあらすじとなります。
初の主演を務めた、新”女性ヒーロー”ワスプ
前作『アントマン』ラストから言及されていた通り、今作で新”女性ヒーロー”が誕生しました。
”空を飛び、光線を放つ女アントマン”、ワスプです。
ここでヒロインでなく、“女性ヒーロー”と呼んでいるのはマーベル内で使用されている“SUPERHERO WOMEN”という呼称に準拠しています。
そして今作のワスプは、MCUシリーズ第20作にして女性ヒーローでは初のタイトルロール、『アントマン&ワスプ』としてダブル主演を務めることとなりました。
これまでのMCUシリーズでも、女性ヒーローは数々登場してきました。
アベンジャーズ第一期生、ブラックウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)『エイジ・オブ・ウルトロン』からメンバー入りしたワンダ(エリザベス・オルセン)『ブラックパンサー』の女戦士オコエ(ダナイ・グリラ)といった具合に、いずれも強烈な個性を持つキャラクターたちが、物語に彩りを与えてきました。
そんな歩みを経て、MCU10周年、第20作目にして女性キャラが主演を務めたことは、現在の時代背景を鑑みても、大変に意義のある出来事と言えるでしょう。
リブート版『ゴーストバスターズ』の主演が、全員中年女性だったことを思い出しました。
そして歴史的キャラクターであるワスプは、その活躍もまた印象深いものでした。
前作で一通りの格闘技を経験しているという設定で、アントマンの格闘訓練も指導していましたが、その設定通りに飛行能力、ブラスター銃だけでなく、迫力に満ちた格闘アクションを披露します。
特にゴーストとの女性同士のアクションは、縮小、すり抜けといったCGを駆使したデジタル的、そして近年のアクション映画ではお決まりの、マーシャルアーツでの戦闘というアナログ的なものが、同時に楽しめる視覚的快感があり、度々行われる二人の戦闘は今作の大きな見どころとなっています。
世界の危機から個人的事情へ、功を奏した世界観の”縮小”
前作では「縮小技術の流出による世界の危機を防ぐための戦い」という、スケールの大きなお題目があり、それに伴って物語は進行していきました。
対して、今作の主要キャラクターたちの行動動機は、個人的事情の様相が強くなっています。
アントマンは娘との時間を守るため刑期を無事に全うしつつ、ピム博士たちに借りを返すこと、ピム博士とホープ親子は、量子世界からジャネットを救出するため、ゴーストは幼少期の事故で肉体が非実体化状態となり、いずれ来たる自らの死を回避するため、それぞれの事情はより個人的なものへと”縮小”し、その分より切実さが増しました。
そして、3者共に形こそ違うものの、「家族の喪失」という共通の問題を抱えています。
ゴーストの他に、もう一人の悪役であるソニー・バーチこそ縮小技術を売りさばこう(=世界の危機)としていましたが、バーチの登場シーンはコミカルなものが多く、その凶悪性を抑えるような演出が成されています。
終始、コミカルな掛け合いが飛び交う今作は、こうした世界観の”縮小”をすることで、登場人物たちと観客との心理的な距離感を近付け、つまり親近感を持って見れるようになれます。
さらに巧妙にシリアスさを”縮小”しているのは、冒頭のシーンでも分かります。
アントマンが軟禁されるきっかけとなった事件の概要を、あくまで「生真面目な刑事が、子供に大人の事情を丁寧過ぎな説明をする」というギャグに乗せて、シリーズの背景となる情報を、観客に与え、リマインドさせます。
そして、これは前後にリンクしている『シビル・ウォー』や『インフィニティ・ウォー』が持つシリアスさとは、今作が一線を画していることを、宣言しているようなセリフでもあります。
こういった説明は冒頭のみなので、MCUシリーズの他作品を見ていなくても全く問題が無く、20作品も続いてきたシリーズの中でも珍しい「これだけ見ても分かる」作品になっています。
ラストでは敵役であるゴーストも含めて、それぞれが家族を取り戻す展開となり、そこには子供騙しに留まらない、正しいファミリー映画としての姿が垣間見れます。
そして『インフィニティ・ウォー』へ
前述してきたように、長寿シリーズの中でも一本の映画として独立した強度を保ちつつ、ラストではきっちりと『インフィニティ・ウォー』の世界観へとリンクさせていきます。
詳しくは書きませんが、「指パッチン」とだけ言っておきましょうか。
コメディー満載で進行した今作の背景には、シリアスな世界も同居しているのだと、インパクトを与えつつ、整合性もキッチリ合わせてくる辺りは、さすが!の一言です。
MCUシリーズは来年の『キャプテン・マーベル』までしばらく間が空きますが、その後の『アベンジャーズ4』も含め、ますます楽しみが増してきました。
それにしても、前回の連載で書いたことがこういった形で提示されるとは、正直かなり予想外だったので、良い意味で裏切られたなと思っています。
次回の「最強アメコミ番付評」は…
いかがでしたか。
次回の第6回戦では、9月5日にDVD、Blu-rayが発売となる『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』を紹介していきます。
お楽しみに!